インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神── 作:すぷりんくらー
明朝の海岸には、ISスーツを着用した専用機持ち達が集められていた。武藤隼丞、織斑一夏、セシリア=オルコット、鳳鈴音、シャルロット=デュノア、ラウラ=ボーデヴィッヒ、そして───篠ノ之箒。
………何故彼女が?いや、それを知らせる為に此処へ集められたのか?
「篠ノ之についてだが、実は───」
「ちーちゃ〜〜〜ん!」
織斑教員が口を開いた正にそのとき、崖上から地鳴りじみた音と共に嫌な声色が近づいて来た。声の主はエプロンにも見えなくもない格好に兎耳をつけた昨日の元凶女で、源義経もかくやと言わんばかりに崖を滑り降る。
彼女の登場に嫌な表情を浮かべた者は三人。俺と、織斑教員と、篠ノ之箒だ。性格を見知っていれば誰でもこうなる。
「会いたかったよーちーちゃん!さあハグハグしy」
「五月蝿いぞ束、貴様はいつも───」
昨日の焼き直しのような光景、相変わらず容赦がない。
「いい加減に自己紹介ぐらいしろ束」
「えぇーめんどくさいなー………ごほん、私が天才の束さんだよー!武藤くんは昨日ぶりだねー!」
天災の間違いだろ………と云う俺の考えを見透かすように此方へ歩みを寄せると、顔をずいっと近づけてきた。虹彩の模様すら明瞭に視認できるほどの距離で、囁くような彼女は呟く。
「ふふ、やっぱり欲しいなー!君の………サ・ン・プ・ル♡」
背筋を百足が這うような悪寒に襲われ、本能的に織斑教員の背後に隠れる。きっと彼女なら生きたまま標本にさえしかねない。怖過ぎだろ。
「どういうことかな………?隼………?」
「………いや、本当に違う」
はっとして振り向くと、ともすれば篠ノ之束より恐ろしい、まるで地震が来る前の妙な静けさのような言外の威圧感が背後に在った。その後なんとか言辞を尽くしてシャルの瞳にハイライトを取り戻したが、ボソッと呟いた「後で話し合いだね………」の一言を俺は聞き逃さなかった。
………で、今は篠ノ之束が持ってきた第四世代型IS“
「凄い、これが第四世代の性能───」
IS開発に見識のあるシャルが感嘆の声を漏らすほど、彼女の機体は凄まじい。各性能数値が“武州五輪”を並の3とした場合、騎航推力:4、騎航速力:5、上昇性能:4、加速性能:5と云った程である。此れを劔冑にて再現しようものなら、どれほどの装甲を犠牲にすることとなろうか。
見る限り兵装は二振りの太刀のみのようだが、刀身から放たれる光刃の射程は長い。たった今、篠ノ之束が発射したミサイルを全弾撃ち落としたところだ。
『やれる───この“紅椿”なら!』
強い。強大な力だ。故に、彼女の笑みに一抹の危うさを覚えずにはいられなかった。
「た、大変です織斑先生───!は、ぁ………!」
「………緊急任務LevelA───直ちに対策を開始されたし………。
テスト稼働を中止、このメンバーのまま職員用の部屋に集合しろ」
楽しげだった海沿いの合宿に、唯ならぬ雰囲気が漂い始める。舌が乾くのが分かった。戦いの予感に身が震え、自然と拳を握る力が強まる。そんな掌を、シャルの両手が包み込んでくるのに気付いた。
「隼───」
「………大丈夫だ、行こう」
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「───以上が状況の概要だ、何か質問はあるか」
アメリカ・イスラエルの共同開発である第三世代型IS“
なんとも、間が悪い───いや、
まるで出来レースだ。考えたくはないが、あの女が仕向けたことではないかとさえ疑ってしまう。
「作戦会議を始める、質問のあるものは挙手せよ」
「はい。
目標ISの詳細な
「うむ………だが、情報漏洩が発覚した場合、査問委員会による裁判と二年もの監視が付けられることを覚えておけ」
念を押した織斑教員は、光学パネル上に“福音”のデータを表示した。機体性能だけで言えば、軍による試作機と云うこともあってか第三世代型では最高峰に位置する技術群だ。
甲鉄練度:2、騎航推力:2、騎航速力:3、旋回性能3:、上昇性能:3、加速性能:5───と云ったところだろう。
「………この特殊兵装、厄介そうだね」
「攻撃と機動を同時に行えるなんて………」
“
その加速力で以て防衛網を掻い潜り、全方位を広域殲滅する───形骸化したアラスカ条約をこれでもかと知らしめるような、余りにも物騒な代物だ。
「目標は超音速で高度約7000mを飛行中。
交戦機会は一度きり───必要なものは
「じゃあ一夏と武藤じゃない?」
「ええっ!?俺か!?」
「───そりゃそうだろ。
現状この面子で一番火力が発揮できるのはお前の“白式”と俺の“武州五輪”だけだ」
“
問題は速度───先んじて高度を得る猶予があるならば、“武州五輪”は音速を超えることは可能である。問題は“白式”。決して高速戦闘に適した機体ではない。
「はいはーい!天才束さんに妙案がありまーす!」
((また出たよ………))
天井裏からまたも突如として現れた篠ノ之束に、俺と一夏は揃って頭を抱えた。神出鬼没とは正にこのこと。没したままで居てほしい。
「ここは箒ちゃんの“紅椿”に任せておけばだいじょーぶ!」
「なに………?」
「へへーん!この天才科学者、篠ノ之束お姉さんにお任せあれー!」
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“紅椿”の最終調整まで7分ほど掛かるとのことなので、俺は“武州五輪”にて会敵予想地点上空へ先んじて待機しておくこととなった。高度一◯◯◯◯はあれば十分だろう。
「───気をつけてね」
「ああ」
名残惜しそうに手を握る彼女の表情は悔恨一色に染め上げられていた。“疾風”のオプションパーツには高速戦闘を可能とする装備も存在するが、セシリアがそうであったように量子変換が完了していない。
………隣に立って、一緒に戦う。それはお互いがお互いに抱いている願いだ。けれど、俺はいつも彼女を置き去りにしている気がしてならない。
「──────行ってくる」
「………………行ってらっしゃい」
………いや、今は目の前の現実を打破するまでだ。作戦開始時刻まで残り一分。飛び立つその寸前、ふと、俺は合当理の火を抑え込んだ。
「そうだ。
もし予定がないなら、夏休みに俺の家へ来ないか?」
「え?」
「家族がたまには顔を見せろってうるさくて………ああ、勿論シャルが良ければ、だけど」
「そ、それって、ご家族に………ご、挨拶に向かうってこと!?」
「?まあ、そう云う解釈でも構わないが」
「………きっきき気が早いよ隼ボクたちまだデートもしたことないのにいきなりご挨拶なんてというかお土産もなしになんて失礼だから本国から取り寄せて今のうちに挨拶の台本書かなきゃだからえっと本日はお日柄もよく」
早口すぎて何も聞き取れなかった………まあ急ぐことでもない、帰ってきたらまた話すとしよう。
「じゃあ、また後で」
すっかり自分の世界に入ってしまったシャルを尻目に、大空へ向けて飛翔する。戦いの前にあんな緩んだ会話を交わしたのは、自分の中にずっとある澱んだ不安を振り払いたいからだった。
この先に待ち受けるものが、何か自分に命運を変えてしまいそうな───あの日、あの海岸線で“武州五輪”を見つけたときのような。そんな漠然とした胸の騒つきを覚えずにはいられなかった。
………そして。往々にして悪い予感と云うものは的中するものである。
第十八話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
戦闘長くなりそ〜ごめんね〜。