インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神──   作:すぷりんくらー

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2022/12/18:一人称を改訂しました。



第一章 胎動
第一話〝地に立てた枝〟


 

 潮騒の音が耳朶を打つ。

 

 押しては引き、来たりては去る、自然の鼓動(リズム)

 

 青年はこの海が好きだった。孤独や、寂寞を、包み込んでくれる無機な優しさがあったから。

 

 

 

「………………」

 

 

 もう慣れた歩き(にく)さを噛み締めるように、砂浜を一人歩いている。もはや日課となった波際の遊歩で、しかし常日頃とは異なる光景に脚を止めた。

 

 

 ───人形(ヒトガタ)。いや、甲冑か………?

 

 

 雪のような白亜、夜のような漆黒、血のような緋色、そして鬼か魔王を思わせるような刺々しい威厳。なんにせよ、そんな代物が漣に撫でられている様は余りにも不自然だった。

 

 何処(いずこ)からか流れ着いたものか、或いは何者かが打ち棄てたものか。

 

 

 

「──────」

 

 

 だから、なのかも知れない。

 その姿に表しようのない、自身と同じ孤独を感じたからなのか………手を伸ばしてしまった。

 

 

 不用意にも。

 

 不用心にも。

 

 無遠慮にも。

 

 無思慮にも。

 

 その行為が、己の命運を大きく変える選択と知らず。指先を通じて、冷たい無機の感覚が走るのを感じ───そこで、青年の意識は途絶える。

 

 

 

 ──────これは、英雄の物語ではない。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「っ、く………………?」

 

 

「目が醒めたか」

 

 

 夢心地のまま戻り切らない脳で、確かに自分以外の声を認識した。病室のベッドだろうか、自己を取り巻く環境に全く覚えがない。両手をベッド柵へ繋いでいる拘束具についても同様に。

 

 

 

「………此処は」

 

 

「覚えがないと?………君の思い出せる最新の記憶は何だ?」

 

 

「記憶、記憶………海岸で、散歩を」

 

 

 頭が痛む。

 

 海岸、散歩、そこで何かを、見つけて………そこまでが、記憶の引き出しの限界だった。

 

 

 

「君はISの無断使用、無断航行、及び無断戦闘の三項によりアラスカ条約を違反したおそれがある」

 

 

「………はい?」

 

 

 間抜けな返事で聞き返してしまう。

 

 IS?アラスカ条約?どちらも、男である俺には無関係のものだ。

 

 インフィニット()ストラトス()───10年ほど前の“白騎士事件”以降、世界の軍事的パワーバランスをひっくり返しかけた(・・・)代物。アラスカ条約とは、そのISの情報開示や軍事利用の禁止などを目的としている。

 

 

 だが、ISには致命的な欠点がある………それは、何故か女性しか起動できないという点だ。

 

 

 

「自己紹介が遅れた。

 私は織斑千冬、ここIS学園の教員をしている者だ」

 

 

「………第一回モンド・グロッソ」

 

 

 三年に一度開かれる、謂わばIS競技のオリンピック。最初に開かれた大会の優勝者だ。そんな彼女が、一体俺に何の用向きがあると云うのだろう。

 

 

 

「博識だな。

 だが今は一人の教員にすぎない───話を戻そう、君は正体不明のISを駆り、IS学園目掛けて市街地上空を騎航。

 三年生を中心とした対策チームと交戦し、その後沈黙」

 

 

「………………」

 

 

「機体の除装後、学園内医務室にて治療と同時に拘束。

 そして今に至るわけだが───」

 

 

「憶えて、いません………」

 

 

 机に置かれた書類に目を遣ると、クリップで添付された数枚の写真を目視した。全身装甲(フルスキン)の巨躯、何処となく古めかしい衣裳、そして魔王めいた相貌。頭痛と共に、それが海岸線で触れた甲冑の正体であると知る。

 

 

 

「………幾つか伝えておくべき事項がある。

 一つは。あのISは君にしか起動できないらしい。

 現在調査している最中ではあるが、おそらくは生体認証にロックが掛かっているのだろう」

 

 

「二つ目は?」

 

 

「もう一つは───これは、まだ発表されていないことだが。

 もう一人、君と同じ男性でありながらISの起動に成功した者が存在する」

 

 

 それは、確かに初耳の情報だった………と同時に、恐るべき事態であることも事実だ。

 

 男性操縦者の存在は、ISが人類史に登場してから初めてのこと、世界が大きく動く事態となる。

 

 

 

「聡いな。

 だが、同時に危険でもある───当該する男性操縦者だけではない、その家族も、危うい目に遭うかも知れない」

 

 

 ………男性がISを起動できる。それだけでひっくり返るほど世界は簡易な構造をしていないが、その渦中にある者はそう思うまい。

 

 情報が光の速さで伝達するこの時代で、家族が───どんな思いをするか、考えられない訳ではない。

 

 

 

「君に提示できる選択肢は一つだけ───IS学園へ入学する()きだ。

 君自身とご家族の保護のために。

 そして、君自身が持つ力を知るために」

 

 

「──────」

 

 

 斯くして俺の命運は大きく変わった。運命とは、地に立てた木枝のようなもの………どの方向に倒れるか、未来を知り得ることはできず、これからどのような出来事が待ち受けているかも分からない。

 

 

 ただ一つ、確かなこと──────この指先は、あの海岸線で触れた鋼の冷たさを憶えていた。

 




第零話終了です。
久方ぶりの投稿でやり方が全然分からなかったでござる。
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