インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神── 作:すぷりんくらー
前話〝境界線〟にて無人機に関する内容を一部変更しました。
宿の一室を借りて作り上げられた簡易司令室。その中心にて付近の空域をマッピングする光学モニタから、たった今一つの赤い点が消失した。
「………“武州五輪”、
………突き刺さるような静寂が部屋を包み込む。誰もが、目を伏せたくなる気持ちを押し殺して、殿を務めた彼の戦いを見守った。その最期までも。無機質なアラートの断末魔は余りにも呆気なく、故に誰一人もその現実を受け入れられなかった。
「嘘、………しゅ、ん。
嫌ぁぁぁぁぁぁぁ──────ッッッッ!」
沈黙を引き裂いた、シャルロットの悲鳴。錯乱する彼女をラウラ達が部屋から連れ出し、部屋には淡々と事実を処理つつある大人だけが残った。
「目標、交戦地点より約30kmの地点にて沈黙」
「………至急司令部に伝達。
作戦中止の要請を」
「やってはいますが、我々以外にアレを止められる戦力が存在しません。
恐らくは………」
一つの生命が終わった。一人の生徒を失った。だが、ほんの僅か、九割九分九厘の現実が待ち受けようと、残るほんの一欠片の可能性が残されているのなら、それに賭けたいという心がある。
………そして、そのために誰かを犠牲にする可能性があるのなら、やはり迂闊な真似はできない。
(嫌な大人になったものだ)
「あ、あの………織斑先生?」
「なんだ」
「織斑くんと篠ノ之さんが帰着しました、簡易緊急医療室にて治療中です」
「………………そうか」
傷の治りというものは、ただ施されるだけでは回復しない。肉体が、損傷した自己を元通りにしようという方向性に働くからこそ、傷害や疾病は治癒されるものだ。
一夏は生きている。生きたいと願っている。ならば、私が動かぬわけにはいかない。
「山田先生、先ほどの
「はい」
米国より提示された“銀の福音”のカタログスペックと、先ほどの戦闘で得た実際の性能を比較する。僅かな誤差は見受けられたが、それは決して過度に逸脱した違いではなかった。
………だが注目すべきは、武藤の一撃を受ける直前、急激に上昇した機体性能だ。例えるならば、疑似第二次移行《プレ・セカンドシフト》とでも言うべきもの。そう表現するには、何か別の理を埋め込まれたような変化だったが。
(一体何だ?この機体は───何が起きている?)
ただ一つ、確信を以て言えること。戦いはまだ終わっていない。思考を止めるには、まだ早過ぎる。
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燦々と輝く夕陽の暮れが、青く広がるはずの海原を橙に焼け爛れさせている。そんな様を、篠ノ之箒は呆然とした顔つきで見ることなく眺めていた。
「………………」
───大切な人が居る。振り向いて欲しい人が居る。でも、その人を傷つけたのは私だ………なら、どうして側に居ることができよう。
力を求めるまま剣を振るった。
力を欲するまま戦いに興じた。
力に溺れるまま彼を傷つけた。
───そして、一つの命すらも、犠牲にした!
「私、は──────」
もう、戦えない。その資格がない。私は変わってなどいなかった。変わることなどできなかった。あの、八つ当たりで剣を貶めた中学の私と、何ら変わりなく武道の脱落者だった。
「わたしは、弱い──────」
………その絶望は、武藤隼丞に敗けたあの日抱いたものと同じではなかったか。あのときも、こうして膝をついていたのではなかったか。なんと、滑稽な話もあったものだ。こうして過ちを繰り返すなら、いっそ───。
「何を、しているの」
「───シャル、ロット」
背後から呼び掛けられた声は、とうに枯れきった感情の残響のように聞こえた。瞼の尻は赤く腫れ、瞳は此処ではない何処かを遠く眺めている。
「………………行くんでしょ」
「……………」
「ボクはまだ諦めてない。
例え99%の絶望が待ち受けようと、たった1%の希望が残されているのなら、それに賭ける」
空想に過ぎぬとも、
幻想であろうとも、
夢想に終わるとも、
妄想と笑われても、
それでも、彼の命を諦められない──────だって、ボク達はまだ、何一つの約束も果たせていないのだから。
「君はどうするの?」
「私、は………………!」
沈め。この想いごと、沈め。二度と望まぬように。二度と祈らぬように。二度と願わぬように。二度と求めぬように。伸ばして手の届く結果が誰かを傷つけてしまうものならば、私は二度とISに乗らなくていい。
でも──────。
『前にしてたリボン、似合ってたぜ』
私はただ、
だから───!
「──────もう一度、戦う。
いつか、一夏の隣に立つために」
「………そっか。
似てるね、ボクたち」
ボクも、隣に立ちたい人が居る。目を離すとすぐ何処かに行ってしまいそうで、だから手を繋いで一緒に歩きたい。彼に、自分の押し殺した願いを掬い出してもらった。今度は、ボクが彼を救い出す番だ。
「………なーんだ、覚悟は決まったってカンジ?」
「敗けたまま引き下がることなんて出来ませんもの、そうでしょう?篠ノ之箒さん」
「我々は征く、貴様も同じなのだろう?ならば立て」
「みんな………………ああ、今度こそ敗けはしない!」
決意を胸に秘め、覚悟を手に携え、少女達は空へと
「──────」
「………………」
未だ目覚めず。彼らは、深い、暗闇の底に居た。
第二十話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
前書きにても申し上げましたが、“銀の福音”を無人機から有人機に変更しています、後から変えて申し訳ない。