インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神──   作:すぷりんくらー

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前話〝境界線〟にて無人機に関する内容を一部変更しました。



第二十話〝(はて)

 

 宿の一室を借りて作り上げられた簡易司令室。その中心にて付近の空域をマッピングする光学モニタから、たった今一つの赤い点が消失した。

 

 

 

「………“武州五輪”、信号途絶(シグナルロスト)

 

 

 ………突き刺さるような静寂が部屋を包み込む。誰もが、目を伏せたくなる気持ちを押し殺して、殿を務めた彼の戦いを見守った。その最期までも。無機質なアラートの断末魔は余りにも呆気なく、故に誰一人もその現実を受け入れられなかった。

 

 

 

「嘘、………しゅ、ん。

 嫌ぁぁぁぁぁぁぁ──────ッッッッ!」

 

 

 沈黙を引き裂いた、シャルロットの悲鳴。錯乱する彼女をラウラ達が部屋から連れ出し、部屋には淡々と事実を処理つつある大人だけが残った。

 

 

 

「目標、交戦地点より約30kmの地点にて沈黙」

 

 

「………至急司令部に伝達。

 作戦中止の要請を」

 

 

「やってはいますが、我々以外にアレを止められる戦力が存在しません。

 恐らくは………」

 

 

 一つの生命が終わった。一人の生徒を失った。だが、ほんの僅か、九割九分九厘の現実が待ち受けようと、残るほんの一欠片の可能性が残されているのなら、それに賭けたいという心がある。

 

 ………そして、そのために誰かを犠牲にする可能性があるのなら、やはり迂闊な真似はできない。損失(リスク)成果(リターン)費用(コスト)効果(エフェクト)。事前にこのバランスを勘定する思考ロジック故に、我々は大人なのだと言える。

 

 

 

(嫌な大人になったものだ)

 

 

「あ、あの………織斑先生?」

 

 

「なんだ」

 

 

「織斑くんと篠ノ之さんが帰着しました、簡易緊急医療室にて治療中です」

 

 

「………………そうか」

 

 

 傷の治りというものは、ただ施されるだけでは回復しない。肉体が、損傷した自己を元通りにしようという方向性に働くからこそ、傷害や疾病は治癒されるものだ。

 

 一夏は生きている。生きたいと願っている。ならば、私が動かぬわけにはいかない。

 

 

 

「山田先生、先ほどの交戦記録(バトルデータ)を」

 

 

「はい」

 

 

 米国より提示された“銀の福音”のカタログスペックと、先ほどの戦闘で得た実際の性能を比較する。僅かな誤差は見受けられたが、それは決して過度に逸脱した違いではなかった。

 

 ………だが注目すべきは、武藤の一撃を受ける直前、急激に上昇した機体性能だ。例えるならば、疑似第二次移行《プレ・セカンドシフト》とでも言うべきもの。そう表現するには、何か別の理を埋め込まれたような変化だったが。

 

 

 

(一体何だ?この機体は───何が起きている?)

 

 

 ただ一つ、確信を以て言えること。戦いはまだ終わっていない。思考を止めるには、まだ早過ぎる。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 燦々と輝く夕陽の暮れが、青く広がるはずの海原を橙に焼け爛れさせている。そんな様を、篠ノ之箒は呆然とした顔つきで見ることなく眺めていた。

 

 

 

「………………」

 

 

 ───大切な人が居る。振り向いて欲しい人が居る。でも、その人を傷つけたのは私だ………なら、どうして側に居ることができよう。

 

 

 力を求めるまま剣を振るった。

 

 力を欲するまま戦いに興じた。

 

 力に溺れるまま彼を傷つけた。

 

 ───そして、一つの命すらも、犠牲にした!

 

 

 

「私、は──────」

 

 

 もう、戦えない。その資格がない。私は変わってなどいなかった。変わることなどできなかった。あの、八つ当たりで剣を貶めた中学の私と、何ら変わりなく武道の脱落者だった。

 

 

 

「わたしは、弱い──────」

 

 

 ………その絶望は、武藤隼丞に敗けたあの日抱いたものと同じではなかったか。あのときも、こうして膝をついていたのではなかったか。なんと、滑稽な話もあったものだ。こうして過ちを繰り返すなら、いっそ───。

 

 

 

「何を、しているの」

 

 

「───シャル、ロット」

 

 

 背後から呼び掛けられた声は、とうに枯れきった感情の残響のように聞こえた。瞼の尻は赤く腫れ、瞳は此処ではない何処かを遠く眺めている。

 

 

 

「………………行くんでしょ」

 

 

「……………」

 

 

「ボクはまだ諦めてない。

 例え99%の絶望が待ち受けようと、たった1%の希望が残されているのなら、それに賭ける」

 

 

 空想に過ぎぬとも、

 

 幻想であろうとも、

 

 夢想に終わるとも、

 

 妄想と笑われても、

 

 それでも、彼の命を諦められない──────だって、ボク達はまだ、何一つの約束も果たせていないのだから。

 

 

 

「君はどうするの?」

 

 

「私、は………………!」

 

 

 沈め。この想いごと、沈め。二度と望まぬように。二度と祈らぬように。二度と願わぬように。二度と求めぬように。伸ばして手の届く結果が誰かを傷つけてしまうものならば、私は二度とISに乗らなくていい。

 

 でも──────。

 

 

 

『前にしてたリボン、似合ってたぜ』

 

 

 私はただ、一夏(お前)の側に居たいだけなんだ。

 だから───!

 

 

 

「──────もう一度、戦う。

 いつか、一夏の隣に立つために」

 

 

「………そっか。

 似てるね、ボクたち」

 

 

 ボクも、隣に立ちたい人が居る。目を離すとすぐ何処かに行ってしまいそうで、だから手を繋いで一緒に歩きたい。彼に、自分の押し殺した願いを掬い出してもらった。今度は、ボクが彼を救い出す番だ。

 

 

 

「………なーんだ、覚悟は決まったってカンジ?」

 

 

「敗けたまま引き下がることなんて出来ませんもの、そうでしょう?篠ノ之箒さん」

 

 

「我々は征く、貴様も同じなのだろう?ならば立て」

 

 

「みんな………………ああ、今度こそ敗けはしない!」

 

 

 決意を胸に秘め、覚悟を手に携え、少女達は空へと羽撃(はばた)く。銀の星へ向けて。少女達が向けた祈りの(はて)に眠る二人は───。

 

 

 

「──────」

 

 

「………………」

 

 

 未だ目覚めず。彼らは、深い、暗闇の底に居た。

 




第二十話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
前書きにても申し上げましたが、“銀の福音”を無人機から有人機に変更しています、後から変えて申し訳ない。
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