インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神──   作:すぷりんくらー

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第二十二話〝交叉する魔剣〟

 

 ───存在認識/確認。

    仕手:武藤隼丞。

    劔冑:魔書兵法武州五輪。

 

 ───存在状態/確認。

    胸郭破壊:胸部に受けた敵攻撃によるもの/外部より得た熱量供給にて治癒完了。

    脳神経破壊:長期仮死状態によるもの/新組織生成にて代替回路形成。

    人格破壊:同じく長期仮死状態によるもの/金打声と陰義“夢幻汚染”による精神の一部補完。

 

 ───存在理由/確認。

    過去、現在、未来に至る、凡ゆる兵法の蒐集及び研鑽。

 

 ───存在目的/確認。

    暫定目標:銀の福音。

    当機体を阻む障害の排除を最優先とす。

 

 ───存在能力/確認。

    術理顕現:全能力解放。

    “正家(まさいえ)”、“兼定(かねさだ)”、“清光(きよみつ)”、“桜丸(さくらまる)”、“髭切(ひげきり)”、“国友(くにとも)”、“村正伝(むらまさでん)”、“広光(ひろみつ)”、“千鳥(ちどり)”、“景光(かげみつ)”、“則重(のりしげ)”、“道宗(みちむね)”、“骨喰(ほねばみ)”、“海竜王(かいりゅうおう)”、“蛍丸(ほたるまる)”、“千本槍(せんぼんそう)”、“道誉(どうよ)”、“安綱(やすつな)”、“国綱(くにつな)”、“宗近(むねちか)”、“典太(てんた)”、“包平”(かねひら)、“國安(くにやす)”、“逆矛(さかほこ)”、“村正(むらまさ)”───使用可能。

 

 

 ──────諒解。自己(おのれ)を再開する。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

『──────(しゅん)?』

 

 

 覚醒した意識は、ともすれば風に消えゆくほど世界と溶け合っていた。立ち上がる五体は重く、鈍く、(しか)し精神は既に空へ羽撃いて久しい。視線の彼方には、戦場にて輝く銀色の星。

 

 ………目標確認、此れより装甲ノ構を行う。

 

 

 

「───千日の稽古を以て劔とし、万日の稽古を以て冑とす。

 以って此れ我がツルギなり───」

 

 

 カチリ。四散したハガネの欠片たちが蠢く。呼応せよ、反応せよ、もう一度空へ飛び立つ翼となれ。

 

 

 

「──────“武州五輪”」

 

 

 徹底した合理を以て()は駆動する。意思はOS、肉体はハードウェア、精神と鋼鉄の合一───心甲一致(シンコウイッチ)。身も心も、今や不動の鋼と化していた。

 

 

 

「シャル」

 

 

『っ、───』

 

 

 だが、鉄は鉄でも刀の鉄。火に焚べられ、打たれ、鍛えられ………無数の工程の果てに完成する、唯一無二の剣。そして、この身に宿る熱は彼女のものだ。故に、自身が最後に残した一欠片の意思を持って彼女の名を呼ぶ。

 

 

 

「──────共に、行こう」

 

 

『………………うん!』

 

 

 そう、一人ではない。シャルが呉れた(いのち)が己を俺で居させてくれる。大義や公義のような自分以外の何かに剣を預けるのではなく、自分の意思で剣を握ることができる。離れていても、この手を彼女が支えているような気がする。それで十分だ。

 

 

 そうして彼は翔び立つ。己が為すべきこと、いや───為さんと欲することを為すために。

 

 

 

 “銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”───もはやそう呼称して正しいかも分からぬISと劔冑の融合体は、同じく第二次移行(セカンドシフト)を果たした織斑一夏の“白式”と交戦を繰り広げている。死の淵より生還した一夏は、自身の剣が『大切な人を守る為のもの』であると自覚した。故に、彼の戦いは孤独ではない。多くの仲間に支えられ、そして共に手を取り合って刃を振るっていた。

 

 

 “蒼穹の雫(ブルー・ティアーズ)”による包囲誘導。“甲鉄の龍(シェンロン)”による牽制遊撃。“漆黒の雨(シュヴァルツァ・レーゲン)”による砲撃支援。“紅の花椿”による防御回復。“白の方式”による近接交戦。

 

 

 

『あは ハはははハは 、ハは!』

 

 

 絆によって結ばれた、高密度の波状連携攻撃。追い詰められた白銀は狂気の歓声を上げながら辰気(じゅうりょく)を操作し、瞬く間のうちに上空へ逃げ果せる。天より垂れる見えざる糸が、勢いよく“福音”を釣り上げるかのように。

 

 

 

『く、待て………っ、隼!?』

 

 

 天頂にて輝く星へ喰らい付かんとする一つの影があった。“武州五輪”───彼もまた、己の命運を切り拓く覚悟を五体に宿している。

 

 武藤隼丞を目覚めさせたシャルロット=デュノアは、取り出した大型狙撃銃にてほぼ真上に照準を定めていた。残存したエネルギーが僅かなのか、ホバリングする姿に安定性はない。武藤が彼女に託した頼みとは、奴が反撃に出る刹那を見抜いて欲しいと云うものだった。

 

 

 

(駄目だ、遠過ぎる………これじゃ、ただの光点にしか見えない)

 

 

 諦めかけたそのとき、HUDに表示された文字に気付いた。視覚機能の共有を許可するか否か、送り主はセシリア=オルコットだった。

 

 

 

(わたくし)のハイパーセンサーでしたら、きっと()の星ですら鮮明に見えましてよ』

 

 

『“黒雨”の演算処理領域を少し貸す、これで幾分かはマシになるだろう』

 

 

『じゃーアタシがしっかり支えてあげる。

 届くかどうかはともかく、ちゃんと狙いなさいよ!』

 

 

『なら、万が一に備えて俺と箒がシャルロット達を守るぜ』

 

 

『ああ、あの男の意図は分からないが───奴の剣なら、きっとあの星に届き得る』

 

 

 ───ああ、と。嘆息するような心持ちで皆を見つめる。彼の選んできた道は、孤独などではなかった。傷つくばかりでも、苦しむばかりでもなかった。だってこんなにも、彼の剣を信ずるものたちが居る。君の帰りを待つ人が居る。

 

 

 

(─────だからお願い、もう一度帰ってきて)

 

 

 目指すは、天頂の遥か彼方にて輝く銀色の星。魔神の一刀(けん)は星を喰らい尽くさんがため、一条の流星となって駆け上がった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 空の高きへ昇り詰めた“福音”を見て、奴が何を成そうとしているのか理解していた。此れは魔剣───何人たりとも防ぐこと能わず、何人たりとも躱すこと叶わず、何人だろうと斬らずにはおかぬ、条理を逸脱した剣。

 

 

 

「──────」

 

 

 魔剣の話をしよう───魔剣とは、理論的に構築され、論理的に行使されねばならない。

 

 重力騎航によって遥か大空より降り下り、その加速を以て敵を破壊する神速の一撃。正面突撃(ツキウシ)の最中、撃剣の寸前に前転することで幻惑と打撃強化(インクリース)の効果を齎す、吉野御流合戦礼法“月片(ツキカケ)”───此れの崩し(アレンジ)。前転ののちに重力操作によって(かかと)に甲鉄を集約させ、渾身の踵落としにて撃砕する。

 

 

 ───だが、対敵は正確な“二世村正”の模倣品(コピー)ではない。あくまで“白銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”だ。踵落としはあくまで剣の柄に過ぎず、本命の一刀は、甲鉄ではなく“銀の鐘(シルバー・ベル)”を集約させた白銀の巨剣。魔剣論理は更なる飛躍を遂げた。

 

 

 

(ならばどうする)

 

 

 奴を倒すには何が足りぬ。才量か。技量か。力量か。熱量か。無いならば考えろ、()に許された選択肢の数々を。無いならば選べ、狂った論理を完成させる術理を。無いならば造れ、魔剣を打ち砕くに足る魔剣を。

 

 

 

磁装(エンチャント)正極(プラス)

 

 

『───ながれ・まわる───』

 

 

「“電磁加速(リニア・アクセル)”──────」

 

 

 ラウラの“黒雨(レーゲン)”、その主兵装である電磁加速砲より方式を得、夢の中で見た術理に解答を得る。即ち磁気によって各駆動部は潤滑に作動し、劔冑の性能は格段に跳ね上がった。

 

 だが、此れでは足りない───必要なのは更なる速度。迎え撃つは音の壁さえ突破して墜ちる銀の小惑星、ならば此方も同等の速度を以て迎え撃つより他にない。

 

 ───如何にして?

 

 

 

『天地万物に吸引の力あり。

 この作用を引辰、力を辰気と称す───』

 

 

 先程の戦闘にて、村正の卵と融合した“福音”から吸収した術理。臓腑の奥で荒れ狂う力。全ての生物、全ての物質が逃れることのできない、目には見えぬ星の鎖───地球上でたった二人、たった二振りだけが、この戒めを引き千切った。

 

 

 

『辰気収斂───招き集わせ手繰る』

 

 

「誘聘──────“辰気加速(グラビティ・アクセル)”」

 

 

 一つの願いが飛翔する。其れは確かに止め()ないものだった。

 

 刻限は数分。破壊された脳の再生が完了すれば自我の再構築が成され、心甲一致が解ける。いや、もはや数刻の時間も必要ない───(ただ)一手、“福音”を断ち切る刹那さえあればいい。

 

 

 小太刀の鋒を前方へ突き出し、太刀を脇に収める左脇構(ひだりわきがまえ)で対敵に直進する。その意図は、通常唐竹ないし袈裟に切る軌道を左剣にて防ぎ、同時に右剣にて切り払う攻防一体を目的とした構えだ。

 

 

 

(だが、此れではまだ足りぬ──────)

 

 

 一つ目は、反射力。あの速度を捉え切れる目が俺には存在しない。“武州五輪”の如何なる術理を以ってしても、反重力による超加速を捉え得るものはない。

 

 二つ目は、防禦力。攻防一体の構えとはいえ、音速さえ通り越して墜ちる星を受け止めるには、この小太刀ではあまりにも脆弱。

 

 

 ───それでも、(おれ)は一人ではない。

 

 

 

(しゅん)───ッッ!』

 

 

 声と共に放たれた銃声、いや、分け与えられた熱で繋がった、彼女の意思を合図とする。星が傾くその刹那を、攻撃の始動を知覚する劔冑以上の目。ISのハイパーセンサー。視覚補助のみに残されたエネルギーを裂くことで得た超感覚が、如何な第六感よりも鋭く魔剣の起こりを見抜いた。

 

 

 小太刀の刃が敵刃と交叉するように頭上へ掲げる。()の一撃は大気圏より落下する断頭の白刃。振り下ろす踵落としが骨子となっているが故、軌道自体は読み易い。であれば初めから、その軌道上に剣を置いて防げば良い───これで一つ目の問題はクリアされた。

 

 

 

(残る、最後の一手───)

 

 

 我が二刀を魔剣へと変貌せしめる、最後の一欠片は何か。()の剣に宿した武の法則とは何か。

 

 

 

『吉野御流合戦礼法“月片(ツキカケ)”が崩し───』

 

 

 人語を介せぬ筈の無人機は、先程の狂気じみた嗤いを何処かへ霧散させたような冷涼な金打声を挙げていた。知覚すら許さぬ神速の降誕で、我が眼前に銀星は在る。

 

 ───来た。星さえ一断する、銀の魔剣が。

 

 

 

『──────〝魔剣・天座失墜〟──────』

 

 

 ──────()は、死ねない。そして、殺さない………!

 

 

 

 

「─────────ッッッッ!」

 

 

 受け止めていた。あり得ざる絶技を、あり得ざる絶剣が。小太刀は───いや、最早大小など存在しない。何故ならば、二刀は自己を構成する鋼鉄ではなく、白亜のシールドエネルギーによって刃を形成している。

 

 此れは“白式”の単一使用能力(ワンオフ・アビリティ)である“零落白夜”より吸収した術理。展開防護を刃とする防禦殺しの一刀。

 

 

 

「二天一流合戦兵法“切差(セッサ)”が崩し───」

 

 

 脇に収めた右の太刀が、小太刀と同様の白光を閃かせる。“零落白夜”によるハードウェアとしての攻防一体と、“二天一流”によるソフトウェアとしての攻防一体。()つを合わせて()つとする───防ぎ得ぬ筈の一撃を防ぎ、届き得ぬ筈の刃を届かせた。

 

 

 

「──────〝魔剣・白花天昇〟──────」

 

 

 一文字に奔る白亜の一閃。腰から肩口まで切り上げられた“銀の福音”は、自己の肉体の異常に気付く………そう、傷がない。甲鉄を両断され、機能を寸断され、併し仕手の肉体は傷一つついていなかった。

 

 無数の原理を蒐集し、無元の術理を研鑽する。その果てに手に入れた、無二の剣理───彼の得た武の解答(こたえ)不殺(ころさず)の魔剣。

 

 

 今、銀の昴星は墜ちた───。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「………これが、“福音”の正体」

 

 

 墜落する“銀の福音”を抱き留めた一夏は、近くの小島へと彼女を着陸させた。搭乗者は───じきに息絶える。死に身近ではない一夏たちでさえ、来る終わりの予感を感じ取っていた。

 

 人の輪を抜け、対敵者であった武藤隼丞が歩み出る。彼の剣が境界の名を持つ少女を死に至らしめたのではない。重力と云う星の理を人の身に宿した代償であった。

 

 

 

「………………夢は、見れたか」

 

 

 “福音”は答えない。だが、その口の端を少しだけ上げたような気がした。あるべき世界より弾き出された少女は、戦うことしか生きる術を知らなかった。この平和な世界で生きるには、きっと狂する(ほか)なかったのだろう。

 

 だからこれは、夢───瞬いて消える一夜の夢。生命を燃やし尽くして戦った、その輝きの(はて)だ。

 

 

 

「もう、眠れ───」

 

 

 彼の手が優しく目蓋を下ろす。境界の少女は、もうその弱々しい息遣いを続かせてはいなかった。朝焼けが戦いの終わりを告げている。

 




第二十二話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
更新遅れて申し訳ありません、もう少しだけ続くんじゃ。
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