インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神──   作:すぷりんくらー

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第二話〝始〟

 

 教室。その響きに、あまり良い覚えはない。一言で表現すれば寡黙、悪様(あしざま)に言うなれば根暗………そんな性格が、社会の縮図(がっこう)でどのように扱われるかは事細かに言わずとも分かるだろう。

 

 

 小、中、ともに友人と呼べる存在は少ない。中学一年の半ばで見知らぬ土地に移ったからか、友達の作り方も記憶の彼方に追い遣って久しい。

 

 

 

(………憂鬱だ)

 

 

 そう思わざるを得なかった。

 

 扉を横に引いて一歩踏み出すと、視線という視線が自身へ向けられた。好奇という感情が刺草(いらくさ)のように肌へ突き刺さる。努めて表情を(いわお)と崩さぬまま、もう一人の男性操縦者の一つ後ろの席へ座する。

 

 

 

(気まずい………)

 

 

 恐らく前席の青年も、同じことを感じているのだろう。

 

 腕時計の小さな駆動音がいやに大きく聞こえる静けさを、次いで入ってきた緑髪の女性が打ち破った。

 

 

「す、すみません遅れてしまって……!このクラスの副担任になりました、山田(やまだ)真耶(まや)です。

 えぇと………これから3年間、皆さん仲良く過ごしましょうね」

 

 

「「「………………」」」

 

 

 静寂は変わらない。まるで時間が凍りついたかのように。

 

 

 

「………そ、それでは、一人一人自己紹介をしていきましょうか!」

 

 

 (つつが)なく、そして手早く、自身の手番が来たなら流水が如く精妙に自己紹介を終わらせる。下手をすれば、この時間は織斑教員との面談よりも重いのだ。

 

 

 

「………織斑くん?織斑くん?聞こえますか?」

 

 

「っは、はい!」

 

 

「自己紹介をお願いしたいんですけど、できますか?」

 

 

「あぁ、はい───織斑(おりむら)一夏(いちか)です。

 ………以上です!」

 

 

 思わず肩を落とした。

 

 望むと望まざるに関わらず、彼と同じ男性操縦者として見られるということは、どう足掻いても平静とは無縁の学校生活になると今予感した。

 

 

 

「………武藤(むとう)隼丞(しゅんすけ)

 趣味は剣術(なり)

 

 

(なり………?)

 

 

(なり………?)

 

 

 緊張すると口調が堅くなる癖が、最悪の瞬間で起きてしまった。一夏に後で謝るとしよう。これから安息にない日々が続くとしても、その理由は己にあった。

 

 揃って落第点な自己紹介を済ませたところ、何処からか現れた黒衣の女性から拳と手刀が飛んできた。反応すら許さない鮮やかなる手際の主は、情けなく頭を抱える二人を見下ろして言う。

 

 

 

「貴様らは揃って真面(まとも)な挨拶もできんのか」

 

 

「ち、千冬姉ぇ!?なんでここに!」

 

 

「織斑先生だ」

 

 

 抗弁者に二度目の拳骨、彼は従うほかなかった。

 それにしても、そうか『織斑』───ブリュンヒルデに弟がいるとは思いもよらなかった。

 

 

 

「貴様も二度目を喰らいたいような顔をしているな」

 

 

「滅相もありません、織斑先生(オリムラセンセイ)

 

 

「よろしい……諸君、私が担任の織斑(おりむら)千冬(ちふゆ)だ。

 君たち新人を三年で使い物にするのが仕事だ」

 

 

 その瞬間、クラス中の女子の口々から黄色い歓声が津波となって押し寄せた。無理からぬこと、ISに携わるもので彼女を知らぬものはいない。彼女に憧れを抱いて学園を目指すものも少なくないと聞く。

 

 

 一方で、歓喜の的となっている織斑教員本人は額を抑えている始末だが。

 

 

 

「いいか!諸君らは半年でISの基礎知識を身体に叩き込んでもらう!

 良いなら返事をしろ、良くなくても返事をしろ!」

 

 

「「「はいっっ!」」」

 

 

 少しして、授業合間の休み時間がきた。授業中はまだ幾分かマシだったことを思い知らされるほど、特に廊下側からの視線が鋭い。一夏は緊張で縮こまっているし、自分に至っては参考書を食い入るように眺める始末。

 

 

 当然のことながら、海馬がその内容を記録することはなかったが。

 

 

 

「ちょっといいか」

 

 

「え?あ、あぁ………」

 

 

 周囲の女子たちが話し掛けるか眺めているかを論じている最中、とある女性が一夏を呼び出した。流れるまま席を立ち、教室を出て行く二人。第三者なら下衆(げす)な噂の一つも立てようものだが、己の胸中は絶望ただ一色となる。

 

 

 

(取り残された………)

 

 

 生きながらにして剣山地獄を味わうが如き苦行、こんな場所へ自分を置き去った一夏への見当違いな怨恨を募らせざるを得なかった。

 

 

 

「ちょっと(よろ)しくて?」

 

 そんな俺へ言葉を掛ける金髪の少女。腰に手を置き胸を張ったその姿勢に自信家めいた雰囲気を感じたが、どうもそれだけではなさそうである。

 

 

 

「………、俺か?」

 

 

「貴方以外に誰が居ますの?私の前に」

 

 

 やや挑発的とも取れる言動。およそ初対面の人間に掛ける物言いではなかったが、一々指摘するほどのことでもないと、()く彼女の用件を済ませることとした。

 

 

 

「それで、この武藤に何用か」

 

 

「まあ!随分と野蛮な口聞きですこと!代表候補生であるこの(わたくし)、セシリア=オルコットがこうして話し掛けているというのに!」

 

 

「申し訳ないが、貴女様とは初対面かと存じ上げる。

 代表候補生、と云うのは読んで字の如く国かクラスか何かの代表候補、との見解で相違ないだろうか」

 

 

「ええ、少しは日本にも頭の回る方もいらっしゃったのね。

 その通り、私はイギリス代表のIS操縦者として選ばれ、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリート!

 本来であれば教室を同じくすることも幸運、そのことをよく理解して頂けるかしら?」

 

 

 一年生にして国の代表となり得る素質を備えていると、それは確かに逸材を評されて然るべきだろう。

 

 だが………。

 

 

 

「教官なら俺も倒したぞ?」

 

 

「な──────」

 

 

 話に割って入ってきたのは、今し方教室に戻ってきた一夏だった。セシリアは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。まさか織斑教官と云うことはないだろうが………それでも、十分凄いことだと思う。

 

 

 

「どっ、どういうことですの!?」

 

 

「どうって、なんか勝手に壁に突っ込んで倒れたとしか………」

 

 

「し、しかし教官を倒したのは一人と………」

 

 

「『女子の中で』って話じゃないか?」

 

 

 話を終えるより早く、授業開始のチャイムが鳴り響く。セシリアは未だ何か騒いでいたが、これ以上話す舌を持つことはない。

 

 そんな一悶着を眺めていた他の生徒たちの内心には、一つ共通した感想があった。

 

 

 

(武藤くんとセシリアさんって………)

 

 

(うん………)

 

 

(((話し方が独特………)))

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 激動。

 

 今日一日で体力の殆どを使い果たす、荒波に揉まれるかのような一日だった。あの後もセシリアが少々突っ掛かってきたが、それを除いても常に好奇の視線に晒されるストレスは流石に堪えた。

 

 

 

(コミュ障には、キッツい………)

 

 

 学生寮に割り当てられた自室のドアノブを回す。これから三年間はこの一室が我が家となる。ベッドの数から見てルームメイトが居るだろう、妥当なところ一夏がそうか。挨拶だけでも済ませておくか───という考えは、倒れ込んだ寝床の柔らかさに掻き消された。

 

 

 

「疲れた~………」

 

 

 一日を振り返る間もなく、意識がぼんやりと不確かなものになっていく。ただ一つ、己はこんなことをしていて良いのだろうか───という、一抹の不安だけが胸中にあった。

 

 ───その問いに自答するより早く、瞼が一日()の終わりを告げるように幕を下ろした。

 




第二話投稿です。読んでくださってありがとうございます。
早く戦いて〜。
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