インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神── 作:すぷりんくらー
例え許されざることとしても、身に染みついた習慣は肉体から削げ落ちないものだ。
「──────」
両の手に握られる木剣が虚空の標的へ
修練場の床を汗で濡らすほど相手を鮮明に思い描く集中力───それは彼が持つ長所でもあり短所でもあった。
「ッッ─────」
空想の敵へ向けて剣尖を走らせる。
「ダメか」
虚空の対敵者は織斑教員その人であったが、心技体何れに於いても勝る処なし。こうして地に背をつけているのも納得の結果だった。
時計の針が6の数字を指しているのに気付いた。こうして剣に逃げていても仕方ない、学校生活は始まったばかりだ………また、どうにか頑張って今日一日を乗り切るとしよう。
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「お、隼も朝飯か?」
「………ああ」
多めの白米に、豆腐の浮かぶ味噌汁、焼き鮭と山菜の煮付け。今日の朝食は和の
「そういえば昨日どうしたんだ?てっきり俺は一夏がルームメイトだとばかり思っていたが」
「ああ、なんか手違いらしくて箒と同室になったんだ。
お陰で昨日は酷い目に………」
「お前が変なことを言うからだろう!扉まで壊すことになって………」
「いや、アレに関しては俺悪くないって!」
「?」
扉?壊れる?………話の全貌が全く掴めないが、となるとあの部屋は個室同然か。それはそれで有難い。コミュ障に『今日から相部屋ですよ~』などと言われても、はいそうですかと受け入れられはしない。
「織斑くん、武藤くん、ここ良いかな?」
「ん、どうぞ」
「………ああ」
三人のクラスメイトがテーブルに来る。殆ど同時に食事を終えたのだろう篠ノ之が席を立つと、先に行くとだけ言い残して背を向けた。
しかし拒絶しない自分も自分だが、一夏のこのコミュニケーション能力はどこで培ったものなのだろう。ただでさえ注目の的だと云うのに、これ以上自分のパーソナルスペース内に人が居ると水さえ満足に喉を通らなくなりそうだ。
(早く食い終わろう)
自分はそこらに転がる
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「再来週行われるクラス代表戦については知っているな。
そのクラス代表者を決める………自薦他薦は問わない、誰かいないか?」
「クラス代表者………?」
「学級委員長とか総代、みたいなものか」
「かもな~」
朝食どきに話し掛けてくれたのもあって、一夏とは少し話せるようになってきた。まだ数度と言葉を交わしたに過ぎない仲だが、なんとなく彼の人柄は分かってきたような気がする。
そんな少し安穏とした雰囲気をぶち壊す意見が、隣の女子から挙げられた。
「織斑くんを推薦します」
「えっ?」
「私は武藤くんを推薦します!」
「あ?」
丁重にお断り申し上げたく候、と言いたいところだが、黒衣の鉄面皮が辞退は許さぬとばかりの睨め付けていた。
………そのとき。
「───納得できませんわっ!」
突如として挙げられた彼女の声音は、ただ怒りに満ちたものだった。セシリア=オルコット………
「文化としても後進的な国で過ごさねばならないのも我慢できないというのに、クラス代表の男性を選出など───そのような屈辱を一年間味わえと言うのですか!?」
彼女の物言いは女尊男卑の観念が染み付いて仕方がなかった。
仕方のないことである。今こそアラスカ条約によって兵器利用は禁じられているが、それまでの近代兵器を単体で凌駕し得る存在を女性しか使えないとしたら………彼女のような思考が広まるのは、そう不思議なことではない。
「イギリスだってそんなお国自慢ないだろ。
不味い飯ランキング万年世界王者が」
「ふっ」
一夏の返しに禁じ得ない笑みが浮かんでしまったが、どうやら彼女の神経を逆撫でしたらしかった。
決闘《・・》───そんな言葉が彼女の口から溢れる。私的なISの無断使用はご法度であるが、学園内のいざこざを勝負によって決める風潮が此処にはあった。
(
何とか辞退しようと思索を巡らせていたところで、此れだ。
「───では、二対二の勝負にするというのは
「あなたは………」
立ち上がった黒髪の少女、名は確か
そんな最中、篠ノ之箒と視線が合う。戦意に満ちた瞳を覗き、勘弁してくれと思わざるを得なかった。
「私はよろしいですが、構いませんの?」
「ああ、これならば少なくとも数的には平等だろう」
俺の意見が入る余地もなく、あれよあれよと話が進んでいく。セシリア嬢との諍いもあって一夏はやる気十分といったところ、対して自分は───、
(ああ、憂鬱だ………………)
頭を抱えていた。
「異論がないならば話し合いを終了するが、いいな?
勝負は次の月曜、第三アリーナで行う。
四名とも
問題ごとというものは、どうあっても我が身の下へ舞い込んでくるらしい。腹を括るしかないと、殆ど言い聞かせるように意を固めた。
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「来たな、武藤」
「よろしくお願いします」
貸し切られた夕暮れのアリーナ、此処はIS発進用のピットだ。そこには三つの影があった。
一つは武藤隼丞自身。もう一つは、呼び出した織斑教員その人。そしてもう一つは───人間ではない。重厚な鋼で作り上げられた、人の形を象った甲冑だった。
「では始めろ」
「───はい」
ISの起動実験。というには余りにも雰囲気は剣呑であり、甲鉄へ伸ばす手の甲には冷や汗すら浮かぶ始末だった。
この機体を俺が呼び起こし、空を翔け、
もしもまた、俺の意に反して動くような災いめいた代物ならば………胸中の不安を噛み殺して、指先が白亜の鋼へと触れる。
──────刹那。脳を無数の刃が串刺しにしたような激痛が走った。
「っっ、ヅ──ぐ、あ゛ァ」
「武藤!」
其れは情報だった。
視覚的な、聴覚的な、触覚的な、嗅覚的な、味覚的な、そして感覚的な。人の脳には到底耐えられない、莫大に過ぎる
此れを、俺が、起動させた───?無理だ、出来るはずがない。
これは“魔書”だ。戦うこと、ただその為だけに造られ、使い手に千もの万もの戦闘方法を与える
「はぁ───はぁ───、っ、まだ………やれます」
震える手が再度、鋼の手触りを感じる。情報の濁流に意識を押し流されながら、自身を何かを繋ぐ一本の
『──────』
薄れゆく意識の中で、
『──────我、正道に非ず』
『──────我、常道に非ず』
『──────我、邪道なるもの』
『──────我、外道なるもの』
『──────我、一振りの
「──────我、一振りの
『──────我との契りを求むるもの』
『──────我と供に魔刄と
第三話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
やっと装甲悪鬼村正要素が出てきた。
次回はクラス代表決定戦、その前編になります。多分。