インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神── 作:すぷりんくらー
「少し、良いだろうか」
「………俺か」
「今日のクラス代表決定戦についてだが、構わないか?」
「………ああ」
修練場で木剣を振り回していると、篠ノ之箒───名目上、代表決定戦での対戦相手が話し掛けてきた。道着姿が様になっている、一夏から剣道の全国大会で優勝するほどの腕前とは聞いたが、納得せざるを得ない。
「私は専用機を持たない、だが君は一夏と同じように専用機を持つのだろう」
「加減をしろと?」
「
彼女の姉君は篠ノ之束、ISのコアを精製できる世界で唯一人の人材である。先日の授業でIS開発の歴史に触れた折にも彼女の名前は出たが───嫌い、なのだろう。少なくとも、自己の実力と他人の実績が同一視されるのが。
「………委細承知した」
「尋常なる勝負を望む」
とは言ったものの、もう五度は試しているというのに
(………いいや、受け入れていないのは己の方だ)
既に定めたはずの覚悟が揺らぐ。
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『逃げずに来たことは誉めて差し上げますわ!
ですが………貴方の相方は、どうやら臆病風に吹かれたようですわね?』
『いいや、必ずアイツは来る!』
(だが、それにしても遅い)
言い合う二人を他所に、篠ノ之箒は未だ姿を見せぬ対戦相手のことを考えた。
彼女がこの戦いへ立候補したるは、自身の姉にその理由を置く。篠ノ之束の妹、天才科学者の妹───自身に才能がないことを理解し、努力だけで生きてきた彼女にとってそのレッテルは屈辱でしかない。
だから、自身への認識を覆すために戦う。意地でも構わない。剣だけは、これだけは譲れないから。
『な───アレはッ!?』
ふと視線を発射場へと見遣る。すると
男はISすら身に纏っていない生身の姿で
『
どれだけ自分が望まなかろうと、この日はいつか必ずやってくる───それが少し早まっただけのこと。例え命を擲ってでも、このISを受け入れなければならない。
(いや、ISではない──────)
両の腕を拡げる。目前に佇む運命を迎え入れるように。いや、もう覚悟はした筈だ。あの日、あの時、あの海岸線で、この
「──────
「──────
「──────以って此れ、我がツルギなり」
青年の影が
だが
「──────“武州五輪”」
発進場の奥で坐した甲冑がぐらりと傾き、内側から爆ぜるように装甲と装甲が泣き別れになる。崩壊というよりは分解に近く、破片の一つ一つが墜落する彼の周囲に漂い集った。
四肢から腰部、肩部、腹部、胸部、そして頭部を、冷たい甲鉄が覆い隠す。盈月のような真白と、
劔冑の目が裸眼よりも正確かつ鮮明に戦場を映し出し、高度計や水平計、熱量系などの各パラメータを表示している。中でも恐らくは
(熱量が絶えず防御に回されている、厄介だな)
長時間の戦闘は臨むべくもない。かと言って迂闊に浮き足立った剣は命取りとなる。
ふと、そんな自己の思考回路に疑念が湧き上がった。
(
疑念を掻き消すように首を振ると、凛とした声音が耳朶を打った。
『それが君のISか』
対するように地表へ着地したのは、今朝がた言葉を交わした篠ノ之本人。上空では一夏とセシリアが対峙しており、
『改めて名乗ろう。
篠ノ之流、
「二天一流、
鍔元に親指を当て、鯉口を切る。今、青年は運命の妖刀を抜いた。
耳を
上空の騒乱に対し、地上は静謐そのもの───沼地に浮かぶ蓮葉の風情を以って二人は止している。
「………………」
鬼面の武者は得物を担いで天へ掲げるように、武者正調上段の太刀取り。その構えの意図するところは明白、間合いに入った敵を撃剣にて斬り下ろす。実際は“
この構えの最たる利は振り下ろす剣速も
『………………』
対極に位置する女剣士は
剣理に疎い観客ならば、この立ち合いを似た者同士の
(………………!)
篠ノ之の剣が
(これでは、いつ来るか分からない)
迂闊に踏み込んで攻勢を見せれば、彼女は確実にその出鼻を挫く。斬ることより当てることに主眼を置いた打突と呼ばれる剣道特有の打ち込みは、その圧倒的初速の差を以て
(ならば──────)
全身を鋼で覆い尽くした剣士は、静謐さを湛えた肉体をほんの僅か前方へ押し出す。脚は動かさない。膝を屈し、顎を引き、頭頂を差し出すように少しだけ前へ───携える刀に斬気を乗せ、脳が対敵の両断を命じた正にその瞬間。
『───やぁあッッ!!』
短く、その声量ですら身を叩くような裂帛の気合いと共に、鉄の殺気が物理現象となって放たれる。彼女の脳裡に映るのは、魔神めいた相貌を打つ重く確かな手応え。
………しかし。
『!!!』
腕を通して肉体へ伝ったのは、鈴を打つような軽々たる感触だった。
(誘われた───!)
撃剣の刹那、最善の機を見出し、彼は左脚を通常の前進より左側へ踏み出した。そして刀を斜めに、肩甲骨に沿わせた剣で道を作ってやると、振り下ろされた剣は受太刀の
自身の仕掛けが
二天一流合戦兵法────“
『くっっ!』
先ほどまでの静謐とは打って変わり、彼の攻勢は燃え広がる烈火の如くある。退がる篠ノ之へ追い縋り、咽頭へ差し込む刺突───これを剣にて払うも、侵攻は止まることを知らない。
鍔迫り合いの様相を呈してきた地上の戦況に、観客たちはまるで映画のワンシーンのようだと感じた。
「──────」
『………………』
吹けば吐息を感じるだろう距離で、鉄粉を散らしながら両者は睨み合う。
黒髪の女剣士は理解していた。力と力の拮抗で
『はああぁッッ!』
下がり面。潰された間合いを対敵を押す反作用で一気に取り戻し、顔の正中線を澄まし打つ。剣道に於いても咄嗟の有効打となり得る技だ。
今度は左右に躱す
左手を
この間合いで振るう剣など存在しない。だが、刀は引けば切れ、突けば刺せる兇器なのだ。近間なら近間で、頸や面を断つ程度の技は存在する。この特殊な持ち手による攻防一体の技法を、二天一流合戦兵法“
(私は、私は………この程度なのか?
こんなにも弱く、脆く、惨めな存在だったのか?)
力にて劣り、技にて敗れ、心も折れた───そんな精神の間隙を突いて
『私の、敗けだ………………』
最早阻むもののない身体を
主を失った太刀が宙を舞い、地へと突き刺さる。さながら拠り所のない彼女の胸中を表すようだった。
第四話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
子供の頃指を刀で切ったことあるんですけど、刀傷って消えないんですよね。