インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神──   作:すぷりんくらー

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第五話〝剣理殺人刀〟

 

 “ブルー・ティアーズ”───イギリスが開発した第三世代試作型IS。世界で初めて、人間の脳波のみで操作を可能とするBluetears(ブルー・ティアーズ) Innovation(革新型) Trial(試作機)、通称BT兵器を搭載している。

 

 欠点として、高い集中力をパイロットに要求するためBT兵器の操作中は機体を動かすことができない。

 

 

 

『はあああああ───ッッ』

 

 

 一夏は一先ずBT兵器を出来る限り破壊しながら、空中に静止している蒼い影へ肉薄した。

 

 射程(レンジ)と云う明確な不利を背負いながらも、灰銀のISは初心者が駆るとは思えない巧みな操作で接近し、一つ二つとビット達を切り落としていく。

 

 しかし、射手の間合いを潰しつつある最中、なおもこの戦場はセシリアの支配下にあった。

 

 

 

『掛かりましたわね!』

 

 

 背部に取り付けられた二門の火砲、実弾発射が可能なBT兵器がその砲門を一夏へと向ける。機動を可とするBT兵器は先に攻撃させた四丁だけではなかった。黒煙の尾を引いて“白式”を追従する二つのミサイル、うち一つを一刀の下に切断する。

 

 

 

『うわあああああっっっ!』

 

 

 爆炎を貫いて来る二発目の直撃、今度こそセシリアは勝利を確信した。例えシールドに余裕があっても無傷とはいかない。その煙が晴れたときが貴方の最後ですわ、織斑一夏………!

 

 だが、覗き込んだ光学照準(レティクル)に映った機影を認め、その瞳は驚愕に見開かれた。

 

 

 

『これは───』

 

 

 一夏のHUDには『Format Fitting Finished』の表示が浮かび上がっており、全身の装甲はより純白へと進化していた。

 

 そして、右手に携えられた“白式”唯一の兵装───近接戦特化型ブレード“雪片弐型”。二又に変形した刀身から、青白いエネルギーの刃が収束された。ただ其処に在るだけで、空間の塵を灼いてプラズマに変えるほどの威力。一夏はその銘が、織斑千冬が大会優勝時に用いた刀と同じであると気付く。

 

 

 

『“一次移行(ファーストシフト)”………!

 あなた、初期設定だけの機体で戦っていたというの………!?』

 

 

 純白の戦意が空を翔ける。太刀取りは片手で担ぎ上げ、左手は空にて待つ蒼い標的へ手を伸ばすように。

 

 

 セシリアは歯噛みした。

 

 残された手札はエネルギーライフル『スターライトMk-Ⅲ』、緊急白兵専用の『インターセプター』、そして隠し玉としての意味を失くした実弾型のBT兵器のみ。

 

 勝利の予想図(ビジョン)───それはきっと、BT兵装試験機としてではなく、射撃戦特化型ISとしてのコンセプトにある。

 

 “蒼雫”が“白式”に勝れる処、即ち───、

 

 

 

射程(レンジ)の開き!)

 

 

 残るミサイルを全て撃ち放つと、セシリアがカスタム・ウィングを羽撃かせ後方へスラスターを噴かせる。

 

 

 

『うおおおおおッッッ!』

 

 

 白刃が振るわれる度、爆炎が宙を彩る。二度、三度、そして四度目は接触爆発ではなく自動爆発。一夏の目を遮るようにして橙の炎が爆ぜた。

 

 

 

(此処っっ!)

 

 

 十字線(クロスヘア)の中心に据え置かれた敵機を覗き込む。引鉄に指を掛け、代表候補生としての意地と誇りを乗せた一矢が放たれる、その瞬間。

 

 

 

(──────!)

 

 

 目が合った。

 

 燃え熾るような心と、研ぎ澄ました覚悟を宿した、あまりにも純粋すぎる黒い瞳。それはいつしか、生きる中で、彼女が失くしたものだったに違いない。

 

 だからなのか、或いはほんの僅かな気の迷いだったのか、引鉄に掛かる指が………動かなかった。

 

 

 

『、ッ──────!』

 

 

 目前に迫る“雪片弍型”の防禦(まもり)殺しの一太刀。敗して地に墜ちる一秒後の自分を幻視して、息を呑む。

 

 しかし、待てども彼の一撃が届くことはなかった。

 

 

 

『織斑一夏、シールドエネルギーロスト』

 

 

 誰も予想し得なかった結末が、二人の間に訪れた。

 

 

 

(………勝った?何故?)

 

 

 疑問符と感嘆符に支配された脳で、しかし冷静に今自分が置かれた状況を把握しようとする。納得がいかないような対戦者の顔と、地上にて俯く相方の姿。

 

 

 

(あの(ひと)は───)

 

 

 観戦する者達の口々から、息を呑むような声が聞こえる。その音に紛れて、もっと重苦しい、地の底から響くような轟音を、一夏の背後から聞き───、

 

 

 

「──────」

 

 

『しまっ────!』

 

 

 死角より迫り(きた)魔刄(ハガネ)が、“蒼雫”の装甲を易々と切り裂いた。そうとも、始めから勝負は二対二───片方の決着即ち、次なる戦闘!

 

 

 

『な、お前───隼ッッ!』

 

 

 卑怯を責めるかのような一夏の声を振り切り、錐揉みを描いて墜落する彼女を、螺旋の紐をなぞるようにして追い縋る。合当理(がったり)が轟と吼え、母衣(ほろ)が空を裂き、一刀(けん)展開防御(シールドバリアー)を削り散らす。

 

 土煙をあげて蒼い機影が墜落するまで、通算三度の白刃が踊った。

 

 

 

『く、ぅ………っ!』

 

 

「………………」

 

 

 地上に降り立つ、魔刄の劔冑。彼は手にした一刀を腰の鞘へと納めると───見えなくなった刃とは裏腹に、その危険性が一層圧を増した。

 

 此れは居合い、抜刀術───起こりが見えぬ故に回避を許さない、流派によっては剣理の極みとさえ考える、日本刀特有の技術。

 

 

 

(“術理選択”──────抜刀技)

 

 

 必要なのは、更なる威力。

 

 脳裡に描かれたるは、何らかの異能を用いて抜剣を神速の魔技へと昇華せしめた、悪鬼の如き相貌の劔冑。これならば、この技ならば───やれる(・・・)

 

 

 

(“術理解釈”──────磁気反発)

 

 

 行使可能か?───否、武州五輪は未完成、故に“磁気操作”の陰義を持たない。

 

 再現可能か?───可、代替の陰義によって疑似的に振るうことは可能である。

 

 

 

「二天一流合戦兵法“震電(シンデン)”が崩し──────」

 

 

 鞘の内から溢れる力が迸り青白い火花が散る。まさに天より落下せんとする稲妻が如き剣。莫大な熱量(カロリー)が注ぎ込まれ、対敵必滅の雷鳴が轟いた。

 

 だが、荒ぶる自身の剣とは裏腹に使い手の心象は酷く穏やかだった。

 

 

 

(何故こんなにも、何も感じない───?)

 

 

 (おれ)は、(おれ)は───何をしようとしている?

 

 

 

『やめろ武藤──────っっ!!!』

 

 

「──────ッッ!」

 

 

 抜き放ち、切り裂く、その刹那───眼前に躍り出た一夏の姿を見て、思考を研ぎ澄ませていた鋼の冷たさを振り払った。

 

 掌から力が抜ける。暴発寸前の爆弾を何処かへ投げ棄てるように、宙空へ放り投げられた一刀が空を切り裂く。

 

 そして、目を灼くほどの閃光となって内包していた静電荷が一挙に解放された。

 

 

 

「はぁ、っつ………は、ぁ」

 

 

 肉体を襲う虚脱と、重力のようにのし掛かる疲労。そして何よりも、ともすれば自分が『殺していたかも知れない』という事実への絶望に、正しい呼吸のやり方を忘れる。

 

 戦いという極限状態にあって忘れていた、周囲の視線が突き刺さるように感じた。

 

 

 

「見た?織斑くんが負けた瞬間、後ろから闇討ちなんて………」

 

 

「卑怯だよね、しかも何?あのIS………まるで化け物みたい」

 

 

「暗い性格だとは思ってたけど、あれじゃ………ねえ?」

 

 

 口々に溢れる悪様な言葉の数々を、劔冑の聴覚(みみ)は正確に聞き取った。全身装甲(フルスキン)の奥に隠れる、見えざる彼の心象を理解する者は居ない。

 

 唯、この戦いの渦中に居た者だけが、歩み去る彼の背中に──────冷たい鋼に閉ざされた心の施錠を聞いた。

 

 

 

「………………」

 

 

 武藤隼丞、反則行為により失格───勝者、セシリア=オルコット。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

(しゅん)ッ!小雀(こすず)を守れッ!絶対に部屋から出るなッッ!』

 

 

 ………父の言葉を、覚えている。緋色の記憶。じくじくと消えない疼きを伴った傷痕。

 

 

 

『お父さん?』

 

 

 止めなければ。

 

 伸ばした手が妹に届くことはない。扉を開けようとする妹を一歩進んで止めるだけのこと………なのにこの脚は、地と一体化したかのように凍りついて動かない。

 

 

 

『おと──────』

 

 

 とすっ。

 

 花を手折るような、短く呆気ない音が反響した。緋い記憶。罪の記憶。遠い、遠い───拭えない過去(きおく)

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 ………夢。見飽きるほどに苛んだ悪夢。罪禍はお前を許さぬとばかりに、決して忘るるなかれと言わんばかりに、苦々しく脳裡に在った。

 

 

 

「目が覚めたようだな」

 

 

「織斑、先生………」

 

 

 声の主の方を見遣り、彼女の言葉で、発射場(ピット)に降り立った後自分が気を失っていたことを思い出す。熱量欠乏によるものだろう。脳の中心は激しく鐘を鳴らされているようで、外側に近づくにつれ痛みも思考も鈍くなっていく。

 

 

 

「クラス代表は織斑一夏に決まった。

 セシリア=オルコットが辞退したからな………お前はどうする?

 敢えて代表の座を争うのならば、織斑と───」

 

 

「辞退します」

 

 

 言い終えるが早いか、被せるようにして代表の座を辞する。元からそんなものに興味はない。状況がそうさせたから………いや、違うな。

 

 

 

「俺にはその資格がない………」

 

 

 剣に人生を捧げ、けれど剣などこの世には無用の長物だった。無為と知りながら培った技術が、時間が、報われるような気がした───だから俺は、あの戦いを楽しんでいたのだ。

 

 

 

「セシリアのことを言っているのなら、絶対防御が………」

 

 

「いや、()()()()()()()。間違いなく。

 その事実は消えない───俺の剣は殺人刀(セツニントウ)だ………」

 

 

 無為のまま終わらせておけば良かったのだ。こうやって()()()()のなら、眠ったように生きていれば良かったのだ。例え報われることのない一生だったとしても、朽ちるような生ならばきっと誰も傷つけなかったろうに。

 

 どうして俺は、何の為に、此処へ来たのだ………。

 

 

 

「───甘ったれるなッッッ!」

 

 

 一喝。吹き荒ぶ嵐のようでいて、粛然たる刃のような鋭い声だった。

 

 

 

「武に生きるもの皆総て、生命(いのち)の重みを知ったその上で戦うのだ。

 それは剣であれ、弓であれ、槍であれ、徒手であれ───殺す為の技を磨き、生かす為の術を培う!」

 

 

「………………」

 

 

「お前の武とはなんだ、武藤。

 『()()()()()()()()』───この答えを貴様の宿題とする、良いな?」

 

 

「………はい」

 

 

 保健室を後にする織斑教員の背は、決して見限りを意味してはいなかった。ただそれでも、武の問いに答えるだけの余裕が、俺にはきっとない。

 

 見つけなければ。

 戦う理由を、意味を───無意味と知りながら剣を執る、その愚かしさの意義を。

 




第五話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
タイトルは装甲悪鬼村正の劇中曲から採りました、いやー書くときのBGMって大切。
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