インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神── 作:すぷりんくらー
前半は一夏視点になります。
「では今から、ISによる単純飛行の訓練を行なってもらう。
織斑、オルコット、実践してみせろ」
「はい!」
「えぇっ!?」
まさか自分が名指しされるとは思わず驚いた一夏とは対称に、セシリアは落ち着いてISを起動させる。左耳のイヤリングとなって待機状態にあった“蒼雫”の名を呼ぶと、瞬く間のうちに彼女の体を装甲が包んだ。
それに倣い、一夏も右腕のガントレットとなって待機している“白式”を呼ぼうとするが………反応はない。
「あ、あれ?」
「早くしろ、熟練のIS操縦者は展開に一秒と掛からない」
「こうか………?来い、“白式”!」
より深く集中し、誰かに手を引っ張るイメージでISを起動させる。今度こそ白い光が体を包み、クラス代表決定戦で見せた純白の機体が身を纏った。
セシリアは既に上空へ飛び立っている。自分も追いつこうと背部スラスターを噴かせるが、思わぬ空気の抵抗に遭い倒れそうになる。
(難しい!こんなことを無意識のうちにやらないといけないのか………!)
昨日の戦いで、自分が追い詰めていたとは思えないほどの実力差が存在する。それは後塵を拝する形となるセシリアのことばかりではない。
友人───少なくとも自分はそう思っている、武藤隼丞の存在もそうだった。
『イメージは掴めまして?もっとも、想像は所詮想像に過ぎませんが』
「そもそも空を飛ぶイメージってのがあやふやなんだよな………」
『自分の最もやり易い方法を模索するのが最良ですわ。も、もし一夏さんさえ良ければ………ほ、放課後にでもレッスンを………もちろんその時は二人きりで………』
「なあセシリア」
『っは、はい!なんなりと一夏さん!』
先日のことを思い起こす。
一夏の中で、自分を隠れ蓑にセシリアへ奇襲したのは卑怯そのものの行いだった。けれどあれは戦いで、勝負で、誰に責めることができるのだろう。それができるとしたら恐らくたった一人………。
「武藤のこと………やっぱり怒ってるか?」
『………………いえ、怒ってはいません。
だって分かりますもの』
「分かる?」
立場に溺れること。
力に流されること。
あと一歩踏み出せば取り返しがつかない、その一線を誰かが教えてくれた。セシリア=オルコットにとってそれは織斑一夏だったが、彼にとっての誰かとは、果たして存在したのだろうか。
………でもきっとそれは、当人の立場からしか分かり得ないこと。
『
一夏の返答を振り切るように、蒼い機影が大地目がけて急降下する。そして寸前で逆噴射制動───降下角度、降下速度、減速開始距離、逆噴射推力、主にこれら五つを並列に思考し実行する、高い技量が求められる高等技術だ。セシリアはこれを難なくやってのけ、軽やかなステップのような静けさで着地した。
よし、と内心で一夏は意気込み、地面へと向けて機体を動かして………、
「あれ?」
『一夏さん!?』
敢えなく、地面にクレーターを作る始末となった。
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始業前の教室は騒がしく、一つの話題で持ちきりだった。隣室の2組に入ってきた転校性が、なんとクラス代表の座を奪ったというのだ。この時期の転入、というのも珍しいが、実力でクラス代表となったのならば相当な実力者だろう。
1組と4組以外に専用機持ちの代表は居ない───そんな話をしていた、まさにそのとき。
「その情報古いよ!2組も専用機持ちがクラス代表になったんだから、そう簡単に優勝は譲らないわ!」
思い掛けない再会に、織斑一夏は出逢うこととなる。
「お前………
「そうよ!私が中国の代表候補生、
それは昔日の記憶にまだ残る、
「どうしたんだよそんなにカッコつけて、全然似合ってないぜ!」
「な、なんてこと言うのよあんたは───」
そんな彼女の背後に、忍び寄る影を一夏は見た。
「………………悪い、入れて貰えるか」
「え?あっ、ごごめんなさい」
幽鬼のような相貌の男だった。自分の知る武藤隼丞とは似ても似つかぬほど
箒が云うには、遅刻ギリギリまで修練場に居るようだが………その理由は、一々推して量るまでもない。
「………………」
クラス代表決定戦の一件以来、彼への風当たりは決して良いものではない。女尊男卑の土壌と、正道より外れた彼の戦いは、周囲の視線を鋭く尖らせた。
織斑一夏も、篠ノ之箒も、セシリア=オルコットも、彼の名誉を保護する気持ちがあった。だが、そういった状況を彼自身が受け入れてしまっている。
(隼………………)
歯痒い。
友達だと、そう思っている───けれど、アイツの背負っているものを、俺は肩代わりしてやることができない。
(お前、本当にそれでいいのか………?)
授業の始まりを告げるチャイムの音が、深奥に秘めた心の声を掻き消した。
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始まりがなんだったのか、俺は覚えていない。物心つく頃より剣を習い、覚え、培い、積み重ねることで日々を費やしてきた。
「………………」
きっと将来が剣士になるのだと、俺は信じて疑わなかった。子供の頃の遠い夢。現実はそう都合良くできておらず、剣など無用に長物に他ならないと絶望したのは、いつのことだったろう。
………それでも、俺は剣を命と見立てて生きてきた。生まれた時代が違ったなら、きっと俺は幸せだっただろう。
「………………」
その剣を───捨てねばならなくなったとき。あの中学一年の暗い夜の日に、きっと俺は死んだのだ。肉体の動く、生ける屍。潮風に刀を晒しておけば次第に錆びていくように、ゆっくりと朽ちていくような人生。
けれど俺は望んでしまった。
生きることを。自分の生を自分で掴む、人として正しい在り方を。罪人の分際でありながら。
「………で、今俺は生きてるのか?」
窓の外が暗んだ修練場に一人、無為に時間だけを食い潰すだけの、逃避するような鍛錬。身が入るわけもない。これで自分は生きているなどと口が裂けても言えない。
明日はクラス代表戦、謂わば一夏の晴舞台。
見届けなければ───どんな顔をして?
謝らなければ───今更どんな言葉で?
「………こんな中途半端な男だったのか、俺は」
どれだけ思い悩もうと、全ての人間へ平等に時間が流れることを知っている。だが、嫌なことを待つ人間は往々にして、時の経過が短く感じるものだ。
明日が今日になる───そんな時の移り変わりから逃げるように、剣を握る掌がより強く力を込めた。
「消灯時間ですよ………?」
「あっ、すいません」
第六話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
戦闘シーンより日常シーンの方が書くの難しい。