インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神──   作:すぷりんくらー

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第七話〝騒乱を裂いて〟

 

 歓声に包まれるアリーナの片隅で、青年は道脇に咲く彼岸花の風情を以てポツンと立っていた。彼を知らない他クラスの人間が見たならば、その姿にえもいわれぬ哀愁の一つの感じただろうが、単純にクラスの輪へ馴染めないが故のことである。

 

 それはさておき、クラス対抗戦の火蓋は既に切って落とされている。視線の先にて散る火花が、戦いの熾烈さを知らしめていた。

 

 

 

『この程度なの一夏!まだまだ行くわよ!』

 

 

 中国の代表候補生、(ファン)鈴音(リンイン)の駆る第3世代IS“甲龍(シェンロン)”───現在確認できる得物は二振りの青龍刀、その刀法は斬ではなく断。舞踊にも似た華麗さと所々の力強さは、大陸特有の拳法に近しい動きを感じる。

 

 円と思えば線。線と思えば点。深く沈んだ体勢と長柄の得物が動きに重さを乗せ、そして断つ。

 

 

 

『更にッッ!』

 

 

 鳳鈴音は“双天牙月”と銘打たれた二つの大剣を連結させると、さながら台風じみた回転で“白式”のシールドを削る。一年で専用機を得たその実力もさることながら、必死に食らいついてなんとか直撃を凌いでいる彼もまた凄まじい。

 

 しかし乗り手の腕を差し引いても、“甲龍”と比して“白式”では明確に背負っている不利がある。

 

 ───それは燃費だ。

 

 

 

『く…………っ!』

 

 

 “甲龍”の設計思想は実用性の一言に尽きる。近接戦闘に重きを置く仕様はインタフェースの簡略化に繋がり、設計に単純化は整備のし易さと外付け装備(パッケージ)による多様化に繋がる。

 

 一方、実験機の域を出ない“白式”は未完成・不明瞭な機能が多く、更に唯一の兵装である“雪片弐型”は起動するだけでシールドエネルギーを消耗する諸刃の剣。勝負が長引けば長引くほど不利であることは、無論一夏も承知の上だろう。

 

 

 

(一度距離を取って………!)

 

 

『甘い!』

 

 

 鳳は予想通りに事を進めていた。“白式”の頼みの綱である白兵戦、此れを凌げば相手は必ず一度距離を取る。態勢を立て直し、攻め手に工夫を入れるため。そこが狙い目───!

 

 装甲が展開し、照準を飛び去る一夏へと抜け、引鉄(トリガー)を引き絞る。

 

 

 

『うわああッッ!』

 

 

 すると、一夏の身体を見えざる衝撃が打ち据えた。

 

 

 各国がIS技術の発達に力を注いでいるのは、世代の進化が即ち技術の革新であるからだ。

 

 現在ISの殆どを占めている第2世代型ISは後付武装(イコライザ)によって兵器を拡張搭載可能であるものを指すが、第3世代型ISに搭載されている兵装は現代兵器から更に躍進した技術が取り入れられている。

 

 例えば、脳波による操作を可能とした“ブルー・ティアーズ”のBT兵器。

 

 そして、空間そのものを圧縮することで砲身を生み出し、解放した衝撃波を対象へとぶつける“龍炮”がそれにあたる。

 

 

 

『今のはジャブだからね~』

 

 

 この日観客席には生徒だけでなく、恐らくはIS開発の企業やスポンサーなどだろう来賓客までもが姿を見せていたが、彼らも響めく声を禁じ得ない様子だった。

 

 IS史上初の男性操縦者と、中国代表候補生の戦い。それは搭乗者としても機体としても注目度の高い一戦であることは間違いないのだ。

 

 

 

(不可視の砲身、不可視の砲弾、オマケに射角は無制限………………無敵か?)

 

 

 衝撃波とは言うなれば物凄く強い波だ。大気中で爆発が起これば、そのエネルギーによって局所的な空気の膨張が発生する。この空気を伝播する膨張の波が衝撃波であり、この速度は音の速ささえ凌駕する。

 

 仮に、この兵器が大気中・水中・地中さえ問わないのであれば、この世で最もクリーンな指向性兵器となるだろう。

 

 

 

(運動エネルギーの一部は熱エネルギーに変換される。

 温度感知(サーモグラフ)なら或いは不可視の砲撃を看破し得るのだろうか)

 

 

 ISのハイパーセンサなら劔冑と違い明確に温度分布を映すだろうが、夜間の隠密作戦ならいざ知らず、空中での高速戦闘に適した機能とは言えない。

 

 己ならばどうするか───そんな思案を脳裡に巡らせながら眺める戦いに変化が訪れた。

 

 

 

(よく躱す)

 

 

 ジグザグの騎航で衝撃砲を躱し、なんとか致命的な一撃を受けないよう気をつけている。ただ時間を稼いでいるのではない。何か、まるでタイミングを待っているような。

 

 

 

「!」

 

 

『うおおおおォ───ッッ!』

 

 

 複雑な回避運動から即座に反転し、追い抜かせることで鳳の背後を取る。機を見出した一夏は裂帛の気合いと共に駆け抜け、鳳目掛けて剣を振り下ろす。

 

 

 見知らぬ技法に胸を躍らせ、一秒先の決着を垣間見た、まさにその刹那──────紫のエネルギー束が、アリーナの天井を突き破った。

 

 

 

「なんだ──────?」

 

 

 ビームの奔流はアリーナの地を焼き尽くし、貫通した天井───正確には電磁防壁による空間遮断システム───は木の(うろ)のような大孔を開けていた。

 

 そして、立ち込めた土煙の奥で揺らめく影を見て、直感的な危険信号が脳髄を走り抜けた。肩に掛けていた刀袋を緩め、日本刀の形状に待機してある“武州五輪”の存在を確かめた。

 

 

 

「なに?なんなの?」

 

 

「流れ弾とか………?」

 

 

 突如としてライトが非常灯の赤へ切り替わったかと思うと、アリーナからの退避を勧告する山田先生のアナウンスが響き渡った。状況を把握している暇もなく、次々と非常口へ急ぐ人混みを一瞥したのち、もう一度アリーナの方を見遣る。

 

 

 

「──────」

 

 

 正体不明の闖入者は、此方の方向を向いていた。ぞくりと悪寒が背筋をなぞり、反射的に刀袋から“武州五輪”を取り出す。その腕には、恐らく先ほど遮断シールドを破損させたビーム砲が収束しており、その砲口はは間違いなく此方へ向けられていた。

 

 

 

「窓から離れろォォォ──────ッッ!」

 

 

 叫ぶ。

 

 眩いばかりの光の奔流が視界を染め上げ、そして───アリーナの観客席を、巨大なビーム砲が直撃した。

 




第七話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字の報告も感謝です、そんな機能あったんだ………。
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