インフィニット・ストラトス──装甲ノ魔神──   作:すぷりんくらー

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第八話〝BLADE ARTS〟

 

 叫びを聞いた。

 

 多くのクラスメイトたちがロックされた非常口に殺到する中、逆方向へ向かう一人の後ろ姿を見る。人間など軽く焼き尽くすであろう光の束を前にして、彼は逃げるのではなく立ち向かうことを選択した。

 

 

 悲鳴を聞いた。

 

 彼女たちにとってISとは競技用の道具に他ならず、それが牙を剥くなどとは予想だにしなかったのだ。展開防御、絶対防御、彼女たちは守られている───だが、劔冑は兇器だった。

 

 

 

「──────む、武藤く」

 

 

 痛み。

 

 生物の持つごく原始的な危険信号。クラスメイト達に被害が及ばないよう直撃した左腕───その全神経が悲鳴を上げている。まるで、一本一本を迸る導火線に置き換えられたような。

 

 怪我も酷い。五指はほぼ炭化、前腕部の装甲が融解し筋肉と一体化しつつある。通りで何も感じない筈だ。

 

 

 

『左腕部に致命的な損傷、治癒を開始』

 

 

(これは、契約の際に聞こえた劔冑の声か?

 少しずつ、(おれ)は劔冑の力を引き出している───その度に心が鈍麻し、いつか躊躇いなく人を切るようになるのだろう)

 

 

 ───させぬ。

 

 (おれ)(おれ)の意志で戦う。唯殺めるのみの羅刹とは違う。それに俺はまだ………武とは何たるかの、答えを見出していない。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

『クラスの皆が………!』

 

 

『落ち着きなさい一夏!まだ何もかも決まった訳じゃないでしょ!』

 

 

 黒煙の立ち込めるアリーナの上空で、二人は惑乱の最中に居た。敵ISの火力はセシリアのBT兵器以上の出力を有し、迂闊に近づけば此方が被害を負う。かと言って、観客席にはこれ以上の被害を出してはならない。

 

 悪意───鉄の巨人は、その造詣に唯ならぬ黒々とした感情を纏わせていた。

 

 

 

『!』

 

 

 今すぐにでも状況を確認したい観客席から、白亜の機影が飛び抜けた。“武州五輪”───武藤隼丞の駆る機体が、アメフト選手よろしく強烈な体当たりを侵入者へと敢行したのだ。

 

 

 

『武藤!』

 

 

 その動きにクラス代表決定戦のようなキレのある技巧はない。ただ力づくで観客席から押し出すように、最大出力で合当理を噴かせて地を奔っている。

 

 鉄の巨人は彼を引き剥がそうと零距離でビーム砲を放つ。拡散したピンクの光に装甲の一部を融かされながらも、肉体そのものにダメージを負うような直撃を避けて空中へと躍り出る。

 

 

 

『無事か?』

 

 

「クラスの皆は───無事だ、怪我人は一人もいない」

 

 

『それもだけど、お前左手が………!』

 

 

「動かせるぐらいには治癒した、戦える」

 

 

(パイロットの再生機能があるIS………?

 1組の代表決定戦は見たけど、何者なの?この男)

 

 

 それぞれ抱く思いは違えど、取り敢えずは目の前の状況を打開する必要があった。

 

 先程から外部との連絡が取れない。学園自体のセキュリティがハックされている可能性がある。三年生や教員を中心としたチームが派遣されるにも、もう少し時間を要することだろう。

 

 

 ───観客席の避難が完了しきっていない以上、また矛先が向かぬとも限らない。であれば、被害が拡大する前に此方で対処する必要がある。

 

 

 

「気づいたことがある」

 

 

『あのISのことか?』

 

 

「………結論から言うが、あれは無人機じゃないのか?」

 

 

『無人機………そんなの有り得ないわ!だってISは人が搭乗して初めて動くものだもの』

 

 

 それは設定次第による───要はコアの問題だ。そもそもISのコアは解明されておらず、元からして不可解なシステム群であることに違いはない。女性しか扱えない(はず)のISを一夏が動かせているあたり、何事にも例外はあって然るべきだ。

 

 

 

「根拠ならある。

 あのとき、観客へ放った砲撃───初めは男性操縦者である俺を狙ったものかと思ったが、照準は明らかに観客席そのものを狙っていた」

 

 

『それが、どういう………?』

 

 

「その瞬間、お前たち二人は上空高くを飛んでいたんだ。

 二人の距離と観客の距離では、観客の方が明らかに近かった」

 

 

『射程距離内の動く物体を近い順に攻撃する………ってことか?』

 

 

『………確かに、こうやって話している間に攻撃してこないのも、人間的じゃない何かを感じる………。

 でも、やっぱり有り得ないわ………第一、無人だったら倒せるっていうの?』

 

 

「ああ」

 

 

『おう』

 

 

 二人揃って首肯した後に顔を見合わせる。確かに、お互いISとしては反則級の技を持ち併せた者たちだった。

 

 

 

『俺の“零落白夜”なら、アイツのシールドごと一刀両断にできる』

 

 

「なら俺が奴を惹きつける。

 負傷しているしな───隙を見てお前が奴を切れ」

 

 

『分かった。

 ビーム兵器の威力はセシリア以上だ、注意しろよ武藤』

 

 

 眼下に佇む鉄の巨人を見据える。物言わぬ冷たい無機質さに作り手の悪意が垣間見えた。扱える得物は太刀一振り、狙うは上空からの加速をつけた正面激突(ツキウシ)

 

 高度を取るために合当理を噴かせようとした武藤は、その寸前、ふと一夏に語りかけた。

 

 

 

「ああ、それと一夏」

 

 

『どうした?』

 

 

「………………すまなかった───」

 

 

 深く、積年の後悔を吐き出すような言葉。ずっとこんな簡単な言葉を、胸の奥に沈んだまま拾い上げることができなかった。

 

 今度こそ去ろうとする武藤の肩を、今度は一夏が引き止めた。

 

 

 

『もし───俺が攻撃をしくじったら、そのときは………託すぜ、お前に』

 

 

「………ああ、任せろ」

 

 

『いやアタシも居るんだけど!』

 

 

 魔刄の劔冑が翔ぶ。物理運動に於いて最も単純な力を得るために。陽と月と夜を(あし)らった機体の仕手は、その脳裡にISによる単純飛行訓練を思い起こしていた。

 

 急降下から急制動。即ち、降下角度、降下速度、減速開始距離、逆噴射推力───だが逆噴射は必要ない。位置力量(たかさ)運動力量(つよさ)を合わせ、ただ己の一刀に込める。

 

 

 

「──────おおおおおおォォォッッッ!」

 

 

 不可視の砲弾が無人機周辺を(まばら)に砕き散らし、土埃の煙幕を生成する。ISのハイパーセンサがレーダーからサーモに切り替わる間隙を突いて、流星の突撃は巨人の片腕へ突き刺さった。

 

 

 ───だが、そこまでである。

 分厚い腕部装甲を切り裂くに至らず、食い込んだ刃ごと薙ぎ払われて地面を転がった。

 

 

 

『──────これで、終わりだッッ!』

 

 

 煙幕、囮役、二段構えの攻め手。“零落白夜”の出力を最大限に上げるため、“甲龍”の衝撃砲の最大充填(フルチャージ)を敢えて身に受けた一夏は、そのエネルギーすら吸収し金色の流星となって飛来した。

 

 闇の訪れない夜の()を冠した防禦殺しの一閃が、全てを護るという一夏の願いを乗せて

 

 

 全てを護る───そんな若い、けれど貴い願いを乗せて、白く耀く防禦殺しの一閃が漆黒の装甲を両断した。(まさ)しく、闇の訪れない夜の如き眩い一太刀である。

 

 

 

GYIIIOOOOOOOOOOON(ギィオォォォ───────ン)!!!!』

 

 

『!?』

 

 

 金属が軋むような不協和音の叫び。未だ機能の停止しない鉄の巨人は、自身の命なき無機のカタチに賭けて、片腕が捥がれた程度で止まることを許さなかった。

 

 純白の機体を殴り飛ばし、残る最後のビーム砲に光熱を収束させる。死という現象を形状として認識し、それでもなお一夏は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

『今度は───間違うなよ』

 

 

 その言葉は、誰に向けられたものであったか。

 

 一夏へと駆け寄ろうとする鳳鈴音へのものではなく、発射場(ピット)から羽撃こうとするセシリアへのものでなく、ただ見守ることしかできない織村教員や篠ノ之箒へのものでもない。

 

 

 言葉を向けられた男はただ、静かに───、

 

 

 

「ああ───ありがとう」

 

 

 最後の一太刀を放たんと、敵の背後にて止していた。

 

 

 

「二天一流合戦兵法“震電(シンデン)”が崩し───」

 

 

 その構えは、刃を鞘に納めることで一刀必殺を実現する居合い切り。抜きつけると同時に左下から右上へ袈裟懸けに切り上げる、二天一流抜刀術が一つ。

 

 此れの、崩し(アレンジ)───何を以て?脳裡に閃いたるは、あの日クラス代表決定戦と同じ魔技の術理であった。

 

 

 

()───」

 

 

 戸次(べっき)左衛門(さえもん)大夫(だゆう)鑑連(あきつら)、またの名を立花(たちばな)道雪(どうせつ)で知られる戦国時代の武将。彼の所持した劔冑の一つに“千鳥(ちどり)”と呼ばれる一領が存在した。

 

 元は弱い電磁的探査を陰義とするものであったが、騎航中の落雷を受け性質が変化。以降は“電流操作”を可能とする異能へ後天的に変質を遂げた劔冑だ。

 

 

 彼が電流を操作したことで作り上げたものは二つ。

 

 一つ目は、居合の際に鞘を挟む形となる左上腕部と左大腿部の装甲の磁化である。各部装甲へ電流が渦を描くように通電することで導源(コイル)を作り、電磁石を作り出したのだ。

 

 二つ目は鞘内に於ける強烈な電磁力の発生である。先の電磁石によって鞘を上から下に貫通する磁界が発生、そして鞘内で電流が左から右に向くよう導通することで、フレミング左手の法則により(こじり)(鞘の先端)から鯉口(鞘の出入口)に向けて力が発生する。

 

 

 

電磁抜刀(レールガン)──────」

 

 

 本来のそれとは原理を(こと)とする、故に()の技、()()()()()───我流再現(イミテーション)蒐窮一刀(ブレードアーツ)───この技法ならば、片手でも命を絶つに十分の威力を持つ。損傷した左腕は、ただ鞘を抑えるばかりで役目を終える。

 

 

 溢れ出た電流が青白い火花となって散り、土埃たちを灼き尽くしていく。無人の巨躯は、一夏へと向けていた砲門を背後の敵対者へと向ける。だが、もはや既に遅い───。

 

 

 

「─────────〝(マガツ)〟」

 

 

 天から降下(ふりくだ)る稲妻に似て、その真逆───大地から天上へと逆らい伸びる、禍々しく唸る雷樹の一閃。雷神の怒号にも思える轟音を響かせ、終焉(おわり)太刀(たち)は巨人の胴体を斜めに切断した。

 

 

 赤く爆ぜた炎の奥で、魔刄の───否、魔神の劔冑が佇んでいる。きっとアレは良くないもの。世に戦乱を齎すもの。しかし、力とは其処に在って、何処に向かうか分からぬものである。

 

 この力に意味を、理由を、そして方向を与えるのは俺の意思だ。

 

 今はまだ、それを見つけられてはいない。けれど、いつかは───きっと、いつかは。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「すまなかった」

 

 

「………え?」

 

 

 夕暮れの教室で、武藤隼丞は先の対戦者に向けて頭を下げていた。

 

 

 クラス代表決定戦………卑怯か否かの問題ではなく、斗いの場にて戦いを持ち出したこと。勝負の場にて、命のやり取りを行ったこと───此れは、力を御することなく、流されるままに剣を振るった者の悪である。

 

 許して貰えるとは思わない。だが、こうして、確と言葉にしなければ何も伝わらない。此れは卦辞(けじ)めでもあるのだ。

 

 

 

「………………いいえ、(わたくし)も悪かったですわ。

 立場に溺れ、他人を尊重することを忘れていた───貴方や一夏さんのお陰で、やっと自分の愚かしさに気付くことが出来ましたもの」

 

 

 実家を発展させるために尽力してきた母、婿養子の立場ゆえに頭を下げてばかりだった父。それでもセシリアは二人の愛情を感じながら育ち、しかしその両親を列車事故で亡くした。以来、彼女は幼いながらに遺産を守るために強く生きるしかなかったのだ。

 

 高圧的で高飛車な態度は、恐らく他者と関わるにあたっての自己防衛的な反応だったのだろう。

 

 

 

「ですから───これで、対等ですわね」

 

 

「──────ありがとう」

 

 

 セシリアは白い手を武藤へと差し出した。(かつ)て自分が、織斑一夏にそうして貰ったように。頭を上げた彼は、ゆっくりと彼女に手を握り返した。いつの間にかクラスの皆が集まっていたらしく、周囲からは囃すような拍手が上がる。

 

 

 俺たちはまだ若い。未熟故に間違え、道に迷い、ときに誰かを傷付ける。しかし、きっとこういった小さな歩み寄りで、人は変わっていけるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですわ!これからもう一度、今度は武藤さんも交えてパーティをしませんこと?」

 

 

「えっ」

 

 

「俺も良いと思うぜ、今日の戦いから生きて帰ったことも祝ってさ」

 

 

「いや、俺そういうのは………」

 

 

「いいねーパーティ!」

 

 

「やろうやろう!もともとクラス対抗戦の祝勝会or残念会するつもりだったし!」

 

 

「さんせ〜い」

 

 

 ………周囲の歓声が止まない。どうやら、逃げ場を完全に失ったようだった。

 

 

 

「で、でしたら一夏さん、今度こそ席は二人きりで………」

 

 

「一夏、特訓した恩を忘れたとは言わないだろうな!」

 

 

「ん?何が?あそうだ、(リン)もパーティに入れてもいいか?せっかく一緒に戦ったんだからさ」

 

 

「………………」

 

 

「………………」

 

 

「あ、あれ?なんかまずかったか………?」

 

 

「お前いつか刺されるぞ朴念仁………………」

 




第八話投稿です、お読みいただきありがとうございます。
一章は多分これで終わり、二章は………ヒロイン登場?
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