ソードアート・オンライン 儚き虚夢のラスベリー   作:神矢レイラ

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第6話『共闘=黒の剣士/22』―後編

「師匠ッ!!」

 

一歩も退かず、終始彼らの戦いを見守っていた弟子がとうとう堪えきれなくなり、倒れた刀匠の元へと駆け寄る。

 

いつの間にか刀匠の身体は、人間と同じものになっていた。

ボスとしての彼を撃破したことで、本来の姿を取り戻したとでも言うのだろうか。

 

「……ユウジよ、ワシはいつの間にか忘れていたのやもしれん。

誰かのために鉄を打ち、最高の武器を作る……そうやって多くの若者が力を得るのを見るのが、何より好きだった。

喜んでくれて、ありがとうと言ってもらえて……ワシは嬉しかった。

……そんなあいつらが亡くなって、槌を握るのも億劫になっていたがな」

 

「師匠は彼らの心の支えだった、それは唯一の弟子である私が保証します!

あなたがいなければ、彼らは戦士にさえなれなかったかもしれない……

あなたは死神どころか、みんなの希望でした!」

 

「あぁ、そうなのだろうな……

だが、支えることばかりだった。

戦士たちがワシを助けるのを、ワシ自身が拒んだのだ。

……あの者たちを見て判った。

彼らの姿こそ、支え合う者たち。

ワシは……‘剣士の本当の相棒’には、なれなかった」

 

「……いいえ、なっていたと思います」

 

師弟の会話に真っ先に入ってきたのは、リズベットだった。

 

彼の悲しみを戦いを通じて受け止め、自分なりに解釈し取り込んだ上で、元剣聖の刀鍛冶がどれだけ偉大な存在であったかを理解した彼女は、戦線に出ないからこそ背負う期待と絶望を、この一件を通じて知った。

 

だからこそ判る。

この老将は、多くの人々の相棒であったのだと。

 

「戦場を降りても戦う人たちを手伝おうって思ったのは、彼らが大事だったから。

たぶんそう決めた時から、あなたは相棒だったんだとあたしは思います」

 

「リズベット……」

 

「あたしには判ります!

だってあたしにも、胸を張ってそう言える人がいますから」

 

「……ふふ、フハハ。

そうか、だからなのだな。

……良かった」

 

次の瞬間、刀匠の身体から弱々しい光が粒子となって天へと昇り始めた。

少しずつ透明になるその身にはまだ実体はあるようだが、それもだんだん不確かになっていく。

 

消えていく師匠の姿に弟子のNPC――ユウジは涙を流し、ラスベリーはキリトとともにそれを静観。

そしてリズベットは、最後の瞬間までその魂の行く末を見届ける。

 

「おぬしなら、最高の鍛治師になれる。

ワシの魂を、どうかこれからに繋いでくれ」

 

「……はい、必ず」

 

その言葉を最後に、刀匠は静かに消滅する。

 

いつの間にか彼女の手の中にあった青い球体は、先に彼がまとっていた粒子をその内に秘めていた。

 

『刀匠の魂』。

このクエストが開始された時に指定された素材の、最後の一つ。

それはたった今、リズベットが手に入れたアイテムに他ならなかった。

 

「……クエストクリア、で良いんだよな」

 

「いや、どうやらまだみたいだな。

……恐らく彼、ユウジに何かあるんだろう」

 

素直に勝利を喜べない中でも、キリトは比較的冷静にユウジを見ていた。

 

未だ師匠を逝かせてしまった涙は拭いきれていないようだが、不思議とその表情に負の感情は無いように思える。

 

そんな彼は袖で目を擦ると、ゆっくりと立ち上がった。

 

「リズベットさん、でしたね。

お願いがあります。

集めた素材を使って、武具を作ってくださいませんか?

……師匠の代わりに」

 

「……もちろん。

あの人が望んだことでもあるでしょうし」

 

「……ありがとうございます」

 

「そうと決まれば、まずは場所を変えようぜ。

新人スミスの初仕事、ゆっくり見てぇからよ」

 

刀匠が散ったこの地でこそやるべきと言いたいところだが、あいにくこのゲームには安全圏外という仕様があるため、武器生成や強化のためには一度圏内に戻る必要がある。

 

思わぬ激闘で全員疲労しているのもあり、然るべき休息を取る意味でも移動するのが最善ということであり、これにはユウジもアッサリ了承してくれた。

 

 

 

――それから少し後。

ラスベリーたちは今朝も立ち寄ったコラルの村へと足を運んでいた。

 

時刻はすでに夕暮れ、今彼らがいるのは村の片隅にある小さな宿泊施設。

そのうちの一室ではすでに、リズベットが初の鍛冶業務に励んでいた。

 

現実で語られるそれとは違いシステムによるサポートなどはあるが、やはり一回目ということもあり何度も躓く。

 

でも刀匠の弟子であるユウジが、このクエストの存在を教えクリアを手伝ってくれたキリトが、そして何より大事な存在であるラスベリーが見守ってくれている。

少しずつ、鉄を叩く音が強くなっていく。

 

やがて形を成したそれはすでに完成した状態だったが、たった1つだけ残った素材がある。

 

「……刀匠さん。

あなたの魂、込めさせてもらいます」

 

そう、『刀匠の魂』は生成用ではなく強化用の素材。

任意の武具をこれを用いて鍛えることで、それはさらなる力を得る。

 

同時にこれを使用した鍛治師本人――つまりリズベットに、絶大な恩恵を与えた。

 

彼女の腕が直前までとは別人かのように軽くなり、驚くほど順調に作業が進んでいく。

 

――遂に出来上がったそれは、キレイな青い縁が印象的な銀色の丸い盾《ソウルガーディアン》だった。

 

「おぉ……!」

 

「……そっか、これだったんだ。

刀匠の魂を使って武具を強化すると、あたし自身の鍛冶スキルが爆発的に上がる。

これが、噂の真相」

 

「刀匠の魂を、文字通り継いだってことだな」

 

本気でぶつかり合い、そして受け止めた刀匠の想いが今、リズベットの中に生きている。

鍛冶スキルの上昇は、システムがそれを表現しているということなのだろう。

わざわざ言うだけ野暮ではあるが。

 

リズベットは出来上がった盾を持ち上げ、迷いなくラスベリーの前に立つとそれを差し出した。

 

「はい、どうぞ!」

 

「えっ……まさか、俺に?」

 

「初めて作ったものは、ラスベリーにあげるって決めてたから。

それにアンタ、せっかく片手空いてるのに盾使ってなかったし」

 

「……ヘヘッ。

あんがとよ、リズベット」

 

細剣を使っていた頃ならスピードが落ちるという理由があったが、半分片手剣使いでもあるような状態の今、このような形で盾が入手出来たのは正直僥倖と言うものだろう。

 

いつになってもプレゼントは嬉しいものだと心の内で呟きつつ、もらったばかりのそれをしっかりと装備状態にする。

二人が顔を合わせて笑い合っていると、それまで静かだったユウジがようやく口を開いた。

 

「誰かのために必死になれるって、素晴らしいですね。

師匠があなたを認めた理由、判る気がします」

 

「だろ?俺の相棒は凄ぇんだぜ。

コイツは絶対デカくなる……

今日はその一歩を踏み出せた、そう言う記念日だ」

 

「そうだな。

あのクエストは今まで、誰もクリアすることは出来なかった。

そういう意味でも誇っていいと思うよ」

 

「……うんっ!」

 

ようやく見つけたこの世界で出来る自分の役割、そのスタートラインに今日やっと立てた。

それをラスベリーとキリトの言葉で改めて実感し、少女は何よりも純粋に眩しい笑顔を浮かべる。

 

こんな表情が見られただけでもこの層に連れてきた甲斐があったというものだが、正直キリトがいなかったらこの結果には至れていないことを考えると、自分自身の力不足を感じてしまう。

 

やはりキリトは凄い、そう再認識するラスベリーだった。

 

「この度は、私のお願いを聞いてくださりありがとうございました!

あなた方の絆が、どうか未来を照らす光とならんことを」

 

「おう、アンタも達者でな」

 

クエストクリアの演出がファンファーレとともに表示され、ユウジはそれと同時に一礼をしてから宿を後にした。

 

それからはお互い他愛ない会話をして時間を潰していき、あっという間に夕食時となる。

しかしそこに至るまで妙に口数の少ないキリトのことを、リズベットは気にかけていた。

 

 

 

――その日の夜。

 

キリトはただ一人、彼らと初めて出会ったあの湖の前に佇んでいた。

 

空に浮かぶ月が照らす水はどこか幻想的で、そこに映る自分の表情が上手く隠されていて。

 

代わりに浮かび上がってくるのは最前線にいた時の記憶。

自身とコンビを組んでいたあの少女は、今も攻略を進めているのだろうか。

彼女が今も探しているであろう、今日ともにクエストに挑んだ彼のことを想って。

 

あの男は、本当にアスナを突き放すような人物なのか。

その結論が出そうな時、昼間とは逆のシチュエーションが起こる。

 

「こんなところにいたんだ、キリト」

 

「リズベット、どうしてここが。

ラスベリーは?」

 

「なんとなくよ、クエスト終わってから変だなぁと思ってさ。

ちなみにアイツは爆睡中」

 

「はは、そうか」

 

今日は1日オフのつもりで22層に来たと言うのに、思い返せば素材収集に奔走したり過去最高クラスの強敵と戦ったり、ろくに休めなかった。

 

その上アスナとは深い関係のある人物であるキリトが突如現れ、自分で提案したとはいえともに行動することになった。

恐らくずっと気を張っていたのだろう。

しかもそれを悟らせることなくリズベットのために協力体制を敷き、キリトに対しても可能な限り真摯な対応をしていた。

 

今だけはゆっくり休ませてあげよう。

二人同時にそう思った時、リズベットがキリトの隣に腰掛ける。

 

少しの間湖を眺めた後、彼女は隣の彼に振り向かないまま口を開いた。

 

「あのさ、キリト。

……ラスベリーは、良い人だよ。

モンスターに襲われて死ぬかもしれない時、アイツに助けてもらったの。

あたしにとって、アイツはヒーローなの」

 

「そうか、だから彼のことを」

 

「それから友だちになって、一緒に冒険して、色んな困難乗り越えて。

……どんどん恩を返せなくなっていく。

それぐらいあたしにとって、アイツは大きな存在なの。

もう、友だちじゃ足りないぐらい。

だからラスベリーは、絶対悪い人なんかじゃない」

 

「……あぁ、判ってるよ。

今日一日行動をともにして、色々と理解出来た。

不器用でお調子者っぽくて、けどその実真面目でちゃんとまわりを見てる。

自己犠牲的なところはあるけど、そこも含めて彼の魅力なんだろう。

……もしかしたら、アスナを見捨ててしまったのは」

 

何か他人に言えないような複雑な理由があるのではないか、そこまで頭に浮かんでそっと喉の奥にそれをしまった。

 

ラスベリーはその理由について話したがらなかったし、リズベットにその答えを求めるのも違う。

長い付き合いなのである程度のところまでは知っているかもしれないが、今自分はそこまで踏み込める立場にない。

 

この先は恐らく、ラスベリー本人と話した時だろう。

 

「そろそろ戻ろう。

早く寝ないと、身体が休まらないからな」

 

「そうね。

キリトは、明日からどうするの?

やっぱり最前線に戻るとか?」

 

「いや、もう少し下層に下ってみようと思う。

集めたい素材があるしな。

けどそう遠くないうちに、戻ろうとは思う。

その時にはきっと、また会えるかもしれないな」

 

「じゃあその時までに、あたしはもっと腕を磨いておかないとね。

アンタが振っても簡単に折れちゃわないような、最強の剣を作ったりとか。

……あたしも、そう遠くないうちに会えそうな気がするしね」

 

月夜が見守る地で密かな約束を交わし、二人は村の宿へと戻るのだった。

 

 

 

――翌日の早朝。

ラスベリーとリズベットはもうこの層を発つというキリトを見送るため、湖の近くにある転移門の前まで足を運んでいた。

 

「ありがとうな、わざわざ来てくれて」

 

「気にすんな、これも礼儀ってやつだろ」

 

「アンタには世話になったしね。

このぐらいさせなさいよ」

 

「はは、それはこっちのセリフでもあるけどな。

……なぁラスベリー、昨日森で言っていたことだけど――」

 

「――あれ、キリト君?」

 

3人にとって聞き覚えのある少年の声が、キリトのセリフを遮る。

 

ラスベリーが振り向くとそこには、赤みの強い茶髪の王子様系ことパルディアの姿があった。

転移門の向かい側から歩いて来た辺り、少なくともついさっき来たというわけではないのだろう。

 

「パルディア、来てたのか」

 

「うん、ちょっと気分転換にね。

ラスベリーたちは久しぶり、その後元気だったかな」

 

「おぅ、それなりにな。

そっちこそ大活躍みてぇじゃあねぇか。

攻略組・トッププレイヤーの一人、灰の騎士パルディア様よぉ」

 

「なんだ知り合いだったのか?

少し意外というか……一体どういう――」

 

――瞬間、微かに聞こえてきた残酷な破裂音が平穏な空気を切り裂いた。

 

この第22層にはクエストによるものを除き、モンスターは一切ポップしない。

そのクエストも現状確認できるものでは昨日挑戦した刀匠のものくらいで、発生させられる場所はここからではあまりに遠い。

 

何かアイテムが耐久値の限界を迎えて消滅したとも考えられるが、音の聞こえ方や距離からしてそれはない。

つまりこれは、プレイヤーが消える時のものだ。

 

「今のは!?」

 

「チッ、なんつータイミングだよ。

キリト、悪ぃがもうちょい力貸してくれるか?」

 

「あぁ、もちろんだ。

パルディアは念のため、村の様子を見に行ってほしい」

 

「判った、村のことは任せてもらうよ」

 

今アインクラッド内でプレイヤーを襲う主な勢力は2つある。

 

1つはデスゲーム開始直後からプレイヤー同士を執拗に煽り、時にはPKすら煽動した者たち。

 

そしてもう1つの勢力は、村から出てすぐに遭遇することになった。

第2層でも相対した、アインクラッド攻略の妨害を主に行う謎の組織――九の懐だ。

 

以前とは服装が異なる彼らは今、二人のプレイヤーを取り囲んでいる。

 

「あいつら、九の懐よね?

似たようなマークつけてるし」

 

「服装がけっこう違ぇがな。

とりあえず、早く助けてやろうぜ」

 

迷うことなくそれぞれ得物を抜き、プレイヤーたちに向かって振り下ろされた刃を受け止める形でラスベリーたちはその場に割り込む。

 

即座にキリトが彼らに逃げるように促し、この場にはもう彼らのみ。

数は二人の差で向こうのほうが多いが、この程度のハンデならば問題ないだろう。

 

「お前ら、まさかロケット隊をやったっていうやつらか?

それにそっちは黒の剣士……まさかこの層に来ているとはな」

 

「ロケット隊?

てめぇら、九の懐じゃあねぇのか?」

 

「質問に質問で返すな!

俺たち九の懐には、いくつかのグループがある。

カトー様に仕えているのがロケット隊、んで俺たちがマグマ隊だ!!

言っとくが、あいつらとは違ぇぞ?」

 

「マグマ隊……」

 

確かに言われてみれば、彼らは燃えるような赤い服装を身にまとっている。

前回遭遇したカトー直属のロケット隊は黒基調だったので、それぞれの派閥によって何かしらテーマがあるのだろう。

 

そして彼らはわざわざ『カトーの直属部隊がロケット隊』と断言した。

これを素直に受け取るなら、九の懐の幹部はまだまだたくさんいるということでもある。

 

「いったいどう違うって?

やってることは結局プレイヤーへの攻撃じゃねぇか」

 

「我々は彼らより効率派でしてね。

大人しく従ってくれない者は、排除するようにしているのです」

 

「……話にならないな。

二人とも、やるぞ」

 

「えぇ、っていうかもうやるしかないでしょ!」

 

先のプレイヤーキルによって、彼らのカーソルはすでに全員オレンジとなっている。

前回同様躊躇うことなく攻撃出来るわけだが、効率派を豪語するほどなので、ロケット隊のように簡単には行かないだろう。

 

見れば鎌使いに刀使いと、あまり見ない種類の得物を持った者がかなり多い。

特に前者に関してはすでにラスベリーに目をつけられており、キリトの方は二人いる刀使いを警戒している。

そしてリズベットは新たに手にしたメイス、『黒闘のアニールハンマー』を構えた。

 

「リズベット、それって」

 

「えぇ、刀匠さんが使っていたアニールハンマー。

どうやらクエストをクリアした時、一緒に手に入れてたみたい」

 

「なるほどねぇ。

だったら存分に使ってやれ、あの爺さんはお前の中で生きてんだからよ!」

 

「もちろん!

さぁ、行くわよ二人とも!!」

 

リズベットが声をあげると同時に、三人はそれぞれが標的に定めた戦闘員の元へと駆け出した。

 

まずラスベリーが怒りの感情を隠そうともせず、鎌使いの男性に容赦なく斬り掛かる。

それに対抗した敵が大鎌ソードスキル《ヴィラージュ》で対抗するも、ミトが使っていたそれよりも遥かに劣っていたこともありあっさり回避。

そのまま片手剣ソードスキル《バーチカル》を以て、HPを瀕死寸前にまで落とした。

 

刀使い二人とメイス使いが三人がかりでキリトに襲いかかる。

最前線でずっと活躍していた黒の剣士だからこそ、彼らの警戒も特に強いのだろう。

しかし今の彼はその時と少し異なり、アウリオンという前代未聞の得物を装備しているのもあり、軽くマグマ隊の面々を蹴散らして見せる。

 

そしてリズベットは新たに入手したメイスのパワーを存分に生かし、相手の曲刀使いを圧倒していた。

刀匠から受け継いだものをすでにものに出来ているのは、彼女がこれまでに得てきた経験あってこそだろうか。

このまま順調に押して行ける――そう思われた時、正面にいる戦闘員がニヤリと笑った。

 

次の瞬間、いつの間にかリズベットの背後にいたもう一人が彼女を引っ捕らえてしまったのだ。

 

そう、彼らは一人仲間を隠していたのだ。

 

「リズベット!?」

 

「ぐっ、ラスベリー……!」

 

「言ったでしょう、我々は効率派だと!

この女の命が惜しければ、大人しく我々に従うことですね」

 

「チッ……」

 

 

 

「――止めんかバカタレ!」

 

マグマ隊の卑劣な策を糾弾したその声の主は、気がつけばリズベットを捕らえていた戦闘員を張り倒していた。

 

腰まではあろうかという長い白髪を後ろで一まとめにして結び、前髪を七三分けにした金眼の美人といった印象で、一見女性に見えなくもないがその体格からどうやら男らしい。

声の方はけっこう中性的だが。

 

「じ、ジット様!?」

 

「オマンら、またこないなふざけたことやっとったんか。

ワイらみんなジブンの意志で組織入ったやろ、なのに他人には強要するんか?おぉ?」

 

「で……ですがジット様!

我々はここのところ大した成果を出せていません!

一向に同志が増えず、断った者たちも攻略に励んで……

これでは組織にとって不都合なんですよ!?」

 

「んなモン判っとるわ、なんべんも同じこと言わんでえぇ!

……ワイはワイのやり方で仲間を集める。

オマンらは余計なことせんと、ちゃんと勧誘続けりゃええんや。

努力は結果に繋がる、やで」

 

彼らの反応からして、このジットという男がマグマ隊が仕える幹部なのだろう。

だが以前出会ったカトーとは真逆に真っ当な物言いが目立ち、何より強制的に何かをさせることに関してはかなり怒りを露わにしていた。

 

初めて遭遇した時の印象から九の懐は自分たちの目的を果たすためなら手段を選ばないとばかり思っていたが、どうもこのジットは彼らとは異なるスタンスの持ち主らしい。

 

事実たった今彼は、リズベットの前で深々と頭を下げてみせた。

 

「すまんなぁ、怖い思いさせたやろ?

オマンらもワイの仲間が迷惑かけたな。

こいつら成績のためやゆうて焦って、よく行き過ぎた行動してまうねん。

……許せとは言わんけど、この通りや!」

 

「な、なんか……調子狂うわね」

 

「……アンタ、何をしにここへ来た?

九の懐の幹部が、ただ部下の不始末を止めに来ただけとは思えない」

 

「ほぅ……?」

 

やはりというべきか、キリトは彼の存在理由に関して真っ先に指摘した。

 

いくら他の面々と比べて人が良さそうとはいえ、彼は紛れもなく迷惑プレイヤーたちを取りまとめる者たちの一人。

なんの目的もなく、こんな平和な層に現れるはずはない。

 

「まぁ本来の目的はプレイヤーたちをワイらの仲間に引き込むってとこやな。

と言ってもこいつらがまたカッとなってやらかしたみたいやから、失敗に終わったが。

……けど今、別の目的が出来た。

そこの兄さん、さっきラスベリーって呼ばれてたな?」

 

「ッ……!」

 

「カトーのヤツから話は聞いとる。

アイツは昔馴染みでな、よくやり取りしとるんや。

どうやらオマン、ごっつ凄い武器持ってアイツ倒したらしいやん」

 

攻略組の一人であるキリトのことはすでにある程度調査済みなのか、今は彼の手にあるアウリオンを指してジットはそう言った。

 

『それのことやろ』と言わんばかりの視線からして、かなりの興味を示しているのだろう。

実際にどの程度カトーから聞いたのかは判らないが、こちらのことを見透かされているような気がしてどうにも気味が悪い。

 

「……それがなんだってんだ?」

 

「ニブいなぁ、その力確かめてみたいっちゅーことや!

もちろんただと言わんで?

せやな……ワイとデュエルしてくれたら、この層に組織の連中は今後一切近寄らせんわ」

 

「ちょっ、ジット様!?」

 

「本当、だな」

 

完全な好奇心による独断のようだが、ラスベリーたちにとっては都合がいい。

正直ジットがこういう性格で助かったとさえ思う。

 

心配そうに見つめてくるリズベットの頭を優しく撫でて、ラスベリーは鋭い視線を彼から外さず前に出る。

挑発に乗るわけではないが、相手は九の懐の幹部。

それも二人目であり、ここで倒せるものならそれに越したことはないのだ。

 

「良いぜ、やってやるよ。

俺が勝ったら、ついでにてめぇらの目的なんかも吐いてもらおうか?」

 

「かまへんで?

つってもワイが話せることにも限界はあるけどな。

んじゃ、やるとしましょか」

 

「待った。

ラスベリー、これを」

 

間に割って入ってきたキリトが、それまで使っていたアウリオンをラスベリーに手渡した。

 

本来ならこの層を去る前に返そうとしていたのだが、九の懐マグマ隊の出現によりそのタイミングを失い、今の今までそのままだったのだ。

 

「忘れ物だぜ」

 

「……ヘヘッ、サンキューな」

 

「やっぱり、アンタが持ったほうがしっくり来るわね」

 

「ふぅん、思ったより様になっとるやん?

ようやく完全体になったみたいやし、改めて始めんで!」

 

即座にデュエル申請を飛ばしてきたジットに対し、ラスベリーもまた速攻で承諾ボタンを押す。

 

ルールは前回のカトー戦同様に初撃決着。

先に相手のHPを半分以下にした側の勝利となる。

 

今回は通常通り一対一の対戦ではあるが、相手は一方的にこちらのことを知っている上、ジットに関して何も情報がないこともあってかなり不利だ。

 

「ワイはあんまジッとしてられん性分でな、このカウントダウンがもどかしくてしゃあないわ」

 

「オイオイ、少し落ち着いたらどうだ?

ホットミルクでも飲んでよ」

 

「おぉーええなぁ、ホットミルクだけにホッとするし。

……ってやかましいわ何言わすねん!?」

 

「……ジットしてられないとか言ってたわよね?」

 

なんとも緊張感のない会話に、リズベットが思わずツッコミを入れた。

 

何故かその様にラスベリーは違和感を覚えたのだが、たぶんそれは彼女であって彼女ではないのだろう。たぶん。

 

くだらないダジャレを言っている間に、カウントはすでに5秒を切った。

ラスベリーがアウリオンを、ジットが腰から引き抜いた刀をそれぞれ構える。

 

お互いにいつでも攻めに行ける状態となったところで、遂にゴングが鳴った。

 

「っしゃあ行くでぇ!!」

 

「なっ、早い!」

 

「あんなスピード、アスナ以来だ」

 

「くっ、はあぁ!」

 

試合開始前からジットの攻撃に備えていたのもあり対応そのものは間に合ったが、それでも彼の剣捌きは尋常じゃなく早い。

 

踏み込みもパワーもかなり強い上にその一太刀には微塵の迷いもなく、純粋に戦いを楽しんでいるが故の意志を感じる。

不思議と狂気とは思えない、だが確かなものだ。

 

しばらく剣戟音が響いた後、なんとかジットの猛攻に目を慣れさせたラスベリーは、僅かに見えた隙をついてリニアーを放つ。

 

それとほぼ同時にジットがカタナソードスキル《辻風》を発動することで威力を殺し、硬直時間をものともせず続け様に《浮舟》を使いラスベリーを斬り上げようとする。

 

だが寸前で片手剣ソードスキル《スラント》を後方に飛び上がりながら使うことで、攻撃を防ぎつつ距離を取った。

 

それでもジットは最初にも見せた恐ろしいほどの速度で、一瞬にしてラスベリーの正面に現れる。

 

「んなっ!?」

 

「もろたで、でぇい!!」

 

「ぐぁあっ!?」

 

「ラスベリー!」

 

手痛い一撃をもらってしまったがまだジットの攻撃は続き、もはや腕が無数にあるんじゃないかと錯覚するほど早い連撃が繰り出される。

 

ゴリゴリと削られていくHP。

それを犠牲にしながら少しずつ反撃の糸口を探り、決死の想いでラスベリーはようやく一手与えることに成功する。

 

ところが脇腹を貫いたと思われたそれは、ジットのHPを僅かにしか減らさなかった。

 

「なんだと……!?」

 

「ヘヘッ、こう見えて防御力には自信あるんやで?

そぅら、お返しや!」

 

「くっ、フォーリウム!!」

 

これ以上好き勝手やらせる前にと、細剣ソードスキル《フォーリウム》がジットの行く手を阻む。

 

ようやく彼に隙が生まれたのを確認したラスベリーは一旦アウリオンをアイテムストレージに入れ、その場に深くしゃがみ込んでから力強く踏み込み、勢いよく空へと飛び上がった。

 

「ラスベリーが飛んだ!?」

 

「これがアイツの奥の手、システム外ソードスキルよ!」

 

「行くぜ、ライジング・ノヴァ!!」

 

限界値まで上がったタイミングでシステムウインドウを開き、再び手にしたアウリオンを突き出しながら対象へ向けて急降下を浴びせる大技――それがライジング・ノヴァ。

 

地面を大きく抉り取るほどの威力を叩き出したその攻撃によってジットのHPは2割ほど失われ、いよいよあとが無くなってきた。

 

しかしその一方でライジング・ノヴァによる落下ダメージを受けたラスベリーもまた、絶体絶命の状況だった。

 

「なるほどなぁ、今のがカトーを痛い目遭わしたっちゅう。

ええなそれ、ワイもやってみよか!」

 

「はぁ!?」

 

「じ、ジット様まで飛んだ!!」

 

「アイツ、正気か!?」

 

この4ヶ月使い続けたであろうラスベリーならともかく、たった今見たばかりの者に出来るはずはない。

そう言いたげなギャラリーの反応を一切無視し、ジットが空中に躍り出てシステムウインドウを展開する。

 

さすがに先ほどまでは行かないもののかなりの高所から得物を構えたまま落下してくるその様は、もはや認めざるを得ない攻撃。

ジットはこの一瞬で、ラスベリーの奥の手を模倣してしまったのだ。

 

「ライジングぅ、ノヴァあ!!」

 

「チッ……!」

 

とてつもない風圧に、湧き上がる砂煙。

こんなにも早く勝負が着いてしまったのか、そう思われたが。

まだ二人のHPバーはギャラリーに見えているため、まだ終わってはいないようだった。

 

それどころか、ラスベリーのHPに一切損傷はなかった。

あれだけ強力な攻撃を繰り出していたジットが放ったライジング・ノヴァを前に、彼がどうやって凌いだのか。

 

――リズベットが渡した盾、ソウルガーディアンだ。

 

「に、にゃにぃ!?」

 

「ヘヘッ、良かったなリズベット……!

お前が初めて作ったモンが、俺を救ってくれた!

お前の作る装備で命を守れるって、証明出来たんだ!!」

 

「っ……うん!

さぁ決めちゃいなさい、ラスベリー!!」

 

「チャンスは今しかない、行け!!」

 

「おう、カッコよく決めてやらァ!

発動条件は……《フォーリウム》、《リニアー》、片手剣ソードスキル。

オールクリア!!

クロスオーバー・スリーフェイス!!

デルフィニウムっ!!!」

 

往来の二身合体とはワケが違う、限界を超えた三身合体によるクロスオーバースキル《デルフィニウム》。

突如紫色に変わった空から3本の落雷が槍のように襲いかかり、ジットの逃げ場を完全に封鎖する。

 

そして最後の一柱であるラスベリー自身が彼の頭上から飛来し、たったの一突きのみで強烈な一撃を与えるのだ。

 

「う、うおおぉぉぁああ!!?」

 

尋常ではない衝撃音が鳴り響くとともに、全員の視界が一瞬にして漂白される。

 

しばしの静寂の後にファンファーレが高らかに奏でられたことで目を開いた彼らは、デュエルが決着したというアナウンスを目撃した。

 

結果は、ラスベリーの勝利。

微かにだがジットのHPが半分を下回ったことで、この勝負を終わらせてみせたのだ。

 

これを受けてリズベットは喜びの声を上げかけた。

だがそれを中断したのは、肝心の二人の様子がおかしいことに気付いたからだ。

 

「ぐっ……まさか、あれを受けて平然としてるなんてな」

 

「言ったやろ、防御力には自信があるんやって。

オマンこそ大丈夫かいな、せっかく勝ったのに苦しそうやで?」

 

「わざわざご心配、ありがとよ……

どうやら、今までのやつとは桁が違うみてぇだわ。

反動が、とんでも――」

 

「ラスベリー!」

 

意識を失いかけ倒れようとするラスベリーを間一髪駆けつけたキリトが支え、一緒に来ていたリズベットに彼を任せる。

 

ただでさえ強力だったクロスオーバースキルのその先である三身合体。

ジットに勝利するための切り札となったのは良かったが、やはりなんのリスクもないはずがなかった。

 

現に今ラスベリーの視界は白くボヤケており、リズベットが傍にいなければすぐにでも糸が切れたように気絶してしまうだろう。

 

「ハハッ、確かにごっつ強かったけどまだまだやな。

まだその武器に振り回されちょる、ぶっ壊れんのは時間の問題や」

 

「どうかな。

こいつはこれからも、どんどん強くなるかもしれないぞ」

 

「ほーん、黒の剣士がそないなこと言うとはな。

まぁ確かに伸びしろはあるわ、ちゃんと御上さんに警戒対象として報告さしてもらうで。

……あと、ラスベリーとの約束やから話させてもらうわ。

ワイらはみんなこのアインクラッドを、真の現実や考えとる。

元の現実なんかどうでもええ連中が集まってんのが、ワイらナインポケットなんや」

 

「現実がどうでもいいって、いったいどうして。

アンタたちに何があったって言うのよ」

 

「さぁな、理由は人それぞれやからワイには把握しきれん。

けどまぁ……リアルに居場所がないから、こっちでずっと生きよう言うヤツがおるのも確かや」

 

それだけ言って、ジットはマグマ隊の面々を連れ去ってしまった。

 

――リアルに居場所がない。

その気持ちはリズベットやラスベリーにとって、痛いほど理解出来るものだ。

特にリズベットはこの世界で本当の自分を出せると思ったからこそ、SAOにログインすることを決めた。

 

全員がそうというわけではないにせよ、ようやく見つけた自分たちの居場所を壊させないために攻略を妨害しているのが、彼ら九の懐ということなのだろう。

 

そう考えるとなんだかやるせなくなって来るが、だからといって現実世界へ帰ろうと頑張る者たちの気持ちを蔑ろにしていいわけではない。

 

「九の懐、か……俺も何度か、下っ端とは戦ったんだが」

 

「最近まで最前線にいたんだものね。

あいつらは、攻略組を真っ先に狙う……このゲーム、つまり自分たちの現実を守るために。

……これからも避けられそうにないわね」

 

「っ……うぅ」

 

「あ、ラスベリー!」

 

ようやく朦朧としていた意識がハッキリしてきたラスベリーがひとりでに立ち上がり、周囲を見回した。

先程まで気絶するかどうかといったところだったので、ジットたちの会話はおろか現在の状況を把握しきれていないのだろう。

 

九の懐はこの地から去った。

そのことを今更理解すると同時に、後ろから何かが強くぶつかる感触がした。

リズベットが、ラスベリーの背中から抱き着いたのだ。

 

「……リズベット」

 

「良かった、気がついて。

心配したんだから……!」

 

「悪ぃな、けど大丈夫だ。

お前さんの盾があったから、首の皮一枚で済んだんだよ」

 

「……そっか。

だとしたら、嬉しいな。

あたしの作る装備で、誰かを救える……それが判って」

 

抱き締める腕の力を弱め、背中から少し離れたリズベットに向き直る。

その目は涙で少し腫れてはいるが、彼女らしい輝くような笑顔を浮かべていた。

 

例え戦えずとも、前にいられなくても、剣士を守ることの出来る存在――

あの刀匠のように剣士を鼓舞し、心の支えとなれる鍛治師。

 

それこそが『剣士の本当の相棒』なのだと、今ならハッキリと判る。

 

ラスベリーのことは何より大事な相棒、それはこれまでの旅を通して疑いようのない事実。

でも自分がその隣に立つためには、まだ足りない。

 

だから少女は、1つの決断をする。

 

「ねぇ、ラスベリー。

あたし決めたよ。

あたしは、本格的に鍛治師を目指す。

自分だけのお店を持って、もっとたくさんの経験をして。

いつか胸を張って、またアンタと冒険したい。

……だから!」

 

「だから、ここでお別れってんだろ?

……良いぜ、元々俺のワガママに付き合ってくれたんだ。

お前の夢を応援してやるのも、ダチの勤めだろ」

 

「ラスベリー……」

 

口では平気な振りをしているが、彼の目尻には今にも震えて出てきそうなほどの涙が溜まっていた。

 

これに真っ先に気付いたのはキリトだが、今それを言うのも野暮だと判断して、あえて何も言わず二人の様子を静観する。

 

――ラスベリー自身、いつかはこんな日が来るのではないかと思っていた。

彼女もまたこの世界にとって重要な存在の一人で、自らが縛り付けておくことなど出来ない少女だから。

 

彼女とまた冒険することなど叶わないかもしれない、だがこの瞬間はきっと悲しいばかりではない。

何故ならリズベットは今、自らの目標のために羽ばたこうとしている。

あの時とは、違うから。

 

「ただし!

……1つ約束しろ」

 

「約束……?」

 

「次に会う時までに、絶対最強の鍛治師になっとけ。

……戦いに行き詰まったりしたら、お前の店に行くからよ」

 

「……ごめんね、最後まで手伝えなくて。

けどあたしはきっと、傍にいるばかりじゃ力になれないから。

……判った、約束する。

アインクラッド最強の鍛治師になって、一番のお客様としてアンタを招待するから!

だから……絶対、来てよね。

待ってるから!!」

 

「ったりまえだろ……

理由は、たった一つ。

お前は大事で、大好きな……相棒だ。

 

……じゃあな、リズベット」

 

その時初めて、ラスベリーの方からリズベットを抱き締めた。

 

少しの間だけ彼女という存在を噛み締めたあと、だんだん遠くなる背中に思わず手を伸ばしそうになる自分が憎らしくなる。

 

本当は行ってほしくない、もっと一緒に冒険していたかった。

ミトの捜索という目的を共有していたはずなのに、いつの間にかリズベットがいる日々が当たり前となっていた。

だが彼女は行かなければならない、ようやく見つけた自身の在り方のために。

 

アスナもあの時、似たような気持ちだったのだろうか。

叫びだしたくなる衝動を塞き止めてくれたのは、背中を叩いてくれたキリトだった。

 

「お疲れ様、よく堪えたよ。

……彼女のこと、本当に大切なんだな」

 

「まぁ、な。

俺の相棒だぞ?

心配なんかしねぇ……しちゃあ、行けねぇんだ」

 

「……なぁ、ラスって呼んでも良いか?」

 

「へっ……?」

 

あまりに唐突な提案とほぼ同時に、ラスベリーの前に一つの通知が現れる。

それはフレンド申請――差出人は目の前の少年、キリトだった。

 

「判ったんだ、お前は悪意があってアスナを突き放すようなヤツじゃない。

それに俺がビーターだと知っていても、寧ろそれを上手く生かしてリズベットの望みを叶えようとした。

……お前は、凄いヤツだよ」

 

「……良いのかよ?」

 

「先に聞いたのはこっちだぞ?

結論をくれないか?ラス」

 

「……ヘヘっ

後悔すんじゃあねえぞ」

 

フレンド申請を受け入れ、晴れて二人は友人同士となった。

ラスという渾名まで頂戴することになり、なんだか少しだけ自分の名前が好きになった気がする。

 

それにあの黒の剣士が完全にとまでは行かずとも自分のことを認め、友だちになってくれたことが嬉しくてたまらない。

 

どちらからともなく握手を交わして、静かに微笑み合う二人。

しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはキリトだった。

 

「転移門の話の続きだけど、アスナはラスからもらったスモールレイピアをずっと大切にしていたんだ。

ミトって娘からもらったウィンドフルーレも」

 

「っ……そう、なのか」

 

「けど途中で性能に限界が来た。

それでもお前たちからもらったものを手放せなかった彼女は、その2つをインゴットに変えて新たに出来上がった得物を使い始めたんだ。

……シバルリック・レイピア。

二人への想いが籠もった細剣の名前だ」

 

「シバルリック・レイピア……」

 

どうやらミトは第1層のボス部屋でアスナに再会した時、無事ウィンドフルーレを渡せたらしい。

 

それだけでも嬉しいニュースではあるのだが、なんと彼女はあの日餞別として投げ渡したスモールレイピアをずっと大事に持っていて、ミトがくれたものと合成し新たな刃としたのだという。

 

ゲームに関しては素人だったアスナが自分からその発想に至ったとは考えづらいので、恐らくはこのキリトの提案だろうとラスベリーは察する。

 

もしそれが本当なら、中々粋なことをしてくれたというか、素直には言い出せないものの彼女が自分の得物を大事にしてくれた事実に、確かな喜びを感じていた。

 

「アスナのことは、とりあえずは俺に任せてくれ。

今の彼女に何か出来るとしたら、恐らく俺くらいだろうから」

 

「とかなんとか言ってるが、ホントはいい感じになりたかったりしてな。

惚れてんだろ、アスナに?」

 

「バッ、別にそういうわけじゃ!」

 

「そうやって否定するとこが怪しいぜぇ?

判るぞぉ、アイツすげぇ可愛い上にほぼなんでも出来るしなぁ……

あ゛ぁ゛ーーお前が羨ましいッ!!」

 

芽生えたばかりの友情に絆されてようやく本調子を取り戻したラスベリーに、その後もキリトはいじり倒され続けるのだった。

 

そうやって彼らの日々は、またこれからも刻まれていく。

昨日までは不可能だったことでも、明日なら出来るように。

踏み出し始めた彼らの夢は、必ず未来へと繋がる道標となるだろう。

 

再びソロプレイヤーとなったラスベリーもまた、その一人。

ここから改めて、自身の定めた目的のために歩き出すのだった。

 

「……お前に話したいことが、たくさん出来ちまった。

絶対会いに行くぜ、ミト!」

 

 




【現在のラスベリーたちのレベル】

ラスベリー Lv34
リズベット Lv33(離脱時)
キリト Lv43(離脱時)



あとがき

どうも皆様、神矢レイラです。
儚き虚夢のラスベリー、第6話を読んでくださりありがとうございます。

とてつもなく長い内容だっただけに、ここまで読んでくださった皆様には感謝しかないです(汗)
本当にありがとうございます。

展開としては物語がようやく大きな進展を果たしたというか、完全にリズベット回でしたね。
これじゃあキリトがただの助っ人だって?
実は今回、キリトが登場するのもあって彼に関係する小ネタがわりとあります。
よかったら探してみてくださいね←

そして4話以来ソロプレイヤーとなったラスベリー。
果たして彼は、無事ミトの元に辿り着けるのか。

それではそろそろこの辺で。
皆様お疲れ様でした!
次回もよろしくお願いします。
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