ソードアート・オンライン 儚き虚夢のラスベリー   作:神矢レイラ

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どうもお疲れ様です、神矢レイラです。

一気に舞台は飛んで67層、久しぶりにあの人が登場したり、満を持しての風林火山と、今回も盛りだくさんでございます。

早いもので、このシリーズももう7話です。
ここから物語が大きく動いていく……予定←は?

寒さに凍えながらなんとか書き上げたので、途中途中変になってたら申し訳ないです(汗)

ではでは、適度に休憩を挟みつつご覧くださいませ


第7話『類縁=風林火山のクライン/67』

雪景色の中で目にした水晶のように、ともに苦難を乗り越えた日々はキラキラと煌めいていた。

 

スタートダッシュが大幅に遅れ、序盤のモンスターにさえ苦戦して死にかけていた自分を救ってくれたヒーロー。

彼が隣にいた頃のことを、リズベットは時々夢に見る。

 

――あの旅立ちからすでに一年以上の時が過ぎ、歳を二つ重ねるまでに様々な出会いがあった。

志を同じくする者たちや、予想外な人物との交友。

特に後者に至っては、まさか親友にまで発展してしまうとは彼女自身思っても見なかった。

 

同じぐらい別れも経験し、繰り返される日々を過ごしていく中でリズベットは人としても鍛治師としても成長していった。

その甲斐あって彼女は片手棍と鍛冶のスキルを900以上にまで高めることが出来、マスターメイサーでありマスタースミスとなった。

 

しかし、かの約束は未だ遠い。

アインクラッド最強の鍛治師――その目標はあまりに漠然としていて、何をすればそうなれるのかは判らない。

だがあの日の誓いを果たすためには、あの男を自分のお店に招待するには、この力はまだ小さいと感じていた。

 

もっと腕を磨かなければ――どこか焦りさえ感じ始めていたある日、第48層リンダースの主街区にある彼女の店にキリトがやって来た。

 

親友の手によってベビーピンクに変わっていた髪色を褒められ、思わぬ再会にリズベット自身驚きつつも、愛想のいい笑顔で感謝の言葉を返す。

 

キリトが彼女の元を訪ねた理由は、一言で言えば『武器生成依頼』。

現在彼の主戦力となっている魔剣クラスの得物――エリュシデータと同等以上の片手直剣を作って欲しいというものだった。

 

金属の相場が上がっていた当時、手間を省く意味でリズベットは自身が鍛えた最高傑作を差し出したが、彼に耐久値の強度テストをさせた際に哀れにも砕かれてしまう。

 

即座に謝罪したキリトを素材収集に同行させ、リズベットが向かったのは第55層のとある山。

マスタースミスの存在を条件に特殊な金属を落とすというドラゴンが住んでいるらしく、それがキリトの剣を造るための素材になるそうだ。

 

紆余曲折ありつつも、二人はドラゴンに遭遇。

途中リズベットが前に飛び出してしまったことで隙が生まれ、二人はとてつもなく深い大穴へと落とされてしまうも、そこ自体が竜の住処であった。

 

無事地中に埋まっていた目的の素材こと『クリスタライト・インゴット』を入手し、直後に現れた巣穴の主を利用してキリトたちはそこから脱出――空中へと放り出される。

 

時刻はすでに夕暮れで、赤色に照らされた氷雪地帯が美しく輝く。

そんな景色に重なるようにして、今回の冒険の最中度々触れてきたキリトのさりげない優しさが浮かび上がり、彼がくれた熱に対して一つの感情が浮かび上がろうとしていた。

 

「キリト、あたしね!

あたし、キリトのこと――」

 

 

 

 

 

 

 

『理由は、たった一つ。

お前は大事で、大好きな……相棒だ』

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

一瞬だけ、何かが見えた。

忘れるはずもない、ずっと隣りにいた大事な相棒。

そんな彼の姿が、声が。

リズベットの思考を、明確に途絶えさせた。

 

自分がともにいたいのは、傍で名前を呼んでほしい人物は。

 

――本当に、キリトなのだろうか。

 

不自然に言葉を止めた彼女の様子を、キリトは不思議そうに見つめていた。

 

「……なんでもなーい!」

 

しかしリズベットは自らの考えを読まれないために、彼に抱き着くような形で顔を隠すのだった。

 

あくまでも明るく、何事もなかったかのように。

 

 

 

2024年、6月25日。

リズベットは今回の冒険で入手したインゴットを用い、キリトの求める強力な得物――闇を祓うもの、ダークリパルサーを生み出した。

 

仕事柄様々な武具を見てきたリズベットが知らないそれは当然情報屋の名鑑には存在せず、正真正銘キリトのために産み出された一点もの。

その性能は、彼を歓喜させた。

 

「魂が籠もってる気がするよ。

本当に腕を上げたな、リズ」

 

「そりゃあアイツとの約束だしね。

まぁ、まだまだ半人前だろうけど」

 

「オイオイ、昨日の自信はどこ行ったんだよ。

……そう言えばあの後、アイツと連絡は?」

 

「ううん、取ってない。

今メッセージ送ったら、会いたくなっちゃいそうだし。

……けどあの日ね、一通だけ来てたんだ。

応援してるぜ、って」

 

なんとも彼らしいシンプルな激励に、キリト自身呆れつつも安心したように微笑む。

 

このメッセージに対する返信は自分が一人前となった時、彼を招待するために行うと決めているからこそ、それを心の支えにリズベットは頑張れるのだ。

 

だからあの時、自分が抱きかけた気持ちが打ち消されたのだろうか――ふとリズベットは考える。

 

答えはもうなんとなく判っていた。

‘アイツ’のいない1年間で自分が彼のことをどれだけ愛おしく想っていたのかを思い知り、引き返そうとする心を約束を理由に辛うじて抑え込んで。

 

いつの間にか消えかけていた恋情を、リズベットがようやく自覚した時だった。

 

「リズ!心配したよ!!」

 

「あ、アスナ!?」

 

荒々しく押し開けられた扉からリズベットの親友ことアスナが現れ、直後に彼女へと飛び込んできた。

 

どうやら二人が素材収集へと赴いている間何度もメッセージを送ったりマップ追跡を試みたそうだが、いずれも手応えがなかったことで心配してここまでやって来たらしい。

 

聞けばこの店のことをキリトに紹介したのはアスナらしく、強力な剣を求めていざ来てみたらかつての知り合いが店主だったというオチだったワケである。

 

とはいえ初対面ではないということはお互いアスナには伏せてある。

何せ彼らは彼女が追っている人物の共通の友人であり、その人物を通じて交流を深めたのだ。

故にリズベット自身アスナとの親友関係にはやや複雑なものを抱いており、時には罪悪感さえ感じることもある。

 

「まぁ変だけど悪い人じゃあないわね。

応援するから頑張りなよ、アスナ」

 

「だからそんなんじゃないわよ、元々コンビ組んでたってだけ。

……相手なら、心に決めてる人がいるから」

 

「それって、一層の時からずっと言っていたヤツか?」

 

「うん。

……二人になら、話しても良いかな。

私が幼い頃から、ずっと大好きな人なの。

会いたくて会いたくて、ずっと探している人」

 

 

 

彼と初めて出会ったのは、明日奈が5歳の頃だった。

 

この当時から高嶺の花として扱われていた彼女は友だちがおらず、ただ一人寂しくブランコに腰掛けているのみだった。

 

そんな時声をかけてきてくれたのが、まだ中学生だった彼。

いいところのお嬢様だからとか、まわりと比べて可愛らしいからとか、そういった特別扱いをまったくせず関わってくれる歳上の男の子。

 

この時から明日奈は、幼いながらに惹かれていた。

 

明日奈の世界に彼がやって来てから、灰色だった景色は色付き始めた。

 

それまで関わりの薄かった実兄との時間が増え、彼の両親が結城家と親交があったこともあって彼と過ごすことを許してもらい、そのおかげで明日奈はどんどん外の世界を知っていった。

 

思い返せば、暇があれば彼に会いに行っていたような気がする。

とはいえ彼もかなり上の学生の身分なので、週に2回ぐらい会えれば良い方ではあったが。

それでも学校が終わった後の楽しみとして、彼との時間を大切にしていた。

 

――明日奈が10の歳を迎え、季節が冬に向かおうとしている頃。

微妙に肌寒くなってきたある日、いつものように彼の家へと遊びに来ていた。

 

「しかしお前さんも暇だよなー。

こんな冴えねぇ男子高校生ん家に、わざわざ来なくたって良いだろうに。

学校の友だちはどうしたよ?」

 

「今日はみんな予定アリ。

それにそれほど仲がいいわけでもないし、晴輝お兄ちゃんだから来てるんだよ?」

 

「そーうかぃ。

せっかくオフクロたちしばらくいねぇから、ゆっくり出来ると思ったんだがなぁ」

 

回転する椅子をグルグルとさせながら背もたれに寄りかかる明日奈を見上げて、だらしなく床に寝そべっている彼がそう言う。

 

まさにこの日彼の両親は仕事のために海外へ飛んだばかりであり、しばらくは一人暮らしといった状態。

ところがそのうち母親の方から明日奈は息子のお目付け役を頼まれたようで、彼女自身も特に嫌な態度は見せずに了承したんだとか。

 

「っつかもうこんな時間か、メシ買いに行かねぇと」

 

「カップ麺とかはダメだよ?

今日私作るから、というかお母さんたちから泊まる許可もらったから」

 

「はいはい、どうせそんなこったろうと思ってましたよ。

んじゃとっとと買い出し行くとしようぜ」

 

言葉では邪険にしているように見えても、そこ声色はとても楽しそうで、彼もまた一緒にいられることを嬉しく思っていると判り、明日奈は明るく頷く。

 

早速二人は最寄りのスーパーまで向かい、仲良く今日の献立を話し合いながら様々な食材を見ていた。

初めて出会った日からもう5年。

その月日は彼らの関係を昇華させるには充分であり、あれこれと商品を手に取る様はまさに兄妹のようであった。

 

学年にして高校2年と小学4年、もし実際は他人だと言われても信じる者は少ないだろう。

だがそんな兄妹のような距離感が、明日奈にとってはもどかしくもある。

 

「うし、だいたいは揃ったな。

んじゃあとっとと会計済ましてくるわ。

コイツでガチャでも回して待ってな」

 

「ううん、私も着いてくよ。

ここのやつそんなに可愛いの無いし、というかあまり子供扱いしないで」

 

「はいはい悪かったよ明日奈姫様。

つってもただ並んで会計するだけだし、面白いことなんざ――」

 

――その時彼の視線は、隣の列に慌てて並んだ女性に奪われた。

 

身長は僅かに彼よりも高く、整った顔立ちに程よく主張した身体付き。

そして何より、腰に届くほど長くキレイな黒髪。

 

彼はそこに釘付けだった。

直後に後ろにいた明日奈が肌をつねり、我に返ったが。

 

「いでででで!!

ぅおぃ何すんだ明日奈!?」

 

「べっつにー?

……その、晴輝お兄ちゃんはさ。

あぁいう人が好みなの?」

 

「えっ?

……まぁ好きかどうかって聞かれたら、そうなるな」

 

「そっか。

じゃあ私、髪伸ばしちゃおうかな」

 

今でも充分長いだろと、そう心の中でツッコミを入れつつ彼は呆れ気味に笑った。

 

とはいえ明日奈はこの時点でもかなり愛らしく、それが先ほどのような女性と同じぐらいにまで成長するかもしれない。

 

そんな彼女の姿を想像してしまったがために、家に帰るまで彼はまともに顔を合わせることが出来なかったという。

 

ありふれたこの平穏がいつまでも続いて、いずれは両親も帰ってきて、また元の日常が彼を迎えるんだろう。

 

――そう思っていたのに。

 

次の日の早朝、明日奈の心を大きく変える出来事が起きた。

 

「……オイ、これ。

オフクロたちが乗ったっていう……!」

 

「っ……!」

 

思い描いていたはずの平穏は、テレビに映し出された1つのニュースが一瞬で粉々にしてしまった。

 

その内容は昨日のお昼頃――ちょうど彼らが学校にいる間に、ある飛行機が突然誤作動を起こし海の真ん中に墜落。

 

搭乗していた約300人、及び乗組員たちは全員行方不明――死亡している可能性は極めて高いという。

 

事故の原因も不明、整備を担当した者によれば離陸直前までは正常だったとのこと。

 

だがそんなことよりも、彼の胸を引き裂いたのは――

 

その飛行機が、彼の両親を乗せたものだったということだ。

 

「ア、あ……あァ。

……ァァああああアアァァアぁアaAAAaa!!!」

 

「……晴輝お兄ちゃん!落ち着いて!!」

 

明日奈自身今にも泣き出しそうではあったが、それよりも早く彼が発狂したことで辛うじて冷静さを取り戻し、身が引き裂かれそうなほど叫ぶ彼をどうにか宥めようとする。

 

だが彼の心は思った以上のダメージを受けているようで、たかだか十歳の少女一人に抑え込めるような状態ではなかった。

 

彼は――晴輝は口調こそ不良のような印象を与えるものの、その本質は誰よりも優しく他者を想っていることを明日奈はよく知っている。

だからこそ、痛いほど判ってしまう。

まして自分の彼の家族には良くしてもらっていただけに、尚更痛く。

 

昨日の朝に送り出した両親が突然死亡した晴輝の絶望はとても計れるようなものではない。

まだ高校生の彼が肉親との別れを受け入れる覚悟など出来ているはずもなく、力を無くして崩れ落ちる身体。

 

しばしの時間が経った後、晴輝は無気力なまま立ち上がると台所へと向かった。

 

異変を察知してすぐそのあとを追うも、すでに彼は包丁を自らの胸に突き刺そうとしていた。

 

「ダメっ、晴輝お兄ちゃん!!」

 

「ッ、明日奈……!?」

 

火事場の馬鹿力というべきか、咄嗟の判断力と表現すべきか。

自身の登場に驚いた彼が動きを止めた一瞬の隙を突き、包丁を奪い取って見せた。

 

そしてそれを、すぐに自分の首へと向けて見せる。

 

「晴輝お兄ちゃんが死ぬなら、私が死ぬよ。

……それでも良いの?」

 

「ぁ……あす、な。

……俺は」

 

「……ねぇ、なんで死のうとしたの?」

 

「寂しぃんだよ」

 

彼女の問いに数秒ほど間を置いて返って来た言葉がそれだった。

 

その場に沈むようにして崩れ落ちた彼は、いつの間にか流していた涙をみっともなく床にまき散らす。

 

「……昔っから口悪くて、曲がったことが嫌いすぎて無茶やらかして。

そんな俺をさ、オフクロたちはずっと見放さず面倒見てくれた。

……まだ、親孝行出来てねぇんだ。

これからいい大学出ていい会社入って稼いで、たくさんラクさせてやるつもりだったってのに!!

……ぁんで、先逝っちまうんだよ」

 

「晴輝お兄ちゃん……」

 

「俺にゃあまだ、親父とオフクロが必要なんだ。

してほしいことしてやりたいことたくさんあんのに……!

その家族がいなきゃあ、俺ァ……

なんのために、生きてんだよッ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいるよ」

 

彼を包み込むものが、冷たい空気から少女の温もりに変わった。

いつの間にか握っていた包丁は投げ捨てられ、明日奈の両腕がしっかりと晴輝の頭を抱き締めている。

 

その状態を一瞬理解出来ずに、錯乱していた晴輝の心が強制的に静まった時、明日奈は決意を固めて口を開いた。

 

「晴輝お兄ちゃん……ううん、晴輝さん。

私が家族になって、あなたを支えるから。

もう寂しくないから。

……だから、もうそんなこと言わないで?」

 

「あす、な……ぅう、ぁ……」

 

「ずっと、ずっと一緒だよ」

 

この人はお兄さんじゃない、自分が好きになった一人の男性だ。

 

だからこそ明日奈は、『お兄ちゃん』と呼ぶのを止めた。

 

大好きで、家族として傍にいたい相手だからこそ。

『晴輝さん』と、呼ぶようになったのだ。

 

 

 

――そんな晴輝ことラスベリーだが、現在67層の小さな村にある酒場にいる。

 

この日は8月初頭、パートナーの少女が彼の元を旅立ってからすでに1年と4ヶ月の時が経過していた。

 

記憶している限り、この世界が終わるのは今年11月の7日。

あと3ヶ月しかタイムリミットがない現状、ラスベリーは未だにミトの手がかりさえ掴めずにいる。

 

協力者である情報屋のアルゴによると一度は発見したそうだが、その時はアスナが周辺にいたためにあちらの要望を優先――

仕方なく次の機会に回したそうだが、彼女はまたしても闇の中へと行方を暗ましてしまった。

 

一度見つけた相手である以上それだけなら問題はなかったのだが、この頃から謎のギルド『九の懐(ナインポケット)』の活動が活発化――

行く先々で彼らの妨害に遭い、思うように動けないらしい。

 

アルゴの邪魔をしてきたのは第2層で遭遇したカトーや22層にいたジットではなく、また別の勢力だという。

青いバンダナを巻いた縞模様の連中を、左右で色の違う髪の男が指揮していたそうだ。

 

加えてほぼ同じタイミングで、‘滅龍’なるプレイヤーが出現。

現在に至っても未知な部分の多いその存在も相まって、もはや一流の情報屋でさえミトの足取りを追えない状況となっていた。

 

そこでラスベリーは九の懐と滅龍を打ち倒す力をつけるべく、最前線に近い場所まで向かうことを決意。

 

近い場所である理由は無論攻略組に――特にアスナに見つからないようにするためだが、それ以上に少しでも早く力をつけたかった。

かつてジットに言われた『得物に振り回されている』という指摘が、どうしても悔しかったから。

 

より圧倒的な強さを得て九の懐を倒し、場合によっては滅龍さえ退け、アルゴたち情報屋が満足に動ける状況を作り出す。

そうすることでいよいよミトへ繋がる道が開ける――

 

これが今の、ラスベリーの行動方針だ。

 

ではそんな彼が今、どうして酒場などにいるのかと言うと――

 

「っぷはあぁーっ!

やっぱ一頻り頑張ったあとの酒は最高だぜ。

おらどうした、もっと飲めよ。

せっかく奢ってやってるんだぜ?」

 

「お、おぅ……悪ぃな」

 

――この赤いバンダナを頭に巻いた野武士風の男、クラインとひょんなことから出会ったからである。

 

本人曰く『大事な作戦前の最終調整』として、自身が率いるギルドこと『風林火山』とともに最前線一歩手前のここにやって来たらしく、素材収集も兼ねて片っ端からクエストをこなしていたという。

 

その途中トラップに引っかかり窮地に陥ったのだが、偶然居合わせたラスベリーが助太刀に入り、助けてもらったお礼として連れられたのがこの酒場というわけだ。

まぁ彼からすれば、大事を成す前の景気付けでもあるようだが。

 

ラスベリー自身彼の好意をあまり邪険には出来ず着いてきてしまったのだが、不思議と悪い気はしない。

彼のテンションに完全には着いていけないものの、一緒に酒を飲んでいて楽しいと感じるほどには、クラインに気を許しているつもりだ。

 

「……その、クラインさん」

 

「クラインで良いぜ、見た感じ歳もあんま変わんなさそうだし」

 

「じゃあクライン。

変なこと聞くようだが、滅龍ってプレイヤー知ってるか?」

 

「あー、確かそんな名前聞いた気がするな。

KoBの何人かが、もしいてくれたら心強いのにとか言ってたぜ」

 

彼ら風林火山が参加するという大作戦がどういったものかラスベリーには検討がつかないが、どうやら猫の手も借りたいようなものであるらしいことが今の発言から伺える。

 

何せKoB――血盟騎士団と言えば、SAOの中でも精鋭揃い。

団長ヒースクリフや副団長アスナばかりが目立ってはいるものの、それ以外も一線級の実力を持つ。

 

そこにクラインたち他数名も参加するというのにも関わらずさらなる戦力を欲する辺り、それだけ滅龍という存在がトッププレイヤーたちの中で大きなものということなのだろう。

 

尤も、滅龍が攻略組の味方でかつ、前線に出ることに積極的ならという前提はつくが。

 

ラスベリーとしてもいずれは衝突するかもしれない相手のことなので、ここで少しでも掴んでおきたかっただけにこの手応えの無さには肩を落とすしかなかった。

 

「俺も正直判っちゃいないが、ラスはソイツに用でもあんのか?」

 

「いや、そういうわけじゃあない。

ただこの先行動していく上で、いつかは出くわす可能性が高いからさ。

……にしても本当に、どうして攻略組にいねぇんだろうな」

 

「ミーからすれば、ユーの方が疑問なんだけどねぇ」

 

「えっ?」

 

突然右隣の席から聞こえてきた外国人風の声に、一気に意識を持っていかれた。

 

そこにいたのは向かって右側から黒と白が交互に入った不思議な配色の髪をバーバースタイルにした、如何にも博士風な雰囲気を放つ中年男性。

 

ラスたちが飲んでいるそれよりも遥かに度数の強いお酒を片手に、こちらに微笑んでいた。

 

「あぁソーリー、突然話しかけちゃってごめんね。

マイネームはイシュ。

アインクラッド・インフォメーションズってあるだろう?

ミーはそれを書いている者さ」

 

「あ、読んだことあります。

そうか、あなたがアレを……」

 

「俺たち風林火山も何度か世話になったぜ。

にしたって、その筆者さんがなんでこんなとこに?」

 

「まぁ端的に言えば、ユーたちを追いかけてきたんだ。

ようやくユーを、黒い流星を見つけられたからね」

 

イシュは明確に、ラスベリーのことを指してそういった。

 

‘黒い流星’。

その名前を、彼の書いた記事の中で何度か読んだことがある。

黒に近いグレーの装備を身にまとった剣士が、彗星のように素早い攻撃を繰り出しモンスターやオレンジプレイヤーを薙ぎ倒していく様を見て、イシュがそう表現したようだ。

 

ラスベリー自身半信半疑だったが、やはり自分のことだと知ってやや複雑そうな顔をする。

幸いにもこの日まで特定はされなかったのもあって、特に名前などは掲載されていないが。

 

とはいえこの異名がイシュによって世間に広まっているのも事実であり、現に今ラスベリーがそうだと言われて、左隣にいたクラインが一番驚いていた。

 

「マジかよ、確かにすげぇ早ぇなとは思ったが。

お前確か、最近上がって来たばかりだって言ってたよな?

どうしてまたこんな時期に?」

 

「まぁまぁ。

ラス君にしろ滅龍にしろ、最前線に出られない理由があるってハナシでしょ。

しかしあの剣の冴え、もはや流星どころじゃないねぇ。

まるでKoBの副団長……いいやそれとは別の、視認出来ない攻撃とでも言うべきかな」

 

「あの、まさか閃光だなんて言い出さないッスよね?

同じ二つ名だと返って目立つんですけど……」

 

「おっ、ナイスアイデアだね。

じゃあそうだな、幻みたいな斬撃だから……

『幻夢の閃光』、なんてどうだろう?」

 

ラスベリーの気持ちなど気にも止めず、勝手に新たな異名をつけるイシュに開いた口が塞がらなかった。

 

幻の夢のように決して認識出来ない存在でありながら戦場を駆け抜け、かの副団長を彷彿とさせる技で敵を圧倒する。

 

自らの得物であるアウリオンを使いこなすために身に着けてきたその力は、計らずもそのような称号を授かるに充分なものだった。

 

本人的には不服そうではあるが。

 

「良いじゃねぇか幻夢の閃光!

めちゃくちゃカッコいいぜ?」

 

「流星で充分だっての。

……というかクライン、こんなとこで油売ってて大丈夫かよ。

明日は朝早ェとか言ってなかったか?」

 

「問題ねぇよ、仕事柄そういうのは慣れてんだ。

とはいえもう夕方だし、あんま飲んでもいられねぇか。

仕方ねぇ。

ここはぐっと我慢して、あとちょっとクエストをこなしてから準備に向かわせてもらうとするか」

 

「良いね、ならミーも手伝わせてもらうよ。

かの風林火山の戦いぶりを生で見られる機会なんて、滅多にないだろうからね。

当然ユーも来るだろう?幻夢の閃光」

 

「……せめてラスって呼んでくださいよ」

 

イマイチ好きになれない異名に苦言を呈しつつ、半ば強制的に同行させられる羽目になった。

 

とはいえラスベリー自身特に断る理由はなく、クラインたち風林火山との出会いもきっと無駄ではないはずなので、そこ自体に文句はない。

 

なんならクラインと直接話してみて、思った以上に接しやすく気さくな彼にどこか親近感を感じた。

性格や年齢などが似通っているのもあるだろうが、何より気を遣う必要がまったくないというのが大きいだろう。

 

これまでともに行動していたアスナやリズベット、キリトの場合は自身の関わり方次第で、彼女らの未来を揺るがしかねないリスクが常にあった。

それに対してクラインはその可能性が0だとは言えないものの、かなり低い部類に当たる。

 

彼以外の風林火山メンバーとも早々に打ち解けることが出来たため、居心地はとても良い。

少なくともそれだけで、ラスベリーが同行する理由になるのだ。

 

 

 

フィールドに出たラスベリーたちが聞かされた内容は、簡単に言えば指定された素材を一定数集めるというものだった。

 

だがクライン曰くその素材は忍者型の強力なモンスターからしかドロップしないらしく、レベルが下手なフィールドボス以上に高い上に、素材を落とす確率もかなり低いという。

 

とはいえこちらは風林火山のメンバーや一時的に同行しているイシュを含めて8人。

ラスベリーのレベルはすでに74はあり、他の面々もそれに近い数値はあるらしい。

 

一体一体を確実に仕留めていけば、さほど問題はないはずだ。

 

「罠だらけのエリアなんだっけか、67層は」

 

「おぅ。忍者どもはいやがるし、まるでからくり屋敷だぜ。

これじゃあ命がいくつあっても足りねぇっつーか、完全にやらかしたなぁ」

 

「やらかしたってミスタークライン、いったい何があったんだい?」

 

「実はちょっと前によ、ものすっげぇカワイイ鍛冶屋に会ってな?

お近づきの印にって、蘇生結晶あげちまってよ」

 

クラインがうなだれるのとほぼ同時に風林火山の面々の表情も暗くなり、やれやれと言わんばかりにイシュが呆れる。

 

このデスゲームにおいて蘇生可能アイテムというのは貴重品どころではない代物であり、それをうっかりでも手放すというのはかなり手痛い好意である。

事実クラインたちは揃って『やっちまった』と顔色のみで発言しており、中には『まぁリーダーだし』と半ば諦めている者もいた。

 

そんな時ラスベリーも蘇生結晶という単語に着目していたものの、考えている内容自体はまったくの別物であった。

 

22層でキリトと別れてから、彼とはしばらく連絡が取れなくなっていた。

恐らくあのすぐあとに黒猫に懐かれたのだろうと、ある程度の未来を知るラスベリーはそう解釈した。

 

すでにクリスマスは過ぎている以上、当然キリトはその手のイベントに赴いたはず。

となればそこにクラインも居合わせたわけで、その際蘇生結晶を投げ渡されたと記憶している。

 

何故キリトがせっかく手に入れたアイテムを譲渡するような真似をしたのか、ラスベリーには思い出すだけで辛いようだが。

 

――それにしてもクラインが会ったという鍛冶屋。

もしかしてと思ったところで、イシュが向こう側にいる人型に気がつく。

 

「おっ、見てごらん。

ターゲットらしきモンスターがいたよ」

 

「うっし、こうなったらとことんだ!

切り替えていくぜ!!」

 

「感情忙しいなお前。

……イシュさんは、槍なんですね」

 

「まぁね、ミーのスタイルに一番合ってる。

ラス君こそ、ずいぶん変わった得物だね?」

 

やはりというべきか、真っ先にラスベリーが装備している剣――アウリオンについて触れられた。

彼と会う前にクラインたちから散々騒がれたため今更ではあるが、どうしても他人にとって珍しく映ってしまうようだ。

 

ただ実のところ、これについて一番知りたいのは他でもないラスベリー自身。

あれからもずっと使い続けているが一向に耐久値が示される気配はなく、武器としての性能も最前線で使われているそれと遜色ないとアルゴの調べで判った。

 

いったいこの剣はなんなのか、そもそもどうして自分の元にやってきたのか。

判っていることは一応あるが、判らないことのほうが圧倒的に多い。

 

「なんつーか、とんでもねぇ性能だぜそれ。

攻撃力えげつねぇし、何故か違う武器のソードスキルは使えるし。

羨ましい限りだぜ」

 

「ラス君がユーたちを助けるところを見てたけど、確かにあれは凄かったね。

片手剣か細剣か……ある意味、両方なのかな?」

 

「けっこう鋭いですね。

でもそろそろ話は切り上げて、クエストを進めませんか?」

 

「だな。

よしお前ら、まずは一体確実に行くぞぉ!」

 

活気あるクラインの号令で風林火山の面々が一斉に突撃していき、ラスベリーとイシュもそれに続く形で攻撃を仕掛けていく。

 

見た目に違わず忍者型のモンスターの動きは早く、普通の攻撃では捉えることは難しい。

だがそんな相手に対して、イシュは一手足りとも外すことはなく、それもかなり早い感覚で突きを浴びせていた。

 

両手槍のメリットはなんといっても攻撃範囲の広さ。

長いリーチから繰り出されるソードスキルの数々は素早く動き回る敵でも容易に捉え、確実なダメージを与えていくことが出来る。

あとは敵が怯んだ隙にクラインたちが一気に叩けば、簡単に一体撃破というわけである。

 

「すげぇ……」

 

「ほら、ラス君の方にも一体来たぞ!

幻夢の閃光の活躍見せてくれ!」

 

「だからその名前止めてくださいって!

……ったく仕方ねぇ、リニアー!!」

 

背後にまで迫って来ていた忍者の刃をすり抜けながら、ラスベリーは敵の背中めがけて鋭い攻撃を叩き込む。

しかし僅かに芯を外したらしく、大したダメージは入っていない。

 

続けて片手剣ソードスキル《スラント》を放つも、これも命中せず。

だがこれでいい。

ラスベリーの狙いはソードスキルを当てることではなく、特定の条件を満たすことなのだから。

 

「クロスオーバー!

ディメンション・ソード!!」

 

背後に開かれた裂け目が巨人のものと見まごうほど大きな大剣を召喚し、ラスベリーが刃を振るうのとほぼ同時に忍者を一刀両断――文字通りのワンショットキルをしてみせた。

 

SAOにおける安全マージンは、最低でも現在の層の数値+10レベルであるとされる。

例えば今なら67層なので、77レベルあれば滞りなく戦っていけるだろう。

 

しかしそこに達していないラスベリーが数値以上の実力を発揮出来るのはひとえにアウリオンの、もっと言えばクロスオーバースキルによるところが大きい。

 

あの日ジットに指摘された悔しさをバネに練習を重ねたことで自らの一部とすることが出来た今、多少強いネームドモンスターごとき敵ではなかった。

 

「よっ、さすが幻夢の閃光!

その調子なら、一人でも大丈夫そうだな」

 

「クラインお前、わざとだろそれ。

……だがまぁ確かにこれなら、俺だけでも良さそうだ」

 

「ならここからはミーたちとラス君、二手に別れよう。

その方が効率よく行けるはずだよ」

 

「んじゃ、ある程度集まったらあの酒場でな!」

 

そんな会話を交わしつつ、クラインたちは早速三体目の討伐に取り掛かる。

先ほどのように命中率に優れるイシュが敵を怯ませ、その隙に風林火山の面々が数の利を生かして一斉に叩く。

あとはこれを繰り返していけば、問題なく忍者たちを仕留めていける。

 

一方別行動を開始したラスベリーも向かった先で三体もの忍者に遭遇し、それらに対して投擲スキルを利用して注意を引き、一箇所に集めたところでようやく戦闘を開始――

鋭いリニアーを放つも忍者たちはそれを容易く避け、お返しの手裏剣を同時に投げて反撃してくる。

 

だが3つが同時に重なるところを狙い、片手剣ソードスキル《スラント》ですべて叩き落とす。

これで準備は整ったと笑みを浮かべ、今一度大技を解き放つ。

 

「ディメンション・ソードっ!!」

 

突如出現した魔神の剣が容赦なく振り下ろされ、逃げ惑う忍者たちを無慈悲にも押し潰した。

 

クロスオーバースキルは一つ一つがとてつもない力を秘めているが、発動するためには特定のソードスキルを使用しなければならない。

しかも厄介なことにそれらは一度戦闘を終えてしまえばリセットされ、別の戦いを始めた際にはまた条件を満たす必要がある。

 

そういった手間を省くため、ラスベリーはあえて三体を同時に相手取ったのだ。

大きなリスクを伴う手段ではあるが、先ほどの時点で忍者がどのような相手かは把握した。

この程度ならば多少増えても問題ないと、そう判断したわけである。

 

しかしこの戦法には弱点もあり、真っ先にあげられるのがSPの枯渇。

いわゆるソードスキル発動のためのポイントであり、自発的に上限をあげる手段は基本的に無いものの、スキルを発動していない時には自動的に回復していく。

 

普通なら多少気をつけていればソードスキルの連発も全然可能なのだが、クロスオーバースキルはそれらと比べてSPの消費があまりに激しい。

その上戦闘が長引くほどクールタイムも馬鹿にならないので、闇雲にぶつけられるものでもないのだ。

 

こういった事情から、ラスベリーはHPよりもSPを回復出来るポーションを優先的に買うことが多くなった。

雑魚相手なら大抵の攻撃は回避出来るし、仮に掠ったとしてもバトルヒーリングスキルがあるので粘れば回復は間に合う。

 

その上彼には唯一無二といってもいいパッシブスキル、《介入者》もある。

この1年間の積み重ねによるものか、あるいはシステム的に元々そういうものだったのかは定かではないが、《介入者》がもたらす無敵時間がいつの間にか3秒にまで伸びていた。

 

正確には半年以上前に1秒増え、それから何度も使い続けていたらこうなったのだが。

もしかしたらこのスキルは使い続けることで、その効果を強化出来るのかもしれない。

そう考えつつ再び三体のモンスターを葬ったところで、一通のメッセージが届く。

 

どうやら、クラインからのようだ。

 

『調子はどうだ?

俺たちはもう6つ集まったぜ。

あと5つあればクリアだ』

 

「おっ、ちょうどいいな。

たった今ゲットしたのが5つ目だったんだ。

よし、送信っと」

 

『最っ高だなお前!

さすが幻夢の閃光様だぜ!

んじゃ酒場までよろしくな』

 

「いや返信はやァッ!

……って、なんか前にも似たことがあったような」

 

当時の出来事をハッと思い出し、ラスベリーは急いでフレンドリストを開いてある人物の名前を押す。

 

案の定その人物ことアスナの現在地はこの67層、それもちょうど自分のいるエリア。

下手をすれば鉢合わせてしまう最悪の状況に、一気に血の気が引いていくのを感じた。

 

「まじかマジかマジでマジだ魔法だ!

……ってバカ違ェ!

アイツなんだってこっちに……クラインの話じゃ、KoBの主力も作戦に参加してるはずだろ。

あっ、そうだメッセージは!?」

 

あたふたと彼女のページからメッセージ一覧を開き、何か送られてきていないかを確認する。

 

実はあのあとも不定期にではあるがメッセージが送られていて、特に酷い時には一日のうちに7件ほど来たこともあったため、少なくとも15層を超える頃には彼女からの通知は切っていた。

 

以降どれだけ来ているかなど想像したくもなかったが、とにかく今はアスナがこの層に来ている理由を知りたい。

その一心で内容に目を通すと、簡潔に言えば『作戦への助力依頼』だった。

 

アインクラッドで生きていれば嫌でもその名前を耳にする殺人ギルド『笑う棺桶』を討伐するため、血盟騎士団と聖竜連合――かつてのドラゴンナイツ・ブリゲードをはじめとする面々が可能な限りの最強チームを編成。

その中にはキリトやアスナ、そしてクラインたち風林火山もいる。

 

このSAOというゲームの今後を左右するような大作戦に、アスナはあろうことかラスベリーの名前を出したらしい。

いわゆる推薦と言うやつであり、ラフィン・コフィンの消滅自体は彼にとっても望むことであり、なんなら手伝える範疇でもある。

 

問題はその後、彼女と何事もなく別れられるかと言えば、答えは否だ。

戦いの最中で死を偽装出来れば良いかもしれないが、不幸にもアスナはすでにその手のトリックを目撃している。

 

つまり参加してしまった場合、その後逃れる術はない。

なのでここは見つからずやり過ごしたいところではあるが、先ほども触れた通り彼女の現在地は同じエリアの中。

 

万事休すかと思われた時、ラスベリーの耳に聞き覚えのある少年の声が届く。

 

「やぁラスベリー、久しぶりだね」

 

「お前、パルディア!

最前線の英雄様が、どうしてここに」

 

「ちょっと息抜きというか、少し考えたいことがあってね。

明日はちょっと、忙しくなりそうだからさ」

 

パルディアの様子から察するに、彼も例の討滅戦に駆り出される可能性が高そうだ。

ただそれ自体はラスベリーでなくても簡単に予想出来ることであり、寧ろこんな場所にいることのほうが意外としか言いようがない。

 

最前線が30層の頃からすでにトッププレイヤーの一角であったパルディアはその後も活躍を続け、今では血盟騎士団の団長『ヒースクリフ』に匹敵するのではないかとまで言われている。

冗談抜きに英雄であるパルディアなのだが、彼はラスベリーにとって協力者の一人でもあり、早速そっち方面で力を発揮する。

 

「……ラスベリー、隠蔽スキルはどのぐらい上げてる?」

 

「えっ……?

まぁ、けっこうかな」

 

「判った、なら今すぐ使ってそこの岩陰に隠れて。

僕が良いと言うまで、絶対出ないでね」

 

「お、おう」

 

パルディアに促されるまま、ラスベリーは隠蔽スキルを使ってその身を景色と同化させ、少し離れた場所にある岩の裏に潜む。

 

一方のパルディアはと言うと、ほぼ入れ違いで現れた少女――アスナを営業スマイル顔負けの爽やかな笑顔で出迎える。

 

 

 

「やぁアスナさん、彼は見つかったのかい?」

 

「いいえ、まだ。

現在地はこのエリアだって表示されてるのに。

本当、どこにいるのよ……」

 

「その、聞いてもいいかな?

君ほどの人が、どうして無名のプレイヤーをそこまで推すのか」

 

「パルディア君。

彼は、ラスベリーは無名なんかじゃない」

 

そう言ってアスナが見せたのは、今月頭に発行されたばかりのアインクラッド・インフォメーションズ。

イシュが書き上げたその情報誌にはバッチリ《黒い流星》の特集ページが載っており、彼女は確信を持って言い放った。

 

「この黒い流星というプレイヤー、私はラスベリーのことだと思う。

二度も九の懐の幹部を退けた存在を、血盟騎士団副団長としても無視は出来ない。

それに彼の性格を考えると、あんな組織を放っておくはずないもの」

 

「なるほど、アタリにせよハズレにせよ接触する意味はあるわけだ。

けどこのゲームには腕利きのプレイヤーなんて他にもいる。

どうして彼だって、そう言い切れるのかな」

 

「……ラスベリーは、私に手紙を残したの。

丁寧な文字で、一枚だけ」

 

彼女の言葉に、ラスベリーはミトがいなくなったあの日命からがら宿に逃げてきた時のことを思い出す。

 

どうにかアスナをベッドにまで運んだ後、彼女の元を離れると決断した彼が密かに書き進めていた、別れの際にレイピアとともに渡した手紙の内容を。

 

 

 

『俺は、なんでここにいるのか判らねぇ。

ゲームの中って意味じゃあねぇ、お前さんの傍って意味だ。

 

目が覚めたらお前さんがいて、まったく知らねぇ家だった。

 

それまでの記憶は無かった。

あったのはツギハギの思い出と、夢中になって見てたテレビの音だけ。

 

だから俺は、お前の知っている残光晴輝じゃあないんだ。

 

俺がいたらお前さんの未来は、きっと本来のものとは違う形になっちまう。

 

お前さんの幸せを奪う権利は、俺にはねぇ。

ましてや、傍にいて愛してもらう資格もねぇんだ。

 

だから俺は、お前さんから離れることにした。

この世界の未来を守るために、少しでも最悪の可能性を減らすために。

 

こっちでやれそうなことは全部やる。

表に出ねぇような悪を止めたり、戦えねぇやつらを助けたりな。

 

何が出来るのか、まだ全然判んねぇけどよ。

俺はただ、お前さんの幸せをずっと願ってる。

 

だから、もし心から愛せるヤツに出会ったら。

そん時は、ずっと仲良くしろよな。

 

……最後に。

なんにも判んねぇ状態の俺に優しくしてくれて、色々支えてくれてありがとうな。

 

恩の一つも返せねぇのは悔しいが、そんなことすりゃあ俺の気持ちが揺らいじまう。

 

お願いだ、俺を非情な人間でいさせてくれ。

 

叶うなら、俺のことをキレイさっぱり忘れてくれ。

 

理由はたった一つ。

お前さんがあるべき、未来のために。

 

元気でな、明日奈。

 

――残光晴輝より』

 

 

 

「……その手紙を、私は破り捨てた。

ワケが判らなかったから。

認めたくなかったから。

まるで自分をいないみたいに言うあの人を、許せなかったから。

何より……ずっと傍にいた私に、なんの相談もしてくれないままいなくなったから」

 

「そうか……君たちにも、色々あったんだね」

 

ここで言う‘君たち’というのは、二人の会話を影で聞いているラスベリーにも向けられたものだ。

 

彼は自らのことを、突然この世界に割り込んでしまった部外者だと思っている。

その不確定要素が入り込むことで、すでに敷かれていたレールが壊れて最悪の結末を迎えてしまう――それを恐れたが故に、今の道を進み続けている。

 

だがそれをアスナは認めない。

彼女からすればラスベリーは幼い頃からずっとそこにいて、ともに思い出を築き上げてきた大切な人だから。

 

覚えてないと言われても、非情な振る舞いをされたとしても。

彼のことを、諦められなかった。

 

「アスナさんは、彼を取り戻そうとしているんだね」

 

「うん……

だってあの時の彼は、凄く辛そうな顔をしてた。

着きたくない嘘までついて、判らないなりに必死で……

私はあの人に、ラスベリーに伝えたい。

あの人はちゃんと私の目の前にいることを、そんなことしなくても良いんだってことを」

 

少女の声が、微かにだが震えている。

岩陰から顔を出せないのが、とてももどかしい。

 

だが自分は一年半以上も前に、彼女のため心を鬼にすると決めた。

 

ここで姿を見せるのは、アスナのためにならない。

そう自分自身を強く縛り付ける。

 

「覚えてないって言うなら、何度だって教えたい。

私に声をかけてくれたあの人の優しさを、一緒に過ごした時間のことを。

……それまでは私、諦めない」

 

「……かつて攻略の鬼とまで称された、閃光のアスナ。

何故あぁまでして強さにこだわるのか、ずっと疑問だったけど。

……その人のためなんだね?」

 

「今までボス攻略のためとか、色んな理由をつけてメッセージを送って来たけど。

そんなの全部建前……私はただ、彼に会いたい。

彼を守るための力があるって、証明したい。

だから私は、血盟騎士団に入ったの」

 

別れ際にラスベリーが浴びせた罵詈雑言、『弱いから』という理由はあの日から、彼女の心に深く突き刺さっていた。

 

今では本心からではないと判っている、でも実際あの頃は初心者だった。

ミトはもちろん、ラスベリーとは埋めようのない差がどうしてもそこにはあった。

だからこそ嘘だと判っても、否定しきれない。

 

その時の悲しみを原動力に、アスナは立ち上がった。

何者にも負けない強さを渇望し、立ち塞がる障害ならすべて斬り捨てて来た。

 

彼女の積み上げて来たものは血盟騎士団へのスカウトという形で認められ、今ではギルドの副団長にまでなった。

その事実を一体誰が否定出来ようか。

静かに燃える信念を宿した瞳に、パルディアは思わず感嘆の声を漏らす。

 

「君の事情は判った。

それで、会ってどうする気だい?

もしかしてKoBに入ってもらうとか、そんな感じかな。

……って、そこまで答える気はないか」

 

「えぇ、この先は直接ぶつけてみるつもり。

パルディア君も、何か判ったら教えてね」

 

「あぁ、尽力させてもらうよ」

 

パルディアの取り繕った感情に微かな違和感を覚えながらも、顔を伏せたままアスナは彼を素通りして去って行った。

 

言葉が出なかった。

彼女の秘める想いの強さに、ラスベリーの心は揺れ動きかけていた。

今すぐ追いかけて謝るべきか、真剣に考えてしまうほどに。

 

溢れそうになる涙を拭うよりも早く、パルディアの声が無慈悲にも迷う暇を奪い去る。

 

「もう姿は見えない、出てきて良いよ」

 

「……おぅ」

 

「彼女、相当な信念を持っているようだね。

思わず気圧されそうになっちゃったよ」

 

そんな言葉をかけられながら現れたラスベリーの頬は、僅かに濡れていた。

慌てて涙を吹いたのだろうか、微かに跡が残っているその顔は、複雑な表情を浮かべている。

 

「正直アスナさんは強いよ、僕なんかよりも遥かに。

彼女は間違いなく、最強クラスのプレイヤーだ。

もし君たちが出会ってしまったら、さすがに僕でも庇い切れない。

……それでも君は、アスナさんから目を背ける気かい?」

 

「……言われなくても、いつまでも続かねぇことぐらい判ってるさ。

アイツとは、いずれ決着をつけなきゃならねぇ……

アイツのあるべき明日のために。

俺ァ、アスナに勝つ」

 

「なら、その意志を示してもらおうかな」

 

彼の儚い覚悟に応えるため、パルディアはその腰から刃を引き抜く。

 

直後に操作されたシステムウインドウからはデュエル申請が飛ばされ、その宛先は当然ながら目の前の青年。

ラスベリーはたった今、パルディアから勝負を申し込まれたのだ。

 

「ルールは初撃決着。

先に攻撃を当てるか、相手のHPを半分以下にした側の勝ちだ。

アスナさんに勝ちたいのなら、僕に食らいついてみせろ」

 

「へっ、そういうことか。

なら精々、英雄様の胸を貸してもらうとしようかァ!!」

 

殴るような要領で○ボタンを押し、空中に現れた試合開始前のカウントダウンの脇には、二人の名前がそれぞれ表示される。

 

思い返せばパルディアは、初めて会ったあの時点からかなりの強さを持っていた。

それが今では攻略組の中でも指折りの存在となっている。

相手にとって不足はない。

 

数字が5となるとほぼ同時にラスベリーもようやく自身の得物を構え、真っ直ぐにパルディアを見据えた。

 

「その剣、アウリオンだっけ?

それの力も確かめてみたかったんだ」

 

「キリトから聞いたってところか?

いいぜ、思う存分味わわせてやるからよ!」

 

「……黒い流星、ラスベリー。

この隻翼の錆になるかい!?」

 

以前にも聞いた決まり文句とともに、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

パルディアの得物は言葉通り、あの時と同様の太刀である『隻翼』。

すでに限界まで強化が施されたその刃が放つ輝きは、まさしく神剣。

 

突風が起こるほどの水平斬りがラスベリーに襲いかかる。

あまりの速さに一瞬動揺するが、すぐに冷静さを保ちそれを正面から受け止めた。

 

だがパルディアはこの太刀を常に振るっているからか、華奢な外見に反してかなり重い刃だった。

もし仮想世界でなかったら腕の骨にヒビが入る、ないしは折れてしまってもおかしくないほどに。

 

このまま鍔迫り合いを続けるのはマズいと考え、ラスベリーは蹴りをお見舞いしつつ後転。

5メートルほど距離を取って体制を立て直そうと試みるも、ほぼ同時にパルディアが突撃してくる。

 

――しかしラスベリーは、それを読んでいた。

 

「待ってたぜ、リニアー!」

 

「こちらも読んでいた、はあぁ!」

 

向かってくるパルディアを迎え撃つようにして放たれた細剣ソードスキル《リニアー》と、それを相殺せんと繰り出されたカタナソードスキル《辻風》が激突する。

 

やはりパワーではあちらが大きく上回っている以上、直接ぶつかり合うのは不利でしかない。

刃同士のぶつかり合いをほぼ一瞬のうちに済ませ、ラスベリーは刹那のうちに背後へ回る。

不意を突かれて驚愕するパルディアを嘲るようにして、さらなるソードスキルを放った。

 

「もらったぜ、スラント!」

 

「くっ、やらせるものか!!」

 

決まったかに思われた片手剣ソードスキル《スラント》を、無慈悲にもカタナソードスキルである《緋扇》が断ち切り、そのままラスベリーをも斬り裂いた。

 

さすがは最前線で活躍する英雄というべきか、やっと隙を突けたと思ってもあと一歩届かせてくれない。

たった今受けたダメージのせいでHPは残り7割弱といったところであり、トッププレイヤーの強さをその身を持って知ることになった。

 

一方のパルディアもラスベリーの力に驚きを隠しきれていないようで、その表情には鬼気迫るものがある。

血盟騎士団のトップにさえ匹敵すると言われる自分が、攻略組でもない一般プレイヤー相手にここまで熱くなる。

それだけで、彼の実力を認めるには充分すぎた。

 

だが勝負とは非情なもの。

異なる武器種のソードスキルを使ってきたとはいえ、それらはどちらも初級技。

何故わざわざそんなものを発動してきたのか、パルディアはその答えに察しがついていたのだ。

 

「クロスオーバー!

ライトニング・スロー!!」

 

「なっ!?」

 

クロスオーバースキル。

キリトから聞いたそれを使ってくること自体は当たっていた。

 

だが実際に放たれたのは巨大な凶刃を振るうディメンション・ソードではなく、稲妻を帯びたエネルギー刃を飛ばすライトニング・スロー。

 

どうやらラスベリーの方もパルディアがある程度情報を持っていることを想定していたらしく、あえていつもとは戦法を変えてみた結果、彼の顔を歪ませることに成功したというわけである。

 

このまま攻めきれれば勝てる。

そう思われた刹那、パルディアの身体から何かが放出されたように見えた。

 

直後、電撃が被弾。

巻き起こる黒い砂煙の規模からさすがにひとたまりもないはず、というのが普通だが。

パルディアはあろうことか、無傷のままこちらに迫って来ていた。

 

「何ィっ!?」

 

「終わりだ!!」

 

「くそっ、パッシブスキル!

《介入者》発動!!」

 

負けたくない意地からか、普段は人前で絶対に発動しない《介入者》を解き放ち、ラスベリーの身体を蒼い光と粒子が包む。

 

太刀がラスベリーの身体をすり抜け、攻撃を仕掛ける最大のチャンスにこの状況で発動出来るもう1つのクロスオーバー《ディメンション・ソード》を振るう。

 

今度こそ決まった――そんな幻想は、文字通りすり抜けた。

禍々しい巨剣による斬撃は、どういうわけかパルディアには掠りもしなかったのだ。

 

「ッ……!?」

 

その時目にした光景は、果たして夢か現か。

僅かだが、パルディアの身体が紅く光って見えた。

 

しかしその正体も判らないまま、ラスベリーの頭にいきなり強烈な激痛が走る。

介入者スキルが切れたことによるものではない、こんなデメリット今まで一度も発生したことはなかった。

でも何故か今回に限っては、脳も視界も痛みによって少しずつ支配されていく。

 

黒によって埋め尽くされた景色には、やがて異なる映像が浮かび上がって来る。

 

「……深澄、ちゃん?」

 

どこか見覚えのある場所で、目の前を紫髪の少女――兎沢深澄が歩いていて、その少し離れた位置にまだ年端も行かないであろう少年の姿がいる。

 

二人を見下ろすようなその視点は突然左を向いた。

すぐそこには弾丸のような速度で大きな鉄の塊が迫って来ており、直後に焦ったような動きで正面を向いたと思えば、突き出された両手は深澄の背を強く押し出していた。

 

それからほどなくして、視界がグルグルと踊り出す。

中を舞ったその身はコンクリートに打ち付けられ、正面にあったのは爽やかに澄み渡った空と、恐怖と戸惑いに染まった深澄の顔。

何かを喋っているようだが、その声は何一つ聞こえないまま、目の前が闇に染まる。

 

瞬間、身体を引き裂かれる感触とともにラスベリーは正気を取り戻す。

いつの間にか介入者がもたらす無敵時間が切れていたのだろう、パルディアの放つ斬撃がHPを4割近くまで刈り取った。

 

これにてデュエルは終了。

まったくHPを削らせないまま、パルディアの完全勝利という形で幕を閉じた。

 

「……何故、動きを止めたのかな。

こんな時にラグが起きるとは思えないけど」

 

「悪ぃ……思い出しちまった、こんな時だってのに。

……まぁ、思い出すって表現で良いのか判らねぇが」

 

「ツギハギの思い出、だったっけ。

何故戦闘中だったのかは疑問だけど、一歩前進じゃないかな」

 

「まーな、それに少しだけ見れた気がするぜ。

最前線で戦うプレイヤー、その強さのワケってヤツをよ。

お前のおかげだ、パルディア」

 

地面に仰向けになりながらではあるがその手を屈託のない笑顔のまま向け、負けても悔しさではなく相手への敬意を見せるラスベリーに応えるように、パルディアは微笑みながらその手を取り、彼を立ち上がらせた。

 

結果的には敗北でも、英雄とまで称されるパルディアを相手にあそこまで善戦できた。

それだけでもラスベリーの強さは本物であると言えるだろう。

もう少し状況が違えば、レベルを上げていれば勝てていたかもしれない。

 

HPの数値以上に実際には拮抗していたその勝負をいつからか観戦していたもう一人が、拍手をしながら二人の前に現れる。

 

「いやぁお見事、素晴らしい試合だった。

パルディア殿はさすがといったところだが、それに食らいついた君も素晴らしい!

良かったら、名前を教えてくれるかな?」

 

「あ、はい……ラスベリーって言います。

その武装、ひょっとしてKoBの?」

 

「俺はガラル、血盟騎士団の一部隊を取り仕切る隊長だ。

そうか、君があのラスベリーか」

 

ガラルと名乗る白い鎧に身を包んだ長身の男が、礼儀正しく頭を下げて自己紹介した。

 

菫色の少し長めな髪を動物の尻尾のようにして左肩に流しており、琥珀色の瞳を持った精悍な顔立ちといった外見をした彼は、一目で善人だと判る力強い笑顔を浮かべている。

 

「俺のこと、知ってるんですか?」

 

「あぁ、実は副団長が血盟騎士団全体に指令を出したんだ。

ラスベリーというプレイヤーを自分の元に連れてきてほしい。

それが達成出来ればギルドでの昇進、莫大な報酬も考えるとね」

 

「やっぱりね、そんなことだろうとは思ったけど。

それでガラルさん、その後KoBの面々はどうなったんです?

いくら副団長命令とはいえ、あまりに横暴だと思うのですが」

 

「それは俺も思ったよ、パルディア殿。

だが昇進に目が眩んだ欲望まみれの団員、つまりは過激派がいてね。

およそ15人近いプレイヤーがラスベリー君を追っている」

 

冷静に考えれば、あのアスナが血盟騎士団副団長の立場を一切利用することなく、自分の足のみでラスベリーを追跡するはずはない。

 

今でこそギルド内の過激派連中のみだが、いずれは血盟騎士団に取り入ろうと欲をかいたプレイヤーが現れ、自身を狙ってくる可能性がある。

ましてあちらから直々にクエストを出されようものなら、余計にその可能性は高まることだろう。

 

情報誌の件もあり、今のラスベリーは名前こそは出ていないものの有名人。

少しずつ、そして確実に逃げ場が無くなっていっている。

 

やはり彼女とは、いずれケリをつけなければならない。

 

「俺だったからまだ良かったが、これからは安易に名乗らない方がいい。

相手が他の団員なら、襲われないとも限らないからね」

 

「はい、気を付けます。

ところで、ガラルさんはどうしてここに?」

 

「この層に来ているはずの副団長を探しにね。

明日は大事な作戦があるから、あまり出歩いてほしくはないのだが……

どこかで見かけたりしてないかな?」

 

「彼女でしたら、ちょうどさっきあっちへ歩いて行きましたよ。

すぐ追いかければ間に合うと思います」

 

「そうか、助かるよ。

では二人とも、また縁があればお会いしよう!」

 

パルディアが示した方向へと歩きつつ、ガラルは爽やかな笑顔を浮かべながら手を振ってその場を去った。

 

僅かな邂逅だったが、血盟騎士団の中にも味方がいると判ったのはある意味僥倖というべきだろう。

とはいえこれからは、あのギルドの面々にも気を付ける必要がある。

 

「なんつーか、色々すげぇ人だったな。

口調は穏やかだったのに、そこにいるだけで身が引き締まるというか。

パルディアは面識あるんだな?」

 

「別名‘聖なる獅子王’。

団長ヒースクリフが前線に出られない時、彼に匹敵するほどの鉄壁を以てボスの攻撃を防ぎ、圧倒的な統率力で皆を勝利に導く猛将さ。

僕も少し話した程度だけど、彼の実力は本物だよ」

 

「ふぅん、さすがはKoBだな。

攻略組でもない俺にゃあ、とても縁があるようには思えねぇが……

ん?」

 

その時思考を遮ったのは、一通のメッセージ音だった。

クライン辺りが待ちくたびれて早く来るように促してきたのだろうか、そう思ったのだが。

 

ラスベリーの目に入ってきた内容は、雷に打たれたかのように衝撃的なものだった。

 

『ラスベリー大変だ!

九の懐の連中が急に現れて、プレイヤーたちを襲ってやがる!

しかもやつら、村の近くにあるダンジョンから次々現れてるみてぇだ。

イシュのダンナにはプレイヤーたちの避難を頼んどいた!

俺たち風林火山は大元を叩きに行く。

お前も手を貸してくれ!!』

 

「なっ、このタイミングで!?」

 

「ラスベリー、何があったんだい?」

 

「走りながら説明する、急ぐぞ!」

 

クラインへ返す文章を打ち込みつつ、ラスベリーは荒々しく足を動かしながら隣を走るパルディアにメッセージの内容を伝える。

 

彼によれば九の懐が現れたそのダンジョンは『忍びの罠園』というらしく、この67層の中でも特に危険とされている最大の罠迷宮であり、未だ誰も踏破したことはないという。

 

その理由が早速、クラインからの返信という形で現れた。

忍びの罠園は入ってすぐ分かれ道に直面することになり、一般的なダンジョンならどちらか片方が正解なのだが、この場所に限ってはどちらを探索したとしても行き止まりに終わる。

 

というよりは、その行き止まりとなっている扉を解除する手段がその道には存在しないのだ。

一応途中に仕掛けと思わしきものはあるそうなのだが、押しても特に反応があるわけでもなく、攻略班たちは困惑するばかりだったらしい。

 

そこでクラインたちは戦力を分け、二つのルートを進むことにした。

だが今は九の懐の巣窟と化している上に、当たり前ではあるがダンジョンなのでモンスターも多数出現する。

しかも67層自体が罠だらけのフロアである以上、何も仕掛けられていないわけがない。

 

さらに最悪なことに、チームワークに優れる風林火山のメンバーは今分断状態。

早くしなければ彼らの身が危ない。

 

急ぎ忍びの罠園へと向かう二人が間もなくそれを目にしようという時に、一人の大男が立ち塞がる。

黒髪をオールバックにした悪人面の斧使い、カトーだった。

 

「よぉ。探したぜ、ラスベリー」

 

「……カトー、またアンタか」

 

第2層での敗北以来、カトーはラスベリーへの復讐心を抱くようになった。

直属の部下であるロケット隊ともども己を鍛え直し、時には生死を彷徨いかけたこともあった。

 

そして充分すぎるほどにレベルを上げた後、ソロプレイヤーとなった彼の前にカトーは再び現れた。

だがその頃にはラスベリーはアウリオンの特性を理解し使いこなし始めていたこともあり、僅差で敗北。

 

それから何度か戦いを挑みに現れるようになり、今回で4回目になる。

 

「カトー……第2層で暴れていたヤツか。

今向こうで君の組織が悪さをしているようだけど、君の指示かい?」

 

「いいや、生憎俺は関与してねぇ。

ダンジョンを根城にセコい作戦やるヤツなんざ、ホエンぐらいじゃねぇのか?」

 

「……ホエン?」

 

「セコさの塊みてぇなヤツさ。

ソイツのせいで情報屋連中が迷惑してるって言やぁ伝わるか?」

 

若干不機嫌そうに語るカトーの様子から、ホエンという者は相当毛嫌いされているようだ。

それに彼のもたらした情報を鵜呑みにするなら、アルゴの邪魔をしたという一団はホエンが指揮していたものということになる。

 

仮にその通りであった場合、待ち受けているのは青いバンダナを巻いた九の懐の一部隊。

そして彼らのリーダーであるホエンは間違いなく一定以上、あのダンジョンのことを把握している。

 

一刻も早くクラインたちの元へ向かわなければ、彼らの命が危ない。

にも関わらず失せようとしないカトーに、ラスベリーは少なからず苛立ちを覚えていた。

 

「情報提供はありがてぇけどよ、今はそこを退いてくんねぇか?

こうしてる間にも、多くのプレイヤーたちが危険に晒されてるんだ」

 

「……まぁアイツのことはそんな好きじゃねぇし、なんなら協力してやっても良いけどよ。

攻略組の英雄様がご一緒してるとなっちゃ、話は別なんだわ」

 

「っ……!」

 

「俺自身はラスベリーに勝ちてぇ、だが同時に灰の騎士とやり合える機会ってのも逃したくねぇ。

どっちか片方は行かしてやる、だから俺と戦いな」

 

一度敗北した悔しさを勝利という形で払拭したい、それと同じぐらい未知なる強者と一戦交えてもっと強くなりたい。

どちらもカトーにとっては真実であり、果てなき欲望。

 

だがそれらを同時に叶えることは出来ない。

そういった潔さか、或いはラスベリーたちの気持ちを汲んでくれたのかは定かではないものの、カトーは一人を置いていくことを条件に道を譲ると確約してくれた。

 

ここはやはり、戦力的にパルディアをダンジョンに行かせた方が確実だろうか。

自分が向かったところで、絶対にクラインたちを助けられるという保証がない以上仕方がない。

 

そう思って前に出ようとした時、曇った色の刃がラスベリーを遮った。

 

「その勝負、僕が受けて立とう。

ラスベリー、君は早く行くんだ」

 

「パルディア、でもよ!」

 

「クラインさんは君をご指名なんだろ?

なら早く行ってやれ、悠長にしている暇はないはずだ」

 

「……そいつを認める理由は、たった一つ。

パルディア、死ぬなよ!」

 

どこか乱暴に、だがひたすら真っ直ぐに想いを込めた手でパルディアの肩を叩き、ラスベリーは一目散に走り出した。

 

その様子をカトーは止めるでもなく、先に述べた通り彼の姿が見えなくなるまで静かに見守る。

 

「……どうした、そんな顔して。

意外か?大人しくアイツを行かせたことが」

 

「まぁそうだね。

聞いた話しじゃ2層での君は、残虐の限りを尽くしたようだから」

 

「そんなこともあったな。

だがまぁアレだ、心境の変化ってヤツさ。

ラスベリーにあって俺にない強さ、ソイツを探してるうちにな」

 

「殊勝なことだね、そういうの嫌いじゃない。

……じゃあ、始めようか。

九の懐幹部、カトー。

この隻翼の錆になるかい!?」

 

 

 

メッセージウインドウを操作しながら、ラスベリーは迷宮の入り口へと足を踏み入れた。

返ってきた内容によれば、クラインを含めた風林火山の三名は左側のルートに進んだらしい。

戦力的に言えば右側の方が不安ではあるが、ギルドの主力である彼を失うことを恐れ、ラスベリーもまた左側――以降Aルートと称する方角へと走る。

 

どうやらこちらからは右側――つまりBルートは一切確認出来ないようで、こちら側だけでもすでに入り組んだ迷路が辺り一面を支配していた。

だがクラインたちが先へ進めたのならと、勘と僅かな風向きを頼りに探索していく。

 

開けた場所に出た途端彼を出迎えたのはクエスト中にも出くわした忍者2体。

そして直後に高台から飛び降りてきたのは、青いバンダナの九の懐の構成員三人だった。

 

「オイオイオイオイ、死んだぜお前。

ここがどこか判って来てんのかよ」

 

「しかもお一人様だなんて、ずいぶん怖いもの知らずなのネェ。

まぁ良いわ、すぐ外の連中の後を追わせてアゲル!」

 

「……悪ぃがそれは出来ねぇぜ。

その理由はたった一つ!

お前らはすでに、三人もここを通しちまってる!」

 

「中々痛いトコロ突いてくれるじゃナイ。

良いわ、アタシたちアクア隊の恐ろしさ味わわせてアゲル!!」

 

こうしてラスベリーと九の懐・アクア隊に加え、偶然居合わせただけの忍者たちの三つ巴のバトルが幕を開けた。

 

真っ先に突撃して来たのは先ほどから主張の激しかったおネェ口調の片手剣使い。

奇声をあげながらソードスキルを容赦なく放ってくるも、明らかに大きすぎた隙を狙い問答無用のリニアーを放つ。

 

だが同時に忍者モンスターがその背後を取り、鋭い刃を背中に突き刺してきた。

そこに追い打ちをかけようと細剣を持った戦闘員が迫って来るが、もう一体の忍者がそれを阻み蹴り飛ばしてしまった。

 

この乱戦、思った以上に厄介そうだ。

 

「チッ。上手いこと一人減らせりゃあ、あとはモンスターに押し付けられるんだが。

早くしねぇと行けねぇが、焦りは禁物だな」

 

「そこよォオン!」

 

「うわぁっと!?

クソが、離れろオカマ!!」

 

間一髪攻撃を盾で防ぎ、僅か一瞬の隙に鋭い刃を差し入れる。

どうにか活路を開こうにもこのおネェ戦闘員が執拗に攻めてくるので、まったく自分のペースに出来ない現状、さすがに一人では限界だった。

 

だがそんな時、この場にいる全員にとって予期せぬ出来事が起こる。

なんと自分たちを取り囲んでいた榛色の壁が、突然中央目掛けて飛び出て来たのだ。

 

「なっ!?」

 

「オイオイオイオイ死んだわ俺たち!」

 

「行ってる場合じゃないワヨ、早く逃げなきゃ!!」

 

「天皇陛下万歳ィィィイイ!!」

 

阿鼻叫喚の中、ラスベリーは持ち前の跳躍力を生かしてなんとか迫りくる壁の上に乗り、事なきを得た。

 

一方で何やらふざけたことを言っていたアクア隊の面々はアッサリ壁に押し潰されたらしく、モンスターともどももう生きてはいないだろう。

元々殺すつもりのなかったラスベリーにとって手間は省けたのだが、どこか複雑なこの状況の中、急に起きたダンジョンの変化に疑問を覚える。

 

「なんとか助かったが、どうしていきなり壁が……

少なくとも、誰かがトラップを踏んだ様子はなかった。

……一応、クラインに連絡してみるか」

 

メッセージを送ってすぐに、ラスベリーは改めて迷宮の探索を再開する。

 

絶えず襲いかかってくるモンスターやアクア隊の面々を退けつつ、時には崩落や手裏剣の罠に躓きながら駆け抜けていく。

その間もダンジョンは不定期に姿を変えていき、時にはモンスターたちが押しつぶされたり燃やされたりした。

 

やがて開放済みの大きな扉の前にたどり着いたラスベリーの元に届いたメッセージには、クラインたち風林火山も同じような現象に遭遇したと記されていた。

だがどういうわけか確実に奥へは進めているようで、聞いていた情報のような行き止まりには一向に直面していないらしい。

 

何よりも、今目の前にそびえる扉はすでに開かれている。

恐らく力技では不可能だろう、かといって周囲にはこれを開放するための仕掛けも見当たらない。

 

――まさか、このダンジョンは。

確信に迫りかけた時、ラスベリーの目に止まったのは扉のすぐ傍にある分岐点。

つまりは、もう一つの道だった。

 

「……コイツぁたまげた、道理で攻略困難なはずだぜ。

まさか、3つ目のルートとはな」

 

今まで忍びの罠園は、AとB二つの道のどちらかが正規ルートだとばかり思われてきた。

ところがどちらを進んだとしても必ず行き止まりに阻まれ、頻繁に出現するモンスターの存在も相まって撤退を余儀なくされてしまう。

 

しかしこのダンジョンの正体は、それぞれのルートが連動し合う文字通りのからくり屋敷。

風林火山の面々が滞りなく進めたのは、お互いに意図せず仕掛けを作動させたことによって、それぞれの道を解放することが出来たからだったのだ。

 

その上たった今明確に判明した第3の道、つまりはA2ルートの存在。

今までの推理が正しければ、この忍びの罠園というダンジョンは手勢を三つに分けなければ攻略不可能な場所ということになる。

 

「クラインたちは恐らく扉の向こうにいる。

となると向かうべきは、こっちの道か。

……っ、足音?」

 

鳴り響く甲高い音からして、女性だろうか。

咄嗟に近くの柱に身を隠したラスベリーは、あとからやって来た人物の様子を慎重に伺う。

 

急いでここまでやって来たのだろう、息を切らして立ち止まった彼女は得物を鞘に収め、周囲の状況を見回す。

すでに開かれた扉に、脇に見える長い一本道。

4つの柱の中央に立ち思案する少女の声に、ラスベリーは聞き覚えがあった。

 

「ここへ来て分かれ道……このどちらかに、九の懐の幹部がいるのかしら」

 

「……アスナ!?」

 

自身にしか聞こえないほど小さな声で驚愕しつつ、ラスベリーはギリギリ見つからない程度に顔を出して彼女の姿を確認する。

 

見間違うはずのない白の騎士服に、この世界の中でも上位に入るほどの美貌。

間違いなくアスナ本人だと理解したラスベリーは急いでメッセージを確認するが、彼女から追加の連絡はなかった。

 

どうやらアスナは自分を追ってやって来たわけではないらしく、自然に考えるなら九の懐の暴動を聞きつけて止めに来たといったところだろう。

彼女の性格を考えれば何も不思議なことではないが、如何せん今の状況はマズい。

 

だがふと冷静に考えれば、これはある意味チャンスでもある。

 

何故ならクラインたちもすでにこの場所を通っているなら、さらに戦力を分散させるはず。

しかしAルートに来た風林火山は3人。

どちらか片方は一人だけとなり、何かあった時のカバーが一切効かない。

 

そしてラスベリーからすれば、どちらのルートがそれなのかは把握しきれない。

クラインからの連絡を待つのももどかしいほどに時間が限られている現状、少しでも戦力が欲しいと思っていた。

 

早くホエンを叩かなければ、このままアクア隊はプレイヤーたちを襲い続け、次々死へと追いやっていく。

もはや背に腹は代えられまいと、一か八かの賭けに出た。

 

「もう8人もプレイヤーが亡くなってる以上、悠長には出来ない。

行かないと……ッ!?」

 

アスナの足を止めさせたのは、ある一通のメッセージ。

だがその送り主の名前は、彼女からすればずっと探している人物のもの。

 

ラスベリーの仕掛けた博打とは、アスナに対するメッセージだった。

 

『アスナ。俺だ、ラスベリーだ。

今お前の姿が見える場所にいる』

 

「ラスベリー?ラスベリーなの!?

お願い、本当にいるなら姿を見せて!」

 

当然の反応というべきか、取り乱したアスナは大声を出しながら周囲に目を向けてラスベリーを探し始める。

 

そんな彼女を止めるようにして、直ぐ様次のメッセージを送り付けた。

立ち止まり神妙な顔でそれを見つめるアスナは、明らかに震えていた。

 

『悪ぃがそれは出来ない、こっちも一刻を争う状況なんだ。

クラインたち風林火山が、二手に分かれてこのダンジョンに潜ってる。

九の懐を止めるためだ』

 

「……目的は同じってことね。

私に連絡してきたのは、協力を頼むためってこと?」

 

『話が早くて助かるぜ。

散々無視しといて言える立場じゃあねぇのは判ってる、だがお前さんがいりゃあアイツらを助けられるはずなんだ!

頼む、力を貸してくれ』

 

「本当、どの口がって感じよ……」

 

言葉では怒りを見せてはいるものの、その声音はどこか嬉しそうなものだった。

 

ずっと探していた人物が今近くにいて、ずっと返って来なかったメッセージが届いて、そして今自分のことを頼ってくれている。

それ以上にアスナを奮い立たせてくれるものは、少なくとも現状では他にない。

 

「……どうすればいい?」

 

『このダンジョンは恐らく、3つあるルートがそれぞれ連動して成り立っている。

Aの扉がBで開けられるって感じでな。

しかも見ての通り、このAルートは二つに別れちまってる。

俺たちで手分けして、敵の親玉見つけた方がぶっ倒す!

……これでどうだ?』

 

「なるほどね。

それが確かなら、今まで誰も攻略出来なかったのも頷ける。

……でも、はいそうですかって私が手を貸すと思う?」

 

状況的には手を取り合った方がいい、そんなことはお互い判り切っている。

それでもアスナがこんなことを言うのは、これまですっぽかされてきた怒りからだ。

 

自分のことを嫌っているにしてはあの手紙は不自然すぎるし、何一つ連絡もしてくれなかった。

そんな彼に対して不満を募らせていくのは当然ではあるし、ラスベリーの責任としか言いようがない。

 

もはや誠意を見せろと言っているのと同義ではあるこの発言に対し、ラスベリーは少し遅れてその指を動かした。

 

『……この一件が片付いたら、必ずお前に会いに行く。

約束だ』

 

「っ……!

嘘じゃ、ないのよね」

 

かつてのように突き放すわけではない、数秒ほどの沈黙が彼女の言葉を静かに肯定する。

 

彼からのメッセージはいくら待ってみても止まったまま。

僅かな希望の可能性を握り締めて、アスナは無言で頷き脇に見える通路へと走り出した。

 

その姿がある程度遠くなったところでようやくラスベリーが柱から姿を現し、改めて扉の先に広がる赤色の光景を見据える。

恐らくここからは死地、安全に生き延びる術など何一つない。

 

だがそれでも進まなくてはならない。

今も戦うクラインたちのため、こうしている間にも暴れ続ける九の懐を止めるため。

 

そして何より、交わした約束を果たすため。

 

ラスベリーはもう一度、メッセージウインドウに手をかけた。

 

「必ず生きて会おうぜ、アスナ!!」

 

 




【現在のラスベリーたちのレベル】

ラスベリー Lv74
アスナ Lv81
クライン Lv78




あとがき

どうも皆様、神矢レイラです。
儚き虚夢のラスベリー、第7話を読んでくださりありがとうございます。

前回から一気に階層が飛んで67層ですが、詳しい詳細が判らなかったもので、オリジナル要素全開です。
基本的には忍者が出てくる、罠だらけの世界だと思っていただければと……(汗)

今回タイトルにもなっているクラインさんですが、けっこう描くの難しかったですね。
キャラ自体はある程度掴めたはずなんですが、如何せんラスベリーが彼に似た性格をしているもので(汗)
だからこそ、類縁ではあるんですが(笑)

さて、一時的にとはいえ再びアスナと協力することになったラスベリー。
再会を約束してしまった彼の未来や如何に。

ではでは、また次回お会いしましょう!


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