ソードアート・オンライン 儚き虚夢のラスベリー 作:神矢レイラ
お待たせしました、遂に時系列が追いつきます。
いったいなんのことか判らない方もいるかもしれませんね……
この場でヒントを言うとすればそうですね、『1話目からずっと見てくださっている方、本当にお疲れ様でした!』といったところでしょうか(汗)
そして本日はとあるキャラクターの誕生日、実は意図的にタイミングを合わせました。
そのお方ももちろん登場します。
答え合わせはあとがきで……
あ、ところでラスト・リコレクションでユウキとミトが出てきましたね!
特にユウキに関しては女神化しててビックリしました←
ミトはプレイアブルのみとのことですが、私としては参戦してくれるだけでも嬉しいといいますか←ゑ
また、同ゲームで大鎌のソードスキルが実装されているようですが、本シリーズでは引き続きオリジナルの大鎌ソードスキルを使わせて頂きます。
どうかご了承のほど、よろしくお願いしますm(_ _)m
では長くなりましたが、そろそろ本編をお楽しみくださいませ!
P.S.
度々の誤字報告、ありがとうございますm(_ _)m
中々対処出来ておりませんが、随時修正していきます。
八月十四日、嵐は唐突に訪れた。
剣の世界にありながら魔力の満ちるその暗所に響くのは、鋭い鉄の音。
鈍く光が舞い、血の色をした破片が飛び散る。
その度に虚空へと映し出された横線が削れ、一定の値を下回ったものから消えていく。
片やたったの三つ、それに対するは八つ。
倍以上もの差があるこれらは、対立する二つのチームを示している。
そう、たった今行われているのは‘試合’だ。
しかもそれは理不尽なまでのワンサイドゲーム。
時計の針が逆回転することはなく、また一つ空に浮かぶ名前がその姿を消す。
その光景は彼らにとって四回目のもの。
あっという間にこの状況を作り出した‘三人’がまた、その得物を振り上げる。
「サベージ・フルクラム!」
咆哮とともに繰り出された渾身の三連撃が、大鎌を持つ男を容赦なく斬り裂いた。
そのダメージは充分にあったHPの色を変えさせるに至り、彼もまた試合からは除外されてしまう。
これによってお互いの差はまた縮まることになり、あっという間に三対六。
戦況を支配しているのは前者――ラスベリーたちだった。
数の不利をものともせず、対戦相手である
しかもその差は、間もなく覆されようとしていた。
「いっけぇ!」
片手棍ソードスキル《ストライク・ハート》が雷のような音を立てて地面を割る。
しかし細剣を持つ女性構成員はこれを皮一枚で回避し、技を発動したことによる硬直に縛られたリズを見て口角を上げる。
「今よ、ミト!」
「えぇ!」
それは好機が一瞬にして逆転する瞬間。
隙だらけのリズに向かって飛び出した途端、背後から強烈な袈裟が落とされた。
同時に背を抉られ盤上から取り除かれた二人が最後に見たのは、凶刃を振り下ろしたミトの姿。
彼女はいつの間にか後ろに回り込んでいて、リズが仕掛けるタイミングを待っていたのだ。
すでにあと一つしかない人数差も直後にラスベリーが埋め、対等となった双方のチームが睨み合う。
しかしこの時点で、プラズマ隊の二人に宿っていたはずの闘気は欠片も残っていなかった。
「クロスオーバー!
ディメンション・ソード!!」
戦意を失ったその隙を、ラスベリーは決して見逃さない。
細剣ソードスキルである《リニアー》と任意の片手剣ソードスキルを使用していることを条件に発動可能となる大技、クロスオーバーによって現れた大剣が無抵抗のプレイヤーたちを呑み込んだ。
あっという間に残り一人。
この状況に至るまで何もせず、ただ試合を傍観していたイシュのみ。
彼はいったいどういうわけか、デュエルが始まる前と同じ表情を浮かべている。
「ブラボー!
ラス君もそうだけど、お嬢さん方も凄いねぇ。
確かそっちの娘は……
そう、マスターメイサー」
「リズベットよ、よーく覚えときなさい」
イシュがミトのことに関して触れなかったのは決してわざとではなく、彼女が滅龍が同一人物だと知らないからだろう。
今でこそ仲間たちにとっての共通認識ではあるが、少し前まではラスベリーも知らなかった。
アインクラッド一の情報屋であるアルゴすら本人から告げられるまで判らなかったほどであり、イシュがその異名を上げられないのも無理はないと言える。
「これはご丁寧にサンキュー、リズベット君。
そっちはミトって呼ばれていたかな?
ユー含め、良いチームワークじゃないか。
まさかあの人数をノーダメージで突破されるとは思わなかったけどね」
「確かに危なかったけど、事前に情報をくれた人がいたからね。
私たちはそれをラスから聞いていた、だから対策出来たにすぎないわ」
「なるほど、そこもお嬢か。
とすると、ミーのことも割れてそうだね」
瞬間、イシュの表情が色を無くした。
まるで憑き物が落ちたかのように雰囲気が変わった彼は、その手に二メートルは優に超えているであろう長物を出現させる。
「あの槍は!?」
「違う、アレは薙刀よ!
SAOに存在していたなんて……」
「よく知っているね、中々博識なようだ」
槍を思わせる長身と、刀のような鋭い人刃を持つ過去の遺産。
それは物理攻撃がメインとなりがちなこのゲームにおいて、斬撃と刺突を使い分けられる強力な武器に他ならない。
イシュはその刃をこちらに向け、中段の構えを取る。
シンプルながらも隙のないその体勢は、彼がまとう独特のオーラも相まって強烈な威圧感を放っていた。
「お前たちの力は見せてもらった、ここからが本当のデュエル。
三人まとめて相手してやるってハナシだ!」
「っ、来るぞ二人とも!
距離を取るんだ!」
危険を察知したラスベリーがすぐに飛ばした指示は、シオウから与えられた情報があってのもの。
それによるとイシュは幅広いリーチを生かした遠距離戦が得意であるらしく、考えなく彼の領域に近づこうものなら格好の的にされるだけ。
リズとミトは即座に力強くバックステップを踏む。
しかしそれ故に、突如として飛んできた鋭いものを避けられなかった。
「ぐっ……!?」
「これは、針……?」
突然の出来事に理解が追いつかないまま、二人が糸が切れたように崩れ落ちる。
「情報には無かったんだろう?
滅多に使わないからね」
指の間に挟んだ数本の針を輝かせながら、イシュが口元を歪める。
見ればリズたちの身体からは力が抜けているようで、HPバーには状態異常を示すマークが表示されていた。
「二人とも!
っ、スタン効果か……」
「その通り、持続時間は短いけどね。
けど敵の行動を遅らせるには充分ってハナシ」
彼の言葉を台本に、ミトたちの動きを制限していたものが瞬く間に消滅した。
これに気付いた二人は即座に起き上がろうとするが、当然それが見逃されるはずはない。
いつの間にかスタートを切っていたイシュの得物が、すでに眼前へ迫っていた。
「アーク……リニアー!」
「うおぉっと!」
大きく振りかぶった刃が落ちる直前、ラスベリーがソードスキルを飛ばす。
これによってイシュはそちらへの対応を余儀なくされ、身体を派手に傾かせた。
その一瞬の隙に、ミトが二人の頭上に躍り出た。
しかしイシュは彼女から目を切っていなかったようで、容赦なく降り注ぐ凶刃に対しても即座に反応し得物を差し入れる。
「良いパワーだ!
こんな重い一撃、男性プレイヤーでも中々打てないよ」
「そりゃどうもっ!」
耳を劈くような鋭い音を鳴らしながら、両者とも後方に大きく弾かれる。
三人の中でも随一の攻撃力を持つミトの一撃に拮抗して見せる辺り、イシュは相当な手練れと断定して良いだろう。
無論ステータスの高さだけではない。
たった一人で三人を同時に相手しつつ決して目を逸らさない用心深さや、不意を突いたと思ってもそれにすら対応してくる隙の無さ。
彼というプレイヤー自体が、卓越したテクニックを持っているのだ。
「離れれば針が、近づけばあの薙刀が。
しかも後者のパワーはミトと打ち合えるぐらいにはある。
厄介極まりないわね」
「幸い針の方はミリ程度のダメージだが、スタン効果が強力だ。
リズ、俺から絶対離れるな!
ミトと二方向から攻める!」
「了解!」
ラスベリーの指示通り彼とリズが、そして持ち直して間もないミトがそれぞれ直線上に走り出す。
「考えたね、けどどっちが本命でも関係ない!」
当たり前だがそんな単調な動きを見せてしまえば、すかさずカウンターが飛んでくる。
イシュが歓声を上げるのと同時に、いくつもの銀色が飛んだ。
半円を描くようにして宙を舞うそれは、右手に向かうほど厚みを増していく。
その正面にいるのは当然というべきか、ラスベリーとリズ。
鉄の棘はすでに二人の急所を捉えていた。
「クロスオーバー!」
「何っ!?」
咆哮を上げるラスベリーの口から飛び出るようにして現れた禍々しい大剣が壁となり、衝突したすべての針が次々と墜落していく。
一方ミトの方も大鎌を車輪の如く回転させ、巻き取るようにして銀の雨を掻い潜っていた。
「決めるぞミト!」
「えぇ!」
「ディメンション・ソード!!」
闇をまとう巨大な刃が振り下ろされると同時に、大鎌ソードスキル《ファントム・ペイン》の連撃がイシュに降り注ぐ。
ところが彼は寸でのところで超反応。
凄まじい力で大地を蹴り、激しく後退することでそれらを回避して見せたのだ。
「リズ!」
「任せて!」
直後、リズが大きく前進。
ラスベリーの頭をジャンプ台に、イシュの真上を取った。
「くらえぇっ!!」
片手棍ソードスキル《ストライク・ハート》が容赦なく頭上に落とされる。
まさに夕立のような攻撃だが、イシュはこれに対しても紙一重で対応。
髪の毛一本ほどの小さな隙を狙い、僅かな銀閃を発射した。
「なっ……!?」
チクリとした感覚と同時に、全身から力が抜けていく。
それによってリズは、そのままの姿勢で地面と激突してしまう。
だがもはや傘は吹き飛んだ。
土砂降りを凌いだばかりのイシュに、黒い影が迫る。
「もらった!」
「チイィッ!?」
その刃が懐に潜り込んでいたことをイシュが認識したのは、腹が掻っ捌かれた直後だった。
一口齧られたように判りやすく減少するHPと、ステータスの低下を示す複数のアイコン。
それを見て彼は、大鎌使いのミトから目を切っていたことにようやく気がつく。
デバフを与えることが出来る得物の中でも彼女が使っているものは特に攻撃範囲が広く、手数で勝る短剣と比較してその効果を実感しやすい。
それは受ける側としても同様で、ずっと余裕の笑みを浮かべていた顔が酷く歪んでいた。
「やったなミト、ようやく一発目だ!」
「えぇ、でも油断しないで。
どうやらあの針、ソードスキルすらキャンセルさせられるみたいだから」
しかし良い顔をしていないのはこちら側も同じ。
たったの一本でも触れてしまえば先ほどのリズと同じようになる、それだけで二人にとってはかなりのプレッシャーになるのだ。
「問題は、あと何回打ってくるかよね」
痛む身体をゆっくりと起こしながらリズが絞り出した声に、二人は静かに頷く。
イシュが試合に参加してからというものの、彼は絶えず針を投げ続けていた。
しかしこの世界の投擲物は決して無限ではなく、ストレージという限界がある。
消耗品である針を、彼は果たしてあといくつ残しているのか。
三人で力を合わせて掴んだこの光明を生かすか殺すかは、そこが鍵になってくるだろう。
「ま、そこは俺も重々承知してるってハナシ。
……にしても驚いた、まさか俺にダメージを与えるなんてね」
リロードなど無いこの世界で残弾数がどれだけ重要か、当然ヒットマンであるこの男は理解している。
針という名の鉛玉を今一度手に取り、細長い芯に映る自身を見て口角を上げた。
「予想以上のものを見せてくれた礼をしよう!!」
切り裂くような叫声とともに、イシュは頭上に銀色の霧雨を撒き散らす。
その正体は目を覆うような数の針。
それらは毒々しい色の光を放ちながら、四方八方へと溶けていく。
「な、何ッ!?」
「ラスベリー君、もう出し惜しみは無しだ!
俺の領域から逃れられるかな?」
「今投げた大量の針、それに領域……
っ、まさか!」
イシュの言葉に引っかかったミトが、咄嗟に懐から取り出した短刀を一直線に放り投げる。
直後その先の空間が歪み、片手の指ほどの数鋭いものが現れた。
それらは飛翔する刃へと引き寄せられるようにして飛び、数にものを言わせて相打ちに持ち込んだ。
地面を鳴らした双方の凶器を見て、ミトは確信を口にする。
「間違いないわ、トラップ・ビットよ!」
「トラップ・ビット?
何よソレ」
「投剣スキルの一つよ。
周囲に透明化した針を設置して、通過したものに攻撃させるの」
「つまりここはもう、見えない砲台だらけってことか」
思い返せばイシュはその手に薙刀を握っているにも関わらず、ほとんど投擲物を用いて戦っていた。
これまでの戦いからその熟練度の高さが伺えたが、たった今発動したソードスキルによって証明されたも同然と言えるだろう。
それまで針を放つイシュ自身を中止していればある程度軌道を読めたものが、ここへ来て急に意思を持ち始める。
相手はたった一人のはずなのに、今三人は大群を前にしているような感覚に襲われていた。
「当然俺はすべての位置を把握してる。
もうお前たちに逃げ場はないぜ!」
「くっ、レイジスパイク!」
猛突進しながら刃を突き出してくるイシュに対し、ラスベリーのカウンターもまた特攻。
向こうはソードスキルを使っていないにも関わらず、その打ち合いはまったくの互角。
寧ろ地力の差から、ラスベリーが僅かに押されていた。
「くっ……重い。
なんてパワーだ」
「ラスベリー君が軽すぎるだけじゃないかな?
もっと肉をつけなきゃカッコつかないよ!」
挑発的な言動とは裏腹に、イシュは流れるようにサイドステップ。
直前まで全身の力を正面に集中していたラスベリーは、勢いのまま前のめりになってしまう。
「何ッ……!」
次の瞬間、眼前に数本の棘が姿を現す。
途端に音を置いていくような速さで突っ込んできたそれに対し、ラスベリーは間一髪顔を伏せる。
しかし皮一枚掠っていたようで、すぐに全身の力が抜かれてしまった。
「ラス!」
「次はお前だ、リズベット君!」
「しまっ……!?」
間髪入れず距離を詰めてくるイシュに対し、リズの反応が遅れる。
もはやこれまでかと目を閉じた直後――
やって来たのは肉を裂く感触ではなく、耳に残る金属音だった。
「リズ、今のうちに!」
「ミト!?」
ギリギリのところで駆けつけた頼もしき仲間が、かの猛攻を抑え込んでいたのだ。
両者のパワーがほぼ互角なのは先ほどの衝突で確認済み。
この状態はしばらく持つと踏み、ミトは必死に舌を回す。
「周囲には隠れ針がある。
回り込まず上から狙って!」
「わ、判った!」
考える猶予すら無く、リズはその一歩を踏み出す。
心の中で謝罪しながらもミトの両肩を蹴り、イシュの死角へと飛び上がった。
「くっ、させるか!」
「こっちのセリフよ」
イシュの手が動き出すよりも早く、ミトがその大鎌にさらなる力を込める。
完全に身動きが取れなくなったその瞬間、彼の脳天に淡い光をまとう鉄塊が叩き落される。
「行っけぇぇっ!!」
「ぐおぉぉおお!?」
片手棍ソードスキル《ブルータル・ストライク》。
魂の三連撃が、イシュの命の炎を大きく揺らがせた。
「危ない危なィ、あともう少しで負けるところだった」
それでも瞳の輝きが焦ることはなく、却ってその闘志は燃え上がる。
「一気に形勢逆転、そう思っているなら気をつけた方がいい」
不気味に口元を歪めたまま、イシュは両の手で得物を力強く握る。
「だってそうだろぅ?
逆転するってことは、逆転される可能性もあるんだからなァ!!」
イシュが浮かべたその形相は人間のそれではなく、殺戮者そのもの。
凄まじい踏み込みと同時に飛び出した彼の薙刀は、コンマ一秒の中で激しく踊った。
「んなっ……!?」
「くっ……!」
たった今放たれたのは両手槍ソードスキル《ディメンション・スタンピード》。
目にも止まらぬ神速の六連撃が、無抵抗の少女二人に壮絶な刺突を浴びせた。
これによりリズとミトのHPが半分を下回り、デュエルから脱落。
残るはラスベリーとイシュのみとなった。
「これで一騎打ちだねぇ、ラスベリー君」
張り付いた笑みを浮かべながら振り返るが、すぐに表情が強張る。
その理由は至って単純、そこに語りかけた対象がいなかったのだ。
「クロスオーバー!」
待っていた返答は背後からやって来た。
超常的な輝きを放ちながら白刃を掲げるその青年は、全身に力を躍動させていた。
その様を目撃した時、イシュの額から汗が溢れる。
「ベルセルク……レイドぉ!!」
それは片手剣ソードスキルの《レイジスパイク》と任意の細剣ソードスキルの発動を条件に解禁される、ラスベリーの新たなクロスオーバー。
瞬間移動したかのようにいつの間にか懐にいたその男はイシュの身体に強烈な袈裟を落とし、直後に鋭い斬撃を連続して浴びせる。
それから程なくして繰り出された刺突は、眼前の肉を貫こうと空を走った。
「……クク」
「っ!」
だがその猛攻は、勝負を決めるには至らなかった。
イシュの身体は串刺しにならず、代わりに彼の得物が純白の剣を受け止めていたのだ。
「残念だったねぇラスベリー君!」
勝利を確信したようなイシュの声。
それと同時にラスベリーの手に握られていた武器を弾き飛ばし、地面へと叩き落とす。
これであとは彼にトドメを刺すのみ。
もう抵抗する術も無いだろう。
少なくともこの男には、そう見えた。
「……いいや」
「むっ?」
しかしそれは慢心、呆気なく砕け散ることになる。
刃をもがれたはずのラスベリーはあろうことか、天井に届く寸前まで飛び上がったのだ。
それも先ほどまでのイシュ以上に、勝利を信じた表情で。
「リズ!ミト!」
「っ……うん!」
「受け取って、ラス!」
試合からはすでに除外された二人だが、その心は常にラスベリーとともにある。
それぞれの半身とも言える得物を力いっぱいに放り投げ、そのどちらも空に浮かぶ彼の手に吸い込まれるようにして収まった。
「片手棍と大鎌の、二刀流!?」
「これで終わりだ、イシュさん!」
両の手に握る仲間たちの武器を振り上げ、ラスベリーは重力に従い急降下する。
「ライジング……ノヴァぁ!!」
隕石のような轟音を掻き鳴らしながら落下していくラスベリーは、とてつもない圧力を放っていた。
このまま大地に触れれば、きっとそのすべてをかち割ってしまうだろう。
瞬間的に危機を察したイシュは衣服に手を突っ込み、すぐにそれを振り抜いた。
垂直に落ちてくるラスベリーを迎えるのは数本の銀閃。
しかしそのすべてが、ミトから借り受けた大鎌によって弾き飛ばされてしまう。
「悪ぃが、残りの針があることは読んでたぜ!」
「……お見事」
戦いの結末を悟った彼は薙刀を手放し、小さく拍手をしながら顔を上げる。
それとほぼ同時に、リズから借り受けた片手棍が尋常ではないほどの爆風を巻き起こした。
それから程なくして鳴り響いた耳障りのいい音とともに、イシュがその場に崩れ落ちる。
三対十一という異例のチーム戦は、ラスベリーたちの勝利で幕を閉じることとなった。
「俺たちの勝ちです、イシュさん。
このまま一緒に黒鉄宮まで来てもらいます」
「……ヘヘ、やだね」
小さく呟かれた言葉とほぼ同時、強烈なアッパーが音もなく迫る。
ラスベリーは咄嗟にバックステップし距離を取るが、その頃にはすでにイシュは立ち上がっていた。
良く見れば彼のカーソルは夕焼けのように染まっている。
デュエル外で他のプレイヤーに危害を加えたからだろう。
実際、今の攻撃で僅かに身が削れている。
「さっきも言ったけど、ミーにはミーの考えがある。
そのために利用出来るものはなんだって使うってハナシ。
だから九の懐にいるのさ」
「それは……言葉通りに受け取って良いのかしら」
「さぁ、どうだろう?」
不気味に笑うイシュの口調は、戦闘に入ってくる前のように不気味なほど楽しげなものだった。
しかしあのデュエルの直後ということもあり、この場に恐ろしいほどの違和感を生んでいるのは言うまでもない。
何を考えているのか判らない彼に対し、警戒心を固める三人。
引き締まった表情の面々を見て、イシュは不敵に鼻を鳴らす。
「まぁ安心しなよ、少なくともユーたちに危害をもたらすものじゃない。
断言しても良い」
「そう言われて、ハイそうですかってなると思う?」
「だろうね、なら少しは役に立つとしよう。
せっかく勝利したのに褒美が何もないんじゃあ、試合の意味がないからね」
自ら遠ざけた相手に対して、あろうことかこの男はゆっくりと距離を詰めてくる。
直後リズが得物に手をかけようとするが、それを止めたのは他でもないラスベリーだった。
イシュの中にあった戦意がすでに消え去っているのを感じ取ったからだ。
「KoBには気をつけたほうがいい」
一拍置いてから冷静なトーンで放たれたその内容を、三人は一瞬呑み込めなかった。
「あのギルドは、裏で九の懐と繋がっている。
見かけほど白くないってハナシ」
「……アスナがあなたたちに協力するとでも?」
「ありえないだろうね、でも良い線突いてるよ。
副団長『閃光のアスナ』のように重役を任されているプレイヤーたちに、精々目を光らせておくといい」
いったい彼が何を言っているのか、理解出来る者はほとんどいないだろう。
誰の目から見ても大ホラ吹きの虚言でしかないが、ラスベリーには引っかかるものがあった。
今は亡き敵幹部の一人から、そしてこの日仲間から聞いたばかりのとある言葉。
それがイシュの伝えようとしていることに具体的な形を与え、少しの間を置いて形となる。
「……シオウが言っていた、幹部にさえ正体を明かしていない組織のボス。
ソイツがKoBに入り込んでるとか?」
「んなっ!?」
「ッ……!」
「ほぅ、さすがラス君」
もはやアインクラッド攻略において、なくてはならない存在である血盟騎士団。
常に最前線を直走り続ける彼らの中に打倒すべき敵の親玉が混じっているともなれば、その衝撃は凄まじいものだろう。
しかし同時に、そうでなければ不自然な点が多いのもまた事実。
九の懐という組織が醸し出していた違和感の根幹たる存在こそ、姿の見えない主なのだから。
「KoBを始め大小問わず多くの攻略ギルドがあるのに、どうして九の懐は未だに存在しているのか。
笑う棺桶は連合軍に討たれたのに、おかしなハナシだよね?」
「えぇ、これまでマトモな情報が出ていないのも含めて。
けど、もし本当に攻略組の中に紛れているとすれば納得が行きます。
この世界はどこから情報が漏れるか判らない……
そんな立場なら組織のメンバーに正体を明かせないでしょうし、内部から攻略組を誘導すれば自分にとって都合のいい状況をいくらでも作り出せる」
「ちょっと待ってラス。
内部から誘導って……そんなことが出来るプレイヤーは」
「あぁ、相当な発言権がなきゃ無理だ。
とすると、かなりの重役になるが」
「そう、例えばヒースクリフとかね」
イシュがその名前を口にした途端、震え上がるような感覚が三人を襲った。
言わずとしれた血盟騎士団の長にして、ユニークスキル《神聖剣》の所持者。
それこそがヒースクリフだ。
文字通り少数精鋭を率い、他の追随を許さない知略と圧倒的な実力を以てギルドをSAO最強の地位へと導いた存在。
そんなカリスマそのものとも言える彼ならば、確かに血盟騎士団と九の懐を同時に指揮することも充分可能だろう。
攻略状況を大きく推し進めた実績もあり、裏の顔を隠す仮面としても申し分ない。
だがラスベリーは知っている。
ヒースクリフが九の懐のボスを務めることはあり得ないと。
だが他のプレイヤーからすればそういう視点もあるのだと、内心頷いてはいた。
「まぁ、本当のところはミーにも判らない。
信じるか信じないかはユーたち次第ってハナシ」
元の飄々とした態度で置き土産を残し、イシュが一歩ずつ後ろに下がり始める。
それを目にしたラスベリーは、咄嗟に声を張り上げた。
「ミト!」
「えぇ!」
まるで空間を切り取ったかのように、一瞬にしてミトの凶刃が喉元を捉えた。
ピクリとでも動けば首が飛ぶと理解したイシュは、アッサリと両手を上げる。
「最後に教えてください。
組織は今、何をしようとしているんですか?」
九の懐の目的は現実世界への帰還を諦め、このVR世界に永住すること。
そしてその思想を他の者たちにも共有――いや、押し付けることだ。
そのためにゲームクリアを目指す攻略組の妨害や、プレイヤーたちに対する強引な勧誘といった行為を何度も繰り返してきた。
にも関わらず最前線はすでに70層へと移り変わってしまった。
彼らがこの状況を良しとするはずがない以上、いつことを起こしてもおかしくないのだ。
「……九の懐に与するプレイヤーは充分集まった。
もはや有象無象に構ってる暇は無いってハナシだ」
「ま、まさかそれって」
「攻略組への、襲撃……
しかもすでに喉元を捉えているも同然じゃねぇか」
考え得る限り最悪の事態と見て良いだろう。
何せ攻略組が九の懐を討伐するために、戦力を二分すると判断したばかりなのだから。
引き続き攻略を進めるメンバーにせよ捜索隊にせよ、今組織そのものから強襲を受けてしまえば一溜まりもない。
早急に対策を立てる必要があるだろう。
「さて、もう良いかな」
「ぇ……」
イシュが小さく呟いた瞬間、重い鉄の音がダンジョン内に響き渡った。
その発生源はすぐ目の前――ミトがその手から得物を手放し、力なく倒れていた。
「ミト!?」
「イシュさん、アンタまさか!」
良く見れば彼女の太腿には、銀色の針が二本突き刺さっている。
先ほどのデュエルで出し尽くしたものとばかり思われていたが、僅かに隠し持っていたらしい。
「充分ヒントは与えた、もうサービスは終わりだ。
そこで気絶してるプラズマ隊は好きにして良いから、あとは自力でどうにかするんだね」
「っ、待て!」
「また縁があれば会おう、ラス君」
その言葉を最後に強烈なバックステップ。
瞬きよりも早く、イシュはその姿を消してしまった。
今から追いかけても、とてもじゃないが間に合いそうにない。
そう判断したラスベリーは悔しさを噛み殺しつつ、ミトの元へと駆け寄る。
「大丈夫か?」
「平気よ、スタン効果はもう切れてるし。
それにしても、大変なことになったわね」
「……そうだな」
ミトの手を引きながら、ラスベリーは冷静に現状を確認する。
戦いに勝利し一定の情報も得たが、肝心のイシュには逃げられてしまった。
これでは目的を完遂したとは言えないだろう。
「とりあえずこいつらを監獄エリアまで送っちゃいましょ。
悩むのはそれからでもいいし」
「リズ……悪ぃな、素材集めしたかっただろうに」
「別に今じゃなくても大丈夫よ。
あたしたちに出来そうなことなら、やれるうちにやっとかないとだしね」
「俺たちに、出来ること」
リズとしては何気なく言ったつもりだったのだろう。
しかし攻略組の存亡に関わるかもしれない現状を知って思考を巡らせるラスベリーにとって、それは暗闇に一筋の光を差すようなもの。
彼ら裏解決屋が課せられた目的は、九の懐を無力化すること。
だが、かの組織はいよいよ攻略組そのものに攻撃を仕掛けようとしている。
そんな状況で自身が切れる手札は何か、ラスベリーは必死に思い悩む。
「ラス……?」
偶然か必然か、その答えはミトが心配そうな顔を向けてきた時に定まった。
「……なぁミト、頼みがあるんだ」
確かな暗影を残したまま、三人はその日の活動を終えた。
――闇が明け始める時刻、寒々しい雰囲気をまとう尖塔の群れを掻き分け歩く一人のプレイヤーがいた。
微かな陽光に彩られた緑の少ない街並みを見渡し、息を呑む。
ここを訪れるは三度目だが、いつ来ても慣れる気がしない。
中心に聳え立つ要塞のような建物が街のすべてを透視しているような気がして、妙に重苦しい空気が漂っているのだ。
だが彼は今まさに、その建物へと向かっている。
二千二十四年、八月十五日。
この日運命を動かすために。
独特の蒼い模様を描いた漆黒のコートを靡かせたその青年は、瞳を閉じて回想する。
この一歩を踏み出す前、自らの背を押してくれた出来事を。
九の懐・プラズマ隊を全員監獄へと送り終えたあと、ラスベリーは事務所に直帰せずミトとある場所を訪れていた。
それは第5層にひっそりと構える、彼女が経営しているお店。
イシュとの戦いを終えたあとに口にしていた頼みとは、仕立て屋としての力を当てにしてのものだったのである。
『お待たせ、出来たわよ』
すでに夜が世界を支配している頃、疲れ切ったミトの声が部屋によく通った。
しかしそれとは対象的に、彼女の表情はどこか生き生きとしているようにも見える。
直後慣れた手付きでウインドウが操作されたことで、ラスベリーの元に一通のメッセージが届く。
件名に表示された文字に若干驚きつつ、中に同封されていたアイテムを確認する。
『……なんだこれ、最高だ。
お前さん、もうとっくにアインクラッド一の仕立て屋なんじゃあねぇか?』
『それはどうか判らないけど、めちゃくちゃ気合入れたのは確かよ。
何せあなただけの、あなたのための特注品なんだから』
『早速、着てみて良いか?』
ラスベリーの無邪気な質問に対し、返されたのは力強くも優しい微笑み。
アイテムストレージに収納されたそれを装備品として設定し、間を置かず彼の身体が眩く輝き始める。
光が去った時、その身はすでに新たな衣をまとっていた。
タキシードを思わせる上品なロングコートはラスベリーの身体に寄り添いつつも、主張しすぎない程度の色合いが比較的派手な造形と理想的なほど溶け合っている。
完全に自分に馴染んでいるその装備に彼は大満足の表情を浮かべ、ミトも同じように笑う。
『幻夢の閃光、ここに完成ね』
『そう言うってことは、やっぱりちょっとはアスナを意識してたとか?』
『まぁ、当たらずも遠からずってところかしら。
良く似合ってるわよ、晴輝さん』
一切前触れ無く本名を呼ばれたことで、心臓が鷲掴みされかのような感覚がラスベリーを襲う。
その顔は恐ろしいほど緩み、頬はリンゴのようになっていた。
『そ、そういうの……いきなりはズルくないか?』
『良いじゃない、他に誰もいないんだし。
……どう?
少しは女として意識してくれた?』
『ったく……大人をからかうんじゃあねぇよ』
真っ赤な顔で甘い言葉を囁かれては、目を逸らす他ないだろう。
だが今自身を包みこんでいるのは、ミトが自分のために用意してくれたもの。
その感謝を伝えるべく、なんとか視線だけは向けることが出来た。
『ありがとな、ミト。
昨日に続いて今日も急だったのに、こんな最高なモン用意してくれてよ』
『気にしないで、だって明日は……フフッ』
『ぁ……
覚えててくれて、サンキューな』
まるで今この瞬間だけ現実世界の日常に帰ってきたかのように、二人して楽しそうに笑い合う。
未だすべての記憶が戻ってきたワケではないが、そのどれもがかけがえのない大切な思い出。
それらはいつ如何なる時でも、彼の心を支えてくれる。
『何かあったら報せてね、すぐ飛んでいくから』
『おぅ、頼りにしてるよ』
そのやり取りを最後に、ラスベリーはようやく帰路についた。
ギルドのメンバーやキリトたちへの連絡を済ませた上で、自身のホームも兼ねる事務所で眠り一日を終えたのが昨日の出来事。
今一度、自らが着ている服に触れてみる。
自分のためだけに用意された、まったく新しい最強の衣。
性能はミトからのメッセージ曰く『史上最高傑作』とのことで、実際その数値はラスベリーを驚愕させるほどだった。
だがそれ以上に彼女からの愛が惜しみなく込められているようで、心が温かくなっていくのを感じる。
これを装備していれば、いつでも傍にいてくれるようなそんな感覚。
元々遠く離れていても心は繋がっているとは思っていたが、ここまでダイレクトに彼女の存在を確かめられるのは嬉しいことこの上ない。
今ここにいるのは彼一人だが、この男はいつでも大切な仲間と一緒なのだ。
「ミト……お前の気持ちに応えるためにも、俺は」
顔を上げて、目の前の光景を直視する。
この街――帝都グランザムの中で最も大きな建物、血盟騎士団の本部だ。
決意の籠もる瞳が見つめる先には、二人の騎士服をまとった男性の姿があった。
言うまでもなく門番であろう彼らはラスベリーが近づいてきていることに気が付き、顔をしかめる。
「止まれ、ここから先は我ら血盟騎士団の領域であるぞ」
「貴様、名を述べよ」
威圧的な声に従うまま一メートルほど離れた位置で立ち止まり、奥に構えるギルドの紋章を一瞥する。
赤地に白の十字を描いた、一目で神聖さを感じ取れるシンプルながらも洗練されたデザイン。
彼らが掲げる誇りにして、最強たる地位そのもの。
それを理解した上で、ラスベリーは強気に答える。
「……副団長、閃光のアスナに伝えろ。
幻夢の閃光ラスベリーが、70層の攻略に行く。
街を出た先で待つ、と」
「な、なんだと……!?」
彼が告げたのは宣戦布告そのもの。
血盟騎士団側からしてみれば、何も言わず自分たちのサブリーダーも差し出せと言われているようなものだ。
しかもその名前はアスナがギルド全体に捜索司令を出したことで団の全員が知っているものであり、二人の目の色を変えさせるには充分すぎた。
「貴様、あのラスベリーか!」
「副団長の異名を語る不届き者め、ここでひっ捕らえてくれる!」
「止めないか、お前たち!」
二人が剣を抜いた直後、突然彼らを引き止めた怒声。
それはいつの間にか背後にまで来ていた長髪の人物こと、クラディールのものだった。
「く、クラディールさん……」
「ラスベリー君、アスナ様には私から連絡しておく。
君は早くここを離れなさい」
「……ありがとうございます」
静かな笑顔を向けてくるクラディールに一礼し、ラスベリーは早々に踵を返した。
反発した団員二人が騒ぎ立てる声が何度も背にぶつかって来たが、次第にそれは聞こえなくなっていった。
転移門の前で呪文を唱え、その身は青白い光へと包まれる。
暗転した視界が元に戻った時、どこか見覚えのある光景が彼の目に飛び込んできた。
「っ……ぉお」
第70層の中心に形成された白亜の都、『カデンツァ』。
最初この街を見た時、ラスベリーは転移先を間違えたのかと思った。
何故ならその様相は、限りなく第1層の『はじまりの街』に酷似したものだったからだ。
事実今彼がいる中央広場もかつて茅場晶彦がデスゲームを宣告した場所に似ており、細かな建物の配置や漂う空気に至るまでそっくりと言って良い。
「なんていうか、色んなことを思い出しちまうな」
複雑そうな笑みを浮かべながらシステムウインドウを操作し、マップ情報を表示する。
画面が示しているのは間違いなく第70層であり、間違って最下層に降りてきたワケではないことに安堵する。
確かにはじまりの街によく似ているが、そもそもこのゲームはRPG。
ましてあの茅場晶彦が完全に同じ場所をここまで判りやすく用意するはずはない。
おそらく明確な差異や、何かしらの意味があるのだろう。
ラスベリーは第1層当時の記憶を頼りに、街の探索を開始した。
「構造は似通ったところが多いが、微妙に高低差があるか?
……いや、あそこと比べると都会っぽいような。
それかヨーロッパ州とかが近いか?」
街の様々な姿を見ていく度に、少しずつ違いが見えてきた。
SAOには様々なテーマを持ったフィールドが存在し、いずれも多種多様なモチーフを取り入れている。
故にここも何かしらの元ネタがあるのだろうが、ラスベリーにはイマイチピンと来ていないようだった。
「ってそんなことよりもアスナだ。
もう動き始めてるのかな」
再び展開したウインドウを操作し、フレンドリストに登録されたアスナの項目に触れる。
彼女の現在地は『カデンツァ・転移門広場』。
先ほどまでラスベリーがいた場所だ。
「……良かった、しっかり着いてきてる。
とはいえここは人目があるし、もう少し離れた場所がいいな」
出来れば彼女とは一対一で、それも誰の邪魔も入らないところで話をつけたい。
だからこそラスベリーは、わざわざ街を出た先で待つと伝言を残したのだ。
周囲を一瞥し、フィールドに出られそうな場所を探す。
街ゆく人の流れや大きく聳え立つ時計塔との距離、風の音が示す方角。
そのすべてを頼りに彼は、脇に見える抜け道に気が付く。
「あそこか」
十代になり立てぐらいの子どもが通れそうなほど小さな穴を前に身を屈め、匍匐前進。
窮屈な通路を抜け、ラスベリーがたどり着いたのは無限に広がる緑。
少し前まで自然とはほぼ無縁な街であるグランザムにいたこともあり、目を覆うような草木の数に思わずうつ伏せの状態であることも忘れて圧倒される。
「うひゃあ……
樹海ってほどじゃあねぇが、とんでもねぇなぁオイ」
現実感のない光景に感心しつつ下半身を抜け穴から出し、ようやく身体を起こす。
改めて見てもここは、どこまでも広がる森。
街は第1層に酷似していても、外はまったくの別物だったのだ。
改めてウインドウを召喚し、アスナの現在地を確認する。
表示された文字は『カデンツァ・商業区』。
これも先ほど同様、ラスベリーがいたエリアだ。
おそらく入れ違ったのだろう。
「……もう少し遠くに行くか、ここで騒いだら街のヤツに聞かれちまうし。
それに……」
肌で感じていたことを確信へと変えるため、ラスベリーはその双眸を深緑色に発光させる。
直後彼の視界が何度も反応を示し、おびただしいほどの危険信号を報せてくる。
どうやら索敵スキルが、かなりの数のモンスターを捉えたようだ。
「仕方ねぇ、ちょっくら運動するとしようか」
鼓膜を打ち鳴らす木々のさざめきを掻き消すようにして振り下ろされた右手に、針のように鋭く細い濡羽色の刃を光とともに出現させる。
それはラスベリーが普段愛用しているメサイアとも違う、まったく新しい得物。
だがその刀身がまとう独特の雰囲気は、彼らがユニークウエポンと呼ぶそれだった。
「リズ……」
ラスベリーは再び回想する。
この黒刃を創り上げてくれた少女とのやり取りを。
『やーっと来たわね主人公、それがミトからの贈り物?』
開口一番に浴びせられた言葉がそれだった。
早朝ラスベリーは彼女から送られてきた大量のメッセージによって叩き起こされ、このリズベット武具点に来るように言われてきたのだ。
その出迎えがまさに今飛び出てきたものであり、意味ありげな笑みを浮かべているリズとは対象的にラスベリーは若干引いている。
『主人公って……まぁいいや。
あぁ、性能も着心地もデザインも全部完璧だ』
『確かに凄くカッコいいじゃない、さすがは我がギルドが誇る仕立て屋ってところね。
……しかしまさか先を越されるとは』
『先……?』
『ラス、はいこれ』
その素っ頓狂な声に応えること無く、リズは何か重たいものを手渡してきた。
ラスベリーの大きな手にも収まらないそれは、茨のような模様を描いた灰色の鞘に収納された一振りの剣。
いきなり凄まじいものを渡され目を丸くする彼の顔を覗き込み、リズが楽しそうな表情を浮かべる。
その理由を問おうとしたまさにその時、彼女が明るく口を開いた。
『ラス、誕生日おめでとう!
って、ミトにも言われてるだろうけど』
『……ヘヘッ、おぅ』
八月十五日、この日はラスベリーの誕生日なのだ。
今日を以て彼はまた一つ歳を重ね、二十四歳となった。
ミトがオーダーメイドの装備一式を快く用意してくれたのも、誕生日プレゼントとしてだったのである。
『その剣の名前はディフライダー。
なんと、ユニークウエポンの一つよ!』
『ユニークウエポンって、お前!?
コイツをどこで……?』
『真っ二つに折れたアウリオンがインゴット化したことは覚えてるわよね?
そのうちアンタが使っているメサイアは、柄の側を用いてあたしが生み出した。
これも同じように、刃の方を使って作ったのよ』
その話を聞いてラスベリーは、ようやくその手に握った得物があの時の片割れであることに気が付く。
当時は緊急事態であったが故にメサイアが出来て早々に戦いへと赴いてしまったが、よく思い返してみれば確かにインゴット扱いの残骸は二つあった。
リズは早い段階からそこに目をつけ、彼には内緒で少しずつ作業を進めていたのである。
『つまりコイツぁ、メサイアの兄弟みたいなモンってことか』
『そう言うことよ。
二属性のソードスキルはもちろん、クロスオーバーもちゃんと使えるはずだから、戦闘中に試してみて』
『あぁ、そうさせてもらうよ。
サンキューな、リズ』
子どものように無邪気な笑顔を見せて、ラスベリーはありったけの感謝を告げる。
それに対する返答は元気いっぱいの相づちではなく、沈黙。
違和感を感じて見てみれば、リズは憂いを帯びた表情を浮かべていた。
『リズ?』
『……ねぇラス。
本当に行くの?
最前線……70層に』
『……あぁ、それが俺に出来ることだ』
ミトに仕事を依頼した時点で、そのことは二人に話していた。
九の懐が攻略組に襲撃を仕掛けると判った以上、必然的に彼らは最前線に姿を現すことになる。
イシュから聞き出した情報をキリトにも共有した今、捜索隊も70層に乗り出してくる可能性は高い。
そうなれば九の懐が現れる場所は、ほとんど限定されたようなもの。
ラスベリーは攻略組を守るためにも、それを狙うことにしたのだ。
『やっぱり、あたしも着いていく。
一人じゃ心配だから』
『いや、今回は最前線の偵察も込みだ。
悪ぃが予定通り……俺一人で行く』
『そっ、か』
リズの表情がさらに暗く沈む。
選りすぐりのトッププレイヤーたちを擁する攻略組でさえ、階層を開く度に決して小さくない犠牲を出している。
場合によっては死者も出てしまう以上、彼女の不安も無理はないだろう。
それでも前に進むことを決めたラスベリーは自らの気持ちをその両手に乗せて、目の前で震える少女の肩を優しく包んだ。
『これはお前さんたちと一緒に、最前線で戦うために必要なことなんだ。
大丈夫、目的を果たしたらちゃんとお前さんたちを頼るさ』
『……ラス』
『だから、待っててくれるか?』
そっと頭を撫でる大きな手の温もりに頬を赤くし、リズはラスベリーの目を見る。
どこまでも真っ直ぐで、迷いのない灰色の瞳。
自分を救ってくれた英雄の瞳だ。
『……判った。
その代わり、絶対帰って来なさいよ!
なんなら素材もたっくさん集めて来なさい。
最前線の素材がたくさんあれば、もっと性能の良い武器だって作っちゃうんだから!』
『ヘヘッ、それでこそ俺の相棒だな。
了解だ、期待して待っててくれよ』
お互いの信頼を確かめ合った後、ラスベリーはリズからプレゼントされた剣を装備して店を出た。
「早速、使わせてもらうぜ」
彼女のためにも、必ず生きて帰る。
その誓いとともに得物を握る拳にも力が籠もる。
灰色が混じった漆黒の衣服をなびかせ、ラスベリーは‘飛んだ’。
曲刀とバックラーを携えた竜人族や、厳つい鎧を装備した骸骨の騎士。
そして狼のような姿をした巨大な獣。
それぞれ複数体存在するそれらの魔物たちは、次々に出現する直線状の光に貫かれて塵と化してしまった。
直後、彼らが存在した場所から10メートルほどはあろう場所にラスベリーが着地。
新たな刃、ディフライダーがその輝きを徐々に弱めていく。
先程放たれたのは単なる光ではない。
すべてがこの男の振るう戦技、その軌跡なのだ。
背後で魔物たちがガラスのように砕け散ったことを確認すると、彼は前に向き直りその得物を腰に収めた。
この間一切息を切らすことはなく、それどころか散り様を鼻で笑う余裕さえ見せる。
そんな彼は赤みがかった黒髪を搔き上げながら、目の前の周囲と比較して明らかに異質な光景を見つめていた。
迷いなくその先へ進むその目に映ったのは仄暗く無機質な空間がどこまでも広がる様だった。
外にいたような魔物も一切見当たらず、ただこの場所に吹く風の音が不気味に響くのみ。
このような異様を目の当たりにするのは彼自身初めてで、身の震えを覚えてしまうほどの気味悪さを感じていた。
果たしてそれがこの場所がもたらす恐怖感によるものか、それとも何かが起こることを恐れているのか。
理由の見えない不気味さを気にするでもなく、男は静かに歩を進め始めた。
変わり映えのしない景色を散策すること数分、向かい側から黒衣を身にまとった黒髪の少年ことキリトが姿を現したことで、その足は止まる
「よぅ、お前も来たのか」
「そっちこそ、相変わらず早ぇな。
一番乗りだって思ったのに、もう迷宮区に辿り着いてるとはなァ」
後ろ髪を掻き毟りつつ、ラスベリーがそう言う。
迷宮区と呼ばれるこの空間は彼ら以外にも多くの人々が探し続けていた場所であり、多少の情報ですら誰もがそれを欲しがった。
それはここが人々にとってそれほどまでに重要な存在であることの証明であり、ラスベリー自体この場所に来れた事実に内心とても喜んでいた。
尤も先を越されていたことが早々に発覚したため、それは半減してしまったが。
「俺もさっき来たところだよ。
もしかして、ここの情報が?」
「いや、完全に偶然だぜ。
本当は頼まれて素材収集をしてたんだが……
ま、好奇心ってヤツだ」
「判るよその気持ち。
せっかく自分で見つけたダンジョンなら、真っ先に探索してみたいよな。
……そうだ。
探索がてら、どっちが先にボス部屋を見つけるか競争でもするか?」
いたずらっぽく笑うその表情を見るのは果たして何度目だろうか。
いや、実際に目にするのは片手の指で足りるほどなのだが。
無謀とも思えるこの提案だが、ラスベリーはこの少年の実力をよく知っている。
彼ならばこのまま放っておいたとしても、この未開拓の暗所など用意に突破してしまうだろうと、根拠のない安心感を覚えるほどだ。
そんなキリトから飛び出た申し出を受ける理由はないが、断る理由も特にない。
それに、この場には他に誰もいない。
競争するなら今しかないだろう。
「へっ、良いねぇ。
なら俺は右から行かせてもらうぜ」
「なら俺は左側かな。
あ、なんならモンスターを倒した数も競うか?」
「それは止めとくぜ。
お前は最前線で、俺は無名……話になんねぇだろうからな」
まぁ、ここに来る前に最低でも10体近くは倒してるけどな――滑り落ちそうな言葉に封をして、今度はこちらがやや自嘲気味に笑みを浮かべる。
キリト自身ラスベリーの実力を知った上でさらなる提案をしてみたのだが、半ば予想通りの反応に肩を落とした。
とはいえこちらは本題ではないので、そこまで残念がってもいないのだが。
「判った。
万が一にもないだろうが、死ぬなよ」
「どうかな、案外ポックリ行くかもしれねぇぜ。
でもまぁ、今日ばっかは逝きたくねぇかな」
「へぇ、珍しいな。
お前がそんな顔するなんて」
「理由はたった一つ!
女の子のためなら、お兄さんは頑張れる!」
聞いたこっちがバカだったとでも言わんばかりに、キリトは呆れた顔をした。
だが今の発言でラスベリーに素材収集を頼んだ人物が誰なのかなんとなく察しがついた様子で、どこか安堵したように息を吐く。
何気ない会話もこの辺りに、二人はお互いに背を向け合い人差し指を立てた右腕を軽く振るう。
真正面に現れた光をその手一つで操り、両者が握ったのはこの世界で戦うための力。
それはお互いに黒い刀身をしていたが、ラスベリーの持つ得物は少年のものと比べて細く鋭かった。
少々歪な形ではあるが、赤いラインをあしらったその武器は細剣。
レイピアとも呼ばれるものだった。
「さぁて、そろそろ始めるとしようぜ!
負けた方が今日のメシを奢るってのはどうだ?」
「ハッ、良いなそれ。
じゃあ準備は出来てるか?
……ゲーム、スタートだ!」
キリトの掛け声とともに、二人はそれぞれの向く道へと勢いよく駆け出した。
頭一つほど身長の高い自分か、それとも小柄ゆえに身軽な彼が先を越すか。
実力面では劣っていてもこれは先にゴールを見つけ出すための競争、勝利の女神の気まぐれは誰にも見抜けない。
向こう側の足音が聞こえなくなってきた頃、比較的広い場所に出てきたラスベリーの前に、青白い星が降り注ぐ。
3つ同時に開かれたそれは甲冑を装備した獣を生み出し、それらは一斉に鋭い眼光を男に向けた。
「さっきから出て来ねぇと思ったら、待ち伏せかよ。
だがまぁ、上等だ。
レベル差もいい感じにある、突破させてもらうぜ!」
視界に映る魔物たちのちょうど真上に浮かんでいる名前の隣に見える数字は72。
それに対して彼のものは79。
多少上回っている程度でしかないが、襲い来る獣たちの動きは揃って単調なもの。
まるでダンスでも踊っているかのように繊細な動きを続け、時には中を華麗に舞うことですべての攻撃を完璧に避けきる。
もう一度飛び上がったところで、再び得物を呼び出した時の光を出現させる。
次の瞬間彼の手元には紫の液体が入った瓶が現れており、着地の寸前でそれを飲み干して見せた。
「終わりだ、カドラプル・ペイン!!」
瞬間、あまりにも早い閃光が獣たちを切り裂く。
放たれたのは連続攻撃、そのはずだが刹那の間に立ちふさがる敵を空へと還してみせた。
まるでそれは、漆黒の流星。
直前に翻弄されていたとはいえ、ただの一体でさえ魔物たちが視認しきれない速度の刃をこの男は余裕の表情で振るったのである。
待ち構えていた敵を打ち倒し、周囲に気配がないことを確認したラスベリーは再び歩を進める。
「焦る必要はないとはいえ、時間をかけすぎたかね。
……しかし」
ふと、背後に目をやった。
自分がここまで歩いてきた道、という以外はあまりに無機質で寂しい空洞。
そしてこれから、多くの人々が通ることになるであろう試練の路。
先ほども確認したが魔物の気配などは一切ない、しかしラスベリーは自身が指名した少女のことを気にしていた。
「もう少しってとこだな」
向こう側から微かに聞こえる風の音から、少しずつではあるがゴールが近づいて来ている。
それと同時に、彼女との対話に最適な場所も目前に迫りつつある。
そう確信した途端、ラスベリーは勢いよく走り出した。
キリトとの勝負のためではなく、己が抱えた宿命を果たさんがために。
やがて彼がたどり着いたのは、先に獣たちと戦いを繰り広げた場所よりも広々とした空間。
円を作るようにして周囲に配置された松明が、この迷宮の冷たい雰囲気をさらに不気味に彩るようだった。
「いかにもってところに出たが……
大抵こういう場合だと」
警戒心を最大限に高め、ラスベリーは視線を頭上へと移す。
天井が全く見えないほどの見事な暗闇、その奥から何か巨大なものが落ちて来る音が少しずつ大きくなっていく。
その正体を確信した男が得物を構えるのとほぼ同時に姿を現したそれは、青い炎に燃える顔を持った岩の人形。
魔導のゴーレムといった風貌だった。
「やっぱ中ボスか。
にしても、魔法ねぇんじゃなかったか?
んまいいや、こっちは人を待たせてんだ。
容赦しねぇぜ!」
宣言とともに駆け出した彼を出迎えた容赦のない拳を地面を蹴って飛び上がることで回避し、そのまま腕を伝い燃える顔面へと迫る。
ゴーレムが彼を近づかせまいと身体を揺らし、その灼熱の顔から無数の炎を発射した。
細身な得物ではこれを弾き返すことは困難を極める。
だからこそラスベリーはギリギリのところでそれを避けてみせた。
不安定な足場の上で側転を繰り返し、時には紙一重で弾丸の行く末を見届ける。
それを繰り返しゴーレムの肩にまで到着したラスベリーは迷いなく飛び降り、丁度お互いの視線が重なろうというところで刃にエネルギーをまとわせた。
「リニアー!」
強く捻りを入れた強力な一閃が岩石で出来た胸を貫き、ゴーレムの背後に足をついてすぐに振り返り様に横薙ぎを一つ。
さらに真っ直ぐに突きを加え、最後にもう一度最初のものと同じ攻撃を繰り出した。
元の位置に着地し矛を収めるのとほぼ同時にゴーレムの胸にある蒼玉はひび割れて消滅、やがて本体もバラバラに砕け散り天へと昇ることとなった。
これにより、ラスベリーの持つ数値に変化が生じる。
直前までの値から1つ繰り上がり、80となったのだ。
これを確認して小さくガッツポーズを取ったあと、少し前にも飲んでいた瓶を取り出した。
「あと半分ってところだな。
……だが、今は」
また右手を動かし、ウインドウを呼び出す。
目の前に映し出された文字列を見て、ラスベリーは神妙な面持ちのまま頷いた。
今の彼にはもはやキリトとの競争のことなど、頭に残っていない。
何故なら、時がやって来たのだから。
「……ここなら邪魔は入らねぇ。
そろそろ良いだろ?」
「えぇ」
少しだけ怒気を孕んだような、それでいて悲しそうな女の子の声が静まり返った空間に響いた。
直後にコツコツと聞こえてくる自分ではない足音、ラスベリーはその正体を振り返らずとも認識していた。
何故なら彼は、その人物をここまで誘導していたのだ。
尤も迷宮区を見つけられたことは嬉しい誤算だったが。
足音が病み、ラスベリーはようやく目的の少女へと振り向く。
視界にあったのは赤い差し色のよく似合う白い騎士服に身を包んだ、栗色のロングストレートが真っ先に目に入る優しげな雰囲気のある顔立ちの女の子。
だがその榛色の瞳は、明らかに怒りの感情を宿していた。
一方で男の暗い瞳は苦しさを孕んでおり、それを見抜かれないように必死に無を演じている。
そして今、二人の目が合った。
「……久しぶり、だな」
「ずっと、ずっと会いたかった。
どれだけメッセージを送っても反応してくれないし、会いに行ってもすぐ逃げられちゃうし……
色々なことがあったけど、やっと会えた」
語る言葉そのものは嬉しそうな印象を受けるが、肝心の声色は全く真逆のもの。
どこまでも辛そうに、答えが見つからなくて苦しんでいるかのように。
片腕で身体を抱き震える彼女の表情は、悲しみと怒りが混じった複雑なものに変わっていった。
肩から手を離し、彼の目を真っ直ぐに見つめて栗色の髪の少女は目の前の男の名前を口にする。
「今まで何をしていたのか……
全部話してもらうわよ、ラスベリー!」
遂に対面したその少女、アスナは真っ直ぐにその気持ちを直接ぶつけてくる。
彼女に対するラスベリーの返答は言葉ではなく、目の前に飛ばした一通のメッセージ。
「っ、これは……デュエル申請」
「……知りたきゃ力で、剣で勝ち取れ。
今のお前ならそれが出来るはずだ、KoBの副団長」
「もう……アスナとは呼んでくれないの?」
無言。
こうなってしまった以上、おそらくデュエルを受けなければ口を開くことはないだろう。
アスナを力強く睨みつける双眸が、そう雄弁に語る。
「……判った」
アスナの細く白い指が、ウインドウの承諾ボタンに触れた。
次の瞬間、二人の間に空いた虚空に両者の名前と数字が現れる。
「血盟騎士団副団長、アスナ。
その勝負お受けします。
……私はあなたを取り戻し、守るために強くなった。
それを証明するためにも」
腰に携えた淡い色の細剣を引き抜き、鋭い視線を目の前の男に向ける。
彼女の表情には、迷いや曇など微塵もない。
「幻夢の閃光ラスベリー、あなたに勝ちます。
……行くよ、晴輝さん!!」
「……上等、ここからは試合で語ろうぜ」
お互いの想いが交錯する。
しかしそれらは決して交わらず、相手のことを思い合っているのに何度もすれ違う。
それでも二人は、それぞれの意地を通すために退くワケにはいかない。
いつかこの日が来るとは思っていた。
心の何処かで、会いたくないとも願っていた。
それでも彼らは、この運命からは逃れられない。
「行くぞ、閃光っ!!」
今こそ、想いをぶつけ合う時。
戦いの始まりを告げる鐘が、運命の産声を上げた。
それは決然と、強き意志を持って動き出す。
【現在のラスベリーのレベル】
ラスベリー Lv80
あとがき
どうも皆様、神矢レイラです。
儚き虚夢のラスベリー、第2部の2話目を最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
……はい、ということで。
遂に第1話で先に描かれていた出来事に繋がりましたね。
実はアレはただの夢ではなく、先の出来事を見せていたのです。
なので皆様は今まで、そこに至るまでの道を見ていたということになりますね←
アレがただの夢で、ラスベリーがまったく同じシチュエーションに出会したのか、
それとも現代のラスベリーがこれまでの経緯を回想していたのが、今までのお話だったのか。
ソレは皆様の想像に任せようと思います。
そして、本日誕生日を迎えたのは他でもないアスナさん。
物語の根幹とも言える人物であり、このシーンが間近に迫っていたからこそ今日この回を投稿したワケです。
さて、この先は本当に新たな領域。
ラスベリーたちの物語をどうかご期待ください!
それでは今回はここまで!
また次回お会いしましょう!
遂に二人が激突……あなたは何を思いますか?
-
ラスベリーを信じる
-
アスナを応援する
-
キリト!早く来てくれ!
-
そんなことよりイシュさん何者!?
-
その他