詰んでる国の王女様   作:花見月

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プロローグ

「――姫様、大変です!!」

 

 執務室の白亜の扉をバタンと大きな音が立つほど勢い良く開けて、質の良い黒のお仕着せを身に着けた一人のメイドが紙の切れ端を握りしめて入ってきた。

 本来なら扉の前にいた騎士らしい優男が、執務室に入るこの侵入者(メイド)を止めるべきなのだが、何の反応もしない。

 ここに来たのが、領主お抱えの魔法研究室付きの侍女である見知った彼女であったため、そのまま通したのだろう。

 

「騒々しいですね、ツァーレ。何があったのですか」

 

 使い込まれた重厚な机にて書類にサインをしていた、淡いブルーのドレスを纏い人形のように美しい金髪の少女が手を止めて、軽く首をかしげながら、入ってきたメイドを見やった。

 

「それが……トブの大森林付近の開拓村が帝国の鎧をつけた狼藉者達に襲われていると連絡が」

 

 ツァーレと呼ばれた美人というよりはかわいらしい、金の髪をきれいに肩で切りそろえたメイドは、手にしていたメモ書きを少女へと差し出した。

 

「帝国? 変ですね……帝国とは話がついているから、私の領土は不可侵のはず」

 

 少女は差し出された紙の上の文字に、さっと目を走らせると、やがて頭痛を耐えるようにこめかみを押さえて呻く。

 

「……あの脳筋(バカ)共、また独断で……」

 

 少女の脳裏には、ペアにして組ませている二人の平民の男が頭に浮かんでいる。

 一人は剣の腕は微妙ではあるが、礼儀正しく正義感に燃え、忠犬のように少女を慕う未だ十代と若い金髪の青年。

 一人は剣の道に関してだけはストイックで、国が誇る最大戦力と言われる戦士長に並ぶ腕を持つが、基本的に生活力がなくだらしない三十路のダメ男。

 全く反対の二人だが基本脳筋であることに変わりなく、深く考えずに正義感で突っ走る青年にダメ男が渋々付き合うことで独断行動になることが多かった。もちろん逆のこともままあるのだが、今回は前述その通りのようであった。

 

「巡視対象の開拓村が複数、襲われて廃村化と……んー、薬草園のあるカルネ村が襲われてなければ、とりあえず良いんですが……。あの二人と一緒に行ってるのは、アルシェ? それとも、セリーシアだったかしら?」

 

「セリーシアでございます。妹がお二人を止められず、申し訳ございません……」

 

 申し訳いと顔色悪く、ツァーレが跪く。

 

「それは、大丈夫よ。あの二人を抑えるなんて、彼女達では無理ですもの。アレを止められるとしたら、魔術師ならデイバーくらいでしょう? とにかく、そのままその二人を追ってフォローをするようにと……あ、それと。その帝国兵士は状況から考えるに法国からの工作員かもしれませんから、敵わない場合はさっさと逃げるように伝えてくださいね」

 

「かしこまりました」

 

「ええと、あとは……そうですね。ねえ、マルムヴィスト。ルベリナとエドストレームの手は空いてます?」

 

 くるりと扉の外に立っていた騎士らしい優男へと振り向いて声をかける。

 

「ええ、その二人なら暇を持て余してますよ。今頃……恐らく訓練場で、兵士を虐めてるんじゃないですかね」

 

 肩を竦めてマルムヴィストはそう答えると、少女はかわいらしく口元に左の人差し指を置いてしばし考え込んだ後に口を開いた。

 

「そう。じゃあ、その二人は至急カルネ村まで向かうように指示を。狼藉者は数名尋問用に残せば残りは好きなように玩具にして(殺してしまっても)かまいませんわ。だから、村人達はなんとしても確実に救うように言って下さいね」

 

「了解しました、姫さん」

 

「全く、あそこの薬草園を潰されたら、我が領の収入が半減どころ騒ぎじゃありませんよ……やっと軌道に乗ってきたところなのに」

 

 ため息を付きながら、姫と呼ばれた少女は困ったように頭を左右へ振った。

 カルネ村には、この少女が指示して作らせた薬草園が隣接しており、少女が領主を務める領収入の要の地点であったのである。

 

「ああ、それなら。隊長にも行って貰った方がいいんじゃないですかね? その方が早く制圧できると思いますが」

 

「ゼロにもですか? そこまで手を割かなくても大丈夫だとは思うんですけど。まあ、暇だったら行ってくれてもいいですわ」

 

「どちらかというと、味方の暴走の足止めの意味が大きいですねぇ……特にルベリナがやべぇ」

 

 身震いするマルムヴィストに少女は、ルベリナの二つ名を頭に浮かべて納得すると、ゼロも一緒に行くように伝えれば、彼は足早に外へと去っていく。

 

「とりあえず、これで続報が入るまで休憩としましょう。ツァーレ、お茶の用意をお願い」

 

「かしこまりました、姫様」

 

 入室してきた時とは逆に、静かにメイドは退室していく。

 一人残された少女は窓の外を見ながら、祈りを捧げるように少女は手を組んだ。

 

「……ふう、これでなんとかなると良いんですが」

 

 彼女の名前はラナー・ティエール・シャルドロン・ライツ*1・ヴァイセルフ。

 由緒正しい、リ・エスティーゼ王国の第三王女であり、若干17歳という若さながら、エ・ランテルからトブの大森林の一部を含む領地を治める大領主だった。

 

 

 

 

 そして、続報が来た時にとんでもない爆弾が、カルネ村にあることを彼女は知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
本来、書籍版ならライル、web版ならランツが正しい





元姫の娼婦なお話、あとラストだけなのに続き書きもせずに何書いてんだよって話ですが、とりあえず書きたくて書いたものなので許してほしい……
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