詰んでる国の王女様   作:花見月

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兄妹愛-前編

 

 

「……それで、そんな話を俺達にしたわけは?」

 

 魔法の明かりが灯ってはいるものの、仄暗い書庫。

 いくつもの書架が並べられ、その中には貴重な魔術書や魔法書が並べられている。元はただの商家の地下倉庫だったものを、この書庫の主がせっせと改造をした結果だ。

 部屋の最奥には、地上の館にあった大きな黒檀の机を運び込んであり、机上にはこの書庫の主が研究しているらしい魔術理論が書き殴られている羊皮紙や、参考にしている書籍が乱雑に置かれていた。

 その机の前に座る書庫の主……眼の部分だけが象形的に刻まれた銀色の仮面に黒いローブを纏った男……デイバーノックが、無機質な響きのある声で、そう話を振る。

 

 彼の側には余りこの場にはふさわしくない、華奢で小さなテーブルとスプリングの効いた長椅子があり、その長椅子には子供が二人座っていた。

 カタカタと震えながら全てを諦めたような、それでいて何かを悟ったような表情をした蒲公英色のドレスを着た薔薇の髪飾りをつけた少女……ラキュースとペールピンクのドレスを着た人形のように可愛らしい幼女……ラナー。

 そして少し離れた壁際には、寄りかかるようにしてこの館の主人である若い男……ブレインが腕を組んで話を静かに聞いている。

 

「そうですわねえ……私一人で抱え込んで、うっかりして"……君のように勘のいいガキは嫌いだよ"って始末されないためにかしら」

 

 ラナーは困ったように首を傾げ、答えになっていない答えを呟き、テーブルの上にのったティーセットから、カップを手に取った。

 

「…………もうだめですわおしまいですわ……なんでわたしこんなしらなくてもいいとんでもないひみつしらされてるんですの……もうやだどうしたらいいの……なんでわたしらなーさまとともだちになったの……たすけておとうさま……おじさま……かみさま……神さま…………」

 

 ラキュースが首にかけた水神の聖印を握りしめ、堰を切ったように泣きながら、つぶやき続けているのを、ブレインは呆れ半分、同情半分の視線を送る。

 

(ラナー姫の破天荒ぶりは、もう慣れるしか無いんだが……このお嬢ちゃんも最近じゃ、神にまで祈り捧げるようになっちまったし、世を儚んで神官にでもなりそうな勢いだな)

 

 そんな事を考えながら、ブレインは美味しそうに紅茶を飲んでいるラナー姫をちらりと見てため息を付いた。

 

「今のところ、決定的証拠はありません。だから、あくまで私の推測と考察の結果だけです。なので、話が出たところで一笑のもとに付されるでしょうね。ただ、今のまま育てば、ザナックお兄様は正妃様そっくりになることは間違いありませんわ」

 

 カップの中身である紅茶を飲み干し、ほぅ……とラナーは息を吐く。

 

 微笑みながら王家のとんでもない秘密――――第二妃の子であったはずの第二王子のザナックが、正妃の子であり、もう一人いたはずの王子が処分されているなどという――――そんな話を自身の考察を交えて、まるで世間話のように語ったラナー。

 

 まさに、何故そんな話を無関係な自分達にした? とデイバーノックではないが、聞きたくなる所業である。その理由が"うっかりで始末されたくないから"という理由になっているようで、なっていないものであるから、なおさらだ。

 

「とりあえず、私の話はこれくらいですわね。後は……ああ、そういえばここに来た理由はこの件ではありませんでしたね。えーと……侵入者があったのでしたっけ?」

 

「ああ、ブレインが登城してちょうどいなかった時間に、ここに入り込んだようだ」

 

 魔法で眠らせてある、とデイバーノックは立ち上がり、部屋を出ると地下室の更に奥へと進んでいく。

 

 地下は倉庫として使用されていただけあり、奥には奴隷用と思われる牢があった。

 王国はまだ奴隷制度が色濃く残る国だ。だから、ただの商家にすら奴隷用の牢がある。ある程度の規模の商家には奴隷は働き手として便利であったからだ。

 

 ラナーとしては、奴隷制度はなるべく廃止に持っていきたいとは思っているものの、根回しの面倒臭さ故に彼女のやりたいことリストの中でも棚上げになっている問題である。

 

 暗い牢屋の中を覗き込んでみると、まだあどけなさの残る十歳前後くらいと思われる少年と……ラキュースと同じ年齢くらいの幼い少女がロープで縛られて壁に背を預けるように寝ている。

 

 ちなみにそのラキュースだが、泣きつかれて書庫で寝ているので、これ以上の心労が無いようで何よりであった。

 

「子供……ですか。自衛は許可していますが、殺さなかったのですね」

 

「なるべく殺すなとも言われているし、殺すまでもなかったからな」

 

 デイバーノックは、そう言いながらこの子供達から奪ったという武器……刃がかけたボロボロの短剣を二本見せた。

 

 ラナーは牢屋の中にいる少年と少女の身なりを確認する。

 元は良い物だったのだろうが、薄汚れてぼろぼろになった服と靴を身に着けている。

 顔はよく見えないが、二人とも投げ出した足に傷や青あざなどが見え、痛々しい。 

 

「元は良家の子供でしょうか……? あの傷は、取り押さえるときにでも?」

 

「いや? あれは元々あったようだが」

 

 そうですか……と、ラナーはつぶやいて一緒に来ているブレインの袖を引く。

 

「ブレイン、あの子達を起こしてもらえますか? もしかしたら、まだ武器を持っている可能性もありますし……」

 

「へいへい。……珍しく、行動を自重しましたね、ラナー姫。いつものように突っ込んでいったらどうやって止めようかと思っていましたが」

 

「ちょっと? ブレイン、あなた普段の私をどういう目で見てるんですの?」

 

 不機嫌そうなラナーに返事はせず、ブレインは鍵を開けて牢の中に入り、まず少年の方の肩をゆすり起こした。

 

 軽くうめいて目覚めた少年は、一瞬自分の置かれた状況がわからなかったようだが、身動きができないように縛り上げられていることと、すぐ側に一緒に忍び込んできた少女が同様の状態になっていることで、逃れようともがいた。

 

「クッソ……ルベリナも捕まってんのかよ……! おい、これ解けよ! ふざけんなっ」

 

 イモムシのように身体をくねらせて暴れるが、隣に寝ている少女……ルベリナを起こす結果にしかならなかった。

 

「…………っ!? 捕まってるじゃん……だから、やめようって言ったでしょ! 兄ちゃんのせいじゃん……」

 

「うっさい! お前だって、賛成してただろ! 昼間なら、人がいないから大丈夫だって」

 

 起こされたルベリナは、自分の置かれた状況を理解すると諦めの入った声で少年に悪態をついた。

 赤毛で毛先に少しクセがある髪質と整った顔……顔がわかるようになると、二人が似ていることがわかった。

 どうやら、この二人は兄妹らしい。

 

「ふう……取り越し苦労だったかしら…………兄妹喧嘩は、後でしていただけますかしら? 」

 

 牢の外から、幼い声──ラナーの声が響いた。

 

「さて、どうしてここに侵入したのかしら? それから、あなた方のお名前は?」

 

「は、誰が言うかよ」

 

 イモムシの姿のまま、少年が凄んだところで全く意味は無い。

 大体、妹である少女の名前はすでに、己が口にしているのだが。

 

「教えていただければ、無体なことはしませんし、何か食事も持ってきますよ?」

 

「そ、そんなもんで釣られねえよ」

 

 ぐぅぅーと腹の鳴る音がするが、少年は頑として口を開こうとはしない。

 だが、もう一人の少女は違った。

 

「食事……食べ物……!? えと、このお屋敷、昼間は人がいないので盗みに入りやすいかなあって侵入しました! 私はルベリナ・ボルジア……兄ちゃんの名前はマルムヴィスト・ボルジアっていいます!」

 

「あ、おい、ルベリナ!?」

 

 あっさりとラナーの言葉にノリノリで答えるルベリナに真っ青になるマルムヴィストだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ラナー:
 王様の耳はロバの耳ではないが、誰かに話したくて仕方なかったので話すことにした人。勘のいいガキ発言で、同じように前世ある人がいないかと思ったけどこの3人は違うんだなと納得。コソ泥っぽい子供二人に興味津々。

デイバーノック:
 人間としての一般常識を学びつつ、魔法研究を進めている。
 屋敷に侵入して、地下にまで入ってきたコソ泥を捕まえたので報告したら、王家の話を聞かされたのでまたも困惑と言う名の宇宙猫。

ラキュース:
 常識人故にかわいそうなことになっている。心労とトラウマがヤバい。最近、アインドラ家も信仰する水神の聖印を授かったので常に持ち歩くようになった。

ブレイン:
ラナーのやることにはだいたい諦めがつきはじめた。

マルムヴィスト&ルベリナ:
 原作では名字は判明していない。
 マルムヴィストはWEB版にはいない。ルベリナは書籍版にはいない。
 名字はルネサンス期のボルジア家(スペイン語読みも一緒らしいため)から。詳しいことは次回。
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