詰んでる国の王女様 作:花見月
現代日本から、異世界に転生――――これはよくある題材だ。一次創作、二次創作のどちらでも。
そして、前世とも言える記憶や、特典やチートなどを持っていて、ストレスフリーなことも特徴だったりする。
最近だと、冒険者パーティから追放された主人公による「もう遅い系」や、乙女ゲーの悪役令嬢主人公物の「逆転ざまぁ」展開なんか人気だった。
私もそういったものは好んで読んでいた方だし、いつか死んで異世界に転生したら……なんて、中二病なことを考えたものである。
しかし、現実となった今となっては、なんて浅はかだったんだろうとしか思えない。
というのも私は、どうやら地球ではない異世界のとある国の王族?の末姫、第三王女として転生したらしい。
ラナー・ティエール・シャルドロン・ライツ・ヴァイセルフ──これが今の私の名前だ。
年齢は三歳で、自分という意識が戻ったのがついさっきのことだから、もしかしたら転生ではなく憑依なのかもしれないが、少なくとも走馬灯のように、この身体の今までの記憶が蘇っており、頭痛がしている。
この国は、リ・エスティーゼ王国というらしい。
良く言えば優しいが、悪く言えば頼りなく優柔不断で、高齢で歳のせいか体調を崩している父である王。
貴族に降嫁したと言うのに甘い父のせいで、王家の財産すら食い荒らす腹違いの姉である第一王女レナーテ*1と第二王女サーナ*2。
国一番の大貴族の娘が婚約者になったことから威張り散らす脳筋バカの第一王子バルブロと、勉強嫌いの太った怠け者だと周囲に思われるように演技をしつつ虎視眈々と王位を狙う第二王子ザナック。
そして、暇さえあれば私腹を肥やそうとする腐った貴族達。
将来は間違いなく、貴族によるクーデターなり、王子による王位継承戦なりの内乱が起きそう。
なお、これはすべて元のこの子が思っていた評価と考察。
え、この子ってば、天才過ぎない……?
普通は三歳で、ここまで周囲を把握してないし、理路整然としてない。
蘇った記憶に私は呆然とした。
あまりにも頭が良すぎる。
三歳にして、この思考回路ってなんだ。
さすが、異世界。とんでもない天才がいる。
……今は、私だけど。
そして、私は少し申し訳なくなった。
こんなハイスペックのこの子の本来の魂を上書きしてしまったのではないかということに。
憑依ならまだどこかにこの子の魂があるかもしれないけれど、それらしきものは全く感じないから望みは薄い。
これが一つめの後悔。
二つめはこの国の状況があまりにも詰んでいること。
国王が高齢でも代替わりしていないのは、そもそも父は第三王子で国王になる予定が無かったことが発端になる。
父は臣下になる予定で教育され、第一王子の王太子が戴冠する際に王家直轄地を割譲されて、公爵となるはずだった。
しかし、王太子が戴冠間近に流行病で倒れ、スペアであった第二王子に王位が転がりこみ、第三王子だった父はその次兄のスペアとして王族に留まらなければならなくなった。結婚も兄(第二王子)がしていないからできなかった。
第二王子は戦争狂で国王として戴冠した後も、結婚もせずに周辺に火種を振りまき、戦争を起こすがその戦争が元で亡くなった。
そして第二王子が始めた戦争を終わらせるために、第三王子であった父は国王にならざるを得なかった。
即位後、結婚するものの長く子供に恵まれず、やっとできた子供も生まれる前に最初の妃は次代の国母を出すことを計画していた貴族に暗殺された。妃を愛していた父はその貴族を取り潰し、十数年も喪に服すことになった。
その後、しばらくして二人目の正妃を迎え、生まれた子供も世継ぎとなる王子ではなく王女。その次に生まれた子も王女だったことから、仕方なく第二妃を迎えることに。そして、兄達や私が生まれた。
ちなみに。この国の王位継承権は基本は男性のみで、同腹ならば年長者から継承順位が与えられるのだが、女性の王位継承権は男性の王族がいないときに暫定的に与えられ、配偶者となった者が国王になる。男尊女卑の世界だから、これは仕方ないと思う。
つまり、兄達が生まれなければ、第一王女であるレナーテの夫が国王になっていた。
彼女が嫁いだのは六大貴族と呼ばれる大貴族の一人、ペスペア侯で貴族の当主としては一番若い。三年前の十八歳の時に結婚し、すでに子供が一人いる。
もう一人の姉の第二王女はウロヴァーナ辺境伯の跡継ぎである孫に昨年嫁ぎ*3、子供はまだできていないが夫婦関係は良好であるらしい。
……まあ、その割には父の機嫌を伺うという名目で、王城に良く姉達は来ているようで、帰りには馬車に大量に父からもらった贈物を積んでいるのを知っている。
そして、ここで疑問になるのはそれなら何故、第一王子のバルブロが王位を継いでいないのかと言うことだが、理由は先代の王(父の兄である第二王子)の性格とあまりにもバルブロが似ており、国王としての心構えも資質もないと父は判断している。そして、第二王子のザナックはまだ幼い上、王族らしい気品もカリスマも感じられない。これでは、どちらが後継となっても貴族の操り人形にしかならないと危惧しているのだ。
世継ぎ予定の王子達の内、かろうじて成長度合いによってはマシと言えそうなのは第二王子だけど、現状どっちを選んでも詰んでいるようにしか思えない。
さっさと、どちらかを王太子に指名してしまえばいいのに。それによって私の方針だって変わる。
妃達や姉兄、私に対する態度から考えれば、父は、家族を愛する良い王なのだろうとは思う。
しかし、施政者としては問題外だ。
前世の記憶から考えれば、封建制度から中央集権に移行しない限り、このままでは国王なんて君臨せずとも統治はせず。ただのお飾りになるか、いろいろな責任を押し付けられて断頭台に登ることになる。
私は別に人間皆平等だとか、人権擁護だとか、民主政治にしろとか、貴族制廃止しろとかそんなことは思わない。偽善者じみたそんなのはどうでも良い。
なんで特権あるのにそれが行使できない世の中になんてしたがるの。折角、生まれだけはサラブレッドなお姫様に生まれたんだから、それが活かせる生活はしたいじゃない?
そうなると、一番望みがありそうなのは、政略結婚で隣国のバハルス帝国に輿入れすること。
あそこは、王子が多かったし年齢的には釣り合う相手が何人かいたはずだけど、名前や人となりなんかは私の元のハイスペックの子もわかってなかったようだから、後々調べないければいけない。
とまあ、私の現状はあまりよろしいものではないのだ。
でも、私もまだ三歳なので、やれることは少ない。
ここが剣と魔法の世界であることだけは確かなので、折角だからそちら方面でも色々やりたいことはあるし、現代知識チートみたいな何かで内政を頑張るのも良い。
……まあ、詰んでる国の王女様だけど。