詰んでる国の王女様 作:花見月
はろー、脳内の友人たち。私は、なんとか元気です。
三歳ということは、おそらく、そろそろ本格的な王族教育が始まるとは思うんだけど、特に何事もなく。
普段は乳母や侍女、護衛兵に見守られながら、先生に読み書きを習う振りをして(実は、記憶が戻る前の私……めんどくさいので今後はオリジナルちゃんと呼びたい……が読み書き完璧だったので。さすが天才こわい)ただただ城の図書室や自室で本を読む毎日で。
そんな様子から、いつのころからかひっそりと王城の使用人達によばれる名前は「本の姫様」。
それって、どこの本好きというかビブリオマニアで、本のために色々やらかして平民からツェントに下剋上しそうな地雷娘のことなのかと心のなかでツッコミを入れる日々。
さて。そんな私なのだが、今日は乳母と侍女達に飾り立てられた後に、初めてのお出かけである。
といっても、街が見られるわけではなく、馬車で王都郊外の天幕を貼られた広い場所に連れてこられた。
三歳児でも朝から準備して化粧しなくちゃいけないのはなんとかならないものか。
侍女たちは「軽く紅を引くだけにしましょうね」とか言ってたけど、それすらいらないでしょうが。
こちとら、金髪碧眼の約束された勝利輝く、可愛いかわいい美幼女様やぞ。母親の第二妃がとても美しいので、ほんと将来が楽しみ……まあ、性格は割とアレなのが第一王子見ればわかるけど。
この化粧品とか衣料なんかの染料にも手を入れたいなあ。
この世界、中世~近世間近レベルの文化レベルだとすると化粧品や染料に鉛とか水銀、ヒ素なんかが使われてるんだよね。これを使わない製品を作れば健康問題や美容の面から言っても売れそう。
知ってる? 歴史を振り返れば、肌をきれいに見せる白粉と紅には鉛と水銀が使われていたんだよ。染料にもヒ素が使われているものもあって、その色で染めた壁や家具を置いたり、服を着たら死ぬっていう恐ろしいものだってあった。
いくら魔法がある世界とは言え、多分この辺りってそこまで考えられてないと思うのだ。染料はともかく、化粧品なんて、この時代だと女性以外で手に取る人はいないし、それが身体に悪いとか考える人間自体いなさそうだもの。
うん、大きくなる前に化粧品や服飾を発展させたいね。ドレスのデザインや刺繍の種類が少なすぎるし。折角異世界に生まれたんだから、そういうのに手を付けてもいいよね?
まあ、今回着せられたプリンセスドレスは、長めのトレーンがついた淡い水色のチュールとレースでできたバルーン袖の可愛らしいもので、年相応で満足はしているけど。
天幕の外には、特設の闘技場のようになったスペースができており、それが見渡せるように階段状の王族観覧席と貴族の席が設けられ、更に離れた席に一般の観覧席が設けられていた。
階段状になった王族席の特等席には父王、その両隣に正妃と第二妃の席があって、その一段下に第一王子と第二王子の席、そして私の席がある。
でもって。
ここまで来てなんだが、私は説明らしい説明を受けていない。
周囲の様子を見る限り、どうも御前試合? が行われるらしい。
第一王子のバルブロが偉そうな態度で、第二王子のザナックに解説しているのが聞こえたので。
予選は、この特設会場で大々的に行われ、御前試合となるのは準決勝戦と三位決定戦、それから決勝戦の計四試合だそうだ。
優勝者には、王から直接のお褒めの言葉と名誉の剣と褒美が贈られるとのこと。
それにしても、幼女の初めてのお出かけが御前試合ってどうなんだろうか。
もうちょっとこう……将来の婚約者を見据えて貴族の子供達とのお茶会とかさ、何かあったのではないかと思うのだけど。
まあ、そんなことを夢見ても現実はコレなので。ああ、世知辛い。
試合は剣とか槍とか武器使用によるものらしいけれど、私は正直魔法の方が興味あるんだよね。
異世界転生のテンプレに漏れず、幼少から鍛えれば魔力も上がるのでは!? とか思って鍛えようとしたけれど、どうにも私には才能のさの字もなかったようで、魔力なんてものは感じられなかった。
図書室にある魔法系の本とかも読んでみたけれど、どうもこの国は魔法使いを軽視している気がする。
隣の帝国には、フールーダとか言うとんでもない大魔法使いがいるらしいのに、なんでこの国にはそういうすごい人が王城に仕えていないのだ。これでは弟子入りもできないじゃない。
そんな事を考えながら、化粧品と染料の開発やら魔法が使えないなら魔法使いが部下にほしいなあとか、将来に思いを馳せてぼーっと試合を見ていたせいで、気がついたら決勝戦だった。
片方はなんだか、チャラい感じの胸当てくらいしか防具をつけていない若い男。
審判の紹介によれば、「常勝無敗の剣の天才」ブレイン・アングラウス。
相対するのは、ブレインよりは年上そうな使い込まれた剣を構えている男。
審判の紹介によれば、「歴戦の傭兵」ガゼフ・ストロノーフ。
そして、試合が開始され、私はブレインの戦い方に目を奪われた。
あれは剣ではなく刀……打刀での戦い方だ。
居合いのような構え方や、足運びなど間違いない。
なんでそんな事わかるんだって?
前世の私は歴史が大好きだった。世界史や日本史など、歴史ロマンを感じるものは大体読んだし、調べ上げた。時代劇が大好きで、殺陣や刀のきれいな振り方が知りたくて、わざわざ剣術(剣道ではない実践型)道場にすら通った程。自分ではできないが、達人と呼ばれる人の戦い方は目にして覚えている。
惜しいなあ。
あの動きをちゃんとした刀でやれば、かなり綺麗な動きだ。
ショートソードでやっているから、どう見ても不格好。
結局、ブレインはガゼフと接戦するものの、負けてしまった。
勝者のみがその場に残り、敗者が去ろうとする後ろ姿を見て、私はふと思う。
そういえば、この世界にも刀ってあるんだろうか。
今まで見たこと無いけれど、多分探せばあるはず。
それなら、刀使いなんて希少種を今逃していいの?
天啓を受けた私は、慌てて乳母にお願いして、たった今敗者となったブレインの控え室となっている天幕へ連れて行くように頼み込んだ。