詰んでる国の王女様 作:花見月
※独自設定がどんどん増えるので、当初のような『原作では判明していない』等の注釈はやめることにしました。前回辺りからガンガン増えてるので、前回くらいから省いてたりします。ただ、今後も初登場時に名前の一部等が変わってる場合の注釈は続ける予定です。
※ランポッサ王の年齢を間違っていたことに今更になって気がついたので、しれっと前の方の話を手直ししています。なんで原作時開始時70歳だと思ってたんだろう……見た目が老け過ぎだから……? 60歳やん……10年の違いは大きい。
「お茶会なんてめんどくさい……」
ロ・レンテ城に向かう馬車の中で、王都リ・エスティーゼの風景を見ながら、幼女はそう不満を漏らした。
彼女の名前はラキュース・アルベイン・フィル・アインドラ。年齢は五歳、なめらかな金髪を肩で切りそろえ、青いバラの髪飾りと淡い黄色のドレスがよく似合う。ふてくされた表情でなければ可愛らしい幼女である彼女は、王国貴族であるアインドラ伯爵家の令嬢だった。
「ラキュース……第二妃様――マリアーネ様お声がけのお茶会なの。我が家は断れないのよ?」
頬に手をやり、困ったように首を傾げて微笑む母に幼女……ラキュースは、ちらりと母を見上げ、それでも不満なものは不満なのだと、不機嫌全開だった。
「だって、今日はアズス叔父さまが来るって約束していた日なのよ? 冒険のお話とか、お土産すっごく楽しみにしてたのに」
ラキュースは冒険者である叔父であるアズスが大好きだった。
貴重な魔導鎧の持ち主であり、貴族の称号を捨ててまで冒険者になった叔父。
時折、気まぐれに生家であるアインドラ家に帰り、当主である長兄を筆頭にそれを支える他の兄弟や引退した両親に会い、それまでの出来事を話して、各地からの珍しい土産を置き、またふらりと旅に出る。
「アズスは今回は、何日か滞在するって言っていたわよ。だから、帰ってからお話を聞けばいいでしょう?」
貴族の令嬢であるラキュースに良い影響を与えないと、家族はあまり良い顔をしていないのだが、叔父であるアズスは全くそんなことを気にしてはいない。
いつも戻ってくればラキュースを抱き上げてかわいがってくれ、聞いたこともないような、人に仇為す怪物との戦いや依頼で行った遺跡探索などの話をしてくれる。それは本で読む英雄譚のようで、そんな叔父にラキュースが憧れを抱くのも仕方ないことだった。
「それに、今日のお茶会は、末姫のラナー様のお友達を探すのが目的なんですって」
このお茶会は、第三王女であるラナーのいわゆる幼馴染として接する相手を選ぶお茶会なのである。
本来であれば乳母の子供は乳兄弟として幼馴染であり、婚約者候補や従者として育てられるものなのだが、母である第二妃のマリアーネの意向によりそれは遠ざけられた。
第二妃は次期王位継承後を見据えて、ラナーを近隣国……おそらくは、帝国を想定とした政略結婚の駒とすることを計画しており、幼馴染の乳兄弟などという邪魔になりそうなものは排除したのである。
第二妃の実家はブルムラシュー侯爵家だ。だが、正確には侯爵家の派閥の貴族の娘、つまり養女であった。そのため、侯爵家に利をもたらさねばならず、監視がわりの女官長が王城でも目を光らせており、世継ぎを設けたと言うのに実家からの扱いは余り良くなかった。そして、城では正妃を差し置いて、一番美しい庭のある華宮と呼ばれる美しい宮を宛てがわれてはいるものの、財政難の王家では過剰な贅沢はできない。
それ故、自分の価値を確実にする政略結婚の駒として、ラナーの周囲を固める人間は厳選されていたのである。
「えっ……末姫のラナーさま? 第二王子のザナックさまじゃないの?」
ラキュースが思い出すのは数ヶ月前に王城で行われたお茶会のこと。
第二王子の顔見せという名の婚約者や従者探しの大規模なお茶会があったのだが、体調不良や急病と称して来ない者が多く、更には肝心の第二王子が、『王子様』と言う存在に素敵な夢を見ていた彼女を非情な現実に突き落とした残念王子だったという物悲しい結果で終わったものだった。
「ラキュースより二歳年下のとても綺麗なお姫様よ。初めてお会いすることになるわね。色々な本とお勉強がお好きな御方よ。英雄譚や冒険譚が好きなラキュースともきっと話が合うわ」
「ほんと?」
優しく微笑む母の言葉にラキュースは喜んだが、一方でどうしても、あの期待はずれな王子の件が頭をよぎる。
「そうね。ちょっと変わった……趣味をお持ちだけど、剣術や魔法にも興味があるそうだし、ラキュースなら話の内容に困らないでしょうね」
ラナーが最近、平民を一人、直属の部下にしたという話は王宮そして貴族内には広まっていた。
貴族の中には平民を奴隷として飼う者も中にはいる。そのため、ラナーは変わった趣味で――戦える者――毛色の違うペットを飼っているという感覚で見る者もいたのだ。
ラナーの”部下”と”それ”は根本的に違うし、良識がある貴族は理解しているのだが……肝心のラナーの母である第二妃や兄である第一王子などは前者であった。
一方、良識的なラキュースの母は、そんな余計な噂を幼い我が子に教えるのも憚られ、曖昧な表現にした。
「ふーん……それなら、仲良くなれるかしら」
そんな話をするうちに、王城の城門が見え始めた。
城内についても華宮まではそれなりに距離があり、歩いて移動しなくてはならないが、来るまでのように嫌とはラキュースは思わなかった。なぜなら、彼女の興味は『綺麗だけど、ちょっと変わったお姫さま』という、ラナー姫のことに移ったから。
とはいえ、以前のこともある。だから、子供ながらに(……でも。あまり、期待はしないほうが良いよね)とラキュースは心の中でつぶやいた。
◆
第二妃のマリアーネはとても美しい。王国でも有数の大富豪であるブルムラシュー侯爵家がその美貌を政略婚目的で利用するために養女にするほどなので、三人の子を産み、三十路も半ばを過ぎた今でも若い頃と変わらず、華やかな容姿をしている。
輿入れしたばかりの頃は権力と実家のために正妃の座を狙ってはいたものの、無事に王子を生んだ後は、公務を考えれば面倒なことばかりで正妃になることに旨味を感じず、それならばと第二妃として王に愛でられ、面倒なコトは全て正妃に任せ、自分は美味しい所をつまみ、実家に利益を……そんな生活に変わり現在に至っていた。
「よいですか、ラナー。今日のお茶会は貴女の友人として相応しい貴族の令嬢を呼んであります。よく考えて、選びなさい」
第二妃は侍女と女官を引き連れ、コツコツとヒールの音を響かせてゆっくりと歩きながら、少し後ろを歩く乳母に抱かれて移動する我が子にそう声をかける。
「────貴女の趣味については、もう何も言いません。ですが、立場は弁えなさい。よろしいですね?」
「はい、お母さま。わかっておりますわ」
大人しい返事に満足したのか小さく頷くと、その後は特に言葉を交わすことなく庭に出た。
手入れの行き届いた華宮の庭には美しい花が咲き、茶会を行う噴水の側の東屋のガーデンテーブルには、いくつものケーキスタンドが置かれ、色とりどりの菓子が並べられている。
そして、少し離れた所に全く同じようにセッティングされた小さめのテーブルセットがあり、幼い令嬢達がそれぞれ楽しそうに交流しているように見える。
第二妃が主催では有るが一番高位ということもあり、この場に現れたのは最後であった。そのため、婦人達は爵位が高位の者から次々と挨拶をしていった。
「よく来てくれました。今日は楽しんでいって下さると嬉しいわ」
微笑みを浮かべ、皆に座るように第二妃が促すと婦人達は席に着く。
「ラナー、あちらのテーブルの御令嬢たちとお話してきなさい」
「はい、お母さま。皆様、失礼いたしますね」
母達に向けてラナーは、幼い小さな身体でカーテシーをすると、子供達のテーブルへと向かった。
さて、お茶会に保護者に連れられてきた貴族の令嬢と言っても、精々五歳から七歳程度の子供である。
将来に夢を見ていたり、身近な大人の真似や、意味はわからなくとも大人びた言葉遣いをしたくなる年頃だ。
「────まあ! あなた冒険者になんて、なりたいんですの? あんな下賤のモノになりたいだなんて」
「そうですわ。剣まで習うなんて……!」
「戦うことなんて、護衛や殿方に任せればよろしいじゃありませんの」
ラナーがテーブルに近づくと、青いバラの髪飾りと淡い黄色のドレスが印象的な幼女……ラキュースが他の参加者数名に囲まれて、涙目になっている。どう見ても嫌味を言われている状況だった。
一瞬で状況を把握した彼女は、白けた目で囲む令嬢達を見る。
すぐにテーブル付きの給仕の侍女が慌てて、ラナー姫の事を令嬢達に説明しようとするが、それを彼女は手で制し、
「……これは、どういう状況でしょう?」
芝居がかったように呟き、可愛らしく小首をかしげた。
「どなたです? お茶会に遅れていらっしゃるなんて」
突然現れた繊細な美しい人形のような幼女の不思議そうな声に、一番年嵩の少女……声高にラキュースにマウントを取っていた……が、こちらを見てにらんでくる。周囲の取巻き化していた令嬢も同様だ。
そして、テーブル付きの給仕の侍女は、主人に制されているため、何もできず顔色悪く状況を見守るしかない。
「ああ、確かに挨拶が遅れましたわね。私はラナー・ティエール・シャルドロン・ライツ・ヴァイセルフ。そう、ヴァイセルフ王家の第三王女ですわね」
そういえば、今日は王女の証にもなっている冠の髪飾りはつけていなかったなとラナーは思いつつ、微笑みを浮かべたまま名乗り、スッと真顔になる。
「それで。どういう状況でしょうかと聞いているのです。少なくとも、和やかにお話という訳ではありませんのでしょう?」
幼女が第三王女だとわかった令嬢達は全員が慌てて礼を取るものの、ラナーの表情は戻らない。
そして名前を名乗り、事情を説明をしようとする少女に更に残酷な言葉を告げた。
「ああ、結構よ。あなたの名前は、聞くつもりも覚えるつもりもないわ」
周囲の取巻きも一瞥し、同様に名前を聞くつもりはないとラナーは言う。
「このお嬢様方は、気分が悪いので控室の方でお休みになられるそうよ。お母様にも同じように伝えて頂戴」
テーブル付きの侍女に指示し、控えている侍女を呼ばせた。そして、取巻きともども、こちらに向けて騒ぎ立てる少女達を排除したのである。
残るのは、あっけにとられているラキュースのみ。
「さて。どうしてあなたは、あの方たちに囲まれていたのかしら」
口籠りながら言葉にする説明によれば、談話するうちに将来の夢の話になったらしい。
素敵な貴公子との結婚を夢見る少女が多い中、ラキュースは誰かを助ける英雄になるために冒険者になりたいと言ったらしい。そのために剣を習っていることや体を鍛えていることなどを語ると、先程のようにバカにされたと悔しそうにしていた。
「冒険者……ですか。確かに王国では英雄と呼ばれるためには、それしか方法はありませんものね……」
眉をしかめ、悲しそうにラナーは顔を伏せた。
「隣国であるバハルス帝国や聖王国では、女でも文官や騎士になれます。でも、王国は女ではなれない。だから、冒険者しか方法がない」
王国では女は騎士にも文官にもなれない。ただ、政略結婚用の駒としか生きる道がないのである。それ故、戦うすべや政を習う貴族の令嬢などほぼいない。
王国で英雄になるならば、唯一、性差がない冒険者だけが夢を掴むための道にすら思える。
「確かに、この国ではあなたの夢はおかしいかもしれない。けれど、私は素晴らしいと思います」
そう言い切り、輝くような微笑みを浮かべてラナーは手を差し出す。
「あなたのお名前、聞かせていただける? おともだちになりましょう」
こうして、ラキュースは自分の夢を応援してくれる親友を手に入れた。
ラナー:
お茶会でおともだち(ラキュース)ゲット。他の子は行動からして嫌だったので、名前も聞かずに帰した。後日、母である第二妃に怒られた。
ラキュース:
自分の夢に理解ある友人ができた。冒険者になるのが少し早くなるかもしれない。
第二妃:
名前はマリアーネ。正式名称は長いが、使用されることはほぼないので、ここでは割愛。名前で呼ぶのは夫の国王か第二妃派閥の友人からのみ。頭は良いがあくまで「王国の貴族としては」という冠がつくため、ラナーオリジナルからは『母親では有るが頭が悪すぎて、意思疎通が難しい』と見られていた様子。贅沢が好きな儚い系の清楚系ビッチ金髪美女(悪女)を想像すればだいたいあってる。
原作には妃はいるが、複数いる言及がないので多分登場しない。たった一人の王妃だけ愛するランポッサ王だったかもしれないし、第二どころかもっといたかもしれないが、とりあえず、この小説では妃は二人(亡くなってる最初の妻(これも独自設定だが)を入れると三人)という設定。
当小説のネタバレになるが、原作時間軸には正妃も含めて第二妃は故人になっている。彼女と正妃の死が、ブルムラシュー侯が王国を裏切ることを踏み切らせ、貴族と王族との軋轢が更に広がることになるが、今のところそれを誰も知らない。