世界一のゴミクズに生まれた   作:Dr.凡愚

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クソガキと滅びかけの王国

 

 マリージョアを出発して3週間と少し。私を乗せた軍艦は、もうすぐソムニアへ到着するところまで来ていた。

 

 乗船中の訓練は私の体が幼すぎることもあり、甲板でランニングをするか、マストの綱を登り降りして体力をつけることしかできなかった。又、見聞色を扱えるように、目隠しをして軽く投げられるボールを避ける訓練だけはやらせてもらえた。ただ、武装色はまだ危険だということでどのようなものかを見せられるだけで、実際に扱わせてはもらえなかった。

 

 短期間ではあったが、若干の体力向上はできただろう。更に、見聞色は軽く投げられるボールであればほぼ避けられるようになった。ボールの速度が上がれば避けられるのは半々といったところだが、避けるだけでなく迎え撃つのであればそれなりの速さでも可能だった。

 

「もう少しキツめの鍛錬をしても良いのではないか?」

「身体も出来上がってないガキのくせにあまり生き急ぐな」

「そうか、今のところは我慢しておこう」

「あまり勝手なことをするようであれば鍛錬はせんぞ?」

「まだ体が出来上がっていないのは事実だ。そこについては成長するまで待たねばな」

「そうだな。そのためにも適度な運動とバランスの取れた食事を心がけねばならないな」

「そのあたりの調整はよく分からんから頼む」

「うちの優秀なコックたちに任せておけ」

「ああ」

 

 他の成果としては、ゼファーが口調を崩して話してくれるようになった事。最初の頃は天竜人用の堅苦しい話し方しかしてもらえなかったが、1週間もすれば天竜人らしくもない子供に硬い言葉を使い続けるのが馬鹿らしくなったのか、砕けた口調で話してくれるようになった。

 今後ゼファーに頼みたいことが多数あるため、話しやすくなったことは大きな成果だ。私からの口調が横柄なのは見逃してほしい。いくら私が天竜人としての自分が嫌いでも、その身分を無視しすぎると相手の為にもならないからだ。

 

「ところで、ソムニアには後どれほどで到着できる」

「そうだな。2,3日の間には着けるだろう」

「……なるべく急いでくれ。救える命が減る」

「分かった。全力で急がせよう」

 

 

 

 急がせた軍艦は2日でソムニアに到着した。

 

 

 ソムニアは偉大なる海の前半に存在する国で、島の広さとしてはアラバスタ王国とほぼ同程度。しかしながらその広大な土地に反して人の住んでいる範囲は狭い。その理由として、沿岸部を除く島の奥地は太古から続くとも言われる広大な森が広がっている。その開拓の為には多大な労力が必要とされるため、放置されている。そのため、ソムニアに住む人々は沿岸部から少しだけ切り開かれた唯一の土地で平和に、平凡に暮らしていた。

 

 しかし、1月程前に島の奥地に宝が眠っていると言う噂を聞きつけ、ソムニアに海賊が攻め込んできた。奥地を調べるための拠点として街を欲した海賊たちは、街を荒らし回り、金品を奪い、歯向かう人々を皆殺しにしようとした。

 だが、ソムニアの人々はそれに抗った。国王を中心とした国王軍や、自分たちの国を守るために立ち上がった有志の全力の抵抗によって、どうにか海賊たちを追い出すことには成功した。

 ただし、その代償は大きかった。国王は大怪我を負い、将来を期待されていた王子は討ち死に。それ以外にも、命をかけて戦った兵士や、有志の人々も多くが戦死。街は戦闘や略奪でボロボロ。守りきれなかった場所では民間人の犠牲も多く、国としては終わったようなものだった。

 

 当然、海軍もソムニアを守るために出撃はしたのだが、唐突な嵐に阻まれてしまい、ソムニアに到着した頃にはほぼ全てが終わっていた。

 

 更に運の悪いことに、ソムニアは数年前から続く不作などのせいで天上金の支払いが滞っており、加盟国として存続させるかが議論されていたらしい。我々の航海の途中に行われた臨時の会議で、とうとう世界政府加盟国から外されてしまった。そのため復興もままならず、荒廃したまま放置されることになっている。

 

 

 

「全海兵へ告ぐ。優先順位は第一に妊婦と赤子。次に女子供だ! それ以外の者も決して死なせるな! ”全ての民”を平等に助けろ!!」

「「「了解!!!」」」

 

 ゼファーの声を受け、接岸した軍艦から慌ただしく海兵達が飛び出してゆく。救える命をこれ以上失ってたまるかと言わんばかりに、各々が全力で行動を開始した。突然現れた海兵達に驚きを隠せないソムニアの民達は、困惑しながらも海兵達を案内し始めた。

 

 民達は雨風をしのげる場所に集まって集団生活を行っていた。多くの人が家を失い、家族を失い、行き場を失くして寄り添って生活していた。

 

「ゼファー、私と共に王城へ行ってくれ。残っている王族と話をつける」

「分かった。王城はここからも見える通り壊れてはなさそうだ。中には負傷者なども収容されているだろう。医療部隊と物資も一部持って行かせよう」

「そう……だな。なるべく急いで向かおう」

 

 手早く王城へと向かう人員と、市街地で救援活動を行う人員を分ける。私とゼファーは、分けた人員を伴って王宮へ急いだ。

 道中には戦闘の跡や壊れた建物がそのまま放置されており、復興する余力も残っていないことが見て取れる。

 

 王城へ着くと、門の前で包帯をした兵士が警戒していた。構わずに門へ近づいていくと、槍を向けられ誰何された。

 

「貴様らは……海兵か。世界政府からも見捨てられたこの国に何の用だ」

「救援と、この国の王と話に……だな」

「何だ? ボウヤ、こんなあ、ぶ、な、な、な。て、天竜人!? も、申し訳ございません!!!」

 

 私が話しかけると、案の定兵士達は平伏した。

 

「頭を上げて道を開けろ。この奥に負傷者たちがいるはずだな。後ろの者達を案内しろ。今すぐにだ」

「え、あの、ですが」

「突き当りの広間か。悪いが通るぞ」

「あ! お、お待ち下さい!」

 

 私を奥へ案内していいか迷う兵士を無視し、奥の方から聞こえる”声"を頼りに王城の中を進んでいく。突き当りにあった大扉を開くと、中には大勢のけが人やその家族らしき人々が集まって暮らしていた。

 

「ゼファー」

「ああ。医療班はけが人の治療、その他のものは炊き出しの準備! ソムニアの皆様! 私達は海軍中将ゼファー及びその部下です! 只今より食料の炊き出しとけが人の治療を行わさせていただきます!」

「ほ、本当に海軍が私達の為に来てくれたのか?」

「海軍としてではなく私の道楽という名目だ。それをゼファーが手伝っている形になる」

「あれ、子供? って。て、天竜人!?」

 

 ゼファーの影から私が顔を出すと、広間の中にいる人々は悲鳴を飲み込み平伏し始めた。助けに来たつもりの相手に平伏されるのは悲しいものだが、自分の名前で恩を売る予定のために顔を見せておかない訳にはいかない。ため息をついて平伏した人々に話しかけた。

 

「顔を上げよ。私の名はガルフレド。世界貴族の一員たる天竜人だ。まずは海兵たちが持ってきた食料や薬などで腹を満たし、治療を受けろ。無礼討ちなどは一切ない。早くしろ」

「ガルフレド聖の言う通りだ。治療はより重症のものを優先して行う。医療班を案内してくれ」

「は、はい。こちらになります」

 

 混乱冷めやらぬも、医療班や食料を運んできた海兵たちが案内されてゆく。ゼファーはそれが滞りなく行われるよう見張っていた。

 問題なく治療などが行われ始めた事を確認してから、私は近くの老人に話しかけた。

 

「そこの老人」

「はい、何でございましょうか」

「この国の国王たちはどこにいる」

「国王陛下方は城外の避難所に残り少ない食料などを配りに行きましたので、しばらくすれば戻ってこられるかと思います」

「そうか」

 

 しばらく待っていると、屈強そうな体に包帯と貧相な服を纏った壮年の男が慌てた足音で広間に駆け込んできた。

 

「救援が来たというのは本当なのか!? 民は助かるのか!?」

 

 息を切らしつつ広間に駆け込んできた男は、近くにいた海兵につかみかかり質問した。首元を掴まれた海兵はガクガクと揺らされ答えようにも答えられそうにない。

 

「救援物資を届けに来たのは事実だ。助けられる命は助けるよう尽力させる。それよりも貴様がつかみかかっている海兵の命のほうが危険にさらされているぞ」

「ん? ああ、すまなかった」

 

 私の言葉でようやく、自分がつかみかかっている海兵が泡を吹いていることに気づいた男は、半分意識を失いかけている海兵をそっと地面に横たわらせた。そして私の方に向き直ると、両手を地面につき頭を下げた。

 

「それで、貴方様が我が国の為に海軍を連れてきてくださったのですね。そのおかげで多くの民が救われることになりました。大変ありがとうございます」

「頭を上げろ。ただの善意で行ったことではない。私にとっての利のために必要だったからしたまでだ」

「それでも、世界政府から見捨てられた我が国にとっては得られるとは思っていなかった救いの手です。ところで、お名前を伺っていませんでしたが……よろしければお聞きしても?」

「ガルフレドだ。一応は天竜人の末席に名を連ねている」

「私はソムニア国王ソルドと申します。ところで、このソムニアにいらっしゃった本当の理由をお伺いしても?」

「……話すには人が多すぎるな。どこか内密な話がしやすい場所を用意してくれ。後からゼファーと共に向かわせてもらう。そちらは残っている王族を全員集めておいてくれ」

「分かりました。王宮の中で内密な話ができる場所となると王家の私室が比較的マシでしょうな。準備をいたしますのでしばらくお待ち下さい」

「分かった」

 

 そう言ってソルド王は広間を後にした。

 この後の話が私の計画において一番重要になってくる。私ははやる心を落ち着かせながら、広間にいる人々が治療を施されたり食事を摂るのを眺めていた。

 

 

 

 

 

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