翌朝、目が冷めてからすぐに日課となったジョギングを行う。海兵たちに挨拶をされつつ軽く汗を流し、用意されていた朝食をとる。
朝食を食べ終わった頃にゼファーが部屋に顔を出した。
「そろそろソルド王たちも起きている頃だろう。行くか?」
「うむ、すぐに支度をする。少し待て」
いかにも天竜人といった服を着るのは好きではないが、現状外で身を守ってくれるのはこの身分が一番強い為、しかたなく袖を通す。動きにくそうな見た目にも関わらず、思った以上に動きやすいのが釈然としない。
「待たせた。行こう」
「ああ。俺とガルフレド聖は王宮へ向かう。お前達は昨日と同様、瓦礫の撤去等を行え」
「「「はっ!」」」
ゼファーが海兵たちに指示を下すのを待ち、私達は王宮へ向かった。
昨日と同じ道を辿って王城へ歩く。海兵たちの頑張りのお陰で、道の瓦礫は昨日よりは片付けられていた。
道中、作業をしている海兵から挨拶を受けつつ、王城へ到着した。
「お、お疲れ様でございます!」
「あ、ああ。ご苦労」
緊張からか、不思議な挨拶をする兵士たちの守る門を抜け、避難民の居る広間へと向かう。
「面白い兵士だったな」
「おい、自分が天竜人だという事を忘れていないか?」
「忘れてなどいない。私がこんな態度だからあの兵士もどのような言葉遣いをすればいいのか分からんのだろう」
「分かっているのなら笑ってやるな」
「面白いものは面白いのだ」
雑談をしながら歩いていると、すぐに広間へついた。
昨日のような暗い雰囲気は薄れ、耳に入る話し声も若干明るいような気がする。
少し周囲を観察していると、奥からソルド王がやってきた。
「おはようございます。本日は昨日の件ですな」
「ああ。その前にリスタ妃の容態はどうだ?」
「あまり芳しくはないようです。医者によれば、早ければ今日にでもとの話だそうで」
「そうか、何事もなければいいな」
「ええ。では案内いたします」
他愛のない雑談を交えつつ、宝物庫へと案内される。道中にはいくつかの鍵付き扉を挟んでおり、無闇に侵入できないようにされていた。
「宝物庫とは思っていたよりも厳重に守られているのだな。どこの国もこのように厳重なのだろうか」
「ここまで厳重に守っている国は少ないでしょう。今は私がすべての鍵を持っていますが、実際は1つずつ別の者が持つようにされておりましたので」
「なぜそこまで警戒するのだ? それほど貴重なものがこの国にあるのか」
「海賊の襲撃後、支援を求めるためなどで大半の宝飾品や美術品、貴金属は放出してしまいましたので……。現在残っているのは価値がないと言われたり、手放してはならないとされているもののみです」
「そうか。まぁ何か利用できるものが残っているかもしれん。見るだけ見ておこう」
「分かりました」
ようやく宝物庫に着くと、これまでで一番厚い扉があった。
「この向こうです」
ソルド王が鍵を開け、ゼファーと二人で両開きの扉を押し開けた。中はガランとしており、古そうな箱や武器が数点転がっているだけだった。
中に入り、残っていたものを手にとって見てみる。
「ゼファー、転がっている武器が業物だったりしないか?」
「残念ながら俺が知っている限り、ここにある武器に業物は混じっていないな」
「一応箱の方なども見ておくか」
転がっていた武器は残念ながらただ古いだけで、価値のある業物であったりはしなかった。同じく箱の中身も確認はしたが、一緒にされていた説明を読む限り歴代の王族の些細な記念品ばかりで、金銭に替えられるものは残っていなかった。
「残念だな。なにかいいものが残っていて復興の足しになるかと思ったのだが」
「そう上手くはいかないでしょう。私達もどうにか民を助ける足しになるものはないかと虱潰しに探しましたので」
「でしょうな。ガルフレド聖、諦めたほうがいいだろう」
「扉の外で待っていてくれ。大人の目では分からんところに何かあるかもしれん」
「分かった。何かあれば声をかけろよ」
ゼファー達は扉の外へ向かい、私は宝物庫の床を眺める。
実を言えば、この宝物庫に入ったときから何かに呼ばれているような気がしていた。転がっている武器や箱の中かと思ったのだが、聞こえる声に変わりはなかった。
じっくりと床を眺めつつ宝物庫の中を歩いてみる。すると、中央から奥に行こうとすると微かに"声"が強く聞こえる気がした。
若干ホコリの積もった床に顔を近づけてよく観察すると、ほんの少し動きそうな床板があった。
「ゼファー、ここに動きそうな床板があった。動かせるか」
「何?」
ゼファーを呼び、床板を動かさせる。その下にあったのはピタリと収まる石で閉じられた地下への通路だった。
「なっ、宝物庫の床にこんなものが!?」
「あったのだな。普通、宝物庫にはそれなりの量の財宝が置かれている。床を見る機会もそう多くはないだろう。気づかんのも無理はないだろうな」
「そうだな。ゼファー、抜けるか?」
「まあ任せろ」
ピタリと収まった石に武装色で固めた指で穴を開け、ゆっくりと引き抜いていく。思った以上に深く嵌まっていた石を壊さないようにゆっくりと引き抜いていき、2メートル程度引き抜いたところでようやく抜けきった。
「ぞ、存外深かったのですな」
「ここに来てから一番神経を使ったぞ。で、穴の中はどうだ」
「そこまで深くはなさそうですな。大体3メートル程で底になるでしょう。ですが……」
「そうだな」
地下への抜け穴が見つかったのはいいのだが、その大きさがよろしくない。直径が40センチ程の円形で、その内側に手や足をかけられそうな掘り込みがしてある。
「大人では入れそうにないな」
「明かりになりそうなものを持ってきてくれ。私が入ってみよう」
「なっ!? させる訳がないだろう! 自分をなんだと思ってるんだ!」
「そ、そうです! 天竜人にもしものことがあれば!」
大人では入れそうにないため私が行こうとすれば、全力で止められた。
「分かっている。少し降りて中を覗いてみるだけだ。長く続いているようであればすぐ戻る」
「……絶対にすぐ戻るんだぞ」
「いいのですか!?」
「よければ一筆書くぞ。この件については責任を問わんと」
「馬鹿なことを言わないでください。お願いですからすぐに戻ってきてくださいね」
「うむ」
ちょうど宝物庫にあった、小さなぼんやりと光る石を懐に入れ、私は穴の中をゆっくり降りた。底につくと、私が立って歩ける程度の横穴があった。
石を使い軽く照らしてみると、そこまで長くは続いておらず、数メートル進んで行き止まりになっている。
特に仕掛けがあるわけでもなさそうであったし、何よりずっと聞こえていた"声"は奥にある箱から聞こえていたようだった。
「ゼファー。下には横穴があった。すぐ奥に小さな箱がある。危険な感じはせん。取ってくる」
「何を言ってる! 確認できたのなら戻れ! おい!」
ゼファーが大声で呼んでいるが、目の前からする"声"の方がより強く私を呼んでいた。警戒はしているつもりだが、なぜか吸い寄せられるように箱へ近づいていく。
何事もなく箱へとたどり着き、石で外観を照らしてみる。箱をよく見てみると、寄せ木細工の秘密箱のようだ。
開け方を知るわけもないはずなのに、なぜか順番が聞こえる。聞こえたように動かしていくと、その中に入っていたのは……悪魔の実だった。
「なぜこんな場所に悪魔の実が?」
混乱しつつも"声"をよく聞いてみるが、もう聞こえなくなっていた。箱の中をよくよく調べてみると、古い紙が入っている。何が書かれているのか読んでみると、それは悪魔の実の名前だった。
「
正直を言えば、ここでこの実を食べてしまったとしても誤魔化しは効くだろう。しかしながら、それをやってしらを切り通せる程、面の皮はまだ厚くない。
箱を元のように閉じ、縦穴の場所まで引きずっていく。それほど重くはなかったため、私一人でもどうにか引きずることができた。
上に続く穴から覗き込んでいる顔を見ると、ソルド王はホッとした表情をしていたが、ゼファーは凄まじいまでに青筋を立てていた。
「すぐ戻ると言っただろうが」
「だからすぐに戻ったではないか」
「中を少し覗いたら戻ると言っただろう」
「ほんの少し奥に行ってみただけだ。それよりも中に箱があった。引き上げさせたい。何か紐を持ってきてくれ」
「早く上がってこい。すぐという言葉の意味を教えてやる」
「ハァ……。ソルド王早く紐を持ってきてくれ」
「いや、あの……分かりました」
「おい! 聞いているのか!」
完全にブチ切れているゼファーを無視してソルド王に指示を出す。ゼファーの顔を見て一瞬どうするかと迷ったようだが、下手なことを言って矛先を向けられる前にと宝物庫を出ていった。
さほど時間をおかずに、ソルド王が紐を持って戻ってきた。その間ゼファーはずっと怒っていたが、ソルド王が戻ってきたのを確認すると一度矛を収めた。
「さっさと縄を縛り付けて登ってこい。説教はそれからだ」
「結局説教をするのか」
箱に降ろされた紐の先端を巻き付け、しっかりと固定する。
「固定した。引き上げてくれ」
声をかけるとすぐに箱は持ち上げられていった。それに続くように上へと上がる。穴を出るとすぐにゼファーからの拳骨をもらった。
「すぐに戻ると言ったのは何だったんだ小僧」
「危険はないと感じたからの行動だ。実際に何もなかっただろう」
「もしも何かあったらどうするつもりだったんだ! お前一人の問題ではなくなるのだぞ!」
拳骨の痛みをこらえながら反論してみるが、ゼファーの怒りに油を注ぐだけであり、暫くゼファーからの説教を聞き続ける事になった。
「いいか、自分の身分を考えてわきまえた行動をしろ。何もするなとは言わんが、危険に率先して首を突っ込むのはやめておけ」
「善処しよう」
ゼファーの説教をききながし、ソルド王の方へ向き直る。私達のやり取りに口を挟むこともできず、箱を目の前に半ば置物のようになっていたが、私の声でようやく口を開いた。
「私のことは忘れられているものかと思いました」
「すまん。私のせいで余計な時間を食わせたな」
「いえ、そんなことは……」
「それよりも。その箱だが、なにか知っているか?」
「あいにく、こんなものがあるとは先代からも聞いたことがございません」
「そうか……」
箱のことは何一つとして伝わっていないようだ。
「この箱の開け方は?」
「俺は分からんな」
「申し訳ありませんが……」
「壊しそうであれば止めるので、私が試してもいいか?」
「い、いいですが。その」
ソルド王はゼファーの顔色をうかがう。
「火薬の匂いもせん。試すだけ試してもいいだろう」
ゼファーからの了承を受け、先程のように寄せ木細工の箱を動かしていく。時折、わざと順番が分からないふりをしつつ、時間をかけて箱を開けていく。
たっぷりと時間を使い、ようやく箱を開け終えた。蓋を開くと、その中を見たゼファーとソルド王は驚きの声を上げる。
「悪魔の実だと!?」
「悪魔の実ですか!?」
「そのようだな。良かったではないか。悪魔の実は高く売れると聞いたことがある」
「ですが、これは……。多分売りに出せません」
「なぜ……。あぁ、先日の海賊の所為か」
「あの海賊共はこの島に宝が眠るという噂でやってきました。それを裏付けるようなものはとても表にはできません」
「そうだな」
ソルド王の言葉で、自分の考えが浅かったと思い知った。何か財宝でも出ればそれを元手に復興の足がかりにできるとしか考えていなかった。
もう少し深く考えなければと反省しようと思ったが、そこで一つ思いついた。
「ソルド王。その悪魔の実、箱ごと私に売れ」
「な、それだとしても結果は同じでございます。むしろ、天竜人が手に入れたがる宝がある時点で噂を補強することになりかねません!」
「なに、中身がなければ問題なかろう」
そう言って私は、中に入っていた悪魔の実を持ち上げかぶり付いた。口の中に想像したこともない不味さが広がる。なんとも形容し難い絶妙な不味さで、一口以降かじり付きたくない。が、悪魔の実があったという証拠を残すわけにもいかないため、むりやり口の中に押し込んだ。
突然の私の行動に、ソルド王もゼファーも呆気にとられたまま見つめているだけだった。だが、私が最後のひとかけを口に入れた瞬間、我に返り私に掴みかかった。
「なっ何をしているんだ! 吐け! 今すぐ全部吐き出せッ!」
「ガ、ガルフレド聖が悪魔の実を? いやまさかそんな。私はまだ寝ているようだ。早く起きねば」
「ソルド王! お気を確かに! これは現実だ! それよりも、いいから早く吐き出せえ!」
「残念ながら手遅れだな。もう全て飲み込んでしまった」
「この大馬鹿者がーッ!!!」
こうして、ゼファーの怒声を聞きつつ、私は能力者になった。