1945年3月 オラーシャ帝国キロヴォグラード航空基地ブリーフィングルーム
「ええ!? 私が戦闘隊長ですか!?」
歓喜のあまり出てしまった私の声が部屋中に響く。
「ウィッチの中で私の次に階級が高いのはあなただからね」
ヴェーラが私の頭にポンッと手を置いた。次期戦闘隊長に任命しておいてまだ子供扱いする、これっきりにしてもらいたいな。
「よっ! 新隊長!」
「アタシらには関係ないけど、おめでとう!」
「やるもんだねぇ~」
陸戦ウィッチや整備兵達が囃し立てて、部屋は更に騒がしさを増す。
……私の名はヘイゼル・P・エイムズ。リベリオン合衆国陸軍所属の大尉だ。今はこのオラーシャの”101飛行戦闘隊”に世話になっている。そしてここの航空ウィッチ部隊の新しい隊長でもある。
「誠に嬉しい限りです、精一杯頑張ります」
「ええ、これからよろしく頼むわね」
それを合図にブリーフィングルーム内の軍人たちが一斉に敬礼をする。私も返し、皆の顔を見渡す。期待に満ちた表情の者、たかが十六歳の少女が基地の主力部隊の隊長になることに不安の表情を浮かべる者、私が隊長に選ばれたのが不服そうな者……と様々な顔色がうかがえるが関係ない。私は自分の正義と責任を貫き通すだけ。オラーシャが誇るエースのヴェーラに認められたんだ、何の間違いはないのだから。
***
翌日、私が談話室で読書をしながらでくつろいでいると、ウィッチのズボンが視界に映る。邪魔だと思い、何度か体勢を変えるがしつこく視界に入ってくる。
「何の用?」
顔を上げるとワナワナとした表情で私を見下す、クラリッサ・ハーゼンバイン中尉がいた。
「……てめぇアタシとの模擬戦すっぽかしやがったな!」
私の座る椅子の椅子のひざ掛けにドンと両手をついて迫るハーゼンバイン。勢いはあるけど彼女の顔はいまいち威圧に欠ける。どちらかというと"~ですわ"とか"ウフフ"とか言いそうな、お淑やかな顔つきだから普段の彼女を知らないと彼女を誤解すること間違いないだろう。
「いつの話だったか……?」
私は視線を右上へ移し、思い出すフリをする。確かに約束は覚えていたが、今の私には模擬戦は必要ないと判断したからすっぽかしたのだ。それを伝えようと思っていたけどすっかり忘れていた。
「とぼけんな、一昨日約束しただろうが」
ハーゼンバインは更に顔を寄せてくる。それこそ彼女の香りが鼻を通る程までに。
「あー……それは無期限延期でいい?」
「はぁ~?」
お互いの鼻と鼻がくっつきそうな距離まで近づいてくるハーゼンバインに嫌気が差した私は、本を閉じて目の前にいる彼女のおでこの位置を確認する。
「戦闘隊長命令だぞ、黙って従いな」
私は勢いよく立ち上がりつつ、頭突きをかます。ゴツッと鈍い音と共にハーゼンバインを仰け反ってその場にうずくまる。
「いたっー! 職権濫用だ!」
うずくまったまま叫ぶ少女を一瞥し、私は談話室を後にしようとする。
「ち、ちょっと待って、ください!」
声の方へ顔を向けると扶桑出身のウィッチ、ノリコこと石山典子少尉が立っていた。普段は主体性がない彼女が声を上げるのは珍しい。
「どうしたのノリコ?」
「えっと……ハーゼンバインさん、模擬戦ずっと楽しみにしてたから……」
ずっと、とは言っても一昨日からだけどそれは"ずっと"の定義に当てはまるのだろうか。それとも彼女は地面に今も突っ伏しているカールスラント人と常に行動していたのだろうか?
「だから……ハーゼンバインさんと、模擬戦やってあげてくだしゃい!」
慣れない大声でノリコは最後に言葉を嚙んでしまう。それをハーゼンバインはまたまたうずくまったままでクスクスと笑っているのか、体が小刻みに震えている。
「でも私も隊長としての務めがあるし……」
実際まだ隊長としての仕事関連で覚えることが沢山あるし、ヴェーラにも色々話を聞きにいかなければいけないというのもある。それにリベリオン軍人が異郷の地で誇るべき地位を手に入れたのならば、それに見合った行動をしなくてはならないだろう。従ってこの騒がしいカールスラント軍人とは模擬戦はできない。
「そ、それならしょうがない……ですかね」
私はヴェーラに認められる程の実力があるんだからもう日々の鍛錬は必要ないはずだ。これからは実戦で経験を積んでいけばいい。
私は踵を返し、部屋を去っていく。
[公開情報]ヘイゼルの出自
リベリオンのボストン生まれ。1929年6月11日生。
諸事情によりリベリオン海軍所属の父親一人によって育てられる。そのため幼い頃から海軍に憧れており、ウィッチの能力の有無に関わらず、海軍に志願することを決めていた。