オラーシャに日はまた昇る   作:vespa MDRN

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前回のあらすじ……
101飛行戦闘隊の戦闘隊長に任命されたヘイゼル。皆に祝福される中にひとり、それを快く思わないハーゼンバインが彼女に噛みついてくる。だがそんなものが効くほどヘイゼルはやわではなかった。


Ⅱ…前途多難

 出撃はまだなのか。それだけが頭の中を埋め尽くす。模擬戦なんかじゃなく、予測不可能なネウロイを相手に自分の実力の全てを投入する、命の削り合い。模擬戦じゃ得られない、緊張感と勝利の快感は素晴らしいものだとハーゼンバインも分かっているはずなのに、何故模擬戦に拘るのか理解に苦しむ。実戦は日々の訓練では得られない経験の方が多いというのに。

 廊下の窓から外を眺める。こんなところから敵が見えるはずも無いのに、無性に空を凝視してしまう。

 ここキロヴォグラード基地はネウロイ勢力圏の目と鼻の先と言っても過言ではない場所にある。私たちウィッチ隊は、キエフ方向とドニエツク方面の二方向に赴けるような機転の利く部隊だが、基本的にはキエフ方面は防衛でドニエツク方面は攻撃とその役割は分けられている。個人的には攻撃任務の方が、責任が少なくて気が楽だから好みだ。防衛任務なんて失敗したら人類勢力圏が狭まってしまい、世間から私達に向けられる重圧は相当なものになるだろうし。

 いくら外へ顔を向けてもその景色は代り映えしない。私は途中で飽きてその場にへたり込んでしまう。

 

「こんなことなら模擬戦を受けておけば……」

 

 そう呟いた瞬間、警報が鳴り響く。私は勢い立ち上がると、格納庫へ飛び急ぐ。

 

『高速ネウロイの進行を確認! キエフ方面、中型が二機。航空ウィッチ隊は直ちに出撃せよ』

 

「神は私を見捨てなかった!」

 

 私は欣喜雀躍したい気持ちを抑えつつ、格納庫へと走る。辿り着くとハンガーのストライカーユニットP-51Dに飛び乗り、魔法力を使い魔導エンジンが始動させる。轟音が鳴り響き、その音が全身を震え上がらせて戦意を向上させる。マシンガンを受け取り、辺りを確認するが他の隊員はまだ格納庫に到着していないようだ。普段なら足並みを揃えるために少し待つが、今回はそうはしない。相手はたかが中型二機、戦闘隊長としての威厳と力を見せるには持って来いだろう。

 

「エイムズだ。出るぞ!」

 

『おい、待ちやがれ!』

 

 思わず怯んでしまう程の、うるさいハーゼンバインの声がインカムから流れてきた。音量を調整すると私はハンガーから勢いよく発進する。離陸するとキエフ方面へと進路を向けて飛んでいく。

 

「観測班、距離は?」

 

『エイムズ大尉ですか?……距離およそ7000です』

 

「承知した、突貫する!」

 

『大尉! 独断先行は危険です!』

 

 観測班の制止する声を無視して、私はストライカーを加速させて一気に敵へと急ぐ。数十秒ほど進むと高度4000メートル辺りに鉛筆のような、尖った黒い飛行物体を見つける。

 

「見つけたぞ!」

 

 私は少しだけ上昇し、更に加速をかける。幸い二機で編隊を組んでいないため、一対一の状況だ。しかもネウロイの細長い形状もコアの位置が予測しやすい。これならヘッドオンで仕留められそうだ。

 

「どっちがチキンか……確かめようか!」

 

 私がネウロイへ真っ直ぐ飛ぶと、相手も同じように突っ込んでくる。互いに速度を上げ、射程距離圏内まで距離を詰める。恐らくネウロイが先に撃ってくる。ビームの方が射程が長いためだ。だが私はそれを許さない。M1919マシンガンを構え、数秒後の敵の予測位置へと射撃する。まだネウロイとの距離は2キロメートルもある。だがその一秒後、ネウロイが攻撃を始めたあたりで射撃が命中し、装甲が削られてそのうちコアもろとも砕け散っていく。

 

「肝は据わっていたが、弱すぎだ」

 

 私が白い破片となったネウロイに向かって吐き捨てるように言うと、もう一機の姿も気配もないことに気づく。後からやって来たハーゼンバイン達と合流して周囲を捜索しても、機影すら見当たらない。

 

「観測班、報告と違うぞ。もう一機のネウロイが見当たらない」

 

『おかしいですね……レーダーでは二機確認していたのですが』

 

「レーダーの誤作動か故障か。それともお前の見間違いか……」

 

『……すみません。今後はこのようなことが無いように気を付けます』

 

「それと話は少し変わるが、ネウロイが高速型だったとしても報告が遅い! あの時に独断先行は止めろと言っていたが、そうしなければ基地の目と鼻の先で戦うことになっていたのだぞ!」

 

「もうそれぐらいで許してあげてください……」

 

 ノリコが話の間と、私の視界に入ってくる。その不安げな表情から”もう観測班の人を責めるのは止めて”と訴えかけてくる。だが。

 

「正すべきことは正さなくてはならないのだよ」

 

「ですけど……」

 

「言わせてもらうが君らも行動が遅いぞ、私が発進できる頃には他のウィッチは誰も格納庫にいなかった。そんな体たらくでは最近設立された航空ウィッチ隊の模範になれないぞ」

 

 ノリコがしゅんとして視線を落とすと同時にインカムから通信が入ってくる。

 

『エイムズ大尉、黙って速やかに帰還しなさい。ネウロイが居ないことは確認したわ』

 

 ヴェーラからの命令が飛んでくる。仲裁の意味も込めてのものだろうから素直に従わざるを得ない。

 

「了解……」

 

 私達はキロヴォグラード基地への帰路を辿る。

 

 基地に戻り、格納庫でストライカーを降着させてハンガーに固定させていると先に戻っていたハーゼンバインが近寄って来た。

 

「おいヘイゼル! てめぇ浮かれてんだろ」

 

 その言葉と共に周囲の整備班員達が凍りつき、私達ふたりへと視線を向けてくる。

 

「何の話だ?」

 

「戦闘隊長だからって調子に乗るなよ」

 

 私はまた何か言われるのかとため息をつくと、ハーゼンバインは私の胸倉を掴んでハンガーに勢いよく押しつける。背骨と後頭部が少し痛んだ。

 

「確かにアタシらは階級が低いさ、だから上官のてめぇの指示はちゃんと守らなきゃならないのは分かってる」

 

 彼女は続ける。

 

「けれどな、てめぇの階級は自分の文句を理不尽に、延々とぶつけるためにあるんじゃないんだからな」

 

 私は以前、彼女の顔は威圧感がないと言ったが前言撤回する。今の瞳は激怒した時のヴェーラに似たようなものを感じる。現に今、私はハーゼンバインに気圧されて、彼女の顔を直視することが出来ない。

 

「あぁ、わかった」

 

 私が視線を逸らしながら答える。するとハーゼンバインは諦観とも捉えられるような表情で舌打ちをする。同時に掴んでいた手を離すと、彼女は踵を返して去っていく。その小さくなる姿を尻目に私はシャワーを浴びに向かった。

 

 

 その後に戻った部屋で、ベッドに仰向けになって思い返す。私は間違っていたのだろうか? あそこまでハーゼンバインに言われるのも、あんな顔を見るのも初めてだ。であれば私に何か問題があるのかもしれない。少しは謙虚に……ということなのか?

 今のままでは答えが出せない。私はもどかしさをどうにかするために、体を毛布で包んでいったん忘れることにした。

 

 

***

 

 

翌日 キロヴォグラード市立病院

 

 今日は一週間前に負傷して入院生活を強いられているリベリオンウィッチの様子を見に来た。彼女の名はレイチェル・サンダーズ、私と一緒に101部隊の配属になった腐れ縁の少女だ。

 見舞いもしつつ私の頭の中のもやを彼女なら晴らしてくれるのではないかという一縷いちるの望みもあったりする。

 

 

 病室の前に辿り着くとノックをして扉を開ける。部屋には病衣を纏った薄茶色の髪の少女が、ベッドの上で横になっていた。彼女がレイチェルだ。

 

「ヘイゼルだ」

 

 そう伝えながら手を振るとレイチェルは起き上がり、こちらへと顔を向けてくる。

 

「あ、ヘイゼル……来てくれたんだ」

 

 そのか細い声色と暗い表情に僅かに不安を覚える。レイチェルはこんな怪我如きで元気をなくすような人ではないはずなのだが……。私は彼女を元気づけるために真逆の笑顔を向けた。

 

「そりゃあそうだ、僚機がハーゼンバインじゃ自由に飛べないからな!」

 

「……違いないね、ヘイゼルもアイツも自由人だから!」

 

 私の雰囲気に流されて、ベッドに座る少女は打って変わって眩しさすら感じさせる明るい表情を見せる。

 

「「……」」

 

 一瞬、空間は静まり返ってしまう。外の鳥のさえずりさえもよく聞こえるまでに。何故そうなってしまったのか、原因は私にあっただろう。

 

「それで何かあった?」

 

 静寂を破ったのはレイチェルの一言だった。やはり彼女にはお見通しなのだろうが、私は咄嗟に強がりを見せてしまう判断を選んだ。

 

「あぁ、いや。問題はない」

 

 少し視線をずらしながら答えるが、レイチェルの貫くような懐疑的な視線が向けられる。こうなってしまえば彼女に嘘を隠し通すことは不可能だ。

 

「ウソ」

 

 レイチェルはクスッと笑いながら言い当てた。

 

「流石に一筋縄ではいかないな」

 

 緊張を解くとお互い自然に笑みがこぼれる。

 

「何年一緒にいると思ってるの? それに"問題はない"ってバレバレだし」

 

 レイチェルとは物心つく前から一緒にいた。軍に入ってからは会うことは無いと思ったが、訓練部隊で一緒になり。それから配属先はことごとく一緒になった。

 

「話してよ」

 

 そう言われ、私はことの顛末を全て話す。その間レイチェルは話を遮ることなく最後まで黙って聞いてくれた。

 

「なるほどね」

 

 レイチェルは少し考えるそぶりを見せ、視線を下へと向けるがすぐに向き直った。彼女こんなすぐに結論を導き出したのだろうか?

 

「私は浮かれていたのか?」

 

 そう訊くと即答で「そんなことない」と返される。予想外の返答に私は呆気にとられた。

 

「あなたは自信家じゃないと駄目。くよくよしたり、自分の信じる正しさや能力を信じなかったりするのはヘイゼルらしくない」

 

 その言葉で思い出す。私が信じるべき正しさとは何なのか。過ちを許さぬ心、決して曲げない信念……。それらがなければ私は私ではない。

 

「それに隊長ヴェーラ少佐は隊長としての威厳を見せてほしいと思ってるはず」

 

 確かにヴェーラは普段はフランクで親しみやすいが、飴と鞭の塩梅がしっかりしている。だから101部隊は絶対に彼女の命令に背くことは無い。それは信頼感と安心感が両立しているからだろう。私も戦闘隊長とはいえ、やはり人の上に立って指示を出す者としての威厳がなければ指示も聞いてもらえない可能性もある。一理ある考え方だ。

 

「けれど今度から部下を叱るときは言葉を選んでね。だって信頼はtrust is……」

 

 レイチェルがニヤリと笑いながら手を差し出してきた。私も同じように返して、互いに手を組む。握り返された彼女の手は力強く、とても病人とは思えないものだった。そして私達は言葉の最後のフレーズを同時に口にする。

 

「「力だ!power!」」

 

 レイチェルの励ましで自信が戻って来た。これからいくつもの壁が立ちはだかるだろうが、どうにかして乗り越えるしかない。優れた戦闘隊長までの道のりは始まったばかりだ。

 




[公開情報]ヘイゼルの使い魔
彼女の使い魔は茶色の猫だ。家で一人でいることが多い彼女の心の癒しは、幼い頃に契約したこの使い魔だったのだ。

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