オラーシャに日はまた昇る   作:vespa MDRN

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前回のあらすじ……
時として、敵はこちらの予想を超える。それを覆すのもまた、予想を超えるということ。それを実行するが如く単独でネウロイを迎え撃つヘイゼル。敵を墜とすことには成功したが、事前情報と敵勢が異なることに憤りを見せる。ヴェーラやハーゼンバインが彼女を諫めることで、その場は収まったがヘイゼルは納得していない。
己を見失いそうになるヘイゼルは、幼馴染のレイチェルから助言を受けて立ち直るのであった。


Ⅲ…千慮一失

レイチェルと会った次の日、私はある考えを実行することにした。私達の様な多国籍部隊では、どうしても国の文化や考え方の違いで小さな諍いが生じてしまう。自国での規則や習慣というのは簡単に捨て去ることはできないし、そうする者はごくわずかだろう。当然、この様なことは戦闘でも起こりうる。

 そこで味方同士での連携の強化を図るため、航空ウィッチ隊で飛行訓練を行うことを提案した。ヴェーラからも承諾を受けて、飛行許可を出してもらった。手探り状態の弥縫策びほうさくではあるが何もしないよりは全然いい。

 早速招集をかけたが、集まったのは私を含めて三人のウィッチだけだった。元々ここの航空ウィッチは六人しかいないため、半分集まったと考えれば妥当なのか。ヴェーラは来客の対応で忙しい、レイチェルは言わずもがな。そしてハーゼンバインには話しかけてもだんまりを決め込まれてしまった。いつもならこういうことには一番にとっつく彼女なのに。あの件から彼女との距離が一気に遠のいた気がする。レイチェルとハーゼンバイン、私の三人組でいつも行動していたのが、今では幻だったかのように感じる。

 

 

 暫時、格納庫で待っていると二人のウィッチが姿を現した。一人はレギーナことオラーシャ陸軍のレギーナ・カラシニコヴァ少尉とノリコだった。二人とも余り喋らない性格だからこのメンバーだと少し不安があるが、どっかの誰かさんハーゼンバインみたく口答えをしてこないから楽なのかもしれない。

 

「みんな集まってくれて本当に感謝する、今日ここに来てもらったのは部隊の連携力の強化のため、飛行訓練を実施するから来てもらった」

 

「……」

「はい……」

 

 レギーナは黙って頷いた。反応がないよりかはマシだが、せめて”はい”とか”了解”くらいは欲しいものだ。だが今はそんなことでいちいち小言を言う気は毛頭ない。

 

「早速準備に取り掛かろう。発進準備が出来たらサインを送れ。わかりやすければ何でもいい」

 

 二人はまた無言で頷いて武装しに向かった。私も同じようにハンガーの方へ小走りで向かう。ストライカーを履いてマシンガンを手に取る。二人は既に準備を終えて各々サインを送ってくる。レギーナに比べ、ノリコはとりわけ早かった。以前、私が遅いと指摘したからなのだろう。だがそれで何か見落としがあったりすれば本末転倒だ。

 

「ノリコ。以前私が行ったことは忘れろ。手の平を返すようで悪いが、慌ててミスをするよりも慎重に行動してミスを失くした方がいい」

 

 さっきまでの怯えた草食動物のようなノリコが、私の態度の変わりようにキョトンとした表情を見せる。

 

「あ、はい!」

 

「この前は悪かった」

 

 そう言うとノリコから笑みがこぼれた気がする。それを傍観者のレギーナが表情一つ変えずに見ているから、気恥ずかしさがよぎるが気を取り直す。

 

「発進!」

 

 私の言葉を合図に、ストライカー達のエンジンが出力を上げて加速する。滑走路の半分くらいで離陸すると、先行して目標地点まで二人の前を飛ぶ。少しすると訓練を行う、目標地点に辿り着く。

 

「それでは訓練を始めよう。まずは陣形を維持して簡単なアクロバット、それから私の合図でブレイクして」

 

「……はい」

 

 やっと返事をしてくれたレギーナだったがやはり声が小さい。まぁレギーナは本当に必要な時しか口を開かないし、人見知りなのはいつものことだから大目にみることにしよう。

 

「ブレイク後、私は仮想敵に役を変更する。そこからはノリコはハイ・ヨーヨー、レギーナはロー・ヨーヨーで私を挟み撃ちにしろ。ぶつからないように注意だ。それじゃあ始めるぞ!」

 

「「了解」」

 

 私は二人の声を合図に先陣を切ってアクロバット飛行を開始する。暫くしてブレイクの合図を出そうとすると、不意にインカム越しにヴェーラの声が聞こえ始める。

 

『警報、キエフ方面からネウロイが進行中。距離8000、高度100。付近の動けるウィッチ隊は直ちに出動してください』

 

「ネウロイが来るのか!」

 

 最初は驚かされたがこれは好都合。こちらは燃料も武装もあり、おまけに飛行中だ。これではネウロイも飛んで火にいる夏の虫だな。

 

「こちら101飛行戦闘隊、エイムズ大尉だ。私達が即座に迎撃にあたる」

 

『ヘイゼルね? 了解したわ、無茶はしないようにね』

 

「わきまえている!」

 

 そう返して通信を切ると二人にアイコンタクトをしてネウロイの方へ飛ぶ。情報では敵は意外と近く、直線距離にして5キロメートルほどだった。前に取り逃がした、高速型の片割れの可能性が疑われる。ヴェーラなら今のうちに相手を予測して戦術を練っているはず。私も必死に考える。

 

(高速飛行をするタイプなら恐らく、私達を無視して都市部へ向かうだろう。そうなれば形状に応じて最速のコアの探し方を即座に考えないといけない……。前のと同型機なら一瞬でかたがつくが)

 

 接敵までは時間が少しある、ならば予測進路上空で待ち伏せして一気に降下しつつ上から追撃を仕掛けながら弱点を探すのがいいかもしれない。私は二人に指示を出す。

 

「全機停止! 敵予測侵攻経路の上空で待ち伏せをする!」

 

 二人は一瞬顔を見合わせるが、すぐに指示に従った。少しだけ高度を上げて、ネウロイが来るであろう方向へと瞳を凝らす。天気は曇りで周囲は昼間にしては暗く、黒い物体を探すのにはいささか向いていない。

 

「敵機発見、10時の方向」

 

 見つけたのはレギーナだった。言われた方向へ目をやると、やはりネウロイらしき機影が高速でこちらへと前進している。

 

「全機攻撃用意!」

 

 私達は銃のセーフティを解除する。ネウロイの姿がはっきり見え始める。綺麗な二等辺三角形をしており、まるでロマーニャの食べ物の”ピッツァ”のようだ……。

 

「接敵します」

 

 ノリコの報告で私は攻撃開始の合図を送る、同時に私達は一気に加速しながら降下してピッツァ型ネウロイと並行して飛ぶ。そして三人で別の位置から、お互いに射線が通らないようして敵へ向けて弾丸を浴びせる。ネウロイの装甲が破壊され、金切り声を上げると同時にこちらへビームを乱射してくる……がそれらは全くこちらに当たる様子がない。今回の奴はちょっと弱すぎるかもしれない。

 

「コアを発見!」

 

 レギーナが珍しく叫ぶと私はノリコへ回り込んでコアを攻撃するように指示する。彼女の持つ13mm機関銃ならコアを簡単に破壊できるはずだ。その間私はネウロイの攻撃を引き付ける。流石に弱点が丸見えの状態では敵の射撃も正確になるだろう。

 私はマシンガンでネウロイを攻撃する、その瞬間敵は急激に形状を変化させた。ピッツァ型だったネウロイは見る影もなく、流線形の戦闘機?の様な姿に変貌した。その影響で露出したコアは隠れ、おまけといわんばかりに速度と攻撃性が増して追撃が厳しくなる。私達はシールドを展開して追いかけるのでやっとの状態まで追いつめられる。

 このままやすやす逃がすか、それとも捨て身の一撃を仕掛けるかを考える。いや他にも何か方法があるはずだ。この状況を覆す正しい道が! 考えろ、考えろ……。ヴェーラならどうする? 父さんならどうする? 考えるんだヘイゼル!

 

「エイムズ大尉! 指示を!」

 

 レギーナが回避と攻撃を繰り返しながら、苦しい声で訊いてくる。私はすかさず思いついた作戦を口にして吐き出す。

 

「……私が盾になる! 二人は後ろについてきて攻撃位置に着いたら射撃!」

 

「「了解!」」

 

 私はシールドを展開してストライカーの出力を上げて前進した。魔導エンジンが唸り声をあげ、プロペラの回転する音は空を引き裂く。P-51の最高速度ならあのネウロイにも追いつける。私はシールドで守ることと前に出ることに集中すればいい、後は二人がやってくれる。やがて攻撃位置につくと私は合図を送った。

 

「これで終わり」

 

 レギーナがそう呟いて射撃するとまたコアを見つけ出し、更に攻撃を続ける。私も勝利を確信した、その時だった。ネウロイは自身の体から棘か刃の様なものを射出してレギーナとノリコを攻撃したのだ。それは余りにも唐突で見えにくく、速度もあったため二人は成す術もなく被弾する。

 

「レギーナ! ノリコ!」

 

 二人は意識を失ったのかぐったりして地表へと吸い込まれていく。私は考える前に体を動かした。ネウロイを無視して二人へと向かう。まずは一番近いレギーナからだ。落ちる体を掴んで脇に抱える。次はノリコだ。全速力で降下するが重くて距離が縮まらない。武器を捨てればもう少し速度が出来るかもしれないが、スリングが邪魔をしてそれを許さない。真っ逆さまに、重力に引かれるノリコへ手を伸ばす。間に合え!

 ノリコが地面に激突するすんでのところで、誰かが彼女を助けた。援軍が来たのだ、ほっと胸をなでおろしつつ私は体を引き起こして上昇する。

 

『ヘイゼルね』

 

 インカムの通信でヴェーラの声が聞こえたが彼女は私の目の前まで来ていた。その腕には意識を失ったノリコが抱えられていた。

 

「すみません、こんな結果になってしまって……」

 

 私は抱きかかえたレギーナへ目をやり、微かに呼吸をしていることを確認する。

 

「誰にだって失敗はあるわ、それにあなたは任務を達成した」

 

「え? どういうことですか……」

 

「ハーゼンバイン少尉と陸戦ウィッチ隊が迎撃に出たけどネウロイは上昇して引き返していったわ。街と基地は守られた」

 

 ヴェーラはそう言ってくれたが私にとって任務は失敗だった。ネウロイは倒せず、仲間を危険に晒し、その上あがりが近いであろうヴェーラにまでも無理をさせた。私の完全敗北だ。

 

「さぁ早く戻るわよ、二人の治療をしないと」

 

「了解……」

 

 基地に戻るときにハーゼンバインが私も僅かに被弾していることを指摘して、レギーナを引き受けてくれた。改めて自分の体を確認すると左肩と左腰に切り傷があったが、それ以上に腕がレギーナの血で染まっていたことにショックを受ける。

 あの時私が選択すべき正しいことはなんだったのか、何が間違っていたのかを考える。作戦……あの時もっといい作戦があったのか、そもそもあの場面では退いておくべきだったか。色々考えているうちに私は滑走路をオーバーランし、止めてあった四輪駆動車に激突する。私の体は無事だったが、ストライカーは壊れてしてしまった。翼がもげて、片方は外装が剝がれてエンジンまでもが損傷。幸い修復可能な程度だったが直すのには時間がかかると整備班に言われた。

 私は人を導くのには向いてないと今回の件で痛感させられた。数時間後、私はヴェーラに戦闘隊長を辞任することを申し出た。

 

 




[公開情報]石山典子少尉とレギーナ・カラシニコヴァ少尉
扶桑陸軍所属の典子は軍の都合で無理矢理ナイトウィッチに仕立て上げられた少女。101部隊では火力担当で、ストライカーは夜間戦闘脚「月光」を使用している。おとなしい性格だが、人を守るためなら散ることも厭わない鉄の精神を持ち合わせている。
 オラーシャ陸軍所属のレギーナは非常に寡黙だ。感情の起伏がなく、人間かどうか疑われることもしばしば。だが彼女が言葉を最小限に抑えているのは"言葉は人を殺す"ことを知っているからなのだ。その様な暗い部分がある反面、彼女の部屋には動物のぬいぐるみなどが沢山あるとの情報(ハーゼンバイン談)があったりする。

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