信頼は力。いつからそれを口にしだしたかヘイゼル自身でも覚えていない。しかしその言葉は確かに存在し、常に彼女のそばに寄り添っていた。
ハーゼンバインやレギーナ、ノリコの言葉で自信を取り戻したヘイゼルは、自身の背負っているものの重みを実感する。そして彼女が成すべき使命を果たすために、また歩き出す。
格納庫へ向かい、やっとヴェーラを見つけた。執務室にも食堂にもいなかったら、後はここしかないと思ってやってきたがビンゴだった。彼女は何やら物資を確認しているようだった。そのいくつかはリベリオン合衆国の国旗がペイントされた箱もある。あれが例のものか?
私が近づくとヴェーラは反応して、こちらへ向き直る。
「やっと来たわね、立ち直るって信じてたわよ」
「ありがとうございます、私間違って……」
「もういいわ、聞き飽きた」
ヴェーラは私の口を塞ぐと、にやりと笑って見せた。
「それより見てこれ。あなた宛ての荷物よ」
それは本国から送られてき新型のストライカーと武器、そして一通の手紙だった。手紙の内容は私に新型機の運用を任せたいとのことが書かれていた。
「新しいストライカーを……私に……?」
箱の中身を確認すると、そこにはストライカーが一対。白銀の外装、ペイントされた青い星、そして側面についたこれはインテーク……ジェットストライカーだ。しかし何故こんな場所までわざわざ送ってきてくれたのだろう。私は国にも信頼されているとも言わんばかりの大盤振る舞いだな。
「これってジェット? リベリオンでも開発されていたのね」
ヴェーラが横から覗き込む。名前はP-80、別名はシューティングスター。リベリオンでジェットストライカーが制式採用された噂を聞いたことがあるが、実物が自分にまわってくるとは夢にも思っていなかった。
私がその銀色のストライカーに食いつくと、付近の整備班員たちもざわつきながら物資の箱を囲む。
「これならいつでも飛べるわね。早速だけど仕事よ」
ついさっき立ち直ったばかりだというのに、ヴェーラは手厳しいな。まあ丸二日間、何もしていなかったからこの判断は妥当か。
「202部隊との共同だけど、哨戒任務をやってもらうわ。それの慣らし飛行にはもってこいでしょ」
202部隊……私達101飛行戦闘隊の次に結成されたオラーシャ軍傘下の多国籍航空ウィッチ部隊。噂によると新人だらけのお飾り部隊だと聞くが、今は人手不足。使えるものは何でも使うのがベストなのだろう。それが良いか悪いかはとりあえず保留にしておく。
「哨戒はあなたとハーゼンバイン少尉、それと202部隊のウィッチでスラクシナ曹長とフロスト軍曹にやってもらうわ」
そう言うとヴェーラがちらりと明後日の方向へ目をやる。何かあるのかと思い、私も彼女の視線の先へと注目する。そこには軍服の少女が二人。あれがヴェーラの言っていた202部隊の航空ウィッチか?
一人は赤茶色の髪の少女。彼女の着ているオリーブグリーンの軍服はオラーシャ空軍だな。もう一人は私と同じオリーブドラブの軍服ということは、同じリベリオン陸軍所属か。だが彼女の身につけている派手な髪飾や服の装飾品は……流石リベリアン・ガールといったところだな。私はこういうものに疎いからよくわからない。
「スラクシナ曹長は私の妹の教え子だからあなたのお荷物になることはないわ、もう一人は……よくわからないけどリベリオン人だからあなたの言葉は通じると思う」
リベリアンガールの情報が言葉が通じるしかないのか……。だが凸凹の即席部隊とはいえ、任務は哨戒だけだ。ハーゼンバインも来たことで私達は出撃する。ジェットストライカーの調子は良く、離陸に時間がかかり少し遅れるたが、ジェットエンジンのパワーで数分もしないうちに追いつくことができた。少々操縦性に癖があるが慣れれば問題はない。
「これがジェットストライカーかぁ~。でも銀色なのは私好みじゃないかも」
フロスト軍曹が物珍しそうにじろじろと見てくる。すると思い出したかのように、ハッとしてポケットから何かを取り出す。
「あ、自己紹介遅れました。えー、私はステイシー・フロスト軍曹です。えー、大尉と同じくリベリオン陸軍所属です。よろしくお願いしますー」
彼女は手元の紙を読み上げてながら、棒読みで話す。本当に202部隊は大丈夫なのか、不安になってきた。
「レイラも自己紹介ー」
フロスト軍曹にそう言われスラクシナ曹長もさっきまで固く閉ざしていた口を開く。
「レイラ・スラクシナです……レイラでいいです」
彼女もまた低い声で答える。オラーシャ人は控えめな人が多いな。そう思うとヴェーラはだいぶ特殊な存在だったんだな。
四人で編隊を維持しつつ、少し飛んでいると二日程前に戦闘があった場所に差し掛かる。緊張が走った。またあの変形ピッツァ型ネウロイが来ないか不安になる。フロスト軍曹はハーゼンバインに絡んでいるがスラクシナ曹長は真っ正面へと目向けているが、さっきよりも目つきが悪い気がする。遠くを見ているのだろうが、この様だと勘違いを生みそうだ。
よく彼女を観察すると、さっきまでの赤い瞳が違う色に変化していることに気づく。遠視の固有魔法もしくは噂に聞く『魔眼』の持ち主なのか?
「敵機、東北東! 距離4000、高度は6000! こちらに急速接近!」
スラクシナ曹長が急に何を喋り出すかと思えばネウロイの位置か?
やはり彼女は感知能力系統の固有魔法を持っているのか。ならば話は早い、後は叩くだけだ。
「おいマジなのか? 目視で確認できないぞ!」
ハーゼンバインがそう言った瞬間、ネウロイの不気味な金切り声が聞こえた。私は即座に指示を出す。
「ブレイク!」
全員で違う方向へ散る。敵は真っ直ぐこちらに向かって攻撃を仕掛けてきた。姿をよく確認すると前の奴だが、既に変形済みでピッツァの形はしていない。しかも以前より速度が速く、隠密性も得ているときた。
「うっそ~ネウロイなんて!!」
フロスト軍曹が泣き言を言いつつも対応する。今回ネウロイは街を目指すでもなく、反転して私達の方へ戻ってきた。スラクシナ曹長が狙われている。彼女は機関銃で敵を撃ちつつ回避するが攻撃時間が短く、決定打は与えられない。ネウロイは旋回して次の攻撃を仕掛けようとする。
「追撃する! ドッグファイトだ!」
受け身では勝てない、敵を追いかけて攻撃しなくては。相手はヒットアンドアウェイを繰り返しているため、このままではジリ貧だ。
私達がネウロイを追いかけると、敵はそれに気づいたのか急速旋回してヘッドオンを仕掛けてくる。
「シールド!」
私の合図で全員シールドを張りつつ攻撃する。これでネウロイの機首部分が破壊されるがコアは見当たらない。高速でネウロイとすれ違う。その時の風圧でフロスト軍曹が大勢を崩し、編隊から距離が離れてしまう。相手はこの好機を逃しはしないとばかりに、孤立したウィッチへと狙いを定めて猛攻撃を仕掛ける。シールドでなんとか凌いでいるようだが、回避運動が取れていない。あのままでは十秒も持たない。
「まずい!」
私は考える間もなく、フロスト軍曹の救援に向かう。
「ヘイゼル!」
「エイムズ大尉!」
残った二人が私へ向かって声をあげるが気にしない。もう仲間は傷つけさせないと私は誓った。
「援護しろ!」
その一言でハーゼンバインとスラクシナ曹長は「了解!」と返して、私の後をついてくる。未だネウロイはフロスト軍曹のみを狙い撃ちにしている。ならばこちらは死角からの奇襲が可能ということだ。私は50口径のマシンガンを構えて、引き金を絞る。
「射撃!」
私の合図で後ろの二人も攻撃を開始すると、弾丸はネウロイの翼端部分に命中して装甲が削り取られる。敵は鳴き声を上げて、回避運動に移行した。一先ずフロスト軍曹からネウロイを引き離すことに成功した。
「助かった~」
インカム越しに安堵の声が聞こえて、私も一安心する。
「礼は後だ!」
肝心のネウロイはまだ健在だが、翼端のダメージの再生であからさまに速度が落ちている。これならドッグファイトが挑めるかもしれない。しかし四人で格闘戦を仕掛けても、再生が完了すれば速度は自ずと元に戻るだろう。であれば格闘戦と一撃離脱の挟撃を行うことにする。これならば相手を徐々に追い詰めることが出来るはずだ。
「三人は格闘戦に入れ! 私は上昇して一撃離脱を仕掛ける!」
「「了解」」
「ああ! 任せな!」
ハーゼンバイン達はネウロイの後を追いかけていき、私は一気に上昇しインメルマンターンで水平に戻る。下を見ると三人とネウロイが格闘戦を繰り広げている。今ならもう一度、奇襲攻撃が可能になる。降下して高度を速度に変える。速度はどんどんと上がる。速い。まさに流星の名に恥じない性能だ。
ネウロイへ近づくと私はマシンガンを構える。これなら奴の装甲もゼリーに等しい。
「落ちろ!」
トリガーを引き切り、異形へ向けて12.7mm弾を浴びせる。するとネウロイは格闘戦でのダメージもあってか、真っ二つに千切れて失速する。その傷口からはコアが覗き込んでいた。フラットスピンを起こして狙いにくいが、このままなら撃墜は容易い。
「全機、コアへ集中砲火!」
私の号令で銃弾のシャワーをお見舞いする。が同時に分離したネウロイのうち、コアを保有している部分が、体勢を立て直すと同時に加速して逃走を図った。
「逃がすか!!」
私はストライカーのエンジン全開にして追いかける。今なら降下のスピードも乗っているから簡単に追いつくことが出来る。二人の受けた痛みはきっちりと返させてもらう。
「止めぇ!」
コアへと狙いを定めて、ターゲットが粉々になるまで射撃する。心臓を失ったネウロイは最後に光を放って消え去った。
「やったな戦闘隊長」
ハーゼンバインが私の元へ追いついてきて言う。その後ろには202部隊の二人もいる。ちゃんと全員無事だな。
「ああ。ありがとう、みんな」
「ヘイゼルはこうでなきゃ」
伸びをしながらハーゼンバインは朗らかな笑みを浮かべる。
「大尉の判断、見事でした。ハーゼンバイン少尉も常に私達の位置を考えながら飛行してくれたので戦いやすかったです」
スラクシナ曹長がそう言うとフロスト軍曹が「え~私も褒めてよ~」と訊いてちょっかいをかける。スラクシナ曹長は「迷惑をかけなければな」と返すとフロスト軍曹は肩を落として落胆する。
「そういうな、さっきはよく耐えてくれたフロスト軍曹。それに君が孤立したことで攻勢の起点になった、感謝する」
「マジで? よっしゃぁ!!」
フロスト軍曹は歓喜してアクロバット飛行を繰り返す。彼女は結構純粋だな。その様子を見てか「ウフフッ」とお淑やかな笑い声が聞こえた。スラクシナ曹長かと思ってその方向へ目をやるが彼女は無表情だ。
もしやと思ってハーゼンバインへ向くと、見たことのない笑顔をしている。やっぱりお嬢様だったんだ。