オラーシャに日はまた昇る   作:vespa MDRN

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大変お待たせいたしました。
生きています。


Ⅱ…日没

 新しいストライカーユニットが届いてから一夜明け、早速ヴィルヘルミーネは新型の飛行テストを開始した。

 件のユニットには“パーフェクトストライカー”と名付けられたそうだ。初飛行では時速900キロが出たそうで性能は申し分なさそうだ。武装も20ミリ機関砲のイスパノで火力も高い。実戦テストで問題が無ければ量産されるのであろう。そうなれば私にもチャンスが訪れるだろうか。

 

「これより新型ストライカーユニットの飛行テストを行います」

 

 ヴィルヘルミーネの言葉を皮切りにストライカーは甲高いエンジン始動音を響かせる。彼女はゆっくりと加速しながら進むが、滑走路が足りずオーバーランをしてしまった。その様子を遠目で確認したスヴェトラーナがインカムでヴィルヘルミーネの様子を伺う。

 

「隊長、大丈夫ですか?」

『問題ないわ、もうすぐ飛べる……』

 

 すると彼女の体はふわりと浮き上がる。無理やり離陸したのは否めないが、事故が無いだけ良いと思うべきだな。他の人らが歓声を上げているのを見るに、誰もヴィルヘルミーネが失敗するとは思ってもいないようだが。

 

「あれを運用するなら滑走路が足りませんね。延長の打診をしないと……」

「誰にだ?」

 

 すぐさまメモを取るスヴェトラーナ中尉に私が尋ねると、彼女はくたびれた表情で答えてくれる。

 

「ここの責任者、キール・カルガノフ中佐って言うんですけど。補給のためにあちこちを回ってて連絡が取れないんですよ……」

「責任者はヴィルヘルミーネじゃないのか?」

「ええ、最終的な決定権を持つのは彼です。基地の指揮権は隊長に委ねられていますが、設備や補給に関しては……」

「そのカルガノフ中佐? ──っての許可がいるんだな」

 

 私がそう言うとスヴェトラーナはため息をつきながら頷いた。上の立場は色んな気苦労があるんだな……。私には同情してやることぐらいしか出来ない。昇進が良いことだらけじゃないのは知っていたが、中尉であるスヴェトラーナでこの有様だ。ここの人手不足は深刻だと改めて思い知らされる。

 

『高度3000にまで到達。エンジン、機体、魔法力に問題無し。これより運動性能の確認を行うわ』

 

 それからヴィルヘルミーネは見事なマニューバを披露してくれた。基本から応用まで教本通りかのように丁寧に行われたそれは、彼女の航空ウィッチとしての技量を垣間見させる。あれに追いつくには自分は程遠いと。そんな飛行に見とれていると背後から「順調そうですね」でか細い声がした。レナータがようやく来たようだったので、私は昨日の事を詫びる。

 

「レナータ……昨日はすまなかった」

「え?」

「レナータもレナータなりに、こなさなきゃいけないことがあるんだって分かったんだ」

「いえ……私こそ、あんなに大声で……」

「いいや、私は嬉しかった。あんたが自分の考えを主張してくれたからな」

 

 昨日はレナータがプレッシャーを感じないような言葉を掛けたつもりだったが逆効果だった。心の中で何を抱えているのかまでは分からないが、そういうのが彼女にもあるんだと思い知った。きっとレナータだけじゃないはずだ。何にも考えていなさそうなステイシーですら軍にいるんだ、何か戦う理由があるのだろう。

 

「でも、そういうのって我儘に見えるんじゃ……」

「確かに自重が大事な時はある。けれど自分を押し殺しすぎるのも良くない」

「そうですか? 組織にいる以上は一番大事だと思いますけど……」

 

 ここまでくると真面目を通り越して頑固だな。過去に何かあったと見える。だが、それを探るのは野暮というもの。自分から話してもらうのを待つ他ない。

 

「レナータが無理をしなければそれで構わない」

「はい、そのつもりでいます」

 

 その後も他愛もないことをレナータと話していると飛行テストが終了したようだ。着陸したヴィルヘルミーネの周りを大勢が囲っている。あれでは話しかけることも、ストライカーユニットを間近で拝むこともできない。今回は諦めて退くとしよう。そう思った矢先。

 

「レイラ」

 

 ヴィルヘルミーネに名前を呼ばれ、私の鼓動は少しだけ早くなる。昨日のことを咎められるのかと思い、ゆっくりと振り返った。だが目の前にいたのは柔和な表情のヴィルヘルミーネだった。呆気に取られた私は上手く言葉が出せずに「な、なんだ?」とぎこちなく答える。

 

「昨日はごめんなさいね。別にあなたの実力を認めていない訳じゃないの。ただ、テスト飛行には万全を期さなければならないから」

「それは分かっている。私こそ思い上がりすぎた……」

 

 こう素直に謝罪を受けると、こっちも自然と言葉を返すことが出来る。本来なら私からすべきなのだが、意固地になっていたのかもしれない。この性分はウィッチになりたての頃から直せと言われていたが、今現在を持ってもこのままだ。きっと、この先もずっと。

 

「充分にテストが完了したら、みんなにもあのストライカーを試してもらいたいの。想像以上の性能よ」

 

 その発言で周囲は湧き立った。それもそのはず、テスト飛行であんな性能を見せつけられてはな。無論、私も例外ではなく、願っても無いことなのだが。なんだか釈然としない。

 これは私が捻くれているだけなのか。ヴィルヘルミーネが微かな笑顔を含んだまま近寄ってくるが、私はそれを逃げるようにして踵を返して立ち去った。

 こんなことをしてしまい、どうしてだか胸が締まるような気分になる。こんな気分は初めてだった。

 

 

 

※※※

 

 

 

 夜が更け、基地内に静寂がやって来た。私はその暗闇の中、足音を立てずに進む。こんな夜盗紛いの行動をしているのも、後ろめたい気持ちがあるからだ。廊下から階段へ、階段から、また廊下へ。それを繰り返して格納庫へと向かった。目的の物はそこにある。

 格納庫へと辿り着くと、ストライカーが保管してある場所へ足を向けた。その数は陸戦や予備も含めて十二。そして新たに配備された十三番目の新型ユニット、名前はパーフェクトストライカーと言うそうだ。

 

「ご大層な名前を……」

 

 私は漆黒のストライカーを目にしながら呟く。多少大きめだがシルエットは既存のそれとは大差ない。しかし、継ぎ足された増加装甲はやけに鋭角だ。避弾経始を意識しているのか?

 

「さて、実力の程を見せてもらう」

 

 私は例のストライカーユニットを起動させる。エンジンの始動音は他と比べると静か。やはり普通の魔導エンジンとは違う仕組みで動いているようだ。

 

「ジェットとも違うのか? ならばこれは……」

 

 エンジンを動かしただけでは分からない事だらけだ。実際に履いて確かめなくては。

 私は一対の空虚な穴へと両足を滑り込ませた。川の流れのように、増福された魔法力が体に行き渡るのを感じる。しかし、この魔法力はどこか気味が悪い。神経を逆撫でするような荒々しい魔法力。他のストライカーで増福されたものとは決定的に違う。拒否反応が出るほどではないが、気分を害するものだ。

 

「ヴィルヘルミーネはこれが使えるだと!?」

「誰にでも使えるようにしたつもりなんだけどなぁ」

 

 顔を顰めている私へと声が飛んだ。聞いたことのないそれがやって来た方向へと顔を向ける。暗闇から一人の女性が姿を現した。闇に溶けそうな黒髪の女はブリタニア軍の制服の上に、不釣り合いな白衣を纏っている。

 

「あんたは?」

「ブレンダ・エンフィールド。それの開発者さ」

「そうか、なら教えてくれ。これは何なんだ?」

 

 不快感のする魔法力に飽きた私はすぐさまストライカーを脱ぐ。その際に気づいたが、このストライカーには魔法力で作られたプロペラが無い。かと言ってジェットストライカーのような魔法陣も作られなかった。このパーフェクトとかいうのは、ストライカーユニットとは違う別の何かだとしか思えない。

 

「新しい理論を用いた新型ストライカー……という回答では不満なようだね。実際、私も説明したくてたまらないよ。しかし、上からの許可がなければ……ね」

「なるほど。まぁ、技術を独占したいというお偉方の思惑は理解できる。だが私達はこれに命を預けるんだ。ほんの少しくらいは理論を知っておきたいものだな」

 

 そう言って私は黒いストライカーに手を触れた。肌を伝う冷ややかな感触に混じり、仄かな熱を見つける。それはストライカーの主翼中央部にあった。ラジエーターか?

 もう少し調べようと指でまさぐろうとすると「待った!」とエンフィールドからストップをかけられる。

 

「精密機器か?」

「いや……そこは極秘事項に触れるからね……」

 

 私から目を逸らしながらエンフィールドはそう答える。成る程、この部分に秘密があるんだな。それに彼女の顔。後ろめたいことでもあるのか、やけに青ざめている。それとも情報が漏れる事で消されるのを恐れているのか。

 どちらにせよ、このストライカーには何かあるのは間違いない。暫く経過観察を続けていれば、どこかでボロが出るはずだ。

 エンフィールドが私に視線を刺し続けるので、ストライカーから手を離すと彼女はホッとした表情で息を漏らした。

 

「今日はこのくらいにしておく」

「今日はって……また来るつもりかい? 勘弁しておくれよ……」

「私は頑固だからな」

 

 そう言い残して私は格納庫を後にする。

 そうして、また暗い廊下と階段を行き来するのだが、今度は一室に明かりが灯っていた。ヴィルヘルミーネの自室だった。彼女は普段から執務室に寝泊まりしているので珍しい。

 扉が開きっぱなしなので、私は興味本位で中を覗く。ヴィルヘルミーネは机に向かって何かを書き留めているようだった。

 邪魔をしないようにと静かに通り過ぎようと慎重に足を運ぶ。だが二歩目を踏み込んだ途端、何かが原因で足を滑らせた。幸い尻餅をついただけで済んだが、何かがコロコロと軽い音で弾む。鉛筆だろうか。

 

「何やってるの?」

 

 音を聞きつけたヴィルヘルミーネは扉の前で私を見下ろした。互いの視線が交わり、結ばれて、離せなくなる。こんな状況になっていても私は何の疑問も抱かない。こうしているのが自然だからか?

 対するヴィルヘルミーネも、うんともすんとも言わない。数秒して私はやっと口が開けるようになった。

 

「あ、足を滑らせただけだ。それ以外は何も」

「何もって、あなた。格納庫に行ってたんじゃないの?」

 

 流石に隠し通せはしないか。この服装とやってきた方向を考えれば、火を見るより明らか。今日はツイてないな。

 

「お見通しって訳か」

「これまでのあなたを見てればね。少しくらいの行動は予測がつくわ」

 

 はは、と息を漏らすかのような軽い笑いを彼女は出した。こういう笑いをヴィルヘルミーネはするのは珍しい。基本的に彼女の笑いに声はついてこない。ただ表情を変えるだけだから、今は自然な笑いだったのだろう。

 

「そんなにあのストライカーを使いたい?」

「本音はそうかもしれない。だが私にはアレは扱えなさそうだ」

「どうして?」

 

 そう聞き返すヴィルヘルミーネの顔には驚愕ともとれる表情が浮かんでいた。まさか、彼女はあのストライカーが誰にでも使えると──。いや、そう言えば技術者もそんなことを言っていたが。私に適性が無いだけか?

 

「言葉で表すのは難しいな……何と言うか、ピリピリするんだ」

「……そう。つまり無断で使用したのを認めるのね」

 

 彼女の言葉を耳にして、私は乗せられたことに気がつく。思わず手のひらを顔面にベチンと打ち付ける羽根になった。

 

「ふふっ。私の前じゃ、嘘はつけないわね」

「上手く乗せられた……。あんたこそが本当の魔女だよ」

「褒め言葉をありがとう」

 

 ヴィルヘルミーネはクスッと笑いながら答えた。夜だと言うのに彼女の笑顔は思わず背けてしまうくらいに眩しい。そう思えるようになったのはひと月かふた月前からだった。

 

 初めのヴィルヘルミーネの印象こそ、良くはなかった。気だるげな表情に態度。それに比例してウィッチとしての仕事のやる気もない。正直、その背をついて行く気は全くなかった。

 しかし彼女のことを知るに連れてその訳を理解した。率いた部隊のメンバーを幾度となく失うから“墓碑銘刻み”なんて不名誉な名で呼ばれ、失うことを過度に恐れてしまったのだ。あのやる気の無さも、自身の能力を疑い続けた故の行き着く先なのかもしれない。

 けれども、私は彼女を焚き付けてみようと思った。二十歳になってもまだ、ウィッチとして戦えるのだ。こんな所で腐らせるのは間違っていると確信していた。

 結果、その背を押してあげることに成功して、ヴィルヘルミーネはやる気を取り戻してくれた。が、すぐに隊長としての威厳を取り戻すことは出来ず、副隊長のスヴェトラーナや私でサポートすることに。その中で、ヴィルヘルミーネのちょっとした仕草や言動、気遣いに“ある人”の影を感じた……。

 アンナ・ラフマニナ──ウィッチとしての私の師だった。

 そう言う考え方は良く無いことは分かっている。でも、どうしても、ふとした時に像が重なる瞬間がやって来てしまう。

 私の気づかない、深層の意識がアンナの代わりを求めているだけなのか? 死んだ人の代わりなど、いやしないのに。

 

「「レイラ?」」

 

 彼女が私の名を呼ぶ。“どっち”の声だ?

 折り重なったような声が脳内でこだまをする。

 

「ちょっと!?」

 

 肩に刺すような刺激が染み渡り、やっと視界がはっきりした。感慨に耽りすぎたせいだろう、変なものを見聞きしてしまった。

 

「私は、何をしていた?」

「何もしてないけど……。これだけ強く叩いてやっと気付いたのなら、早く休んだら?」

「あぁ……」

 

 そっと背を押された私はその勢いで自室への道を辿り、その終着点の扉を開けた。ベッド、机にクローゼットと最低限のものしかない、なんとも殺風景な部屋。

 大抵の私物はネウロイ占領区の中だ。きっともう焼け落ちているだろう。それらを失った時から、日課だった天体観測もやめてしまった。

 私に残されたのはネウロイへの憎しみとその他──虚無だけだろう。

 ベッドに引き寄せられた私は軍服のまま、そこへと埋もれる。

 漠然と、いつかは報われると信じて進み続けてきた。先にある何かを求め、足掻いてきた。その結果、手に入れたものは何だ?

 失った分だけ、私は取り戻せたか? 手に入れられたか? その答えがずっと出せずにいる。

 今までのように、ひたすらに前に進み続ければいいのか? いや、ここではきっと出来ないだろう。

 私には倒すべき敵がいる。アンナやみんなを亡き者にした異形……その姿は今でも夢に見る。あれはただのネウロイとは違う、別の何かだ。

 誰かが倒さなければ、私のように悪夢を見る者が増える。何よりもアレをズタズタにしてやりたいという気持ちがあった。だから、焦っているように見えるのか……?

 

 

 

※※※

 

 

 

 次の日の朝、ヴィルヘルミーネは例のストライカーでの模擬戦を行うと宣言。対戦相手の志願を募った。

 勿論、私は真っ先に手を挙げる。対してヴィルヘルミーネは少しだけ曇った顔を見せた。それもすぐに霧散するのだが、私は見逃さない。きっと、昨日の事が原因なのは明白だ。私がパーフェクトストライカーを潰そうと躍起になっているのが気に入らないのだろう。

 

「じゃあレイラ、お願いね」

「こちらこそ、お手柔らかにな」

 

 そう言ってお互い、模擬戦の支度を始める。ストライカーを履き、武器を手に取り、大空へと上がる。

 この貧乏基地にはペイント弾の補給は無い。よってルールは基本である、背後を数秒間取ったら勝ちというものだ。

 当たり前だが固有魔法の使用も禁じられている。己の技量とストライカーの性能を活かしてでの戦闘に慣れろとのことだ。

 

『双方、相手はウィッチだけど、実戦だと思って臨んでください。それでは、はじめ!』

 

 スヴェトラーナの無線を合図に模擬戦の火蓋は切って落とされる。

 まずはお互いにヘッドオンをするかのように距離を詰めた。背後を取るには近づかなければならない。そこからは必然的にドッグファイトが始まる。

 

「パーフェクトやらの運動性は未知数……だが速度が乗るのなら、それなりには曲がるはず」

 

 相手の姿が小さな黒い点から人型に変わっていく。そうして衝突しないように、進行方向をずらした。すれ違いざまにヴィルヘルミーネが笑った様に見えたが、残像でそう見えただけだろう。

 お互いに反転し、ドッグファイトが始まった。予想を上回る相手の旋回速度。パーフェクトの名は伊達では無いストライカーという訳か。

 模擬戦が始まったばかりだと言うのに、既に私は後ろにつかれる一歩手前まで追い詰められてしまう。

 

『あなたの実力はこの程度?』

 

 インカム越しのヴィルヘルミーネの声が耳をつんざく。彼女の声や言葉は気持ち、普段よりも強い。新型に浮かれているのだろう。

 だとすれば絶好の機会だ。完膚なきまでに叩きのめして、わからしてやる!

 私はドッグファイトを止め、垂直に上昇する。同時に魔導エンジンの出力を落として失速する限界を狙った。

 ヴィルヘルミーネは何をされるか分かっているのか追っては来ず、距離を保ったまま水平飛行を続けている。こちらの失速機動を見抜いている訳だ。ならば失速後に攻勢に入るに違いない。勝ちを確信しての事だろう。

 

「これで勝ったと思うなよ!」

 

 私はエンジンを最高出力でふかして、体を水平に戻した。失った速度を取り戻しつつ、緩降下で更に稼ぐ。同時にヴィルヘルミーネの背後めがけて真っ直ぐ進んだ。

 無論、これで勝てるとは思っていない。この一撃離脱を好機に追撃してくる相手の失速を狙う。

 

「ここまでだ!」

 

 相手の気を引く為にわざとらしく喚いて見せた。しかしヴィルヘルミーネはチラリとこちらを一瞥するだけ。だが体は回避の態勢をとっており、緩やかに弧を描く。

 失敗か。そう思い体を逸らして上昇し始めた瞬間、私の瞳に影が差す。

 

「嘘だろ!?」

 

 なんとヴィルヘルミーネは加速しながら、私の後をつけていたのだ。高度も速度も劣っている状況の彼女が。

 このままでは確実に距離を詰められ、背中を明け渡すことになってしまう。それだけは避けなくてはならない。

 とは言え、悪あがきでドッグファイトをしたとて、速度のエネルギーでは優位を取ることもできない。持久戦になれば性能の高いストライカーを履いている彼女の方が勝ちやすい。

 正直、私に勝ち目は無い。では、どうすべきか──反則技の出番だ。

 

「……ここは勝たせてもらう!」

 

 私は厄介な固有魔法“感覚暴走”を発動した。これにより、感覚は極限まで研ぎ澄まされて時間の流れがゆっくりに感じられる。

 人の判断速度は大体0.6秒程度だという。ヴィルヘルミーネが背後を取ったと認識する0.6秒ギリギリで回避運動。そこからオーバーシュートで逆に後ろをもらう。私の固有魔法であれば、それができる筈だ。

 気づかれない程度に速度を落とし、相手と絶妙な距離感を保つ。そして、機を伺う……。

 

『取っ──』

 

 ヴィルヘルミーネの声が聞こえる始める頃に、既に私は体を捻り、急速に速度を落としていた。必然的に相手は前に押し出され、私が自動的に背後を取る形となる。

 

「取った!」

「嘘!?」

 

 驚いたヴィルヘルミーネすぐ様さま減速。お冠といった表情で私の横についてきた。

 

「今のは確実に私が先よ」

「負け惜しみか?」

「あなた、固有魔法を使ったわね」

「……いや」

「あの反応速度は絶対にやってるわよ。ルールで禁止されている技を使うなんて、そんなにこのストライカーユニットを否定したい? あなたが使えなかったから?」

 

 そう言ってヴィルヘルミーネは捲し立てる。こんなになっている彼女は初めて目にした。眉間に皺が寄っている。彼女も焦っているのだろうか?

 どうにかして戦力を補強しようと躍起になっているように見える。とは言え、補強したいのはここの戦力ではなく、最前線なのだろう。

 早くパーフェクトストライカーを量産配備して、ネウロイのいなかった世界を取り戻したい。その一心なのだろうな。私とて同じ考えだ。

 それよりも私は、彼女の身を案じていた……。

 

「そんな訳じゃない。ただ、あんたが心配なだけで……」

「心配なら無用よ。これは私の脚によく馴染むから、実戦でも問題なく扱えるわ」

「……ああ、そうかい」

 

 聞こえないくらい小さな音で舌打ちをして、私は大地へと降りていく。その去り際に「ルール違反で私の負けだ」と残して行った。

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