宇宙人の監視・捕縛など、地球を陰からひっそり支える。
実在しないけど本当に存在する最高機密機関『メン・イン・ブラック』

あの黒服二人が動き出す。

MIBの独特な文章は多分こんなかんじ
二次創作がハメになかったので自給自足です。

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第1話

ニューヨーク市

夜十一時、とある飲食店にて。

 

視界がぼんやり薄れたかと思えば、目の前には白髪と黒服がやけに似合う、それは既に初老だろうと見える男性が笑顔でこちらに話かけていた。視線をふと下に落とせば机の上には赤いラズベリーが乗った食いかけのパイと薄汚れてブラウンに溶けた珈琲が置いてある。少し無理やりなまでに着色されたそのパイが置いてある皿の下にはこれまた伝票が。『Mix image Bread』と記されたその紙を見るに、どうやら今の時刻はすでに22:30を越している。夜も更けてきたという中、前に広がる二人分の食事の代金は先払いのチップを含めても二十五ドルに満たないようだ。

 

「だから私は言ってやったんだよ『そのパイは無限に続く数字のことじゃないか?』ってな!」

「あ、ああ」

 

今は一体どういう状況なのだろうか?

 

先の脊髄反射そのままの返答に気分を良くしたのか同じく「ああ!」と自信ありげにその雰囲気に少し似つかない豪快な笑みを浮かべる見知らぬ黒服の老人と、いまだ目が覚めたばかりの気分で思考が上手く働いていない自分が存在しているのは確かだろう。しかし現状身に起きていることについての把握は全くできていないし、パイと円周率の話で盛り上がった経験はこれが人生初である。そして一番の問題はその前後の内容と記憶がすっかり溶けてしまっていることだが……まあいい。もしこの目の前に広がる状況を知りたいのならば、きっと都合よくか元凶かもしくは両方だろう目の前の人物に声をかけるのが一番で、つまりその他ないというわけだ。

 

「その、パイがどうだって話は……」

「すまないがその話は終わりだボク」

 

……それは残念。どうやら一段落着いた話の流れの隙に例の男はすっと腕時計を一瞥すると「そろそろか」と独りでに呟き、どこからか見慣れない形をした銀色の携帯端末を取り出して「迎えをよこしてくれ」と言ったかと思えば、青色の澄んだ瞳をこちらに向けて真剣な表情で突然こう言った。

 

「それでだ青年、君は今の今までこの名も知らぬ愉快な親父と “何事もなく” 今日の昼からこの時まで無意味な時間をほぼほぼ半日に渡って過ごしてきたわけだが、君は不運にも隣に座ってきた黒服珈琲の男に少しばかり強すぎる酒を飲まされてしまった。あまり飲酒を重ねていないと言う君の肝臓にきっとそれは耐えたのであろう、残念ながら今の今まで私と話してきた内容はすっかり忘れてしまったに違いない。よってここは責任をもって年配の私が会計を持とう。だから君には心置きなく店前に停まっているタクシーに乗り込み早々に家へ帰ることを勧めよう。そして今日はただただ無意味で “何もない” 時間を過ごしてしまったのだ。オーケー? いいかい? そういうわけだ」

 

 

 

 

宇宙人の監視・捕縛など、地球を陰からひっそり支える。実在しないけど本当に存在する最高機密機関『メン・イン・ブラック』

略して『MIB』と呼ばれる先の組織……その構成員であるエージェント『K』・『J』の二人は一仕事を終えたのちに本部への帰還を果たすべく、冷えた夜のニューヨークを颯爽と車で走らせていた。

 

「なあK、さっきのあの子に酒を飲ますのはありゃ無茶だったんじゃないか?」

「なに問題ないさ。一度や二度飲んだところで失うものは脳細胞が少しだ」

 

運転席には白髪で初老の男…Kが、助手席にはそんな彼の相棒を務めるJが、それぞれ座っている。二人は今回の妙な事件について話を交わしていた。

 

「しっかし……あんな普通の子が宇宙人に狙われるなんて……一体どういうわけだ?」

「知らん。人間を食ったり苗床にするために侵略してくるバカはいるがな」

 

 

今回の事件は、とある宇宙人が冒頭の青年を誘拐しようと動いたことにある。

要注意人物を監視するために設置された人工衛星が、マンハッタンから不法に脱出する宇宙人の姿を検知したのだ。もちろん、この宇宙人を誰かが止めにいかなきゃならないわけで。追跡の仕事を直ちに任されたエージェントKとJの二人であり、彼らは急いで現場に向かったのだった。

 

レーダーの指し示す位置は民家に囲まれた街外れの公園であり、到着が遅かったのか現場にはいくつかの家の残骸が周囲に広がっていた。犠牲者はすでに出ているか間近の状況だろう。

 

『おいK! あそこに人がいる‼』

 

目的地に到着した二人が最初に目にした光景は、全長三十メートルは下らないワーム型の宇宙人が、既に地球の一般人に対して襲い掛かろうとしている状況であった。

 

『ありゃ一体どういうお取込み中だ……?』

 

慌てて腰からスペースガンを取り出そうとする二人。しかし直ぐに、どこか宇宙人の様子がおかしいことに気づいた。その気持ち悪い芋虫はまるで語りかけるかのように、一般人に対して呻き声のような金属音の狂騒をその醜い口から奏でていたのである。

 

⁈(!( 繝上?繝。繝ォ繝ウ縺ォ逾晉ヲ上≠繧 )!)⁉

⁈(!( 繧ョ繝ウ鬮ェ縺ョ蟷シホケ窶昴g )!)⁉ 

 

『おいおい俺は宇宙語なんて分からないぞ……なに言ってんだ?』

『知れば不幸せになることだろうな』

『ってアイツこっち見た⁉︎』

 

 

……回想ここまで。

白昼堂々と行われた事件。この事件は二人の存在に気づき突如狂暴化し襲ってきた宇宙人が、同じく即座に異常を察知したKによって放たれた零秒一瞬のスペースガンを食らい正面から爆散という、それはもう派手でしかし呆気の無い終わりを迎えたのだった。

 

『はいそれでは皆さんこちらに集まって? そうそう。えー、植物に着いた虫を害虫だ害獣だとアイツらに向かってスプレーをかけることがありますよね。世の中にはそういったことを嫌って有機栽培なんてことを自ら進んで行う人がいます。私から言わせて貰えばそれはナンセンス! 空気から窒素を取り出せる時代なのにわざわざ原始社会の方法に戻るなんて、過去を懐かしむにも程があるでしょう。その結果……それではこの光を見て? そう、つまり今回皆さんがご覧になったように、綺麗な栄養を撮りすぎた芋虫が、ちょいとばかし大きく成長し過ぎてしまったようです』

 

\ /ピカッ\ /

 

『えー、だからつまりその、家庭菜園をするならしっかり肥料を使いましょう! どうしても有機栽培がしたいってならモヤシでも育てりゃいい。ああでも爪を伸ばすのはオススメしませんよ? なぜなら爪は伸びるのは遅いし食べちゃった方がおいしいから……。最後に! 室内で植物を育てているというそこのあなた! エアコンの前に植物を置くのはやめましょう。それでは解散』  

 

 

そういえば、とJが思い出したように声を発した。

 

「俺を珈琲男っていうのは構わないが、そりゃ角が立つってもんじゃないか?」

「知らん」

「未成年に酒を飲ませるのもアウトだ。どう見たってあの子はまだ年齢に達してない。それに」

「小僧、お前だってちょっとくらいは “経験” あるんだろう?」

「ちょ…いや、それは今じゃなくていいだろ」

 

仏頂羅にもいたずらな表情を滲ませてKは「 “相棒” に隠し事か?」と返す。

 

「だからその、俺は……だなあ?」

「元ニューヨーク市警殿、ハキハキ答えるんだな」

「はあ……参ったよ、K」

「よぅし大将、トンネル管理局に到着だ」

 

降り立つはバッテリー・ドライブ504番地。

マンハッタン島最南端に位置する、この近くにあるトンネルに空気を送るため建てられた一見するとただの通気塔。

その実は……最高機密機関『メン・イン・ブラック』その入り口だ。

 

 

 

 

「光あれ」

 

そう言って壁面に張り付いているスイッチをつついてやれば、闇は限りなく失われて部屋には粒子と波が木霊し明るい世界が存在した。まるで一秒前の世界を全て否定するかのようにあっけなく日常が訪れる。つまり起床、それも朝の時間帯ではなくとびっきり夜の時間に。とはいえ今の時刻を確認すべき手段はこの部屋にないようだ。何故なら、ベッドと照明……高度にミニマライズされたその無駄を一切省いた棺桶のような空間に掛け時計の秒針は音を奏でないから。それは雑音であり信じたくない現実を刻々と写し出す鏡のようなものであるので閉まってしまっている。

 

この家には一人しかいない……わけではなかった。家を捜索してやれば埃を被った布団だったり鮮やか過ぎて使えないような皿があるだろう。それは確かな人間の痕跡でありだが同時にくだらない事実を添えつける。大丈夫。ただただ、両親は出張をしているだけ。死んでなんかいない。それはきっと良いことだろうが寂しいような気もする。もちろん前者のことである。それなら仕方ない、一人ごゆるりとこの楽土で呼吸をするそのついでにカーテンを全開に流星と星々でも眺めよう。

 

彗星はおいおいと姿を見せてくれないが、流星ならば運よく大気圏を通過してくれるというもの。正体はデブリだったなんてこともあるが、むしろ人類の英知の炎が意図せずとも生まれてしまうのは我々がどうしようもなく業の深く美しい生き物であることの証明で、流星にかけて光栄だろう。

 

「黄色から赤へと流れる星」

宙を見てみよう。夜空には今まさに奇跡が顕現して、星が流れている。

 

「透いた夢で今は朝」

目を開いてみる。覚醒と同時にコクコクと始まりの時の音が響いていく。

 

最後にぐっと目のあたりに力を寄せてやれば、視線をどこに向けているわけも分からずに思考にふける自分の姿と、ぬるく冷えたベッドからその自分自身のくだらない妄想から起き上がった。

 

夜空は懐かしい雰囲気を思い出させる。

だがどうしてか。今宵の星々は不穏な未来を暗示するかのように、力無く輝いていた。

 

 

 

 

「ふん〜ふふん〜♪」

PICO☆ PICO★ PICO☆

 

久しぶりの休暇を取ったエージェントJは数日間、自室で思うがまま過ごしていた。

社会から隔絶された身ではあるが、最近発売された新作ゲームに触れ、映像配信サービスで涙とポップコーンをこぼし、筋トレで自分の身体をイジメ倒せばその全能感に酔いしれる……その程度には十分満足することが出来ていた。しかし、

 

―――ガチャリ

 

そんなはずの彼であったが夢とは覚めるのが早いようで、もしくはこれが悪夢なのか、目の前にはオフの日だっていうのにやけに急いでいる様子のこれまた黒服姿のエージェントKが立っていた。

 

「ちょっと待て。お前がどうやってこの部屋に入ってきたのかはこの際聞かないがな、俺の休暇はまだ終わってないはずだ。あと三日も残ってる! 飯に一緒に行きたいってなら考えてやらんこともないがな、今は待ってくれ。そう、 “イイ” ところなんだ」

「休暇は終わりだ。黒服を身につけろ。歯磨きも忘れるなよ。……坊主、厄介ごとだ」

 

 

MIB本部にて。

 

「急な召集に関わらず全員が揃ったこと、話を始める前にまず感謝しよう。君たちの中には休暇中だったのものもいるようだが……すまない。今はそれどころの状況ではなくなってしまったのだ。皆も見ればわかるだろう、現在この本部からほぼ全ての宇宙人が消えているということが……」

 

1960年代頃に建設されたという空港ターミナルのような空間。少し古い作りをしたそこで今まさにMIB職員一同が欠けることなく集められていた。彼らの視線の先には見覚えのある一人の太った黒服の男が立っていた。

 

「結論から言えば……今地球は無くなるか無くならないかの瀬戸際、もしくは既に手遅れの状況にある。よってこの状況を何とか打破すべく君たちには集まって貰ったというわけだ」

 

沈痛な表情を浮かべる周囲の仲間たち。同じくKを見れば珍しく前を集中して眺めていた。見覚えのある一人の太った男を食い入るように。

 

「これは全世界のMIB支部の君たちにも配信されている。名も知らぬ全ての仲間たちにも伝えたい。どうか私に、地球に力を貸してくれないだろうか。今起きている事件は過去のルナマックス脱獄事件よりも厄介なこととなるだろう。しかし、数々の難題をこなしてきた君たちならばきっと解決できると信じている。」

 

何かがおかしいはずなのに皆は当たり前のように前の男を見ている。一人キョロキョロしていたJであったが、彼は遂にこの違和感に耐えられず横にいるKに小声で話しかけた。

 

「おいK」

「なんだ」

「ヤバい状況ってのは分かったが、もっとヤバいことが起きてるだろう?」

 

ふっと素っ気ない息で返事をされたが、それがかえって「ヤバい」を強調させる。

 

「誰も驚いてないように見えるが、俺には大驚きなんだぞ⁉︎」 

「そうか」

「そうさ‼︎ どうしてか知りたいか? いいか驚くなよ?」

 

―――だってな、目の前にいるあの男は

「俺の目にはな……あの太ったおっさんの幻覚が、今まさに動いて見えるからだよ!」

 

興奮を隠し切れず大きな声でそう宣言するJ。対してKは一同の視線がこちらに集まる中、自分で自分のほっぺを引っ張る相棒の様子を見て額に手を当てていた。

 

「なあK、これが現実なら本当のことを俺に教えてくれよな」

「……言ってみろ」

「あれは本物の “Z” で『死んだんじゃなかったのか、だろ?』…そ、そうだ!」

 

キラキラと目を輝かせるJに観念したKは、渋い顔をより渋くさせ口元をゆっくり数回僅かに動かしたのちに、一つの間を空けてようやく言葉を絞り出した。

 

―――知らん、と。

 

「?…そ、それってどういう」

「本当に知らんと言っている」

「二人とも、話は終わったかね? それでは諸君……これを見てくれ」

 

 

中央の大画面に周囲の視線が移り、するとようやく国営ニュースが映し出された。見てみれば画面上部には【ニューヨークで市民の大量失踪発生・ハーメルンか?】のテロップが載っており、質の良いスピーカーからはアナウンサーの声が響かれる。

 

『―――ロンドン・東京・上海など各主要都市にも同様のことが確認されている模様です。また、先ほど各国首脳は同時多発テロの可能性があるとして臨時会合を開き、何らかの関連性を―――』

 

「ごほんっ! 話に戻るが今まさに世界では大混乱が起きている。これは、外の世界だけでなく内の世界にまで及んでいる問題……いや逆だ。内の世界から外にまで及ぼしてしまった問題である」

「どゆこと?」

「いいから聞け」

 

「何となく気づいている者もいるだろう。始めに言った通りだ。宇宙人たちが消えた。私の仮説では少なくとも “この地球にいる全ての宇宙人が消えた” そう考えている。それも瞬間的にさっぱり。……彼らの監視を行っていたエージェントたちは皆口を揃えてこう言うのだ。『目の前から突然消えた』とな。おまけにそれが時間帯も同じで各国の支部から同様の現象を報告されては困る。それでいて原因が分からない…っハクション‼ ああ失礼、私も年なのだ。なぜ死んだはずのこの身が、再び壇上に立っていることさえ理解しない老いぼれなのだよ。それでは次の資料を開く。……皆、この画面を見てくれ」

 

宇宙人が消えた?

Zがどうして前に立っているんだ?

 

そんな疑問を持ちつつも、地球の危機だって言うので話を聞くJであったが、さて相棒はどんな顔をしてこのトンデモを消化しているのだろうかふと気になって横を見てみた。

 

 

Kはただ一人、黒い眼鏡を装着していた。

 

「―――っ⁉」

 

 

 

 

本能が叫び出し反射で服のポケットから黒眼鏡を取り出す。

 

 

―――間に合え。

 

 

 

 

\ /ピカッ\ /

 

 

 

 

『ニューラライズ完了、ニューラライズ完了』と無機質な声がMIB本部に響き渡っていた。

 

「皆ごくろうであった。どうしようもなかった。もう地球の残り時間も少ないのだ。最後の日くらいは全てを忘れて、愛する人たちのそばで過ごしてほしかった……。勝手を許してくれ」

 

倒れ込んだ職員たちは機械によって一斉に運び出される。搬入とも言える流れ作業で車に詰められた彼らは、そのまま自動運転によって懐かしの故郷・場所に送り届けられることになっている。

 

「あとは……私だけか」

 

 

―――はずだった。二人の男が立ち上がるまでは。

 

「Z、いきなり光らせてくるとは随分だな」

「イててっ……。ったく俺にも教えてくれよK」

「エージェントK! それにJもか⁉ なぜ意識が」

 

簡単な話だ。二人はニューラライズに勘づき、間一髪で目を守ったのである。

 

「四十年以上お前を見てきたんだ。予備動作の一つや二つ覚えるなというほうが無理さ」

「俺はコイツがこっそり黒眼鏡をしてるのを見た」

「な、なんと……。しかし二人とも、今回ばかりは本当にどうしようもなかったのだ」

「それがお宅の死んでた理由?」

「どうしようもないとは何が起きた、Z」

「……仕方ない。二人はこの仕事の立役者だ。話そう」

 

 

始まりは一つの流星だった。その時期にはまだ観測されないはずの流星の大群が空を彩ったのだ。アメリカほぼ全土から一部地域まで見られることとなったその光景は人々の胸に思い出として残った。だがそれは夢であり、或いは集団幻覚なのかもしれない。

皆気づくと朝だった。憂鬱な目覚めか、心地の良い起床か、それらは人それぞれ別のものであったが……だがそれでも多くの民々は口を揃えて翌日こう言った。『綺麗な流星を見た』と。

 

「おいおいなんだそりゃ、そんな話俺は聞いたこともないぞ?」

「それはそうだろう。なぜなら目撃者は全員……お前たちも含めニューラライズされたからな」

「そんなこと本当にできるのか? ニューヨークだけじゃなくアメリカ様本体だぞ?」

「ああできるとも。しかし今はその時でない、さて話の続きだ」

 

その時、私は……Zは確かに死んでいた。病気か、癌か、エイエリアンの襲撃か、その時確かに『Z』は死ぬ定めにあった。最後に見た景色は流星だった。真っ黒のキャンパスをこうも描けるのかと美しさに感動していた。それは紛う方なき “奇跡” だった。だが一夜一瞬で終わってしまう “夢” でもあった。

 

『綺麗な流星を見た』

人々が口を揃えて言うそれを聞いて私は悟ったよ。

「ああ、これはとんでもないことになるぞ。」

 

「K…俺には何のことだがさっぱりだったぞ」

「ソレとお前と地球、一体何の関連性がある? Z」

「何かヤバそうってのは分かったけどな」

「お前に何があった、Z」

 

その日から世界には小さな “無理” がだんだんと重ねられるようになった。そうだ、地球はそのものが巨大な機械仕掛けであり、複数のギアで構成されていると考えていい。水の一粒から私たち人間まで、存在そのもの全てがギアだ。

 

「理由もなく今お前が現れたとは思えん。何が言いたい」

 

一つや二つ、はては数億から兆単位までギアは抜けても大丈夫だろう。何故なら、あまりにも偉大なギア……自然の根本的原理は決して失われることがなく、我々は常にそれに寄りかかっているだけなのだから。

 

「教えてくれ、Z」

 

では、偉大なギアが増えてしまってはどうだろうか。例えば大気圏で溶けるはずのない宇宙船が黄金の輝きとなって燃えてしまったり、夜という現象がいつの間に朝となってしまう事象だ。増えて、増えて、増えて。“無理” の詰まった地球はいずれ内側から崩壊することになる。それが今日だ。

 

「何が起きたんだ」

 

“無理” を……いや、“奇蹟”を成してきたのは宇宙人の力なのだ。古来より、この地球には多くの宇宙人が訪れている。シュメール・ピラミッド・マヤといえば一つは有名な話があるだろう。そういった中には私たちにとっての神が少なからずいる。そして彼らは気に入った人間に対して “力” を授けてきた。

 

「………Z」

「K…このおっさん狂っちまったのか?」

 

古今東西の奇跡者には “世界を変えてきた” 者たちが多くいる。

彼らはパンを割り、海を割り、月を割り―――「いい加減にしろZ‼」

 

ついに痺れを切らしたKが銃を取り出した。

 

「つまりだ。この世界には本物の “奇跡者” が存在するのだよ」

「奇跡者だと?」

「神に選ばれた子といって良いのかもしれない」

 

Zの直ぐ背後にあった大画面がKのスペースガンによって粉々に落とされた。

 

「御伽話を聞いている暇はない! 何が原因なのかとっととそれを答えろ‼」

「おいK⁉」

 

沈黙が続く。

もしその崩壊とやらが本当ならばこの数秒も今の地球にとってはあまりにも貴重な時間だろう。

 

「……分かった。答えよう」

「次はないぞ」

 

『彼』に与えられた奇蹟は “信じたことが現実になる” 能力だった。流星の正体は塵などではない。地球の上に浮かんでいた異星の宇宙船そのものだ。彼はそれを無意識に光へと変えてしまったのだ。おかげさまで、この地球は多くの星々から危険視されるテロ国家認定ということで……

 

「私が “死んでいた” 理由も…彼の責任をやつら宇宙人に取らされたものだ。そして同時に監視を任されていた。だがその必要ももうないようだがな。今日地球は……滅ぶのだから」

「どうして地球が滅びる?」

 

Zを強く睨むK。

重い口を開いたZ。

 

「……奇蹟を重ね過ぎてしまったのだよ、我らは」

 

Zは二人に対してある写真を見せた。

 

「今この世界に奇蹟を授かった者がいる……中心にいる彼がその本人だ」

「この子は……!」

「ワームの時の!」

「ああそうだ。あの芋虫に襲われていた青年だ」

 

そこには、KとJがつい最近助けたばかりの一人の男の子が写っていた。

 

「……あの事件が元凶だ。彼はあれがきっかけで神の力で神を、宇宙人の存在を消してしまった。いや、“宇宙人は地球に存在しない” と背信してしまったのだよ……」

 

 

――――『警報。警報。銀河連合より通達。宇宙時間一週間以内の全臣民解放を要求。不履行の場合、直ちに地球の初期化が開始』

 

 

 

 

 

奇蹟を起こす人間がいて、とばっちりでZは死んだ扱いに。そして今地球は初期化の一時間前。

 

「おいK、これは中々まずい状況なんじゃないか?」

「ああ、とんでもなくな」

 

しかしこういう時こそ冷静に落ち着いて。二人のエージェントはすっかりガラガラとなった空間で通信機器をいじって情報を集めていた。それはとてもとても急ぎながら。

 

「坊主! 衛星ネットワークの方はどうだ⁉」

「ダメだ! どこも電波が妨害されている‼ あいつら本当に俺らに人探しさせる気あんのかよ⁉」

「よしじゃあ次は地下ネットワーク!」

「地底人も消えちまってる! ダメだ‼」

「くそ! どうすればいいんだ何かヒントは……‼」

 

 

そんな中、Zは最後の晩餐に控室でポテトチップスを食べていた。(この地球を墜とす者……。人間の手には負えない存在。いっそ、宇宙の概念そのものを消してしまえばどんなに良かったことか…。)そんなことを考えていた。

 

写真をぼんやりと眺めていると。そこには、何だか見覚えのある犬も小さく写っている。可愛らしいパグだ……これがリモーリアン星人だと誰が分かるだろうか。

 

(…………ん?)

 

 

 

 

一方その頃。

宣言が出されてから長針はもう半分を迎えようとしていた。しかし二人はそれでも諦めず、何か手がかりを、この事態を抑える手段、宇宙人の助けを探していたのだが……。

 

ふと、忙しなく動かしていた手をなぜかJは止めていた。

 

「くっ、打つ手なしか⁉」

「……なあ、K」

「どうした! 大将」

 

何故か改まった様子のJに、どこか変な様子を感じて彼の瞳に振り向くK。しかしJは数歩だけKに近寄ると、近くの椅子にゆっくり腰かけ、直ぐに視線を明後日の方向に逸らしてからポツリとこう言った。

 

「俺は……俺はお前と最後まで一緒に仕事ができて嬉しかったよ」

「っ……⁉」

 

―――やめろ

 

「思えば最初に拾ってくれた時と比べて、随分老けたよな」

「……おいJ」

「そりゃあ俺だって昔に比べたら衰えたかもしれんが、相棒の方がそれは言えるだろう?」

「…………」

「でもスペースガンだってデカイの撃てるし、ニューラライザーの腕前ならきっと俺の方が上だ」

「……お願いだJ」

「確かにムカつくこともあった。でも今考えてみればイイ思い出になっちまったよ。」

 

―――やめてくれ

 

「そうだ。俺の一生で一番尊敬できる人は誰か? って聞かれたらなK、多分俺はお前のことを…」

「今はッ」

「…………」

「今はまだ、やめてくれ……!」

 

 

Kは雫を薄く垂らしていた。

Jも目は逸らしているが決壊間近だ。

 

……そしてZは、

 

「ゴホンッ……失礼二人とも。すまないが地球を救う手立てが見つかったかもしれん」

 

「早く言え!」

「それを待っていた!」

 

 

 

 

「ワン! ワンワン‼」

 

ボールを投げろと数字の一を延々繰り返し吠え続けるうちの犬だが、もしかするとこいつは円周率を唱え続ける狂った仙人と戦うだけの才能はあるかもしれない。相手が何桁も終わりのない数字を口癖のようにガトリングするのに対して、こちらの犬……パグは生まれたこの方「ワン!」としか言っていないしそれしか言わないからだ。文字通り犬は一への命のかけ方が違う。例えば、ご飯を食べたい時に人間は「食べたい」というが、こいつは「ワン!」しか言わない。もはやこれは天才だろう。これは個人的な推測であるが恐らく人類が一つの単語に対して最も意味を含ませてきた言葉こそがこの「ワン!」だろう。

 

「ほらよっと」

 

ぷりぷりと可愛らしいお尻を揺らしながら颯爽とボールを回収しに行く飼い犬の後ろ姿を眺めていると、何やら遠くの方から黒服のやけにも怪しいですといった風貌の男たちが向かってきた。だんだんとこちらに近づいてくる彼らであったがうちの犬の方が戻って来るのが早かった。なので「今日は帰ろうか」と犬を抱きかかえて何も後ろめたいことはないはずだが彼らに迷惑があっては怖いのでこの場から退散しようと公園の出口へと足を進める。しかし、

 

「ああ青年、少し立ち止まってくれ」

「そうそう、俺たちはすこーしだけここらで聞きたいことがあるだけなんだ」

 

残念、明らかにあちらの世界の方っぽい二人組に声をかけられてしまったようだ。

 

「最近、なんか辛いことがあったりとか、なかったりとかどう? よければ相談に乗れるし、俺もこんなんだからこの国では多少なりの面倒が昔はあったもんだぜ?」

 

撤回、これは違うベクトルのあっちの方々かもしれない。

 

「い、いえ特に」

「ならよかった。K、任せたよ」

 

黒服がやけにスタイリッシュに決まっている若い男は、『K』と呼ばれる既に初老を過ぎているだろう渋い顔の男に何らかの合図をしていた。怪しい。何かあったら直ぐに逃げられるよう犬を少し強く抱きしめる。パグはどこか困った顔をしているような気がした。

 

「ああそんなに警戒をしないでおくれ。ただの老いぼれと少し怪しい顔をした男の二人だけだ。そう、私たちは犬に目がなくてね。その犬種は恐らくパグだと思うが、どうか私にボール投げをさせてはくれないだろうか? いきなりの話で申し訳ないが、こいつが大昔に引き取った犬がつい先月ぽっくり逝ってしまってね。その悲しみを慰めるために私たちはつい最近よく色々な道を散歩しているのだが……。たまたま今日、まさに今。昔飼っていた犬と瓜二つのパグを見かけたというわけなのだよ。ほら、この写真を見てくれ。これが私たちの飼っていた『フランク』という名のパグだ。……どうだ可愛いだろう? ああどうか。老人の願い、少しの間だけ叶えてはくれないだろうか」

 

写真には笑顔で舌を出した犬の姿があった。確かに瓜二つだった。そして目の前の老人が寂しそうな表情とうちの犬を見て微笑を浮かべる様子はとても心にきてしまった。怪しい男と言われた方も目尻を抑えていることから本当は優しい人なのだろう。彼らの黒服から、見た目から怪しいと判断してしまっていたがそんなことはなかったのだ。だから、降りたい降りたいと動き出した胸の中パグを地面にそっと降ろした。

 

「分かりました。こいつもまだ遊びたいと言っていますから、遊んでやってください」

「ありがとう……青年。ほらワンコくん、こちらへおいで」

「……良ければだけど、お喋りしない?」

 

 

話をしてみると意外と面白い人。それは隣に座る元警察官だという彼のことだろう。自分より一回りは年を取っているに違いない彼……『J』と名乗る人物は一見とても黒服の似合う怪しい男だが、どうやら初老の男性…Kの相棒? まあ秘書のようなものをしているらしく「アイツにはああ見えて宇宙人の友達がいるんだ」なんてロマンのあることを言っている。

 

「宇宙人はな、この地球にも住んでいてな……本当だぞ⁉」

「はえー、じゃあニューヨークにもいるんでしょうか」

「これは信じてない顔だな……? でもいるぞ! ニューヨークにもな」

 

Jはとても宇宙人が好きなようで、いいヤツもいれば悪いヤツもいるとか話している。

 

「それでだ……。マンハッタンには色んな惑星から訪れたり亡命してきた宇宙人が千体以上働いていて、実はお前が通っていた小学校のあのおっかない金髪女教師は木星人だったりする」

「ああ、それは間違いない。金星人だと思ってたけどアレは木星人だったのか」

 

何故か腕時計を見るたびにこの世の終わりを前に焦るかの表情を浮かべているJだが、彼はそれだけ宇宙人が大好きなのだろう。もしかしたら宇宙人も少しくらいはいてもいいのかもしれない。

だがふと横を見ると、そこには今まさに、天を仰ぎ祈るような魂を孕んだ声でJが。いきなり膝を地面につけて、もはやそれは意地かのように頼み事をこちらにする瞬間であった。

 

「頼む! 本当なんだ! 本当なんだ信じてくれ‼」

「え、ええ?」

「頼む! 後生だから‼」

「いや……確かに宇宙人は存在すると思うけど、地球には “ほぼ” いないんじゃないか、なあ?」

「ワン! わん!」

 

遠くの方ではうちのパグと老人の姿が見える。

あちらは微笑ましい光景で羨ましい。うちの犬があくびをしたのも見逃さなかった。それと同時に、老人の方は遊びが終わったのか小走りでこちらに…正しくはJに向かってくる姿が見えた。急に走ったせいか彼はぜいぜいと息をあげている。が、それを微塵も感じさせない力強い声でJにこう言った。

 

「でかしたぞ相棒! 」

「わん、わんわん!」

 

後から遅れてパグも到着する。

 

「上手くいったのかK⁉」

「ああ見てろ! 今まさにコイツが宇宙人だってことを証明してやる!」

「宇宙人だって? うちの犬が⁉」

 

やっぱりこの人たちは頭がおかしい人たちなのかもしれない。

 

「ちょっと待て青年!」

「そうだまだ宇宙人について語り合おう⁉」

「おいおい、わんわんを置いてくなよ……ワン!」

 

一番目はペットロス老人の声。

二番目は宇宙人マニアの声

 

……なら、三番目の声は誰だ?

「他にも誰かいるのか⁉」

 

つい好奇心と驚きで後ろにふりかえってしまった。

長椅子の後ろに老人、前にマニア。そして三人目は見当たらず……唯一近くにいた生き物は長椅子に座るパグだけであった。

 

「おい相棒! あと三十秒しかない‼」

「分かったK! そこの宇宙人を信じていない君! ちょっとでいいから待って! 今の声気になるでしょ⁉ 俺も気になるんだ‼」

 

そして素晴らしい身のこなしで長椅子を乗り越えてかつ犬まで抱きかかえてきたJはこちらに向かってこう言うのだ。

 

「今から起きることは全部夢だ! でも限りなく現実で起こりうる! いいか良く見とけ! 宇宙人は地球にいっぱいいるんだ!」

 

そしてJは腕を前にパグを突き出した。

パグはこちらを向いている。そしてそのだらしない頬をにやりと歪めたかと思えば、

 

「おい宇宙人喋ってやれ‼」

「へへへ、こんにちわん」

 

――――――犬が、喋った……?

記憶が飛んだ。

 

 

 

 

宇宙人の監視・捕縛など、地球を陰からひっそり支える。実在しないけど本当に存在する最高機密機関『メン・イン・ブラック』

その本部にて今は数多くの宇宙人たちが地球に到着していた。

 

『はーい、次の方どうぞー』

 

1960年代に建設されたというその空間は少し古い空港ターミナルような雰囲気を匂わせつつも以前よりも更に一層の盛況さを花咲かせている。

そんな組織の大黒柱……エージェント『K』・『J』の二人らは少し甘めに調整された珈琲をそれぞれ片手に持ち、互いの一日に祝福してカップを軽く掲げたのち会話を始めていた。

 

「なあK、俺は今朝何だかとても大ピンチな地球を救った夢を見た気がするんだが……お前の方はどうだ?」

「奇遇だな “相棒” ちょうど俺もそれについて考えていて……そう、“Z” に聞こうと思ってだな」

 

―――ガチャリ

 

「どうした、二人とも」

「ああ聞きたいことがあるZ」

「そうだぞおっさん」

 

チップスをむさぼりながら眉を上げてにやり笑うZ。

 

「言ってみろ」

 

 

「 「 俺をニューラライズしたな!!! 」 」 

「……ふむ、なんのことだか?」

 




月と太陽の女神は地球に光をもたらした

これは完結……完結なんです。設定に難が見つかるだって? 大丈夫、心に問いかけてくる物語がありますよね。そう、例えば月が二つ埋まってる世界だとか逆に月のプリンセスの世界だとか。勿論あれらにだって難はあるでしょう。でもそれこそが世界の味を昇華させいるというもので、物語はそれを軸に自転を始めます。……それではこの光を見て? つまり、物語を作る際にはどうしてもキャラクターが勝手に動き出すことがあるのです。それが世界を崩すこともしばしば。でも心配ご不要。本当に失敗してしまった世界は、生まれる前に消えてしまうからです……。

\ピカッ/


読了ありがとうございました

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