馬酔木の副隊長   作:ANIRAS

8 / 8
破面編序章


烏と先遣隊

現世への先遣隊の噂を聞いたのは、隊長代理として五番隊で決裁処理をしている時だった。とりあえず直近1ヶ月の書類を処理し終え、体を伸ばす。

これだけ書類をやっておけば暫くは不在でも大丈夫だろうか。

サボり魔だとか言われていたけれど、それはやるべき仕事を終えてからのサボりであって仕事をしていないわけではないのだ。まあ、惣右介さんに甘えていたというのも嘘では無いけれど。

先の争いで尸魂界を裏切った人を思い返してため息を吐いた。結局雛森ちゃんと日番谷隊長を戦わせたかった意図は分からなかった。

あの人のことだから難解な理由ではなくもっと単純な理由なのかもしれない。まあ、自分で仕組んだこととはいえあんなに純粋に慕われることは想定外だったのだろうか。それこそ俺が「あの人」を今でも慕っているように。瞼の裏で長い金糸がゆらゆらと揺れる。

 

「そういえば聞いたか?現世に先遣隊が送られるらしい。」

「十三番隊の朽木と六番隊の阿散井副隊長が選ばれてるんだって?」

部下たちの噂話が耳に入り、思わず席を立った。

席を立った時に大きな音がしたからか、部下たちの目線を感じたがそれどころでは無い。

「六番隊に行ってくる」そう言い残せる理性があったのは幸いなのか。瞬歩を使って六番隊に急いだ。

 

先遣隊に立候補すれば、合法的に現世に行けるってことだ。それは、つまり。金色の髪がキラキラと光る。

それと同時に茶色のふわふわとした髪が脳裏をよぎった。

 

六番隊に着くと、なにやら大きな声が聞こえる。

「面白そうじゃない!恋次、あたしも行くから!!」

「なっ、乱菊さん!?何言ってるんスか?!」

隊舎へ入ると、阿散井くんと乱菊ちゃんがなにやら言い争っている。

 

「乱菊ちゃん、どうしたの?」

声をかけると、彼女は俺の名前を呼ぶ。

「先遣隊の話よ!面白そうだから連れてってって言ってるのよ!」

「あぁ、その話。俺もついて行っていい?」

乱菊ちゃんがそういう風に言ってくれるのはありがたかった。おかげでさりげなく同行を申し出ることが出来る。

 

「あんたが現世に行って五番隊は大丈夫なわけ?雛森はまだ回復してないんでしょ」

「ここ直近締切の書類は終わってるから暫くは大丈夫だと思うよ」

俺がそう言うと、乱菊ちゃんは背中をバシバシ叩いてくる。

「あんたって本当に変に真面目よねー!どうせ1ヶ月くらい先まで終わらせてるんでしょ」

「あれ?俺そこまで言ったっけ?」

 

俺たちがそういう風に会話してると、所在なさげに阿散井くんが声をかけてきた。

「えーと、乱菊さん…。俺は連れていくのは構わねぇんスけど」

おそるおそる、と言った感じで乱菊ちゃんの背後を指さす。

「ま、つ、も、と~~~?」

案の定、日番谷隊長が拳を握りしめて立っている。その表情も声色も俺たちにとっては聞きなれたそれだ。

 

「怒られちゃったよ、乱菊ちゃん。」

「いつものことだから大丈夫よ~」

そうケラケラ笑うが、ゴンっという音とともに拳骨が落とされる。何故か俺にも。

「いっ」

強烈な痛みに頭を抑える。

 

「なんで、俺も殴るんですか日番谷隊長。」

「雛森のことで俺はまだお前を許したわけじゃねぇ」

 

鋭い眼光がこちらを射抜く。雛森ちゃんに対して過保護過ぎないだろうか、この人。そう思いながらヘラりと笑う。

ピキりと、眉間のシワが更に深くなる様子を見ておぉ、器用だなぁと感心した。

 

閑話休題。

 

結論、先遣隊として現世に行くことになった。メンバーはルキアちゃんに阿散井くん、十一番隊のいっかくんと弓ちゃんそれに十番隊から隊長副隊長の2人そして俺。

 

戦力過剰な気がしないでもないが、戦力はありすぎて困るものでもない。

このメンツだと乱菊ちゃん達の所に戦闘では入った方が良いだろうか。阿散井くんは元十一番隊って言う話だし十一番隊の2人にはその気性から始解は好まれそうにない。

そう考えながら、穿界門へと足を向けた。

 

☆ ☆ ☆

 

現世、空座町。空座第一高等学校。

義骸に入って現世の服を着た俺らは、早速一護くんのところに来ていた。

「隊長」の気配がする。フワリ、と感じるそれはどこか甘い匂いがする気がした。

 

教室からその気配が強く感じて、首を傾げる。まさか、こんな近くにいるなんてことがあるんだろうか?さみしがり屋な惣右介さんじゃないだからそんなことあるわけないだろうに。「隊長」はひねくれ者だから俺が探さないときっと顔も見せてくれないに違いないのだ。

 

会ったら何をしてもらおうか、頭を撫でてもらう?それとも髪の毛に触らせてもらおうか。キラキラした長いあの髪をを思い出して口角が上がりそうになるのを我慢する。

 

ルキアちゃんが腑抜けてる一護くんに喝を入れに行っているのを見ながら、そんなことを考える。

今考えていることが場違いな事だということは理解している。

 

けれど約100年ぶりに感じる大好きな人の気配に浮かれるな、という方が難しいのだ。

 

 

ところ変わって一護くんの家。

ノリが悪い日番谷隊長は置いて、天井裏からこんにちはってする。こういうの「隊長」にも惣右介さんにも怒られたからやったことないんだよなぁ。と正直めちゃくちゃ楽しかった。

 

阿散井くんたちが説明をして、ノリの悪い日番谷隊長が補足をする。それを聞きながら、「隊長」の気配を探る。

うーん、この近くにはいないかなぁ。一護くんに聞いてみようかなぁ。でも聞いたら負けな気がするなぁ。

幼い日にしたかくれんぼを思い出す。あれも人に聞いたらダメだったっけ。

 

うん、自分で探そう。それで見つけたらうんと褒めてもらおう。

そう思った。

 




おまけ

「惣右介さんの、惣右介さんの、そーすけの馬鹿!!」
五番隊の隊舎にその声が響き渡ったのは、あくる日のこと。暁闇色の髪を靡かせて、その場を走り去ったのは当時3席就いていた青年だった。

青年が走り去った先を隊長である藍染惣右介はなんとも言えない表情で見つめた。彼がこの人事に簡単には頷かないとは思ってはいたが、まさかこのような反応をされるとは思ってはいなかった。
現在副官を任せているギンが3番隊の隊長に就任するにあたり、次に信頼におけると思い浮かんだのが3席の青年だったのだ。

もはや、自分が育てたとは言っても過言では無いその青年は人柄も把握しているし何より人を支えるのに向いている性格をしている。何も言わずとも察する能力に長けている彼は副隊長に据えるにふさわしいと考える。

そのため、彼に副隊長の打診をした所返って来たのが冒頭の叫び声という訳だ。
懐かしい呼び方をされて感慨に耽ける隙もなく、彼は隊舎から飛び出して行ってしまった。

大きなため息を1つ。彼にとって「隊長」は特別な存在と認識はしているが「副隊長」もそうだったのだろうか?それが意外と思ってしまったのは悪くないだろう。

さて、どう彼を丸め込もうか。隣で笑いをこらえているギンを横目に思考を巡らせる。こんな時に限って、仕事をサボらずに隊舎にいるのだからなんというか。

ギンのその態度もため息の要因の1つといえる。

「ギン、笑いを堪えるくらいなら笑ったらどうかな」

「ブブッ、すんません」

腹を抱えて笑い始めたギンは忙しそうに目を細める。
楽しそうで何より、と肩を竦めて再び思考を巡らせた。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。