リリカルなのはFlourish   作:ビブロス

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1st
桜と稲妻


僕にとって世界なんて狭いと思ってた。誰かが『それは違う』と言っていた。ならば、と、僕は世界を抜け出せるような事をした。

 

そして世界は僕の敵になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

海鳴市 5月10日 深夜2:54

 

高町なのは、9才の彼女は就寝中に夢を見るような少女ではなかった。別に現実主義者でもなく夢を見れないほど疲れてるわけでもない。しかしその日は珍しく夢に見入られていた。

 

夢の中で近くの公園が写し出されていた。恋人達が乗るようなアヒルボートがいくつも置いてあり、それに身合うだけの池がある、その桟橋に″金髪の少年″が立っていた。

 

金髪の少年が叫んでいる。彼が手を翳すと輪っか状に緑色の光が広がる、それはなのはの知らない原語で構成されていた。

 

そこに不定形の紅い眼を持つ″闇″が飛び掛かる。聞いたことの無いような大音量で激突音が響き、同時にその余波でアヒルボートが揺らぎ、池に波が産まれた。

 

一瞬苦しい顔をした少年は人間とは思えぬ軽やかなステップで真後ろに数メートル跳躍した。それを″闇″は逃がすことなく自らの肉体を分割して散弾のように撒き散らした。

 

撃ち抜かれるアヒルボート。吹き飛ぶ桟橋。少年は緑の輪を使ってその″攻撃″を弾き飛ばす。そのまま彼はポケットから紅い玉を取り出した。

 

再び彼は叫ぶ。一際大きな緑の輪が広がる。彼は腹の中身を吐き出さんばかりに吼えた、その口をなのはは見た。

 

じゅえるしーど

 

直後、闇が高速で少年へと突撃し、目映い光が周囲の深い暗闇を引き剥がす。そして大きな音が彼女の耳に響いた。

 

 

 

 

音は自分の携帯だった。もぞもぞと布団の中から手を伸ばし、アラームを止めた。霞む眼には7:15の文字が写し出される。″遅刻″するギリギリの時間だった。

 

「うにゃー!」

 

ドタドタと制服に着替えつつ『高町なのは』は自分の部屋から飛び出した。

 

 

 

 

 

Lyrical NANOHA Flourish 1st

 

 

 

海鳴市には複数の小学校がある。その内の四校が私立であり、そのなかでも非常に優秀なのがなのはの通う私立聖祥大付属小学校である。

 

いつも通学に使う時間のバスは既に行っている、なのははひぃひぃ言いながらバス停まで駆けるとそこには既に友人が二人居た。アリサ・バニングスと月村すずか、である。

 

「なのは!なにやってんの!遅刻するじゃない!」/特徴的なキンキン声(ツンデレヴォイス)、金髪を垂れ流し、上でほんのり二つ結びの美少女である。

 

「遅れるよー、なのはちゃーん」/おっとり声(癒しヴォイス)、紫染みた髪の毛を振り撒きながらなのはに手を振る。

 

「ごめーん!寝過ぎちゃったー!」

 

「なにやってんのあんた!もうバス来るわよ!」

 

「あ、来た」

 

「うーにゃー!」

 

ズババババぁーっ!と走り、バス停へと到着。同時にバスも到着した。バスに乗り込むとそのなかに見知った男の子の顔がある。

 

「あ、京介じゃん」

 

「おはよー浦城くーん」

 

「あ、京介君おはよー」

 

「あれ、何でお前らこのバスに乗ってんの?」

 

黒髪ツンツン/小生意気そうな整った顔/かったるそうな声/若干着崩れした制服=不良生徒である。浦城京介、なのはのクラスメイトである。

 

ツカツカと三人そろって京介の近くへ座る。彼はうへぇめんどくせぇ、といった顔をするが、微妙に嬉しそうに口元綻んでるのは男の子である。

 

「珍しいね、京介君がバスに乗ってるなんて」

 

「上の方に住んでる婆ちゃん家に泊まってたんだよ、叔父さんも姉ちゃん出張で居なかったから、姉ちゃんは今日帰ってくるけど」

 

「ふーん、京介のおばあちゃん家ってあの無駄にデカイゴールデンレトリバーが居るとこ?」

 

「昨日、散歩してたら10mぐらい引き摺られたぜ……」

 

「あちゃー」

 

京介の顔に影がさす。よほど恐い思いをしたのだろう、確かに、一度だけ京介の祖母の犬を見たことがあるがレトリバーの癖にちょっとした原付ぐらい大きかった気がする。

 

そんなことを思っていると物凄い勢いですずかが猫談義を始めていた。それを尻目に窓へと眼を向けた、そこにはいつもの街並み。

 

二つに結んだ茶髪/白いリボンが跳ねている=いつも鏡を見るたびにある姿だった。

 

 

 

 

 

学校に着けば教室に行くのが定石だが、今日のなのはは日直である。なのはの所属する3年二組には朝の日課がある。

 

宿直室へと行き、扉に掛かったサッカーの応援に使うようなエアホーンを手に取る。一応のノックをするがいつも通り反応は無い。するりと扉の横からエアホーンを滑り込ませ、押し込む。

 

酷く腹に響くような大音量。扉の向こう側でガショーンと椅子がぶっ倒れる音が聞こえた。それを確認するとなのはは扉にエアホーンを再び引っ掛けて教室へと駆けていった。

 

数分後、くしゃくしゃの頭のまま担任の赤城先生が扉にぶつかりながら教室に入ってきた。

 

するりとした体系だが筋肉のついたアスリート系/ぼさぼさの赤毛/″先程″作ったとおぼしきタンコブ。

 

「頭いてー、流石に徹夜でゲームしてたのまずったなー……、あ、今日の日直は高町か、サンキューな俺、目覚まし効かねぇからさ」

 

「にゃははは、日直の仕事ですから」

 

「おう、明日は誰だ?席順からで浦城か?頼むから手加減してくれよ、流石にこの前の爆竹一箱丸々はキツすぎる」

 

「次は期待してろよー、ヒントは鰯の塩漬け」

 

「やめろ、シュールストレミングスとかテロだから、まじやめろ」

 

ははは、と笑い声が教室に響いていた。

 

 

 

 

 

 

放課後はいつも三人で帰るのがなのはの日課だ。今日も今日とてなのは達は近くの公園の中を通って帰っていた。しかしいつもと少し違うのはそこには京介がまざっていることである。

 

「姉ちゃんの迎えだよ、悪いか?」

 

「京介君は男の子の友達とは遊ばないの?」

 

「……う」

 

「なのは、京介この前男子全員とマジ喧嘩したあとだから険悪なのよ」

 

「あ、そうだったねー」

 

「あいつらがわりーんだよ、姉ちゃんの悪口言うから!」

 

「夏希おねぇちゃん?何か悪口言われるようなことある?」

 

「俺にベタベタしてくるから、お前の事大好きなんだろー?結婚しろよー、とか言い出したんだぜ?」

 

「それで、殴ったの?なんで?」

 

「ムカついたから!良いだろ?!」

 

「にゃはははー、そんなことで殴ったらダメだよー、翠屋で強制労働だよ?」

 

「なん……だと?」

 

斜線が入る京介の顔。すずかとアリサが横で爆笑してるのを横目になのはは前を向いて歩いて行くと、公園の″池″の前へと着いた。

 

フラッシュバックする今日の夢、なのはの顔が少し強張った。池にあるアヒルボートが数隻砕け散り、桟橋が根元から吹き飛ばされており、″衝撃の余波″で貸しボート屋のガラスが全て割れていた。

 

笑っていた二人はそれを見て押し黙った。それをちらりと見る鑑識の警察官達はすぐに砕けた桟橋へと目線を戻した。

 

「どうしたのかな…?」

 

「うわ、ひどいわね」

 

「最悪だ、明日は姉ちゃんとボート乗る約束してたのに」

 

「結婚すれば良いのに」

 

「なんだとー!」

 

「強制労働なの」

 

「あわわわわわ……」

 

ひぃー、と京介は顔を抑えるのを三人で爆笑していると、バチりとなのはの耳にノイズが響いた。虫でも当たったのだろうかと耳を触るがそれらしき虫は着いていなかった。気のせいかと思い、池を通り過ぎようと思った矢先であった。

 

『「たすけて……!」』

 

か弱いが心の奥に響きそうな声がなのはの頭を震わせた。とても急がないといけないと思うと同時に、どちらに向かって″急げば良いのか″わかっていたことになのはは気付かなかった。

 

足が独りでに動いていた。

 

「…ちょっと行ってくるね!」

 

「ちょ、なのは!」

 

「なのはちゃん!」

 

「耳いてぇー……、あれ高町どこにいってんの?」

 

耳を澄ます必要性も探す必要性もなかった。林の中を駆けた先に自分を呼んでいた存在が居ることを確信していたからだ。だから、当然の様に林を抜けた先でそれを見つけた時、なのはは驚きもしなかった。

 

林の中、草むらが開けた所にポツンと動物が倒れていた。駆け寄るなのはに気づいたのかその動物はその首をもたげた。フェレットだ、となのはは昔見た図鑑の事を思い出した、″一人の時″に散々見たことがあるから覚えていた。

 

「大丈夫?」

 

なのはは、その手を差し出すとフェレットは安心したような顔でその手に自分の頭を乗せた。その頭は動物が感じさせてくれる体温よりも遥かに低かった。なのはは無意識にフェレットを抱き上げる。『少しでも暖めないと』そう思えたから出来た行動であった。

 

「いきなり走り出さないでよなの……どうしたのなのは!」

 

「その子どうしたの?」

 

「あ、なのはがち○こみたいな奴抱いてる」

 

「貴様は強制労働なの」

 

「はわわ!」

 

横山三○志みたいな顔でビビる京介を尻目に女三人組はフェレットの対処の為に近くの動物病院へと駆けていっていた。

 

 

 

 

動物病院へと駆け込んだなのは達であったが、フェレットは幸いにも栄養失調に似た症状であり、餌を与えて休ませれば良くなる、とのことだった。

 

「良かったわね、なのは、でもなんであそこにフェレットが倒れてるってわかったの?」

 

「物凄い勢いで走って行ったから、なのはちゃんどうしたのかと思っちゃった」

 

「何だか、この子が私を呼んだ気がしたの、助けてって」

 

なのはが包帯グルグル巻きのフェレットへと手を差し出すと、彼はその手に頭を擦り付ける。ほんのり暖かみが戻っていたことは当然のこと嬉しかったが、やはり動物に慕われるのは女の子としてどうしてもマジ嬉しくなるのは仕方ないことだった。そのフェレットの首で紅い玉が光を反射していた。

 

とはいえ、病院まで連れていった手前誰がこのフェレットの飼い主になるのかで話し合いになるのは仕方のないことだった。

 

「どうするの?うちは犬飼ってるし…」

 

「うちも猫がいっぱいいるから無理かな……」

 

「うちは食物屋だから、ペットは無理かもなの……、あ、京介君は?」

 

「なのはの強制労働発言でビビったまま公園に放置よ」

 

「にゃははは」

 

そうやってなのは達は笑いながら動物病院の前で解散し家路に着くことになった。その真上の方では一人の少女が″中に浮いていた″。

 

トウガラシのように紅い髪の毛の彼女は服を靡かせながら動物病院を見下ろしていた。

 

「ジュエルシードの反応無し、まだひとつも回収出来ていないのですね、″フェイト″に朗報ですね、アルフも喜んでくれるでしょう」

 

直後、赤髪の少女は一瞬の閃光と共にその場から消え去っていた。

 

 

 

 

なのはが両親にフェレットの飼育を申し出て許可を貰った夜。布団に入ったなのははフェレットを助ける前の声の事を考えていた。どうしてあんなものが聞こえて来たのか、なのはには一切の心当たりはないのである。

 

もう一度聞こえれば何なのかわかるかも、そう思えた矢先であった。

 

「『助けて!僕を助けて!』」

 

昼間より強い声がなのはの頭に響いた。心の奥底が締め付けられるように感じ、そして急がなければと足を突き動かす衝動。それはあの病院の方向へと向いていた。

 

親も兄弟も自分の時間を過ごしている、その眼を掻い潜って外に出るのは楽だった。

 

なのはにとって、ひた走るのは不得意だが、この時だけは不思議と体力が続いていた体の奥底から力が湧いてくるのだ、足はそれに突き動かされていた。

 

動物病院は昼間来ていた時よりも荒廃していた、壁は粉砕され、木が動物病院を貫通していた。そして今まさに壁が吹き飛ぶ、なのはの近くに瓦礫が飛んで来たと同時に地面を穿っていた。

 

それでもなのはは近づくのを止めなかった。同時に空へと視線を飛ばしていた、そこにはあの″フェレット″が中に舞っていた。その首の紅い玉が鈍く光っていた。

 

落ちてくるフェレットを受け止める。予測は得意だった、手を広げてなのはが構えると、フェレットもそこに飛び込む為に体勢を変えていた。

 

スポン、と胸の中に収まるようにフェレットが入った。それと同時に足元をすくうように黒い触手がなのは達を襲った。

 

鋭い一撃であった。アスファルトを抉り、瓦礫が飛び散る、その衝撃でなのはは後ろへと弾き飛ばされた。

 

そんななのはを心配するようにフェレットが胸の中から見上げていた。

 

「うにゃー……いててて」

 

「大丈夫ですか!怪我はないですか?!」

 

フェレットが喋った。

 

「……うわぁ!喋った!フェレットが喋ったの!」

 

「ちょ!今はそんなこと気にしてる場合じゃないんです、逃げて下さい!」

 

「どこに?!」

 

「どこでもいいから早く!」

 

喋るフェレットに急かされ、立ち上がった瞬間である。ギィン!という鏡を引っ掻いたような音とともに世界の色がおかしくなった。

 

「結界!僕達を逃がさないつもりか!」

 

「ふええー!?」

 

「仕方ない……!すみません!少し手伝っていただけませんか!?」

 

「え、何を!?」

 

「貴女は僕の言葉に反応した、それは少しでも魔力がある証拠なんです、だから、あれを封印してください!」

 

「あれって!?」

 

「あれです!」

 

フェレットが器用に指差す先には紅い二つ眼をした不定形の闇があった。その闇はぐちゃぐちゃと形を変えながらその自らの体の中から触手のような物を生やしていた。

 

「……逃げるのは?」

 

「無理です」

 

「降参は?」

 

「無理です話通じません」

 

「このままだと?」

 

「あの触手が見えますか?あれが貴女の身体につ……」

 

「さぁ!封印するの!」

 

「ノリが良いですね!助かります!」

 

ひょい、とフェレットは自分の首にかけていた紅い玉をなのはな差し出す。その玉はほのかに暖かく、″力″を感じさせた。

 

「僕の言葉に続いて下さい!」

 

「うん!」

 

ぐいっと玉を握りこむとなのはの足元に桜色の輪が展開した、それは昨日見た夢の少年が出したものと酷似していた。

 

「我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放て。風は空に、星は天に、そして、不屈の心はこの胸に。この手に魔法を。レイジングハート、セットアップ!」

 

「なげぇ!なの!」

 

「一度は無理でしたか!省略!レイジングハート!セットアップ!でオナシャス!」

 

「よっしゃぁっ!レイジングハート!」

 

掲げる紅い玉=レイジングハート、不定形の闇はその触手をこちらに向けて解き放つ、しかしなのはに当たる直前で桜色の光の濁流がその触手を粉々に打ち砕く。

 

「セット!アップ!」

 

腕を覆うガントレット/白を基調とした魔導型強化服(バリアジャケット)/魔女の杖のような鋼の杖/胸の辺りで紅い玉が猛烈に輝いていた。

 

「なにこれ!」

 

「前を見て!来ます!」

 

「え!?」

 

隙のない攻撃だった。砕かれた触手を再生した闇は間髪入れずになのはへと触手を飛ばしていた今度は先端を尖らせ螺旋状にしてだ。

 

「どうするの……!?」

 

『装着魔導師の初期設定完了、戦闘を確認、動作補助に入ります、″ディバインシールド″展開』

 

「杖も喋った!」

 

「これはインテリジェントデバイスです!貴女の魔法の補助をしてくれます!」

 

「便利!」

 

服が勝手に動き、なのはは左手を掲げる、同時に桜色の輪=魔方陣が展開し、触手の切っ先を止めていた。

 

「やった!」

 

「すごい!これだけの力をいとも簡単に!」

 

「どれぐらい凄いの?」

 

「分厚い鉄板三枚分は軽く貫きます」

 

「そんなもんを!こんにゃろー!」

 

『マスターの戦意増大、機動補助、″フライヤーフィン″起動、押し込みます』

 

「いけぇ!」

 

足に展開する桜色の羽、しかし推力自体は身体全身から発せられる。その推力を真後ろに展開し、なのはは闇へと向かって突貫した。

 

再び砕ける触手、そのまま本体までぶつかり、推力全開で動物病院内をぶち壊しながら反対側へと飛び出す。

 

「やり過ぎた!」

 

「結界張ってるから現実では壊れてません!」

 

「どんどんいくの!」

 

『攻撃意志の確定、敵至近距離確認、動作補助、″シュートバレット″、魔力運用開始』

 

シールドを張っていた左手から内側に再びの魔方陣、今度は驚くほど早い、レイジングハートがなのは魔力を解析したからである。

 

『撃てます』

 

「いけぇ!」

 

ズドムッッ!!という豪快な音と共に闇はなのはの魔力弾を真正面から食らい、民家を数件貫通しながら停止した。

 

「やった…!?」

 

「やれてないです!次が来ます!」

 

『攻撃感知、次手の為に回避します、″飛びます″』

 

直後、なのはが覚悟を決める前にその体は大空へと舞っていた。そして崩れた民家の中から闇色の光が飛び出した。その光はなのは達へと向けて急激に″カーブ″した。

 

「誘導弾?!あいつ!取り込んだデバイスの魔法を!」

 

「回避!回避!」

 

『マスターの機動が本機より優勢と判断します、コントロールを渡します』

 

「えっ!?」

 

「貴女の思う通りに飛んで下さい!レイジングハートが助けてくれます!」

 

光が抉りるように曲がり込む。なのはは頭で思い描く、″左へとずれろ″。すると思いの外、機敏に体は左にずれ、光は真横をかっ飛んでいった。

 

「よし!」

 

「次が来ます!続けて!」

 

次は数十発まとめの誘導弾である。なのははイメージする、同時にレイジングハートがそれを処理し、現実へと還元する。

 

急激ななのはの機動、身体に掛かるGは凄まじいが、それをレイジングハートが物理保護でいとも簡単に処理していく。

 

「でも!攻撃出来ない!」

 

「封印砲は停止しないと撃てない……!」

 

『撃てます』

 

「「撃てんの!?」」

 

『機動は任せます、照準はこちらで、″カノンモード″へ移行します』

 

杖が光に包まれ、次に姿を表した時には音叉のような形に変型し、杖の横からトリガーユニットがせりだしていた。その間もなのはは急激な機動と加速を繰り返し光を回避していた。

 

『魔力充填開始、敵の位置をマーキング、抜き撃ちをします、ですが術式に処理を割かれています、照準がつけやすいように水平に飛べますか?』

 

「水平?!無理だ!光の余波で揺さぶられるのに!」

 

「……っ!出来るの!ちょっと揺れるよ!」

 

ゴウン!となのはは真下へと降り、町中の道路スレスレのところで再加速し、地面から数十センチの所を直進する。

 

『理解しました、網膜に照準を出しますが動作補助でこちらが当てます、マスターはぶれないように踏ん張ってください』

 

「う…わぁっ!」

 

「いくの!」

 

真後ろの地面に光が突き刺さっていく中、なのはは体勢を持ち上げ、足から地面へと接触した。

 

足裏にはレイジングハートからの物理保護がまわってきており、凄まじい火花をあげながら、″横滑り″していた。

 

視線の先で家屋が左から右へと流れていくなか、網膜のターゲットマーカーはぶれてはいなかった。

 

「無茶な!」

 

「これで!ぶれないよ!」

 

『お見事です、充填終了、コントロールをトリガーに回します、″ディバインバスター″、撃てます』

 

「「いっけぇっっ!!!」」

 

トリガーオフ。十字の閃光が瞬き、凄まじい音と共に桜色の魔力砲撃が闇へと直進する。反動でなのはは斜め後ろへと横滑りを起こした。

 

高威力の砲撃は何件もある家屋を融解しながら、ぶれることなく闇へとクリーンヒットする。直後、複数の十字の閃光が飛び散り、大爆発を起こし、闇は四散してしまう。

 

ガリガリと地面を削りながら停止するなのは、レイジングハートの基部の一部が展開し魔力処理による排熱を行い、蒸気が夜空に散っていった。

 

「やった!凄い!この距離で抜き撃ちなんて!」

 

「にゃー、当たったねー」

 

『警告、封印出来たジュエルシードは三個、もうひとつあります、南西に逃走中、追います』

 

「…え!まだ居るの!?」

 

「分裂して逃げた奴が居ます!あの爆発に紛れて逃げたのか!」

 

なのはは即座に夜の空の中へと紛れ、逃がした闇を追った。

 

 

 

 

 

 

逃げた闇は敵から逃げていた。敵との戦いでとても消費した魔力を補充するためだ。結界の中に入れるのは魔力を持つ人間だけであり、そいつらを食えば闇は魔力を補充出来る。

 

ピクンと闇が何かが真下の方で動いているのを感知した。それは動いており、二つもあった。しめた、と闇は微かな意識の中、そう思い、真下へと降下した。

 

 

 

 

 

 

 

浦城京介にとってお化け屋敷は怖いものではない。それより恐ろしいのは後ろから着いてくる姉の方なのだ。思い切り抱き締めてくるのはわかるのだが、それが頸動脈に直撃するのは頂けない。

 

それはお化け屋敷ではなく、怖い状況でも同様であり。いきなり世界が変な色に塗りつぶされて散歩していた犬が鳴き止まずに、遠くでどっかんどっかん言っていれば、後ろの姉がビビって頸動脈を締めてくるのは自明の理であった。

 

「ねぇちゃん……かなり絞まってる……」

 

「京介!京介!なに!誰にやられたの!?そいつどこ!?お姉ちゃんパワーで叩き潰してあげるわ!」

 

「鑑……見ろ…鑑」

 

「鑑!あ!あれね!ミラーワールドね!ミラーワールドの怪物ね!でも残念!お姉ちゃんカードデッキ持ってないわ!」

 

「先に折れるのは剣じゃなくて俺の首か……」

 

容赦なく首を絞める京介の姉である夏希はキャッキャッ言いながらぐいぐいと確実に京介の意識を奪っていた。

 

走馬灯の用に駆ける思い出、遊園地で姉に絞められ、海で絞められ、川で絞められ、挙げ句の果てにはベットの中で絞められて。良く絞められる人生でした。

 

「絞められてばっかじゃねぇか!ええい!のけ!邪魔だ!」

 

「いやー!京介が私から離れるなんて!あれね!ミラーワールドの怪物ね!ちょっと待っててカードデッキ持ってくるわ!」

 

「持ってんのかよ!つーか!そんなことより落ち着けよ!」

 

「むー、お姉ちゃん迫真の演技なのにー、乗ってくれたっていいでしょー?」

 

「何が迫真の演技……ちょっと待て、もしかして怖くて抱き着いてたのは演技か?」

 

「…あ」

 

「あ、じゃねぇよ、しかしどうしたもんかな、これ」

 

「やーん、お姉ちゃんこわーい」

 

「抱き!着く!な!」

 

「むふふー、怖いけど、もしお姉ちゃんがピンチの時は助けてくれるんだよねー?京介ー?」

 

「何年前の約束だよ?」

 

「むふふー、信じてるわよー」

 

ニヤニヤする夏希をはにかんだような困った顔で京介は後ろを見た。最近、ますます母親に似てきた姉を見ると、何か言い様のないものが込み上げてくる。

 

決して胸を見ているわけではないことを断言する。

 

ワンワン!と連れていたゴールデンレトリバーのリブラが吠える。我に帰る京介は犬を静めようと思い、屈んだ直後に真横の家が炸裂した。

 

屈んだ京介と犬には何も無かったが、立っていた夏希には大量の瓦礫が直撃し、嫌な音を立てながら道路へと投げ出された。同時に生暖かい何かが京介の顔に飛び散った。それが夏希の血肉であることを京介が理解するほど年をとっていなかった。

 

犬が吠える。炸裂した家の中からゴソゴソと長い虫のような足が飛び出しているのを尻目に京介は無言で夏希へと駆け寄った。その顔は怒りと絶望の色に染まっていた。

 

「……ねえちゃん!」

 

夏希を揺さぶる京介の手にはべっとりと血がこびりつく。夏希は揺さぶられるがままにぐったりとしていた。その顔は血で赤に染まっている。

 

鼻と眼が崩れた母親。

 

京介の呼吸が荒くなる。それをよそに家から三メートルは超えようかという黒い虫のような何かが飛び出し、京介達を見つめていた。

 

下顎が無くなり、頭の中身と舌を垂れ流した父親。

 

死が京介を見つめていた。黒虫はその口をグバァと開き、京介の真上から襲い掛かった。

 

「はああああっ!!!」

 

戦闘機のような音と共に真横から桜色の塊が黒虫へと突撃し、寸での所で京介にその歯牙はかかることはなかった。そのまま横の家屋へとめり込ませ、動きを封じていた。

 

我に帰る京介。桜色の塊=変な服を着た高町なのはだと知るや否や。大きな口を開けて。

 

「高町がコスプレしながらデカイ虫に激突した!空飛んでやがる!夢か!夢だな!」

 

「状況説明みたいなツッコミありがとうなの!!でも残念っ!現実ですっ!」

 

「ちょ!前見てて!前!」

 

『魔力充填完了、至近距離砲撃を行います、トリガーをそちらに』

 

「ディバイィィィィンッッ!!!!」

 

バスター!という掛け声と共に桜色の強烈な十字光が京介の目の前で輝いた。遅れてくる爆音。肌を焦がすような衝撃。辺り一面の闇をひっぺがすような閃光、その中で虫は″健在″していた。

 

桜色の魔力の奔流は虫の寸前で何かに阻まれ、真後ろへと流されていた。流された桜色の閃光は周囲の家屋をぶった切り、爆発を起こした。

 

「なん…っ!?」

 

「魔力結合を崩壊させてる……!?!取り込んだ″デバイス″の能力だ!」

 

「どうするの…!?」

 

『不意打ちを推奨します、予備魔力から急速充填、亜種型″ディバインシューター″、発射』

 

高町の周囲に十字の閃光が複数出現し、虫の真横から抉るように胴体へと黒い血肉を撒き散らしながら食い込む。直後、食い込んだ部位から桜色の光が漏れながら、膨れあがる。

 

『炸裂します、気を付けて下さい』

 

「「ちょ!ま!」」

 

なのはとユーノの静止も意味なく。ズドムッッ!!!という桜色の爆発による閃光が辺りを包んだ。京介はその場にスッ転ぶ程度で済んだが、なのはは真正面から衝撃を受けたが故に真反対に凄い勢いで吹っ飛び、家屋を三件ほどぶち抜いた。

 

「……何しに来たお前らーッ!!!!?」

 

京介のツッコミが闇夜に響き、穴の開いた家屋の向こう側から『助けにぃ…』という弱い声が聞こえた。が、しかし京介はガン無視で夏希へと再び駆け寄った。

 

「ねえちゃん!おい!起きろ!デカイ虫が襲ってきてるから早く起きろ!」

 

「……う、き」

 

「気付いたか!」

 

「キスしてくれたら起きるぅぅ……」

 

「くそ!寝てやがる!」

 

ベチベチと京介は血だらけの夏希をビンタする絵面は中々に壮絶だが、その後ろの方では黒虫が抉れた血肉を再生しながら立ち上がっていた。

 

「うわ!虫起きたじゃねーか!こっちくんな!」

 

オラァッ!と京介は足元に落ちていたコンクリ瓦礫を拾い上げると、思い切り黒虫に向かって投擲した。

 

筈であった。

 

『魔力適性値85%確認、使用者登録します』

 

投げ掛けた腕が強制的に止まる。京介が振り返ると握っていたのは瓦礫ではなく、″鈍い灰色をした鉄の塊″だった。

 

「なんだー!?」

 

『魔力処理を解析、高速並列処理型を確認、近接系統に設定』

 

黒虫がずいっと動けない京介の方を振り向く、ニタァと笑ったような気がした。流石にヤバイと思った京介はそこから動こうとするが、空中に″固定″された左腕はびくともしなかった。

 

「くそ!動かねぇし!」

 

『使用に際して本機の名称を決定してください、それにより使用者認定が行われ、本起動に入ります』

 

「は?!名前?何で?!」

 

困惑する京介。黒虫はそんな彼に対してへし折れた足を再生しながらこちらへと近付いていた。再びその口がグバァと開き、内側の歯をガチガチと打ち鳴らしていた。

 

「やべ………何でも良いから早く早く!」

 

『『やべ』に決定しますか?』

 

「なぜそこを拾うかなぁ…!?ちょっと待て!名前なんて、てちょ!リブラ来んな!今はこっち来んな!顔をなめるな!」

 

ビビって逃げていた飼い犬であるゴールデンレトリバーのリブラが心配して京介へと駆けつけ、飛び掛かる。

 

『『リブラ』に決定しますか?』

 

「待て!あ、でも、ちょ、くそ!仕方ねえから良し!後で変更出来るっ??」

 

『変更不可能です、本機はリブラで決定されました、起動準備、魔力運用を開始』

 

ちきしょー!という京介の咆哮と同時に赤色の光が吹き出し、周囲を紅に染め上げた。黒虫はその赤色に反応したのかとんでもないスピードで突っ込んで来る。

 

「来るぞ!?」

 

『バリアジャケットを展開、物理強化最大設定、前使用者動作履歴より選択、動作補助開始』

 

赤色の光へと突撃する黒虫。その鼻先が光に触れる直前、赤と黒の拳が突き出された。

 

金属と金属をぶったたいたような鈍い音が響く。花弁のように大量の火花が舞い散り、黒虫は物凄い勢いで通りをぶっ飛んで行き、アスファルトを30mに渡って抉って行った。

 

同時に赤色の光が拡散し、その中から赤と黒の装束を身に纏った京介が姿を現した。その左手には身の丈に合わぬほどの長く歪な″剣″が握られていた。

 

「す、すげぇ!」

 

『敵の再動を確認、防御魔法″ボルティックシールド″を展開』

 

吹っ飛んだ黒虫から黒い閃光が京介に向けて放たれる。しかし閃光は京介の前方に展開されている赤い稲妻を纏った魔方陣によって弾かれる。

 

それを見た黒虫は素早く起き上がると何本も足を″生やす″と京介へと物凄いスピードで突っ込んで来る。

 

「剣を使うぞ!」

 

『使用者の資質を確認、電気操作確認、構造変化完了、荷電粒子式切断機″ボルティックブレード″を起動します』

 

京介の剣の刃が赤い稲妻へと変化。右半身を前にしつつ、深く構える。黒虫はすぐそこに迫っていた、このままではシールドを撃ち破り、京介を粉々にするのは自明の理であった。

 

しかし、それを許す京介ではない。

 

「斬るぞ!」

 

『特殊動作″因果応報″を選択、物理強化最大設定、出力最大、承認を』

 

「いっけぇぇぇぇぇぇッッッツ!!!!!!!!!!!」

 

黒虫の突撃が京介へと直撃する瞬間、京介の身体はリブラの動作補助により右足を踏み込んで懐へと入り込んでいた。そのまま全体重を前転するようにかけつつ、剣の刃先を黒虫の頭部に垂直で叩きつけた。

 

先ずは火花であった。刃先は火花をあげつつも黒虫の身体をズンっ!と切り裂く。切断された面からは内臓と思わしき黒い血肉が大量に吹き零れ出す。

 

「だあああああっらぁっっっっつ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

『加速術式″ボルトアクセル″起動』

 

京介の肩甲骨部分から赤い稲妻が飛び出し、その身体を加速させる。その勢いは刃先をも加速させ、黒虫を頭から尻尾の先まで焼き切った。

 

鈍い音を立てながら黒虫はぐしゃりとその場に倒れ込む、後追いのようにその半身も反対側へと倒れ込んだ。直後血肉を撒き散らすかのように大爆発を起こす。

 

闇が一瞬だけ明けた後、黒い炎の中から京介が歪な剣を引きづりつつ現れる。その身は黒い何かでべちゃべちゃに汚れていた。

 

それを復帰したなのは達が微妙な顔で見つめる。それを京介は見つめ返す。

 

「汚れた、ねえちゃんを病院に送った後に風呂に入る、その後に事情を説明しろ」

 

「……わかりました、お話します」

 

「………ち○こが喋ってるぞ!高町!」

 

「それはもういいの」

 

直後、桜色の爆発が京介を包んでいた。その爆発は黒虫が爆発したときよりも何倍も大きなものだった。

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