リリカルなのはFlourish   作:ビブロス

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覚悟への道

次の日である。

 

眠気眼を擦りながら、京介となのはは学校へと登校し、校門の前で鉢合わせになっていた。その顔には年に似合わないほど疲労が浮き出ていた。

 

「どうだったよ?」

 

「にゃはは、そりゃもうウルトラ説教なの……、翠屋で強制労働だよ………京介君が」

 

「なん……だと……?え、ちょ、何で何で強制労働?まてまてまて」

 

「色々白状させられた時に京介君も居たことを言ったら『奴も強制労働だ』ってなったの」

 

「嘘だっ!」

 

「残念、事実なの、叔父さんの方には話は言ってるそうだよ」

 

あー、と頭を抱える京介。その左手には鈍い色をした鉄の塊がブレスレットとして着いていた。同様になのはの首もとにも紅い玉がネックレスとして引っ掛けられている。

 

『すみません、僕のせいで』

 

頭の中に直接響く声。声の主は昨夜のフェレットであり、名前はユーノ・スクライアと言う。彼の話にも二人して付き合っていたら遅くなったのも事実である。そしてこの頭に響く声は念話と呼ばれる魔法の一種であることも昨夜の内に聞いたことだ。

 

ユーノのが言うには異世界というものがこの世にはいくつも存在し、管理局という組織が管理している世界が管理世界、無人の世界を無人世界、そして管理局等聞いたことのない自分達が住む此処が管理外世界と呼ばれ、地球はそこの97番目にあたるということである。

 

そして管理局が治める管理世界等で使用されているのが『魔法』と呼ばれる超高度な科学技術である。『魔力』と呼ばれる世界に満ち溢れたエネルギーを使用して起こす超常の現象の総称だ。

 

そんなものが存在する中でユーノはスクライア一族と呼ばれる遺跡発掘を生業とする種族の出身であり、その発掘で発見された『ジュエルシード』と呼ばれる遺物を回収しに来たというのだ。

 

聞くには発掘したジュエルシードを運んでいた船が事故ったらしく、一番近くの世界だった地球の海鳴市街に散らばったというのだ。よくもピンポイントに散らばったものである。

 

『んで、そいつの回収を俺らが手伝えば良いって話……か』

 

学校の授業中にも関わらず、京介は黒板を眺めつつ念話を飛ばしていた。それを受信しているなのはとユーノも会話に参加していた。

 

『はい、お礼はします、だから助けて下さい!お願いします!』

 

『お礼なんて、大丈夫なの、でもお礼って何してくれるの?』

 

『何でもします!』

 

『んっ?今何でもって言った?』

 

『んんんっ!』

 

『あ、はい、僕に出来ることなら何でもします!』

 

『何でもだってよ、高町?』

 

『言質は取ったの、録音したレイジングハート?』

 

『ばっちりです』

 

『な、何をするんですか僕は!?』

 

『ユーノ君って可愛い姿してるの、ちょっとぐったりするまでうちの家族にモフられれば良いから、……禿げるかもだけど』

 

『アデ○ンス!』

 

『ユーノの日本の知識っておかしい気がするぜ、しかしなかなかすげぇな、ジュエルシード』

 

念話内に出てくるジュエルシードの情報。滅んだ世界が遺した凄まじい力を秘めたロストロギア(遺物)である、それは非常に強力であり、同時に非常に危険な物でもある。

 

碧眼の瞳を思わせる色と形状をした宝石であり。全部で21個存在しており、それぞれシリアルナンバーがふられている。一つ一つが強大な「魔力」の結晶体で、周囲の生物が抱いた願望を叶える特性を持ちあわせている。

 

『放置したらまずそうなの』

 

『だよな、誰かが不用意に近付いたら願望を叶えるだろ?』

 

『ええ、それも直接的に、それは非常に危険なことになる事が多いです、だから』

 

『回収する、だろ?』

 

『危ないからね、それとジュエルシードはどうやって見つけるの?』

 

『近付けばその特有の魔力波で感知できます、だから今日の夕方から探してみたいと思います』

 

二つ返事で了解が飛んできた。ユーノはそれを聞くとほっとしながらなのは家でゆっくりと毛布の中へとくるまっていった。未だに傷は癒えていなかった。そして自分があんなものを発見したせいで彼らに危険な役目を与えてしまっている自分への苛立ちも積もっていた。

 

身体が治ったらすぐに出ていこう、それまでは彼らに助けてもらおう、これは自分がケリをつけなきゃいけない″義務″だから。そう思うユーノはギリギリと手を握り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局、正式には『時空管理局』と言い、この組織には魔法を主力とする戦闘部隊が存在する。警察と消防、それに軍の特性まで兼ね備えたそれは、管理世界の治安維持にも努めていた。言うなれば、多数の人にとっての『正義の味方』である。

 

ならば犯罪者を追い詰めるのも当然の仕事であり。時空管理局次元航行団第501独立機動群『テン=コマンドメンツ』がその犯罪者のアジトを発見し、突撃準備をしているのも当然のことであった。

 

将来有望な人間達が集まる代名詞である。故に『テン=コマンドメンツ』は所謂ヤングエリート集団である。その中で第一中隊隊長を務めるニナリス・シュヴァイツァーは部下である彼等に念話にて突入準備の指示を飛ばしていた。

 

犯罪者は管理外世界から多数の人間を誘拐し、何処かへと売却している連中である。長い捜査の後に第5無人世界である此処の遺跡が彼等のアジトであることを突き止めたのだ。

 

隊員達は自分達のデバイスの点検を済ませた後に、侵入口へと付いた。侵入口は二つ、正面と横道である。ニナリスは隊を二つに分け自分は正面、もうひとつを横道からとした。

 

ニナリスも同様に正面からの突撃に備える。隊員達には部隊専用の杖型ストレージデバイスが配備されているが、彼女のは少し違っていた。剣である、儀典用の剣のように

装飾され、洗練された美しさのデバイスであった。珍しく、それはインテリジェントデバイスである、使用者を選ぶ代物だが、使いこなせれば非常に強力な力となる。

 

流れるような金の装飾があるローブを振り撒き、ニナリスはバリアジャケット=戦闘服の擦れを直す。同時に指示を飛ばす。

 

『念話はこれで終わりにする、話す暇もなく終わらせるぞ?いいな?!』

 

『『了解』』

 

『突入準備!』

 

ニナリスは振り上げた手を構えた。隊員の顔には緊張のせいか汗をかいている、しかしそれは恐怖でもない、高揚めいた何かであった。そうなるのも当然だ、総勢20名近い仲間が居て、そのどれもが魔導師ランクがAランクからAAランクの手練れである。通常はAランク一人で町を一つ破壊することが出来るのだ。恐れることはなかった。

 

『突入』

 

手を降り下ろす。隊員達が有無も言わせずに容赦なく機械のように動き出す。

 

三メートルはある石の扉は紙のように魔力によって吹き飛ばされ、同時に隊員が飛び込んだ。扉の両脇から二名の隊員が中へと雪崩込み、周囲を探査、ヒットした警戒装置としての役割を持つ道具を有無も言わせずに吹き飛ばした。

 

この遺跡にとって隊員とニナリスが入り込んだ所は回廊のようなものであり、もうひとつの扉が目の前に陣取っている。

 

隊員が吹き飛ばそうと、専用の魔法で射撃するが扉には傷一つ付いていなかった。よほど頑丈なのだろう、扉破砕用のインパクトバレットでは破壊力が足らなかったのだ。ニナリスは悠然と扉の前に立ち、腰から剣を引き抜いた。同時に魔力が剣へと充填されていく。

 

『術式選択、魔力充填完了です』

 

「開口させよ、エルドフルーレ」

 

『結界破砕、″ウォールバンカー″』

 

「はあっ!!」

 

魔方陣が幾重ににも剣に重なったと同時に鋭い突きがニナリスから放たれた。魔方陣は彼女の後方へと下がった後に扉へと物凄い勢いでぶち当たり、扉そのものを″跡形もなく″破砕しつくした。

 

そのまま悠然と進むニナリスの横を隊員達が俊敏に駆け抜け、迎撃用の自動魔道具から攻撃される前に道具を吹き飛ばす、驚異的な練度を誇っている証拠だった。

 

悠然と進む彼女達は数枚の扉を破砕した後に、一つの広間へとたどり着いた。黒い石によって構成されたそこは、扉のない終着点であった。緑色の魔力光が石の表面を流れ、前方斜め上にある金色の逆三角形のプレートへと収束している。

 

その下に、女が一人立っていた。長いロングドレスを着込み、長い手袋で顔以外の素肌を全て隠し、そして前髪を眼に被るように伸ばしている。

 

ニナリス他全員が彼女へとデバイスを向ける、トリガーユニットに指を掛け、非殺傷設定の魔法を起動させた。

 

「時空管理局次元航行団第501独立機動群『テン=コマンドメンツ』だ、管理外世界からの誘拐並びに人身売買の罪で逮捕する、ちなみに聞くが、無抵抗じゃなくてもかまわんぞ?」

 

ニヤリとニナリスの白い歯が見えた。つられて数名の隊員が同じ様に白い歯を見せた。最近は捕まえる犯人が反抗することもなく、お縄につくからつまらないのだ。

 

「え、あ、すいません!私この遺跡を見に来たんです!ごめんなさい!」

 

「……笑わせる、無人世界のこの辺境まで見に来る遺跡か?ロストロギアも輩出していない弱小世界だぞ?」

 

「そんなことないよ!此処は歴史的に見て凄い遺跡なんだ!古代ベルカのね!あれを見て!」

 

眼を隠した女はテンション高め魔力が収束していくプレートを指差した。加えてテンション高めの解説が入る。

 

「あれを見ればわかるよね!周りの黒い石は魔力回路としての機能と術式用に魔力を変遷させてるんだ!でもそれに描かれてるのは古代ベルカ文字なんだけど、文法が違うんだよ!これは古代ベルカ内でも最も古い文法なんだ!めっちゃ古いの!ベルカ初期の魔力駆動機械が動いてるだけでも凄いんだけど、もっと凄いのは真ん中のプレートなの!あれに記されている文字はベルカに似ているけど違うんだ!全くの未知の言語なんだ!そしてこの周りの黒い石は解析装置の機能が込められている!この意味がわかる?!これはね未だに解明されてない超絶科学を数千も所持する古代ベルカ文明よりも超科学を誇る文明か世界があるってことなんだ!それは全くの異相の世界かもしれないし、我々を上から見ている存在かもしれない!わかる!わかるよね!管理局の人なんだからそれぐらいの知識は……!」

 

「うるさい」

 

非殺傷設定のウォールバンカーが女の鳩尾に収束してぶち込まれた。鈍く痛々しい音が広間に響くと同時に黒い石へとめり込んだ。

 

「うるさい女を確保だ、遺跡を見るためにこんなところまで来る奴が居るか、奴等の仲間だ、尋問しろ」

 

「仲間ってなんですか、ノア君達は私の幼馴染みですよー!」

 

むくり、と目隠し女が立ち上がる。非殺傷設定とはいえ、ニナリスのウォールバンカーは戦艦に穴を開けられるのだ、その威力の魔法を喰らってもなお平気な顔で立ったのだ。

 

ニナリスは有無も言わせずに魔力を再充填する、隊員達もならって非殺傷設定で魔力射撃を敢行する。

 

女はそれを眺めつつ、口元を緩ませ、両手を左右に広げた。その後ろに魔方陣とは違う赤色の幾何学模様が展開する。

 

「術式起動、攻性魔法第73番″マジェスティックジャック″」

 

直後、魔力を貯めていた全てのデバイスが炸裂した。

 

至近距離での爆発である。ほとんどの隊員達は炸裂したデバイスの欠片が上半身に突き刺さり瀕死の重傷を負っていた。ニナリスは使用しているバリアジャケットが欠片をほとんど弾いたが、脇腹に剣の欠片が突き刺さっていた。

 

「何…だとっ!」

 

「ミッド式のデバイスはハッキングに弱いですねー!超弱です!もっとましなもん作るですよー!ねぇ!みんな!」

 

「そうだな」

 

男の声だった。部屋の一角で青い稲妻が走り、何も無い空間から水から上がるように3mを超える大きな何かが出現した。その大きな何かは硬い金属で構成された″化け物″であった。それが幾つも同様に稲妻を纏いながら現れる。何体もだ。

 

ニナリスは恐怖に襲われた。いつもの彼女ならば勇敢に戦ったであろう、しかし今の彼女に敵と相対する力は無い。目隠しの女は大仰に手を広げ

 

「さぁ!みんな!とっととこの人達バラしてリンカーコアだけ抜いちゃいましょう!あ!でもそこの美人隊長さんだけは両手足ぶっちぎって喉と眼を潰してしまいましょう!そしたら、そっち系の売春宿で高く売れますからね!」

 

「おぅおぅ、エグいこと言うねぇ、お嬢」

 

「ベルケ居るから、手足叩き切ったらあいつに渡せ、この中であいつしかバラせないからな」

 

「つーか、マジでこのあと地球行くの?海鳴市ってとこだろ?あそこマジで海あるから錆びちまうよ」

 

「金属系のパーツ入れてるからだろ、女将から言われてるんだからしゃーねーだろ、ジュエルシードがねぇと″あれが″動かねぇんだ、とっとと終わらせて行くぞ」

 

「「りょーかーい」」

 

気だるそうな返事。のそりのそりと金属の化け物は隊員達へと近寄る。扉から逃げようとする隊員はいつの間にか張られていた″結界″に阻まれ逃げることは出来ない。

 

化け物は恐怖で動けないニナリスへと手を伸ばし、その両眼をゆっくりと握り潰した。悲鳴が部屋中に響き渡った。

 

そして、虐殺は開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海鳴市、午後5時過ぎ、放課後である。なのは、ユーノ、そして京介はテクテクと街中を練り歩いていた。

 

「へー、俺が持ってるリブラもなのはのレイジングハートも元々はユーノのデバイスなのか」

 

「はい、僕が遺跡で発掘してるときに二つとも発見しました、僕では使いきれないので二人が使ってくれると助かります」

 

「ユーノ君はデバイスは使わないの?」

 

「僕の使う魔法は術式調整が多いからデバイスみたいに内臓された術式を起動してるだけだとダメになるんだ、それでね」

 

「へー、どんな魔法が得意なんだ?」

 

「拘束系とか防御かな、探索系も得意だよ」

 

「補助系なのー」

 

「攻撃ねーのかよ、練習とか出来たら良かったのに」

 

「リブラはアームドデバイスだから練習機能は無いけど、レイジングハートとの同期で、レイジングハートの仮想空間を使用してのイメージトレーニングが可能です、帰ってやってみるかい?」

 

「マジかやるやる、てかイメージトレーニングって頭で考えたりする奴か?そんなのより手足を動かしてーなー」

 

「それは今後になると思います、実戦はかなり危ないですから」

 

「ちぇー、つまんねーの、なのはみたいにバンバン撃ちてーのに」

 

京介は人指し指と親指を伸ばし、バンバンと銃を撃つまねをする。直後、その人指し指の方向にあった森が爆発した。

 

爆煙がモクモクと立ち上る中、京介は冷や汗をかきながら振り返る。なのはとユーノは妙に冷静な顔で京介を見つめる。周りの大人達がざわざわと騒いでいた。

 

「お、お、俺のせいじゃねーぞ?」

 

「最近の若者はすぐに暴れたがるの」

 

「まぁ、普通は暴れたいよね、でもこんな街中で騒動を起こさなくても」

 

「淫れてるの!若者は淫れてるの!」

 

「俺じゃねぇよ!てか、高町、お前の言葉、字面おかしい気がする」

 

OH~!と額に手を当てて呆れてるユーノとなのは、それを見つめるだけの京介。直後、ガラスを引っ掻いたような音が響き、町の風景が別の色へと塗りつぶされていく。同時に塗りつぶされた箇所の人達は同時に消えている。

 

結界である。

 

「急ごうなのは!ジュエルシードのせいかもしれない!」

 

「急ぐの!」

 

「おい、何さらっと流してんだ、今さっき俺のせいにしようとしてたじゃねーか、謝罪はどーした」

 

「………ジュエルシードのせいなの!」

 

「おい」

 

「急ごうなのは!」

 

「急ぐの!」

 

「てめぇらそれで押し通そうとしてんじゃ…」

 

桜色の閃光が突如として煌めき、なのはとユーノはさっさとバリアジャケットを着込み、爆発の方向へとかっ飛んで行った。逃走である。

 

「待てやオラー!」

 

同じく京介もバリアジャケットを着込み、加速術式込みで爆発の方向へと飛んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

数分前のことである。海鳴市には森林公園があり、そこは海に面している。故に魚釣り客が多く、漁港も近い。猫が住むにはとっておきの場所である。

 

子猫が数匹集まって可愛らしく遊ぶ姿が見れるのは珍しい事ではない。故に今日も今日とて子猫達はニャフニャフモフモフしながらゴロゴロと林の中を駆け回っていた。

 

そのなかの一匹は非常に活発な茶トラの猫、林を突っ切りながら他の猫達と戯れていた。しかし思うように林を突っ切れず転けたりするのは日常茶飯事、″早く大きくなりたいな″と思っていた。

 

そうすれば林なんて簡単に突っ切れる、もしかすると飛び越える事さえ出来るかもしれない。そんなことを思いながら茶トラは突っ切ろうとした林に思いきり引っ掛かり、転げてしまった。

 

クルリと一回転した猫は″なんじゃこりゃー!″と言っているような顔で周りを見渡していた。すると目の前に見慣れないキラキラしたものが輝いていた。興味を持ち、それに触れてしまうのは仕方のないことだった。

 

猫と煌めく″ジュエルシード″が触れあった直後、そこから大量の魔力が噴き出した。魔力は噴き出しつつ術式を構築しつつ″対象″の思考を読み取り、その願望をストレートに叶える。

 

猫がストレートにでかくなった所までは良かった。しかし魔力は暴走し、勝手に自我を構築し、意識を塗り替えていく。気付いた時には既に遅く、猫は黒豹を思わせるような肢体に似つかわしくない大きな黒い翼を手に入れていた。

 

そのまま黒豹は本能の赴くままに腕を振るう。ジュエルシードにより強化し増加した筋力はいとも簡単に木を薙ぎ倒した。それにびっくりした子猫達は悲鳴を上げた。

 

黒豹はそちらへと向くと自分の仲間ともわからずにその驚異的な腕を振り上げた。

 

『″ディフェンサー″起動、展開する』

 

黄金色の稲妻と魔力が煌めいた。直後驚異的な暴力を黄金色の魔方陣が軽々しく受け止めていた。そしてその魔方陣を左手で構築し展開している少女。

 

金色の長い髪を頭の斜め上で二つに結んでいる/整った顔=問答無用で美少女/黒を基調とした服装。

 

「……バルディッシュ!」

 

『了解、吹き飛ばす』

 

少女が右手を黒豹に対して振り抜くと金色の閃光が走った。スドン!と爆発が起こり、近くに居た子猫はその余波で後方にゴロゴロと転がるが、それを受け止める者が居た。

 

眼鏡を掛けた冴えない少年/手入れをしてないボサボサの髪/執事服のような服装。そんな少年が子猫達を両手で掴んでいた。

 

「子猫ゲットで御座る、金髪殿っー、もうちっと周り見るで御座るよー、子猫可哀想で御座る」

 

「ごめん」

 

「いやまぁ、子猫モフモフ最高で御座るから良いで御座る、あ、前、前見るで御座るよ」

 

金髪殿と呼ばれた少女が前を向くと目と鼻の先まで黒豹が迫っていた。しかし少女は慌てずに身体を沈み込ませつつ黒豹の腹を潜り抜けながらいつの間にか握っていた″戦斧″で黒豹の腕を切断する。

 

飛んでく腕が眼鏡の少年の顔面に直撃して、抱えていた子猫達が逃げ出すのを見届けた少女は″バリアジャケット″を展開した。

 

金色の魔力が吹き荒れ、少女に漆黒の外装を装着していく。攻撃と速度のみを念頭に置いているかのようなレオタードとミニスカート/フェイントと防魔処理が施されたローブ/そして漆黒に輝く戦斧。金色の死神がそこに居た。

 

「いくよ、バルディッシュ…!」

 

『切り裂くぞ、お嬢』

 

吹き飛ばされた黒豹はぐるりと体勢を立て直し、金髪の少女へと向き直る。そこには既に戦斧の先端が目の前に来ていた。しかし猫科の反射神経はそこからの回避を可能とする。頭を下げて切っ先を回避、翼が根元から切断されるが、少女へと捨て身の体当たりを敢行する。

 

『下がれ、下朗が』

 

金色の魔方陣がとんでもない速度で展開され黒豹を斜め上から真下へと叩き付けた。そのまま地面へと縫い付けた。

 

「ジュエルシード、封印…!」

 

『閉じよ』

 

戦斧は形を変え、金色の光を撒き散らす槍へと変型する。少女はそのまま魔方陣ごと黒豹の頭蓋を突き刺した、噴き出す黒い血肉と人に似たくぐもった呻き声が響いた直後、黒豹は血肉を撒き散らしながら大規模に炸裂した。

 

爆煙が舞う中、金髪少女は己が″デバイス″である、バルディッシュを振り抜き、刃に媚りついた血肉を飛ばした。その眼下には青白い結晶が浮いており、その下には子猫がぐったりと横たわっていた。

 

「お見事で御座るよー、金髪殿ー、あら、子猫殺しちゃったで御座る?」

 

頭にタンコブを作った執事服の少年は、底抜けな明るさで金髪少女へと近付き、子猫をつつきだした。それに反応するように子猫は身を捩る。

 

「生きてるで御座る」

 

「封印しただけ、魔力をいきなり身体から抜かれたからショックで気絶したの、殺してないよ、トヨヒサ」

 

トヨヒサと呼ばれた少年はまたも底抜けに明るそうな表情で子猫を抱き上げる。それを僅かに物欲しそうな眼で金髪少女は見つめていた。

 

「ん…?触るで御座るか?」

 

「……いい、猫の匂い付くと″アルフ″が嫌がるから」

 

「後で消臭スプレーすれば大丈夫で御座るよ、モフモフで御座るよー」

 

ほれほれ、とトヨヒサは子猫を金髪少女へと差し出すが、物欲しそうな顔と同時に申し訳なさそうな顔でそれを見つめていた。

 

「……いい、やめとく」

 

「そうで御座るか、あーもったいないでござ……、ん?」

 

戦闘機みたいな音が響いていた。二人はそれに気付くと身構えた、その直後、赤と黒の塊がトヨヒサ目掛けて激突してきた。

 

「アイヤぁあああああああ!で御座るよぉぉぉぉおおおおおお!」

 

赤と黒の塊に激突されたトヨヒサは子猫を真上に放り投げながら木々を数本ぶっ倒しながら林の中へと突っ込んで行った。投げられた子猫はすぽっと金髪少女の胸元へと入り、居心地良さそうにゴロゴロしていた。

 

「…えへ、えへへ」

 

「くそっ!高町の野郎!バスター撃つかよ普通!そのおかげで変な奴にぶつかっちまったしよぉ!ちくしょっ…………、……なんだお前…?」

 

ニヤニヤする金髪少女を一瞥するのは赤と黒のバリアジャケットを着た京介であった。京介はジロジロと金髪少女を見る、少女はほんの少し身構えた。そして足元に眼が行った瞬間。

 

「あ、ジュエルシード」

 

京介の顔が綻んだのも束の間。目にも止まらぬ一撃が京介に叩き込まれた。痛烈かつ体重の乗ったハイキックが京介の頭蓋に凄まじい衝撃を与える。少女はそれを子猫を両手で抱えたまま敢行していた、とんでもない脚力である。

 

「アイエエエエエエエエエエエ!!!!」

 

そのまま京介は側頭部から地面にめり込みつつ真横に二回転半しながら近くの大木へと顔面から衝突した、嫌な音がしたのを少女は聞き流していた。

 

直後、空から桜色の光を撒き散らしながら純白の少女が舞い降りた。その視線は京介と少女に注がれていたらしい。ふむふむとなのはは数度頷くと、わざとらしく。

 

「あーっ!京介君が可愛らしい子猫持った美少女にセクハラしたら、美少女に頭蓋を蹴りでぶち抜かれてぶっ飛んで大木にぶつかったの!マヌケめ!」

 

「違うよなのは!あれは京介君に対する御褒美なのさ!証拠にほら!若干嬉しそうな顔してる!」

 

「イヤらしい奴!」

 

「業が深いね!……あ!なのはジュエルシードだよ!」

 

「ほんとなの!ジュエルシードなの!」

 

「フォトンランサー」

 

『やかましい奴等だ』

 

ズパパパパァッッ!!!!と魔力により形成された稲妻の槍がなのはへとかっ飛んで来た。なのはが顔を背ける、相反してレイジングハートは瞬時に魔方陣を展開し槍の直撃を防いでいた。

 

「……危ないの!」

 

「殺す気ですか!」

 

『非殺傷設定です、死にません』

 

「……御褒美はいらないの!」

 

「鞭でオナシャス!」

 

オナシャス!となのはとユーノは少女へと頭を下げるが、当の本人は物凄い困った顔で両手を振る。

 

「御褒美じゃない…!」

 

『そうだ、そんなもったいないこと出来るか』

 

「…バルディッシュ?」

 

しかしデバイス=バルディッシュからの返答はなく、斧の部分が変形して光の刃を持つ鎌へと形を変えていた。

 

『Scythe Form!さぁ!この地球でジュエルシードを知ってるのなら、それを回収しに来た連中のはずだ、だからさっきの小僧を蹴ったのだろう?』

 

「…うん、後でバルディッシュお話ね」

 

『………どうだ?俺に御褒美らしいぞ、そこの少女と獣』

 

「「うらやましい奴!」」

 

「違うから…!」

 

なのはにとってそれは瞬間であった。20m以上離れていた金髪少女が一瞬で目の前まで詰めて来ていたのだ。そこでなのははこの少女が自分より速い敵だと言うことを理解した。

 

集中しろ!ぎりりとレイジングハートを握りしめると同時に″前方へと″加速した、フライヤーフィンがごうっ!!と音を立てていた。

 

此処で詰めてくるのか?フェイトは冷静にそう思っているが、初撃は完全に″中途半端に″当たっていた。鎌の刃ではなく柄の部分、グリップ同士が打ち合っていたのだ。鍔迫り合いである。スピードはあっても重みの乗っていない打撃である、″押しきれない″、仕切り直す必要があった。

 

「…っ!」

 

『詰めて下さい、斬られます』

 

「…なのっ!」

 

レイジングハートの言葉通りになのはは引こうとする少女に対して瞬時に詰め寄った。再びグリップ同士がぶつかり合い、激しく火花が散っていた。少女はその衝撃に押され、僅かに体勢を崩した、それをなのはは見逃さなかった。相手は力技に慣れてない。

 

「押し込むの!」

 

『出力最大』

 

ギィン!と甲高い音が鳴り、なのはは再び斜め下に向けて短距離加速を敢行した。地面へと叩きつける為だ、そのあとはどうとでもなる、そう思っていた。確かになのは達には未だ分かるものでもないが、彼女の短距離加速は早く、そして″重い″、普通の魔導師ならばその衝撃に負けてしまうだろう。

 

しかし少女は違っていた。

 

地面へと叩きつけられる瞬間に体勢を立て直し、″二本足″で地面へと着地した、そしてその足のみでなのはの短距離加速を止めたのだ。凄まじい筋力とバランス感覚だった。

 

「なん…!?」

 

「…ふっ!」

 

少女は身体を沈み込ませ、未だ存在するなのはの短距離加速の衝撃を真後ろへと流しつつ、その勢いを利用して柄の先、鎌とは反対方向の部分、『石突き』と呼ばれる部分を加速させ、同時に体重を乗せた。

 

刀等で使われる、鍔迫り合いからの技である。これを少女は鎌にて使用したのだ。

 

石突き部分は容赦なく、防ぐ暇など無く、なのはの鳩尾へと直撃した。バリアジャケットが衝撃をなのは自身に透過するのを防いだものの抉るような突きは彼女の内臓を上へと押し上げていた。込み上げる痛みと吐き気を感じながらなのはは後方へとぶっ飛んでいった。

 

魔法も使わない一撃によりなのはの意識の大半は刈り取られていた。目の前の少女はそれほど強く、そして凄まじいほどに技量の差が存在していた。認識の甘さをなのはは痛みと共に感じていた。

 

そしてなのはは大木へと衝突した。

 

それを起き抜けの京介は目の当たりにしていた。なのはが一撃のもとに倒され吹き飛ばされたのだ、無意識のうちにリブラを抜き放ち、先端を少女へと向けた。

 

『速射型魔力砲″ボルトガトリング″』

 

「当たれ…!」

 

魔方陣が展開され、赤い稲妻が少女へと発射される。しかしその次の瞬間には狙いは大きく外れ、明後日の方向へと稲妻が数十発走っていった。稲妻は木々を粉々に砕いたものの少女は砕けていなかった。

 

何が起こったのか確認しようとする京介の目の前には少女が立っていた、それは黒い少女ではなく、赤い少女だった。

 

真紅の髪/巫女服のような服装に前掛けを垂らしている/不釣り合いなほどの巨大な籠手を両手に填めている/赤色の聖女が立っていた。

 

「それ、非殺傷設定にしてないですね、それ、危ないですよ?」

 

「てめぇ…!奴の味方か!?」

 

「それ、違います、協力者です」

 

少女は巨大な籠手でリブラを握りしめていた。この状態で射線をずらしたのだろう、それは京介にもわかっていたが、いつの間に″そういうこと″をやってくれたのかが彼には分からなかった。全く見えなかったからだ。

 

こいつも速ぇのかよ!京介はすぐさま力を込めた、速い相手なら力技には弱いはずである、ゲームでそういった理論をいくつも見ている。しかし目の前の少女の道理は違っていた。

 

いくら力を込めてもリブラはびくともしなかったのだ、万力にでも固定されたかのように一寸たりとも動く気配はなかった。

 

「人とは積み重ねにて生きています、私の″それ″はまさしく、そして正しく再現したものと言えます、積み重ねとは真理です」

 

「意味わかんねぇよ…!」

 

「…それ、最悪です」

 

『往々にして人とは積み上げ重ねるもの、ツバキよ、我々の積み上げし研鑽、見せるべし、戦技行動第17″タイラントスマッシュ″である』

 

少女はあっさりとリブラを離した、京介が自由になった瞬間、目の前で赤い少女が″三人に増えた″。

 

「余所見しないで下さい、それ、″死にますよ″?」

 

「なっ!」

 

初撃は京介の鳩尾をぶち抜いていた。抉るような正拳突きである。痛みが京介の身体を駆け巡る、闘争本能がガリッと削られた。

 

「ジュエルシードには関わらない事です、それ、不用心です」

 

「て…てめぇ…は!」

 

「それ、理解と見て良いですね?」

 

直後、少女の分身体から痛烈な回し蹴りが京介の顔面に直撃し、地面へと後頭部から叩き付けられた。頭の中で火花が散る、腕に力が入らない。するとリブラが過剰に魔力を消費し、輝き出した。

 

『使用者の危険増大、敵性のロストロギアを感知、機能をアンロックしま』

 

『させぬ、アームドデバイス風情が反撃など、おこがましい、圧砕すべし』

 

「はぁっ…!」

 

巻き起こる暴力の嵐。三つに分身した少女は痛烈な一撃を間断無く京介へと叩き込み続ける。もはや物理干渉出来るほどの余裕すらない京介の体は地面に落ちるはずだが、少女の打撃がそれを許さない。浮きっぱなしであった。

 

『トドメである、必滅機能″破砕概念″起動』

 

「微塵に砕け!アナザードライ!」

 

『特殊動作″因果応報″きど』

 

「それ、遅いです」

 

リブラは京介の腕を勝手に動かし、少女へとカウンターを敢行するも速さは相手の方が何枚も上手であった。必滅の一撃、少女の光輝く拳がリブラの刀身へと直撃した。直後、有無も言わせずにリブラはグリップ部分と機能統括ユニットであるコアを除いて、全てが粉砕した。それを京介は意識の片隅で見ていた。

 

「だめ押しです」

 

少女はぐるりと回転しながら後ろ回し蹴りを京介へと叩き込む。内臓へと貫通する衝撃、血ヘドをぶちまけながら京介は木々を数本薙ぎ倒しながら地面へとめり込んだ。

 

そこで京介の意識は完全に絶たれた、しかしその左手はリブラのグリップをギリギリと握りしめていた。闘争本能は死んでいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

トヨヒサがフラフラと木々の中から這いずり出た頃には、何かが全て終わった後だった。金髪少女と赤髪少女がこちらを残念そうな顔で見つめていた。流石に底抜けに明るいトヨヒサでもグサリとくるものがあった。

 

「…終わったで御座る?」

 

「終わったよ」

 

「それ、もしかしてさっきまで気絶してました?」

 

「いやぁ、まさかぶっ飛んだ所に猪が居るとは、予想外で御座ったよ」

 

「追っ掛けられたの?」

 

「作用で御座る、危うく食べられるかと思ったで御座るよ、てか、良いので御座るか?」

 

「それ、何が?」

 

「あそこの茶髪殿、意識あるし、ジュエルシード持ってるで御座るよ?」

 

「え?あ、ホントだ、取り行くね」

 

「お、金髪殿が茶髪殿に百合乱暴で御座るな、『ほら、貴女、こんなもの隠し持ってるなんて』、『いや…!』『ふふふ、それでも身体は正直ね』、『くやしい!』でもビクンビクンで御座るな」

 

「…それ、サイテーです」

 

「オウフ、デュフフ、ツバキ殿に怒られたで御座る、あ、そういや、さっき猪の近くに居たウリ坊ゲットしたで御座るよ」

 

トヨヒサが懐からウリ坊を出す。大人しく捕まってるウリ坊をツバキと呼ばれた赤髪の少女は興味津々で見つめていた。

 

「それ、食べれるの?」

 

「食う気で御座るか!?アイヤー、金髪殿に比べてツバキ殿ときたら、女子力低めで御座るなぁ」

 

「む、フェイトだって食べるよ、ムシャムシャガツガツ丸かじりです、それ、生で」

 

ビクビクゥ!とウリ坊がツバキの話で縮み上がる。トヨヒサは反対に有り得ない、といった顔でツバキを見つめていた。

 

「女子力高め設定の金髪殿に限ってそんなことはないで御座るよ、確かめるで御座るか?」

 

「それ、私の勝ちだったら、今日のご飯はトヨヒサが作る、いいですね?」

 

「了解で御座る、金髪殿ぉー、このウリ坊どうで御座るか?」

 

「え?ウリ?割るの?」

 

「瓜でないで御座る、ウリ坊で御ざ」

 

「近くに居た猪が怒り狂ってるのはお前達のせいか、たくっ、ウリ坊何て持ち出すなよ」

 

大人の声であった。三人は振り返る、そこには気絶した2mはあろうかと言う猪を担いだ赤髪の男が立っていた。三人は身構える、しかし男は溜め息をつく。

 

身なりを見るが、ただの一般人であるが、此処に、結界の内に居るという時点で″普通″ではなかった。

 

男はボリボリと頭をかきむしると、気だるそうに話出す。

 

「俺ってさ、これでも一応教師やってるから、しかもそことそこの男女の担任してるわけさ、そういった手前、お前らを怒らなきゃならなかったりするわけだ、わかるか?」

 

「ただの教師のわりには結界内に平気で入ってますね、それ、おかしいです」

 

「おう、そうだぜ、教師もやってるし、管理局に勤める公務員さ、赤城 優だ、よろしく、そしてそのまま引きな、俺は機嫌が悪りぃんだ」

 

その言葉に三人とも顔が固まった、ジュエルシードを集めている事を管理局に知られれば、確実に介入されるそして、自分達の手の届かない所へとやられるのは目に見えている。

 

「ジュエルシードを回収しに来た局員で御座るな、一旦引くで御座るよ、二人共」

 

「おう、そうだ引け引け、ジュエルシードを″此処に置いて″な…!桜萪、流、囲むぞ…!報奨は出すからな」

 

赤城と名乗る男は両手に手甲を展開しつつこちらへ向かって突貫してくる、同時に木々の中からもう二人ほど飛び出した。黒髪の男と金髪と黒髪が入り交じった男である。黒髪の男がどろんとした表情で銀色のハンマーを担いでいた。

 

「どうせジュース一本です、桜萪、手を抜きましょう、めんどくさい」

 

対してもう一人の金と黒のモザイク頭の男はデカイ銃を担いでおり、ニヤニヤした顔でハイテンションで返答する。

 

「流、もうちょっと気張れよ、気だるさ三倍増しだぜ?肉食え、肉、先生、報奨は焼肉屋な!」

 

「どうせ、食べ放題の安い所ですね」

 

「牛○だ!○角!ビール飲みてぇからな!」

 

「…っ!贅沢コースですよ…!」

 

「和っ牛ぅうううううう!!!!!」

 

「縫い付けろ!シルバーミョルニル!」

 

『ヒゃっハー!″グラビティバインド″セット!』

 

黒髪の男が先行した。男は銀色のハンマー=シルバーミョルニルを魔方陣を展開しながら″地面″を打ち付けた。直後周りの木々が真下へと圧砕されるほどの″重さ″が三人を襲った。

 

「重力系…!?」

 

「それ、レアスキルです…!」

 

「おごぉ!こ、これは自分の出番で御座るかも…、エルキドゥ…!」

 

『妾を煩わせるな、トヨヒサ、食うてしまうぞよ?』

 

銀色の魔力光と共に魔方陣が展開し、凄まじい魔力圧を撒き散らしながら白銀の大剣が姿を現した。その各部は銀色の魔力光が血液のように流れ、脈動していた。

 

「食うな!で御座るよ!″イグゼクスデリート″限定展開で御座る!」

 

『煩わしい…、後でチーズケーキを所望する、あの翠屋という店のが良いのぅ』

 

「了解で御座る、一緒に食べるで御座る!」

 

『…うぬ、良かろう、我が伴侶と仲間に不粋な小技など、失せろ』

 

直後、銀色の魔力光がトヨヒサ達三人に直撃した。それと同時に三人

身体は普通通りの軽さになった。

 

「トヨヒサ、それ、私はショートケーキね…!」

 

「何で自分が買うで御座るか!?」

 

最初に動いたのはツバキであった。彼女の加速術式『ブロッサムアクセル』が幾重にも後方に展開し、前方へと弾き出した。狙いは赤城である。

 

「はぁっ!」

 

「女を殴る趣味はねぇなぁっ!でもよぅ!」

 

二人の拳が正面から衝突する。火花が舞い散ると同時に衝撃の余波で足元の地面がボゴォ!と抉れる。二人はさらに拳を押し込むと足場の地面がその下の岩盤へと衝撃を与えたのか大量の土塊と瓦礫が空中へと舞った。

 

「女子力低そうだから殴っても良さそうだな…!」

 

「それ、…むかつきます!」

 

『女子力低そうなのですよ!マスター!』

 

「だろ?スノー、だから打ち負かすぞ…!」

 

『なのです!偽装型加速術式!』

 

「『″ジェットファントム″!』」

 

拳同士の鍔競り合い、先に抜け出したのは赤城であった。軸戦をずらし、ツバキの顔面へと向けて拳を振り抜く。しかしツバキもそれぐらいは見越していた、赤城の拳に対して小さな身体を利用してさらに潜り込み、クロスカウンターを敢行したのだ。

 

しかし赤城はクロスカウンターが直撃する瞬間、ツバキの″真横″へと移動していた。疑問が口から出る前にツバキの脇腹へと痛烈な一撃が入り込んだ。

 

「ワンポイントだ」

 

真横にツバキがひっくり返る。そこをトヨヒサが大剣を担いで突撃してきた。そのままツバキを抱き抱えると前方に居た流に向けて″放り投げた″。

 

「自分があの御仁と戦うで御座る!ツバキ殿はそっち頼むで御座る!」

 

「いたぁ…それ!最悪!」

 

「投げるなんて、最悪な子供です、世の中が悪いんですね、憂鬱です」

 

「悲観する前に戦えよ!流!」

 

「怒られました、貴女のせいですよ?」

 

知らないです!とツバキは怒鳴りながらくるりと体勢を変えながら投げられた勢いのままに流へ向けて拳を振り抜き、対する流も拳に対してハンマーを振り抜いた。打点が適当だったのかハンマーと拳は擦れ違い、大量の火花を撒き散らしつつ、両者は交差した。

 

それと同時に桜萪は金髪の少女=フェイトへと自らの持つ巨大な銃を向けた。フェイトは銃口を確認すると、射線に入らぬように地面すれすれを加速しつつ飛行する。

 

「狙いは外した事はねぇ!敵でも女でもな!」

 

「童貞が何か抜かしてますねー」

 

「あいつんちのエロDVD没収な」

 

「ご無体をぉぉぉぉ!イクスアーベント!当てるぞ!Eモードだ!」

 

『エロDVDとはなんだ?我が嫁よ?語学の為に聞きたいのだが』

 

「その話題、後でな!」

 

ギギギギギギっ!!!とイクスアーベントの銃口から魔力弾頭が速射される。それをフェイトは加速と減速、そして回避機動を混ぜる事で見事に全て回避しきっていた。しかし桜萪は慌てる事もなく、モードを変更する。

 

「見抜いたぞ!Sモード!」

 

『穿つぞ!嫁!』

 

ズドドンッッ!!!!と響く二重の銃声。フェイトはその音が鳴る前に回避行動に移っていた、驚異的な感覚である。しかしそれを桜萪は先程の回避で見抜いていた。

 

弾丸は二つ、桜萪の水態変化により形成された氷の弾頭である。一つは通常の弾頭だが、もう一つはわざと空気抵抗を強めにした″遅い″弾頭であった。タイミングをずらす事で相手へと当てるのだ、それは充分に発揮され、フェイトに遅めの弾頭が直撃した。

 

「ぐっ…!」

 

『お嬢…!』

 

空気抵抗はそのまま衝撃波を伴い、フェイトの腹部に凄まじい衝撃を与え、向こう側へとブッ飛ばした。

 

「よっしゃぁ!」

 

「あいつホントに小さい女の子に弾頭ぶちこんだぞ、信じらんねぇ」

 

「それ、最低です」

 

「うわー、桜萪、引くわー」

 

「金髪殿が撃たれたー!撃った奴はニヤニヤしてるで御座る!繰り返す!ニヤニヤしてるで御座る!助けてポリスメーン!」

 

「お前ら俺の味方なんだよなぁ!?てか、敵からも罵倒されてるし!」

 

『引くぞ、我が嫁』

 

「お前もかよ!」

 

ブッ飛ぶフェイトを加速術式で先回りしたトヨヒサが真正面から受け止める。バリアジャケットは貫通していなかったが、フェイトのそれは非常に薄い、もしかすると内臓までダメージが入っているかもしれなかった。苦しそうな顔をトヨヒサに向けた。

 

「んぐっ……!」

 

「金髪殿!」

 

「トヨヒサ!それ!フェイトは!?」

 

「……治療するで御座る、自分が殿を務めるで御座る、先に金髪殿を連れて行ってくれで御座る」

 

「…トヨヒサ?」

 

「ちっとばかし、自分、オコで御座るよ、エルキドゥッッ!!!」

 

トヨヒサは無表情で担いでいた大剣を引き抜き、頭上へと掲げた。同時に大剣の刃と思わしき部分から銀色の小さな刃が無数に飛び出し、チェーンソーのようにギャリギャリと音をたてながら回転し始めた。

 

『ふふ、怒っておるのぅ、伴侶よ』

 

「……はああぁぁっつっっ!!!!」

 

『暑いのう、伴侶よ、妾は嫌いじゃないぞ、そういうの』

 

トヨヒサは下から上に向かって腰を入れて大剣=エルキドゥを振り抜いた。一瞬の静寂の後に凄まじい衝撃がトヨヒサの前方から発生し、土や木々を岩盤ごと掘り返しながら赤城達三人へと襲い掛かった。それはまさに瓦礫による津波であった。

 

それを三人は口を開けて見つめていた。

 

「なんつー馬鹿力だよ!流!」

 

「特上ロースもつけてもらいます、シルバーミョルニル、行くよ」

 

『ドッドーン!俺様の神業だ!″グラビティシュート″!広範囲でな!』

 

「轢き慣らせ!シルバーミョルニル!」

 

瓦礫による津波は三人へと直撃する瞬間、空間も歪めるような圧力=重力がかかり、全てが地面へと強制的に落とされ、自重により砕けていった。残されたのはブルドーザーにでも整地されたかのような更地だけであった。

 

その向こう側、いるはずの三人は既に失せていた。同時に自分達を覆っていた結界が解除されて行き、荒れた更地に木々が復活していく。その中で赤城は未だ意識のあるなのはへと近付いた。

 

「起きてるな、高町、動けそうか?治療がいるなら俺がする」

 

「何で…先生が?」

 

「そいつは後で話す、焼肉食いながらな、京介も居るんだろ?あいつも連れてくからな、まぁ、喰うのは夜だ、それまで寝てろ」

 

ポンっ、と赤城はなのはの頭を叩いた。その手にはなにかしらの術式を展開していたのだろう、なのははストンと気を失い、寝息を立て出した。その真横でユーノは赤城を見つめていた。

 

「お前がユーノって奴だな、今回の事件のあらまし、詳しく聞かせてもらうぜ?良いな?ちょっとヤバイことになってな、俺達が介入せなならんくなった、嘱託の二人も使ってな」

 

「ジュエルシードの捜索なら仕方ないですね……、でもこれは僕の…!」

 

「ちげぇよ、ヤベェ奴等がジュエルシードを狙ってんだよ、うちの隊員半分ぶっ殺すくらいのな、あー、もー、こっちで作戦本部作成するはめになりそうだ、てめぇも手伝えよ、良いな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5無人世界、隊員達の多くの血肉が残留したままの遺跡、そこに二人の男が立っていた。一人はスーツにデカイ紙袋を抱えている、対してもう一人は白衣に身を包んでいた。

 

「あちゃー、かなり手の込んだ殺し方だねぇ、レオ?」

 

「セイト、食事中だ、殺しだのなんだのと生臭い話は無しだ」

 

「普通こんなところで食事するか?」

 

「お気に入りのドーナツが大量に入手出来たんだ、食べなければ損だろう?」

 

「あれか、納豆バター味○素味のとんでもドーナツ、略してNBA」

 

「このたまらない味が良いんだ、沸き上がるような感じと脳を活性化させるような刺激、そして胃袋が拒否する感覚、何度も食べてみたい」

 

「それ吐きそうなだけじゃないか?」

 

「そんなわけがあるわけがおぼろろろろろろろろろろろろろ」

 

「うわ!吐きやがった!ホントに吐きやがった!汚い!汚いぞ!レオ!」

 

「おろろろろ、くそ、なんだこれ、胃袋があり得ない反応だ、二度と喰うかこんなもの」

 

「さっきと言ってること違うぞ、しかし凄いねぇこんなに簡単に人間を解体してしまう存在なんて」

 

「リンカーコア周辺の臓器だけは何処かに持ち去られてる、凄まじい解体技術だ」

 

「ニナリスは見つかったのかい?」

 

「三つほど横の世界の売春宿で発見したよ、数回売りに出されたのだろうな、何も反応も示さない廃人だった、喉が切られてたから喋れなかっただけかもしれんがな」

 

「けっ、ぶっ壊れたのかよあの女、売春宿の奴には悪いことしたなぁ」

 

二人の真上から声が聞こえた。同時に二人が見上げると、そこには天井に張り付いた金属の化け物が居た。鋭い爪で天井に張り付いていたのだ、ずっとこちらの会話でも聞いていたのだろう、趣味の悪いことである。

 

「……あれか、うちの隊員を解体したのは」

 

「あれだろうな」

 

「悠長だな?魔導師?」

 

張り付いていた化け物は二人の目の前に着地する。その身体は強靭な背骨を軸に大きな足と腕で構成されていた。化け物の緑色の眼が二人を見つめていた。

 

「お前らあいつらの上司か何かか?だったら同じように切り刻んでや」

 

「喋るな、化け物風情が、虫酸が走る」

 

スーツの男=レオは化け物の反対側へと移動していた。その手にはドーナツの入った紙袋と一本の剣が握られていた。その刃には赤い何かが付着し、真下に滴らせていた。

 

それが自分の身体を循環する人工血液である事を自覚する前に、化け物は頭部から股下まで切り裂かれ、真っ二つに割れていた。機械と同化した消化器官や、さっきまで食べていたと思わしき手足が胃袋から飛び出し転がっていた。

 

「あ、尋問するの忘れた、まぁ、良いか、こいつらがジュエルシードを狙ってるらしいことは残った通信ログから確認出来たし」

 

「そうだな、レオ、赤城には連絡したのか?向こうに作戦本部を立てるんだろう?」

 

「連絡したさ、さぁ、さっさと行こう、此処は他の管理局員にでも任せて、俺達は″地球″に向かうぞ」

 

「そうだな、で、さっきから気になってたんだが、お前の後ろポケットのそれはなんだ?」

 

「これか?海鳴市の旨いものリストが掲載された雑誌だ、赤城に送らせた、翠屋という所のチーズケーキが旨いらしい、いくぞ」

 

「おれ、チーズ苦手なんだよなぁ…」

 

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