「いったぁ……、なのはめ…やってくれたなぁ」
瓦解した家から這い出るユーノ。体に感じる節々の痛みを我慢しながら、道路まで出た。どう考えても痛い"程度"では終わらない衝撃を受けているのだが、ユーノはそれを認識出来ていなかった。
まるで身体が別の何かに生まれ変わったかのように、ユーノを"生かしている"。本人はそれを自覚出来ていない。
「さて、とりあえず、僕一人でも走って目標地点まで行かないと……」
この結界に存在するただひとつの"抜け穴"。どう考えても罠だが、どうもしなければこちらがじり貧になるだけ、なので進む。そう、全員で決めたがユーノだけは違う理由で賛同していた。
"どうとでもなる"、ポジティブな思考、言い方を変えれば甘い思考だが。その圧倒的なまでの一種の全能感と"英雄思想"がユーノの歩みを止まらせない要因だった。
それが例え、彼の目の前に『身長3mの金属の異形』が現れても、例外ではなかった。
ユーノの感覚的には一瞬、もしくは突然そいつは現れた、と感じただろう。トゥーソード、"彼女"にとっては造作もない一芸にての登場だった。
『「見つけたよ!目標のショタァ!」』
すんごい二重に聞こえるけど、異形からは良い感じにポンコツそうなお姉さんの声が聞こえてきた。ユーノは即座に判断して、全力で彼女の脇下を通り抜けて行った。
『「あ!うそ!?ガン無視ですか!?やめてください!」』
「いえ、関わったらめんどくさそうだったので」
『「めんどくさい!?めんどくさいってなんですか!?!説明してください!!!」』
「やっぱりめんどくさい人じゃん!!」
『「めんどくさくないもん!!」』
抜き放たれる二対の刃渡り3メートルはあろうかという大太刀、その刀身は禍々しいほどに魔力を噴出していた。まともな物じゃない、それをユーノは即座に感じた。
しかし、それを回避する手段を自分が持っていないことに気付いた。しかしそんなことを考えてる間にユーノは大太刀でぶん殴られていた。
嫌な音が自分の身体から発せられるのをユーノは耳にした。身体の中の空気がなくなり、意識が飛びかける。
「…がっ……はぁ!?!」
『「え、うっそぉ!?!えぇ?!!生きてるし!!!」』
「人を殴っておいて驚くとか、最悪ですね……っ!」
『「殴る??"斬ったん"ですけどっ!!!」』
はぁ?斬った?何を言っているのかと思ったが、大太刀で"殴る"などあり得るはずがないのだ。あれは斬るものだし、加えて、化け物が持つ太刀の刃はしっかりと僕に向いていた。
刃は確実に直撃していたのだ。
しかし僕の身体は斬れていない。
僕に何が起きてる?僕の何が"変わった"?
『「えー、なんでこんな人相手にしないといけないのよ私ぃぃ、あー!"殺しちゃダメだし!"」』
「え、じゃあ何故斬ろうとしたんですか」
『「わたしくらいの腕前なら斬ってもくっつくしね!斬って抵抗出来ないようにしてやるのよ!わかる?!」』
「斬れてないよ?」
『「あいやー!!!!」』
そうだったよー!どうすんだよー!!と残念化け物系お姉さんは頭を抱える。どう考えてもビジュアル的には可愛くないのにどことなく可愛く見えるのはこの人の人柄のせいだろう、とユーノはその横を走り抜けながら思っていた。
『「逃げるなし!」』
「うぇ、気付いたし」
ゴバァ!っと高速移動で回り込んでくる化け物お姉さん。何とかしないといけないらしい。仕方ない、魔法は使いたくないが、四の五の言ってる場合ではない。
「チェーンバインドっ!!」
『「鎖!?ふん!たかが拘束魔法でこの私に!!」』
と、高速移動で化け物お姉さんがチェーンバインドから逃れようとした。正直、目の前の魔導士に見える状態で放って当たる技ではないことをユーノは重々承知していた、出来て相手との距離を作る程度だろう。
しかし結果は違っていた。
『「え……?」』
チェーンバインドは化け物お姉さんの両手足を拘束した挙げ句に、その手足を引き千切ってしまっていた。
呆気に取られて眺める僕の目の前でチェーンバインドは勝手に化け物お姉さんを解体していく。
『「な!?なによ!?いやっっ!やめて!?!いやよ!?!やめて!!!?!お願いだから!!もうしないから!?!もうやめてあああああああああ!!!!?!!!!」』
ぶちぶち、ごりごり、ばきんばきん、と金属と繊維の束が力任せに千切れる音が周囲に響いていた。まるで虫を子供が千切って遊んでいるかのような光景だった。
いや、眺めてる場合じゃない。
あわやチェーンバインドが化け物お姉さんの首を千切る寸前というところで解除した。ひしゃげて千切れた手足が地面に落下し、お姉さんの胴体と頭からは吐瀉物のように赤い何かが漏れだしていた。
『「やだぁ……、ごめんなさいぃぃぃ、もうしませんから許してくださいぃぃぃ……」』
咽び鳴くような声がそこから聞こえていた。流石に僕をぶん殴ってきた奴だから、こうなっても仕方ない気はするが、あまりにも可哀想でならなかったので、初歩的な回復魔法であるフィジカルヒールをかけてあげた。
擦り傷やら、切り傷、体表面の外傷を治す魔法だ。たまに飛行失敗して地面に激突していたなのはにかけてやっていた物なのだが。恐ろしいことに化け物お姉さんにかけたところ、普通に"生身"のお姉さんが出てきてしまった。
しかも裸である、裸。いや!だめだ!なのはに申し訳ない気がする!静まれ我がエクスカリバーガラティーンよ!
ていうか、金属の化け物から、生身の、裸の、しかもかなりの美人なお姉さんが出てきたのだろう。フィジカルヒールかけた瞬間に千切れた胴体と頭から飛び出してきたのだ、何が何だかわけわからん。
「へっ?ナニこれ?え、君何したの?」
「知りません!!知りませんから何か服着て下さいね!じゃっ!!!」
スタコラサッサー!と裸一貫のお姉さんの横をすり抜けて行く。本当に僕の身体はどうなってしまったのだろうか。
「うるとらハッピーだなぁ!!こっちから一方的にぶちこむだけ!やりたい放題!やふー!」
ズガスガと山へと撃ち込む桜萪。それを横目に山がこれでもかと変形していくのを飛ばしたドローンで確認する赤城と流。
「あー、桜萪は一方的だとちょっと性格変わるなぁ」
「騒がしいですね、こっちは眠気眼で頑張ってるというのに、zzz」
「寝るなって!でも感触的に相手には当たってないからこいつはただの時間稼ぎにしかなってねぇよ!ただ撃ってるだけ!」
「……当たってないってどうしてわかるんだ?」
「音聞けばわかるし、空気も変わる、それに金属片が飛び散ってるのが"見えない"、この射角から撃ち込んでるのに相手の破片が飛び散らないのは絶対ありえない」
「桜萪、お前……考えて撃ってたのか……」
「何の考えもなく撃ってると思ってたのか!?嘘だろ!?」
「いや、ぽこじゃか撃ってたし、てっきりテキトーに撃ってるものと思ってたよ」
「日頃のおこないですねー、zzz」
「寝るなし!」
そう、桜萪が流の頭を叩いた瞬間だった。真横のに立っていた家が粉々に吹き飛んだのだ。パラパラと木材の破片が降る中、3人は顔を見合わせる。
「向こうが撃ってきやがったぞ!」
「な、完全に封じれるように断続的に包囲射撃して狙いなんて定められるはずないのに!」
「桜萪、お前ホントに見た目と行動が中身に則してないな!!」
「なんでここで俺をディスるんだよ!!」
「あ、また何か飛んでき」
流が言葉を言い終わる前にもう一発が吹き飛んだ家の向かい側に直撃した。今度はさきほどとは比べ物にならないほどの威力であり、爆発で巻き上げられた土砂が3人を圧死させるレベルで降ってきたのだ。
「シルバーミョルニル…!」
『防ぐぜぇ!グラビティウォール!』
反重力の壁が高町家の真上に展開し、土砂を吹き飛ばす。強力な防壁ではあるが、先程の攻撃を防ぐには圧倒的に魔力が足りなかった。
「よくやった流!」
「直撃は防げません、どうせ次は当ててくるでしょう、ねぇ桜萪?」
「そうだよ!だから逃げた方が良いと思うんだけどなぁ!先生!」
「いや、無理だな……」
「なんで?!」
「最初の一発が着弾した辺りから何かしらの魔力波が出てる、そいつは俺らに当たって跳ね返ってる、まるで音響センサーだ、リコンみたいなもんだ、逃げても次は当てられる……!」
「だったら………!!」
桜萪はイクスアーベントを立て膝の態勢で構え直す。それは連続での精密射撃を行うことが出来る態勢であり、かつ絶対に回避はしないという意思の現れだった。
「"弾き"落とす!」
信じられない言葉だった。赤城は管理局でかなりの経験を積んだ男であり、修羅場等いくらでも潜ってきた。しかし、目の前の齢14程度の男子が"飛んでくる砲弾をこっちの攻撃で落とす"と宣言したのだ。
流石にそんな言葉を聞いたのは初めてだった。
「正気か?!音速超えてマッハ数十で飛んでくるもんだぞ?アホか!」
「正気で本気っ!だから先生は下の京介を確保してくれ!しくじっても死ぬのは俺と流だけだからな!」
「……巻き込まれてるんですけど、帰りたい」
「うっさい!早く前方に薄く広く3層に分けて重力場を展開!」
「張れるけど、そんなんじゃ防げないよ?」
「んなもん合点承知よ!」
あー、わかりましたー。と流は半分諦めながら前方に巨大な重力場を展開した。その横で桜萪は替えの弾倉をイクスアーベントに装填する。
直後、重力場に何かがぶつかる音と"発砲音"が同時に鳴り響き、桜萪達の前方200m地点の家が粉々に吹き飛んだ。
それを見て赤城と流は桜萪が重力場に砲弾が当たった瞬間に位置を特定、同時に発砲、そして弾丸を相手の砲弾の真芯に"ズラして直撃"させて真下に落としたのだと、理解した。
正気の沙汰ではないほどの技量だった。
「よしっ一発目!続けて来るぞ!流!重力場の補修!先生は京介を確保して!」
「早撃ち狙撃とかアホか……、超能力かよ」
「ダッシュ!!はやく!」
そんなことを言い合っている間にも間髪入れずに砲弾が彼等に雨のように降り注いでいた。
桜萪は歯噛みしつつも口元は歪んで笑っていた。それが恐怖から来るものなのか、緊張と集中の極限によって産まれた"狂気"なのか、本人さえわからなかった。
しかし、相手を倒す算段は彼の中で確立されていた。こっちが死ぬかもしれないような危険な綱渡りのような算段だとしてもだ。飛んでくる何発もの砲弾が自身を粉々にする可能性さえ孕んでいた。
あの一発を防いだ後、相手は確実に仕留めに掛かる為に即座に射撃してきた。それも複数だ。確実に当てるのではなく、絨毯爆撃に近い、こっちを衝撃波で自分達ごと更地にするつもりなのだ。
なんて豪快で合理的、そして浅はかだ。
その連続射撃で自分達の位置を教えてるような物だ、それに相手は桜萪にとって最も挑んではいけない勝負に出たのだ。臨むべきではなかった"土俵"は確実に存在する。
「"射撃"で俺を打ち負かそうだなんて何万年も早ぇんだよなぁ!!!オイィっ!!!」
虚空の彼方に見定めた照準に向かって正確無比な三連続射撃(バーストショット)。
初弾は流の重力場に当たった直後に内部に凍結させ超圧縮させていたガソリンを空中に散布した。重力場による加圧と射撃時の熱による瞬間的な解凍からの沸騰は、ガソリンに対して恐るべき速度を付与し、一瞬で200mほどにその微粒子を撒き散らした。
そして次弾はその手前で炸裂し、超効率的に気化させたガソリンに火を点けた。圧縮し凍結させたガソリンの量はおおよそ100L、最高率で炸裂した場合、その威力は軍用の爆薬にだって比毛を取らない。
その爆発による衝撃波は飛来する砲弾を反らすには充分過ぎる威力であり。そして最後の一発を再加速させるには過剰であった。
最も重くした最後の一発の重さは100㎏ほど、イクスアーベントの身体強化と流の重力アシストが無ければ人が扱える代物ではなかった。
それがイクスアーベントによる最大加速で射出され、重力場で再加速し、爆発による三次加速によって驚異的な速度を得たのだ。
山の地形を変え、相手を吹き飛ばすには充分過ぎるほどの威力であった。
「シャァ!!オラァ!!見たかおらぁ!!!かかってこんかいおぼああああ!!!!?!」
「あぁ!?、反らした砲弾で飛散した瓦礫が桜萪に!!!?」
「ここで死ぬとは何事かー、復活の呪文ってありましたっけ?」
詰めが甘い桜萪だった。
接近戦の方が書きやすいね!