僕と先生は寮を出て、学校の敷地を出た。
本来ならこんな時間に敷地の外を出歩くのは問題なのだが、教師or保護者同伴ならいいということらしく、今回は先生がいるので学園をぐるりと囲む壁付近に所々いる警備員の騎士さんに門を通してもらえた。
この学園の周囲は実はまだ何も知らない。
僕の実家が学園付近から遠いのが主な理由だけど、まだ入学してほんとにすぐなので新鮮味があって正直楽しい。
ただ、4回目の人生の時は食欲の神がついている人と2人で冒険者をやっていたせいか、夜特有のワクワク感というのが薄れているのがちょっと寂しくはある。
冒険者の中でもその国のトップクラスの実力を持つパーティーだったせいか、夜行性の無駄に強い魔物とか暗殺だとかの依頼が多く回ってきて、基本昼夜逆転生活だったことが悔やまれる。
そうこうしているうちに飲み屋街にでもついたのか、夜なのに明るく騒がしく、さらに酒臭い場所を通っていた。
ところどころよって寝ちゃってる人がいるので正直気になるのだが、先生は無視してガンガン進むので僕も先生に手を引かれてガンガン進んでいく。
『ねぇテス、この辺やけに魔力濃度高くない?』
あるタイミングでミスリルが声をかけてきたことで気づいた。
確かにここは城壁内にしてはやけに魔力濃度が高い。まぁ、壁の外に比べればほとんどないも同然だが、濃いことには濃い。
魔力にとことん耐性がない人はここを通ると普通に体調不良を訴え出しそうなぐらいだった。
『ねぇミスリル。なんでこんなに魔力濃度が高いのかわかる?』
『うーん、近づいてみないとわかんないけど、ところどころやけに魔力が濃い家みたいな場所があるし、多分普段じゃ取引されないような魔力を多く含んだ物品を取り扱ってるお店とかかな?』
そう言われて少し注意して魔力を読み取ってみると、確かにたまーに魔力が濃い家がある。
路地裏からさっきいくつか地下へと続くであろう道も見えたから、裏取引でもされてたのかもしれない。
やっぱりこういう時ミスリルは便r…じゃなくて頼りになるな。
『おいこらテス、なにアルティメット美少女女神ミスリルちゃんを便利道具扱いしてんだ???』
『気のせい気のせい。ミスリルは大切な家族だよ』
『家族どころか常時一体化してるけどね』
『まぁ、僕の魂とミスリルの魂が混ざり合ってるわけだしね…』
さっきからずっと路地裏を歩いていて景色が大して変わらないので興味をなくし、こんなしょうもないやり取りをしていると、先生が不意に足を止めた。
「ここだ。ここで少し買いものをしてから帰るぞ」
こう言って先生の視線の先にあるのは、明らかに怪しげな地下へと続く道だった。
『あれ?たしか先生の師匠に渡すお土産みたいな感じで何か食べ物買ってくんじゃなかったっけ?』
『ボクもそう言ってた気が済んだけど、なんかこの地下道進むにつれどんどん魔力濃度が高くなってる気がするよ』
『なんだ、そんな気がしてたのは僕だけじゃなかったんだ…』
『いや、気のせいじゃないけども……』
そういってもう一度今歩いているあからさまに怪しい地下道を先生に釣られて歩いていく。
そして、少ししたところで、これまたとにかく怪しげな錆びた重々しい鉄の扉が現れた。
そこをなんの躊躇もなく先生が開き、怪しい扉の先には無駄におしゃれな内装にとてつもなく怪しいものがたくさん並べられた棚となんかイケオジがいた。
イケオジはおしゃれな机の上でうつらうつらしていたが、こちらに気づくなり少し真面目な顔になった。
「勝利の女神様がガキをこさえたのか?」
「殺すぞ。というかどうすれば数ヶ月で6歳の子供を妊娠から出産したのち成長させたという気だ?」
「そりゃあ、勝利の女神様のお師匠様ならできるだろ」
「………できるけど」
先生が少し悔しそうに小声で肯定すると、イケオジは「ほぅらやっぱりぃ!」といってほんとに無駄にいい笑顔を浮かべながら先生を煽り倒す。
先生のブチギレ出る声が、聞こえないようにしてるはずなのに聞こえてきているように感じてしまう。そのレベルで隣で手を繋いでるだけで先生の怒りがひしひしと伝わってきた。
そして先生がいつのまにか僕を手を離していて、かと思えばいつとまにか目の前で先生を煽っていたイケオジが先生に殴り飛ばされて壁に顔から刺さっていた。
正直、状況を理解した瞬間通報するべきか悩んだ。だって明らかに人死んでるし。
そう思っていたら、壁から頭を引っこ抜いて血まみれで明らかに頭がかち割れている状態で「いたいなぁ」と言いながら立っているイケオジが現れた。
状況が理解できずにいると、先生が先ほどの誤解を訂正し出した。
「まず、だ。こいつは私がこさえた子ではない。というかなんなら私はこいつと子をこさえたい」
「ほぇー、勝利の女神様がここまでショタコンだったなんて知れ渡ったら株が落ちそうだねぇ」
誤解しか招かない先生の発言を聞いたイケオジはさらに煽ったせいでまたも壁に頭から突き刺さった。
そして当然のように抜け出して頭を修復していた。
流石に理解できない状況に質問をしようと口をひらこうとするとイケオジが自己紹介を始めた。
「どーもどーも、おじさんは0173番だよ。僕はなんて名前なんだい?」
「あっ、えっと僕はテス・バークソンっていいます」
一瞬、告げられた名に驚いたが、なんとか普通に返事を返せたと思う。
ただ、どうやらこの動揺は悟られていたらしく、イケオジが説明をしてくれた。
「いやぁ、驚く気持ちもよくわかるよ。おじさんはある滅んだ国生まれの実験用ホムンクルスで、自己再生能力に特化したホムンクルスの最初で最後の成功作さ」
「そ、そうなんですね。だから傷の治りが早いんですね。えっと、0173番さん」
「あぁ、ごめんね。名前呼びづらいでしょ。おじさんは173の語呂合わせからきたイナミって名乗ってるから、そう呼んでくれていいよ」
「わかりました。よろしくお願いしますね、イナミさん」
「うんうん、こちらこそよろしく」
そう言ってニコニコしているイナミさん。
ただ、イナミさんが言っている滅んだ国について、思い出したことがあった。
『滅んだ国って確か5回目の時に近くを通ったあの防衛用の機械人形たちが近づいただけで殺しにかかってきたとこだよね?』
『あっ、そうだそこだ。でも、あそこって確か新しい国ができ始めてなかったっけ?』
『ボクの記憶違いじゃなければそうだよ。でも、このおじさんの口ぶりじゃ知らないっぽいし、先生もなんとも思ってなさそうだし、結局また滅んだのか、ただ知られてないのか、どっちにせよ今はどうでもいいか』
『気になったら先生に聞いてみるよ』
ミスリルと会話していると、どうやら先生とイナミさんが話しているので聞き身を立ててみる。
内容はどうやら、ここで保存のきくちょっと高いけどおいしい栄養食を買うらしい。
ほんとにそんなもんでいいのか?とは思ったは思ったけど、その栄養食のお金はいらないから代わりに依頼を受けることになる方向で話は進んでいる。
そして、その依頼の内容は
「隣の国を超えた先の、ウルク帝国の跡地、あそこの近くにある墓にやけにアンデットどもが集まってるらしい。あの辺は魔力濃度は薄いし大した強さの敵もいない。例の学生でも連れて行ってみたらどうだい?期限は1ヶ月で。どうだい?受けてくれるかい?勝利の女神様」
というものだった。
ウルク帝国…僕の最初の人生の生まれた国。今は滅んで、瓦礫しかないけど。その近くの墓場は…僕と昔の弟子、アイシスが眠っている可能性が最も高い墓地。
2000年近く後悔してきた、世界で一番大切だった弟子との約束を守れなかったこと。アイシスの死体や墓がもうなくなっていても、アンデットになっていても、きちんと謝りたかった。ようやく謝ることができると思うと、目頭が熱くなる。
会えると決まったわけでもないのに。
ただ、先生はその依頼を受けてくれるようで、首を縦に振っていた。
本当に、チャンスがやってきた。
2000年の後悔と向き合おう。そう覚悟を決めて、先生に連れられまた店を出た。