先生が真面目な顔つきになり、また一口カフェオレを飲み、一呼吸置いてから話し始めた。
「お前は、力を操ると言ったな」
「まぁ、そうですね」
「それは、どこまで操れる?」
どこか冷たく、睨むような目でこちらを見つめる先生に、少し気圧される。
多分だけど、先生はこの力の大きさに気づいてるんだと思う。
実際に僕の全盛期なら
だからいくら勝利の女神と呼ばれる先生といえどそこまで強くなってしまった僕が先生やこの国に牙を向けたとき、初見での攻略は厳しい。
それを見越した上で、僕の力を知り、僕が強くなってもなお抑えられるよう対策を練るためのこの質問なんだろう。
ただ、いくら僕の全盛期とて勝利という概念に関する権能を持ったアリスの力を使われると勝利するのはまず無理だ。
ただ、どれだけの被害が出るのかわからないから、被害を抑えるためにも聞いてきている。
そこまではわかったと同時に、先生が飛び抜けて強いと見込んだ生徒を直接監視するのはそのためなんだと気づいた。
だったら答えないわけにはいかないので、できる限り全て正確に応えることに決めた。
「それは、どういう意味で言ってます?」
「…質問の仕方が悪かったな。なら、こう聞けばいいか?」
そう言って先生はもう一度鋭い視線を僕に向け、口を開いた。
「魔法なら誰が出したものであろうと、どんな威力のものであろうと、自在に操れるのか?」
「それは部分的に違います」
「ほう、それはどういう?」
「魔法なら誰が出したものでも操れますが、威力は制限があります。生まれたばかりなら初級魔法すら制御できません。そして、今でもアシューの全力の炎は自分に当たらないようにするのが精一杯です」
「なるほど…これはレイラから聞いたんだがお前の力は体内にあるものを操れないと聞いたんだが、ほんとか?」
「それは間違いありません。僕は肉体内にある力を操ることはできませんし、肉体に直接働く力も操れません。肉体外ならただ垂れ流しただけの魔力でも自在に操れます。しかし、自分の体内の力なら操れるし、自分の体が一部分でも相手の体内に入れば相手の体も自分の体と同じ判定になり力を操れます」
「わかった」
そこまでいうと、先生はどこからかメモ帳を取り出し一つ一つ丁寧にメモしていった。
そして、また一口カフェオレを飲んで少し黙り込み、メモを見ながら熟考し始めた。
僕は先生の考え事が終わるまでミルクティーを飲んだりボーッと先生を眺めたりして時間を潰した。
ミスリルやアリスがワンチャン話し相手になってくれないかと思って話しかけてみたが、反応はなかった。
そして、相手の体内に自分の一部を入れるで思い出したけど、昔患者の口に指を入れて、患者の免疫力とかをいじって病気や怪我を治してたことがあったのを思い出した。
あれは力の大きさの増減をさせるのでまだできないけど、ある程度したらもう一度使えそうだなと今改めて思った。
そこで先生が考え事が終わったのか、こちらをまた睨むように見つめながら話し始めた。
「お前の力は概念系には基本効かないのか?」
「いいえ、基本効きます」
「ということは私では勝てないか?」
「いいえ、この力は思考や心、記憶を捻じ曲げることなどには有効です。ただ、勝利や死などの結果を捻じ曲げることには一切通用しないので、先生1人で僕は潰せます」
「そうか…では、お前の今の限界と全盛期の限界を教えてほしい」
「限界…まず、威力にもよりますがその辺の魔法使いが使うくらいの上級魔法なら基本完全に操作できますし形やサイズを変えたり、圧縮させたり拡散させたりすることもできます。少し無理をすることになりますが、トーナメントでエリーが放った巨大な竜巻を消した技は一応使えます。ただ、今せき止めている力が溢れるようになってしまって制御が効かなくなるかもなのであまり大きい技の消去や連発はできません。これが今の限界です」
ここで一呼吸おき、ミルクティーを飲む。
温かかったミルクティーは夜の少し冷たい風で冷めてしまっていたが、美味しいのでここのマスターさんの腕前がすごいというどうでもいいことに気づいた。
「全盛期の限界は?」
「まず、力の大きさ形、移動速度もなんでも好きなように変えられます。見た目はそのままだけど途中から威力だけ変えることもできます。力を消すのも肉体関連以外は無制限です。他にも力をその場で固定することもできます。そして、大気だろうが重力だろうが操れます。ただ、概念は無理です。あと、重力といっても肉体に働くものは無理です。あくまで肉体に直接働かない力しか操れないんで。全力を出した場合どの程度できるかというと、多分1人で大陸を平野に変えれます」
「そこまでか…」
先生の顔に不安の色が現れる。
もしかして、本気で僕が先生たちに牙を剥くと思っているのだろうか?
「先生。外れてたらあれですけど…僕は先生たちに牙を剥くことはないと思いますよ。といっても僕も先生も、なんならこの世界のもの全てが未来を見ることを許されてないんですし、なんの保証にもなりませんが」
「分かってはいる…というより私としてはその力でこの国の兵になり戦争に行く時どれほど敵に被害が出るのか知っておきたかっただけだ」
そう先生が真面目な顔で僕にいってきて、僕は死ぬほど恥ずかしくなった。
だって割とキメ顔で先生と敵対することなんてないとかいっときながら最初から全部予想が外れてるとか死ぬほど恥ずかしいし仕方ないでしょ。
ただ、それでも先生の不安の色は消えてなかった。
だから、僕はいくら見当違いだったとしても先生たちを裏切らないようにしようと心に誓った。
そして、しばらくすると先生が「そろそろ帰るぞ」といってもカフェオレを飲み干し席をたった。
僕も慌ててミルクティーを飲み干し席を立った。
それからは先生にまた手を引かれながら寮まで歩いて帰り、そこから寝る支度をして早くに眠った。