目が覚めたのは、まだ日が登っていない時間だった。
寮から出ていいのは日が登ってからなので少し時間を潰すことにした。
といっても、ろうそくに魔法で火を灯してその日の大きさを変えたり向きを変えたりすることから初めて、相反之力で消したりもう一度火をつけたりをすばやく繰り返したり。
ただ、あんまり続けると暴走しかねないので十数回したらやめておいた。
次は水を出すだけの水魔法を出し、動物や魚の形に変えたりしてできるだけ細やかに再現しようと努めることにより、実戦でより繊細な技を使えるようにするためのたまにやる遊びみたいな修行をする。
ただ、忠実に再現した上で動かそうとするのは流石に無理で、形を維持するので一杯一杯だった。
それからしばらくして、集中力が切れてきたタイミングで水を相反之力で消してから窓の外を見た。
いつのまにか朝日が昇っていて、窓を開けると涼しい風が入ってきた。
『うーん。なんかいいねこういう爽やかな朝』
『確かにいいかもね。朝日を眺めながら風にあたるのは…なーんか趣があるというかなんというかって感じだね』
そんな特に意味があるわけでもないしょうもない会話をミスリルとするのも楽しくて、幸せだと心から感じる。
テスになるまではほとんどずっと戦いしかない気が抜けないことばっかりだったからか、こういう小さなことで幸せを感じられる自分がよくわかんないけど成長したように感じた。
結局そのままミスリルと話しながら風をボーッと受けていると、横の部屋の窓からひょっこり顔が出てきた。
「おはようテス。いきなり体だけ大人と同じくらいにされるってなって怖くて眠れなかったりしなかったかい?」
「なに?朝っぱらから僕に喧嘩売る気?トーナメントで手も足も出なかったあのアシューくんが?」
「せっかくボクが心配してあげたのに、可愛くないね〜テスは」
そういって揶揄うようにニヤニヤ笑いながら僕を見つめてくるアシューにため息をつきたくなった。
ただ、見た目だけなら美少年とも美少女とも取れる見た目で、6歳のくせに身長も155はあるだろう。
身長は竜族の血が濃いからでかいらしいけど、羨ましいもんは羨ましい。
「うっさい。というか、今日は『ボク』なんだ?」
「おや?気づいたかい?そうさ、今日のボクは『私』じゃなくて『ボク』なのさ!」
そういってすぐにアシューは自分の部屋の方に引っ込んでいって、程なくして「今日もいろんな子を捕まえるぞー!」という叫び声が聞こえてきだ。
僕はそんな声に若干引きつつもちゃっちゃと着替えを済ませ、昨日事前に先生に説明された持ち物だけカバンに入れて寮を出ようとする。
寮の玄関の扉をいざ開けようとすると「ちょっとまてぇー!」と叫びながら後ろからソフィアがが飛びついてきた。
そしてそのままどこぞのピカチ◯ウのように肩に乗ってくる。
「おはようソフィア。荷物はどうしたの?」
「おう!おはよう!オイラは猫だから荷物なんてものはないぞ」
「なんならソフィアが僕の荷物かな?」
「まぁそういうことだな」
そういってソフィア欠伸をひとつしてから僕の方から降りてカバンの中に入っていった。
そのまま寮を出て、すぐのところに先生とエリー、キール、そしてものすごく眠そうなレイラがいた。
「おはようテスぅ…」
「おはよう。なんかすっごく眠そうだね」
「眠ぃよぉ〜…いやいつも眠いけど」
そういって僕よりも高い身長を利用して僕の頭に顎を乗せてのしかかってくるレイラと挨拶をしたら、エリーとキールがハモりながら挨拶をしてきた。
その挨拶にも普通に返して、そのタイミングで寮からアシューも出てきた。
ここは特に制服の指定がないため服装は自由だからか、アシューが気合の入ったちょっとチャラそうなイケメンになって出てきた。
これで全員揃ったので、出発するだろう、そう思った次の瞬間には視界の先には途方もないほど大量の本に埋め尽くされて、高さも十数メートルはあるくらいの大きさの本棚が先が見えないくらい遠くまで続いている、訳がわからない場所にいた。
転移をさせられたのはわかるが、ここがどこなのか全くわからない。
あたり一面が本で、天井と思しきガラスのドームからは早朝じゃありえない角度から太陽の日差しが降り注いでいる。
空中には1人でに浮いて移動していたりしている本が目に映る範囲で数百冊。
その浮いている本のひとつひとつの周りからは微かに魔力は感じるが、本当に微量で、この程度の魔力じゃこの物によっては10センチ近くある分厚い本は動かせないので魔力の隠蔽もしていると思われる。
そして、恐ろしいのはそれだけの量の本を同時に動かせる魔力量と技術、そしてそれぞれに意識を割きながらなお何かを描き続けている、大量の本棚の中に1つポツンとある机にいる1人の女性だった。
「おはようございます。師匠。本日は———「そういうのいいから、早くその手土産を頂戴」———わかりました」
先生が師匠と呼んだ女性は、先生の手にある昨日僕と買いに行った手土産を転移させて自分の手元に置いた。
中を見て、どこか満足そうに頷いた後、常に動き続けていた手がようやく止まり、先生の師匠がこちらを向いた。