ちょっと性格の悪い魔術師が「記憶消去魔術」を使えたら   作:ジョク・カノサ

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狂言回し

 メルクーア内大通り、昼前。

 

「すみません店主さん。こちらの豆を二袋お願いします」

 

「あいよ。嬢ちゃんら旅人だろ? こっちのチーズもどうだ? 長持ちするぜ」

 

「うーん……合わせてこれくらい、でどうしょう?」

 

「おお、絶妙だな。粘る気にもならねえや。良しそれで手を打とう。──また何かあったら来てくれよ! 今度はそっちの嬢ちゃんの声も聞いてみてえからな!」

 

 店主の快活な声が辺りに響いた。一方は愛想の良い笑顔を浮かべ、一方は歯切りの悪い表情で──ミカエルとヘレンはその露店の前から歩き去って行く。

 

「割の良い買い物でしたね。日持ちする食糧はいくらあっても困りませんから」

 

「そ、そうですね……」

 

「……ヘレン殿」

 

「はい?」

 

「もう少し普通に振舞えませんか?」

 

「……!」

 

 無関係な旅人を装った情報収集。始まってまだ間もないにも関わらず、ヘレンの様子はミカエルの目に余っていた。

 

「ボロが出るくらいなら無口で。ウィンザー殿はああ言っていましたが、今の目的を考えると多少は愛想を振りまいた方が良いでしょう」

 

「愛想、ってどうやれば良いんでしょうか。……す、すみません。私、知らない人との会話とか買い物とか全然やったことがなくて、普通っていうのがなんなのか」

 

「相手の目を見て、口角を上げて笑顔で、明朗に言葉を発する。重要なのはこれくらいで難しいことは特にしてません」

 

「相手の目を見て笑顔で……こ、こんな感じですか」

 

「……無口で人見知りな妹とそれを引っ張る姉。そのイメージでいきましょう」

 

「あ……はい」

 

 落ち込むような仕草を見せるヘレンを横目にミカエルは大通りに並ぶ露店の一つへと進路を決める。簡素なテントの下に初老の店主が座り、その前に数々の装飾品と粗雑な値札が並べられていた。

 

「こんにちは。これ、店主さんの手作りですか?」

 

「おう、良く出来てるだろ。形の良さじゃ金持ちどもが付けてるようなのにも張り合えると思わないか?」

 

「思いますね。木製なのも安っぽいというよりむしろ味が出てると思います」

 

「分かってるなあアンタ! 俺ぁよお、なんでもかんでも高くて貴重なら偉い! ってのはおかしな事だと思うんだよ。だからここに来てなあ──」

 

 長々と話し始めた店主に対しミカエルは笑顔を崩さない。適宜相槌を打ち、相手が求める返答を正確に導き出す。店主はあっという間に上機嫌になっていた。

 

「そうですよねえ……ところで、気になっていたんですがこれは宝石ですか?」

 

「ん? ああ、それはなあ、アンタなんだと思う?」

 

 ミカエルが指差したのは独特な黒味を持つ宝石のような物体のペンダントだった。

 

「アンタら旅人だろう。なら分からなくて当然だ。これは魔獣のツメなんだな」

 

「ツメ、ですか」

 

「おう! 俺らの手にも生えてるツメだ。ここら辺は魔獣が良く出てきてなあ、死体を素材にすることも良くあるんだが、そん中でも数が多い魔魅(まみ)って呼ばれてるヤツのツメを加工したらそうなるんだ」

 

「へえ……」

 

「ここらの細工師ならみんな使ってる素材でな、こいつを見りゃそいつの下手くそ加減が一目で分かる」

 

「店主さんは一流だと」

 

「おうよ! こんな仕上がりはほか行っても見れないぞ。買っとかないか?」

 

「そうしたいのはやまやまなんですが……他のものと比べて値段が高くないですか?」

 

「ああ、それはだなあ……少し前からちょっと()()()()()になってきてよう」

 

 直近であった都市に関わる何らかの変化。それを示す店主が切り出した話題にミカエルは内心で身構える。

 

「ここら辺は魔獣が良く出るって言ったろ? だからそういう時に外に出て戦ってくれる腕っぷしがここには居るんだよ。前まではそいつらが倒した魔獣の素材が市場に卸されて沢山並んでたんだが、ここんところその数が減る一方でなあ」

 

「だから素材も高騰、それを使った商品も値上げせざるをえないという事ですか」

 

「そうなんだよ! 少し前まで簡単に手に入れられたもんが高くて貴重なもんになっちまった。本当ならもっと安く売ってやりたいんだが……」

 

「ちなみに、卸される素材の数が減った理由というのは分かってるんですか?」

 

「ああそれは……なんだったかな? なんとかっちゅう連中が変な道具を使って魔獣を追っ払い始めたのが理由だって聞いたなあ。追っ払ったら死体は残らないだろ? そのせいなんだとよ」

 

「なるほど。──面白いお話、ありがとうございました。お礼も込めてこれを買わせていただきます」

 

「おおホントか! すまねえなあ……」

 

 そうしてミカエルは話を切り上げ、件のペンダントを購入しヘレンを連れてその店を後にした。手を大きく振る店主に対し、後ろ向きににこやかな笑顔を返す。対照的に横を歩くヘレンは緊張したような面持ちだった。

 

「ミカエルさん、今のって」

 

「もう少し色々な人から話を聞いてみるべきでしょうね」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「確かにそういう話も聞くな。まあ俺は牛の世話が仕事だから良く分かんねえけど」

 

「ああそうだよ! アイツらのせいで商売上がったりだ! 魔獣の素材ってのは俺みたいな商売人の生命線なんだよ! くそっ、ファミリーのヤツらも余所者に好き勝手許して、何してんだか……」

 

「とても助かってますよ。行商の身からすると魔獣と盗賊、特に前者はこの辺りではよくあることですから。彼らのお陰で前よりもこの辺りは安全になっていますし、外に出る際も彼らに護衛を頼むとファミリーの傭兵よりも遥かに安上がりなんですよね。ファミリーの皆さんには昔から世話になっているので少し、心苦しいですが」

 

「魔獣の被害が減ってるのは良い事だと思うよ。でも知り合いの商売人は苦労してるみたいだね。彼らはファミリーともよく揉めてるらしいし、そのせいか最近は荒れてる人を良くみかけるなあ。それにしても変な名前だよね、どういう意味なんだろう? タイヨウの集いって」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「現時点で分かったのはこんな感じですか。彼らは何らかの道具を用いてこの都市を襲う魔獣を追い払っている。そして、それが原因かこの都市に身を置くファミリーと呼ばれる集団との関係はあまり良くない」

 

 二人は中央の広場に場所を移し、そこに生えた一本の木の下で身を休めていた。思案するミカエルの呟きに対し、ヘレンは困惑したような表情だった。

 

「あの、全然悪い事をしてる人達じゃなくないですか……?」

 

「それは考え方次第でしょうね。その行動の意図や道具の出所はともかく、彼らの行動を歓迎する人と否定する人、あとは特に関心を持っていない人。私達が話を聞いた限りでも三つのスタンスが確認出来た。その内の否定する人にとって彼らの行動は間違いなく余計で迷惑なものなのでしょうから」

 

「……」

 

「まあ、結論を出すには早いでしょう。ファミリーと呼ばれる集団の詳細もそうですし、まだまだ情報収集を続けるべきです。今度は大通りから少し外れた場所に行ってみましょうか」

 

「あ、はい」

 

 ヘレンを連れて再びミカエルは歩き始める。平時のような薄い笑み。しかしその内では確かな懸念が広がっていた。

 

(ヘレン殿の言う事もあながち間違いではない。少なくとも魔獣を追い払うという行為そのものを悪と断じるには無理がある。そして彼らの行動を受け入れ歓迎する者は恐らく少数ではない。……貴方は言いましたよね、奴らはこの都市にある程度は溶け込んでいると見るのが自然だ、と)

 

敵の正体とそれを踏まえた自分達の目的。その遂行に関する懸念だった。

 

(魔王討伐……ここでのそれをどう成し遂げるのか、そしてどうすれば成し遂げた事になるのか。貴方はどのような答えを出すのでしょうか)

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