Reinkarnation & Abenteuer【完結】   作:吾妻原昌孝

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お待たせしました。
特訓回です。


第2話 Asketisch

 バルジャマンは、悩んでいた。

 今の自分が受けることのできる依頼が、あまりにも少なすぎると言うことに。具体例を挙げると、「自宅の近くに急に生えた大木を爆破伐採」、「渓谷に落ちた数十人の手荷物を全て回収」、「洞窟を塞ぐ大岩を爆破」、などである。当然、危険であればあるほど報酬は高くなる。しかし、現在のバルジャマンでは、せいぜい「自宅の庭の雑草を殲滅」くらいしかこなせない。報酬は、安い。最低報酬は10メルで、これは、う〇〇棒に似た菓子である「デリシャスティック」しか買うことができない。一方、危険度の高く、かつ高等技術が要求されるような依頼では、報酬は最大で1000000000メルとなっている。これは、一等地10000㎡を購入してなおお釣りが来るほどの額である。

 今のバルジャマンは、はっきり言って雑魚だ。下級魔法すら使えず、未熟者未満である。

 前世において、つまりバルジャマンが南来細異であった頃は、バリバリのキャリア街道を歩んでいた。無論、そこまでに艱難辛苦があったのは確かだ。だが、だからこそ、楽に出世し、安泰の人生を送ろうと考えていた。それは、バルジャマンになっても同じこと。つまり、

「学校に通いたいんですよ」

 というわけである。この世界の常識など、学ばねばならないことはたくさんある。しかし、

「あなたの年齢じゃ無理ですね」

 と、ジョゼフィーヌに否定されてしまった。聞くところによると、レーンドラ連邦には、義務教育しか存在しないという。9年の義務教育を経て、働きに出る。これが常識であるという。そして、義務教育を受けられるのは、6歳から15歳まで。バルジャマンは17歳。

「畜生め・・・」

 公共の場で叫ばなかっただけ、彼は理性を保っていたといえる。

 そこに、ジョゼフィーヌが、

「そもそも、何故学校に通いたいんですか?」

 と訊いてきた。

「え? いや、そりゃあ、だって仕事を楽に進めるには学校で学ばなきゃ」

 と答えたが、

「いや、17歳ならもう既に修了してるはずですが・・・・」

 と反論され、グゥの音も出なかった。グゥとは言ったが。

「楽に、ということは、高等技術を身につけたい、ということでいいんですね? 魔法を使える人なら、一番引く手数多ですが・・・」

「えぇ、まぁ・・・」

 放心状態になったバルジャマン。目論見が失敗したので、当然といえば当然である・・・わけがあるのだろうか。

 見かねたジョゼフィーヌは、

「でしたら、修行に行ってみてはどうでしょう」

 と言った。

「修行?」

 現代人にとってすれば、あまり聞き馴染みのない言葉である。・・・サブカルチャーを除けば。

「ラーダイカより西、レクの街をさらに超えたツイナ国との国境にあたる『コプトー山脈』があります。ここは、駆け出しの冒険者がよく修行に使う場所ですから、最適ですよ」

「コプトー山脈?」

「はい。この山脈は、比較的安全で、なおかつ適度な危険を持っていることから、駆け出しには大人気なんです」

「そうなんですか」

「そうです」

 ジョゼフィーヌは、目を細めた。

「ただし、生きて帰ってこれない場合もごく稀にありますが、当方は一切の責任を負いかねます」

 どえらいことを付け加えるために。

「は、はい・・・。死なない程度にガンバリマス・・・」

 バルジャマンは、語尾がカタコトになるくらいの衝撃を受けた。

 

***

 

 コプトー山脈に最も近い位置にある都市、レクは、ラーダイカからおよそ7キロの場所にある。レーンドラ連邦において、主な移動手段は鉄道であ理、最高時速はまだ20キロ程度である。蒸気機関車に揺られながら、およそ20分の旅路を楽しむことになる。

 だが、バルジャマンの目的は、ぶらり鉄道車窓の旅ではない。

「ここから歩いておよそ50分、っと」

 終点のレクで降りて、さらに4キロ。のんびり歩けば、およそ50分で到着の予定である。

 道中は、石造りの建物が多く存在していた。どの建物も二階建てで、屋根は三角。三角屋根には、よくわからないが何かしら宗教的な意味を持つかもしれない紋様が描かれていた。その模様は千差万別。のちに判ったことだが、この紋様は、日本でいうところの家紋であるらしい。レクがミズイルに組み込まれる前から、具体的には700年以上は続く、この都市独自の伝統だという。現地語で、この紋様を「家族紋章(ファミュルタトゥー)」と言うのは、余談である。また、中心部には、異彩を放つ、石造りの大きな箱のような建造物も見られた。家族紋章は、描かれていなかった。

 歩き続けてちょうど50分後。

「やっと、着いた・・・」

 すっかり疲労困憊である。

「ちくせう、こんなにキツイとは・・・。いや、前世の通勤ラッシュもキツかったけど、それ以上に」

 思わず、こんなことをぼやくくらいには。

 眼前に広がるは、富士山に匹敵、いや、それ以上に高そうに見える山々。ヒマラヤ山脈を、行ったことはないものの、思わず幻視してしまうほどである。

「・・・これに登るの?」

 その通りである。頭では理解していても、心が拒絶する。人間誰しも、そう言うことがあるだろう。それを、バルジャマンはリアルタイムで体感していた。

「ここで修行しなければ、俺は高報酬の仕事ができないからな・・・。やるしかないか」

 そう言って、バルジャマンは登山を始めた。

 コプトー山脈は、標高4000m。その4分の1はなだらかだが、残りはとても険しい。何の装備もない状態では自殺行為でしかないのだが、バルジャマンは裸一貫。装備らしい装備といえば、シャツとズボン、そして靴だけ。彼曰く、修行は己の身一つで行うものだと言うことらしい。一応、魔導書、最低限の調理器具や着替えは所持しているが、それでも心許ない。

 では、彼の登山の様子を見ていこう。

 4分の1までは、順調に歩いていた。傾斜はなだらかで、あまり危険な生物も、植物も存在していない。

 だが。

 4分の1を超えたあたりから、雲行きが怪しくなる。

「ぜぇぇぇ、はぁぁぁ」

 呼吸が、乱れてきたのである。

 これは、「霊山病(マウンティン・ハイゴースト)」によるものである。霊山病とは、我々の世界における高山病と似て非なるものである。そもそも、この世界の大気の構成、特徴は、現実世界──我々や、バルジャマンの前世と同じである。そして、霊山病は、コプトー山脈固有のものである。

 霊山病の症状は、主に二つ。呼吸困難と強烈な吐き気である。そして、発症の条件は、「コプトー山脈に初めて登り、且つ一定の高度に達した全ての人間」である。二度目を発症する確率は、限りなく0に近い。言うなれば、これは、コプトー山脈からの「第一の試練」もしくは「修行その一」である。

「これを乗り越えなければ、力を手にすることなどまかりならん」

 まるで、山がそう言っているように、バルジャマンには思えた。それは、ひょっとすると幻聴だったのかもしれない。

 そう思った次の瞬間。

「ん? ・・・ぐぅ? ゴハッ」

 突然、嘔吐した。そう、先述した、霊山病第二の症状である。

 それでも、バルジャマンは登り続ける。

 全ては、報酬の良い依頼を受け、楽に生活するために。

 

***

 

 約三日後。

「つ! い! た! ぞ!」

 ついに、バルジャマンは、筆舌に尽くしがたい艱難辛苦を乗り越え、コプトー山脈の頂上に辿り着いた。

 具体的には、数歩歩くごとに霊山病の影響で吐きそうになったり、少々危険な野生動物に追い回されたり、急斜面をロッククライミングしたり、と言ったことを、バルジャマンは乗り越えた。

 だが、これで終わりでは、もちろんない。

 バルジャマンは、修行のために、コプトー山脈を登ったのだ。

「それじゃあ、えー、まずは、だ」

 そう言って、荷物から広げたのは、薄手のマットである。

 そして、徐に、シャツを脱ぎ始めた。ことわっておくが、彼は露出狂ではないし、変態でも、ましてやホモォ・・・でもない。単純に、修行といえば、上裸の男がシックスパックや上腕二頭筋を晒しつつ、汗を飛ばしながら行うものであるという価値観からである。ただし、現在のバルジャマンは、シックスパックではない。

 マットの上に、バルジャマンはうつ伏せに倒れた。いや、言葉は正確に使わねばなるまい。肩幅ほどの距離をあけて、マットに両手をつけた。そして、

「いーっちッ! にーいッ! さぁーんッ!」

 腕立て伏せを始めた。その回数、なんと百回。あまり、この手の運動をしてきたわけではなく、しかも、、登山終了直後なので、息も絶え絶えになるのだが、そんなことにかまいもせず、

「よっしゃあ次ッ!」

 今度は背筋を始めた。同じく、百回。

 それが終わると、今度は腹筋を、やはり百回。累計三百回。

 補強運動を終わらせると、直後に、バルジャマンは、

「ば、ばたんきゅ〜〜〜」

 と、ぶっ倒れてしまった。

 流石に、限界が来てしまったのである。肉体的な、限界が。

 結局、この日は、そのまま、気絶するように眠りについて終わった。

 

***

 

 三ヶ月後。

「・・・ふぅ」

 バルジャマンは、成長した。毎日百回ずつ、腕立て・背筋・腹筋をし、その上に五kmのランニング。それが終わったら、魔導書を読んで魔法を覚える。これを、三ヶ月間ずっと続けたのである。その結果、バルジャマンは、ボディビル大会に出場しても違和感がないような筋肉と、大抵の下級・中級魔法、そして飛行魔法を覚えることに成功した。

「・・・そろそろ、帰るか」

 そう呟き、荷物をまとめる。

 周りには、動物の骨や植物の葉が転がっている。バルジャマンは、この三ヶ月、自給自足生活を行っていた。そう、少々危険な野生動物や、近くの川に生息している魚を狩り、食べられそうな野草を摘み、焼いて食べていたのである。どうやって、野生動物を狩ったのかというと、罠を仕掛けたのである。落とし穴を掘り、底には木の枝で作った槍を大量に刺しておく。こうすることで、肉をゲットしたのである。

 骨は、燃やさなかった。事前に仕入れておいた情報に、「少々危険な野生動物の骨は、生活必需品や工芸品の材料になり、そこそこの値段で売れる」と書いてあったからである(ただし、魚は除く)。

 荷物をまとめたバルジャマンは、

「"飛翔(アイキャンフライ)"」

 と呟き、飛行魔法を使用する。これが、バルジャマンなりの魔法の使い方なのである。

 そうして、飛行すること三十分。バルジャマンは、ラーダイカに帰還した。

「ただいまラーダイカッ!」

 久しぶりのラーダイカに感極まったバルジャマンは、思わずそう叫んだ。




いかがでしたか?
特訓回と言っておきながら、肝心の特訓シーンを描いてないのはどう言うことじゃゴラと思われるかもしれません。その補完は、いつか、必ず行うことを約束します。
ぜひ、感想・批評をよろしくお願いします。
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