Reinkarnation & Abenteuer【完結】 作:吾妻原昌孝
号外
ラーダイカの
先日よりラーダイカを震撼させる殺人鬼、霧裂きヒッシュが、なんと仲間会合の面々を惨殺した。
奇跡的に生存できたのは、たった一人であり、その彼は仇を討つことを誓っている。
ヒッシュとは、・・・
「・・・自分たちがやられたとしたら、同じことは言えないだろうに」
新聞を読んだシオンが言った。この時代には、すでに活版印刷や安価な製紙法が確立されている。
「確かに、そうですね。それはそうなんですが・・・」
バルジャマンも、それに同調する。だが、その表情は、到底、好意的とはいえない。なぜなら───
「あなたはいつ、うちから出てってくれるんですかねぇ!?」
シオンが、バルジャマンの家に居座り続けているからである。この家は、ヒッシュ襲撃の一週間前に購入したマイホームである。面積は15坪、およそ50平米の、四階建。かなり快適な生活ができる家である。
シオンが、なぜバルジャマンの家に居候しているのか。その理由は、少し前に遡る。
***
二十日前・教会
「ヒッシュ。アルベルト・ハーミリオン・ヒッシュ。神代より生きる、厄災の化身さ」
「・・・は?」
バルジャマンは、唖然とした。
これは、中二病の戯言だ。そう思おうとすらした。
だってそうだろう。突然、厄災の化身と言われたのだから。
「うむ、バンよ。気持ちは分からんでもないが、事実なんだ」
「そうは言われましても・・・」
「証拠があれば信じるか?」
シオンに訊かれ、
「ええ、そりゃ、まぁ・・・」
そう答えた。
「では、見せてやろう」
そういうと、シオンは、自らの腕を切り落とした。
「・・・は?」
どくどくと、血がこぼれ落ちる。
バルジャマンは、トラウマを──自らが死亡した時の感覚を思い出しそうになった。
だが、そうはならなかった。
腕を切り落としてからちょうど二秒後。ビデオを逆再生するかのように、こぼれ落ちた血が血管に戻り、落ちた腕が引っ張られるかのように下の位置に戻った。
三秒(合計五秒)後、シオンの腕は、完全に元通りになった。
「はぇ〜〜〜」
「それは感心なのか?」
「わからない」
バルジャマンは、呆気に取られた。それはそうだろう、急に現実味のない光景を見せられたのだから(異世界転生して魔法も使っておいて今更何を言っているんだという話ではあるが)。
「まぁ、少なくとも、俺が普通の人間では無いことは理解してもらえただろう」
「そりゃあ、はい。こんなもの見せられたんですから」
「それに関しては、本当にすまないと思っている」
「断面えぐかったですもん。トラウマになるかと思いましたよ」
「うむ、実際、本部の死体を見てしまっているからな。デリカシーのないことをしてしまったと反省している」
「それじゃないんですけどね」
「?」
「こっちの話です」
バルジャマンのトラウマとは、前世で死亡したことである。肉を食べられないということはないが、惨殺死体を目撃したり、人間の肉体の一部が欠損している姿を見ると、フラッシュバックを起こしてしまうのだ。無論、シオンは、そんなことは知らないので、彼のトラウマを、大量の惨殺死体を目撃したことだと思っている。
「──まあ、あなたが普通の人間じゃなことはわかりました。で、ヒッシュについて。厄災の化身って、どういう・・・」
バルジャマンは訊く。
「奴は、世界に破滅──いや、死を齎そうとする存在だ。私は奴を、殺したいと考えている。世界を破滅させるわけにはいかんからな。だが、奴は死なないのだ」
「ほぇ?」
「死に近い状態にすることはできるのだが、完全に殺し切るには、それこそ神の力でも使わない限り不可能だ」
「ふむふむ」
バルジャマンは、相槌を打つ。これは、前世からの癖である。
講演会などで、質問する機会がある。彼は、その時に、積極的に挙手をするタイプであった。そして、質問の答えを、熱心にメモしていた。
この場にメモ用紙はないので、「私はちゃんと話を聞いていますよ」という合図を出しているのだ。
「しかし、だ。今から二五〇年ほど前のことだ。我が友リリーゼは、その命と引き換えに、ヒッシュを界狭に封じ込めたのだ」
「カイキョー? それって、海の間の?」
「違う。いや、認識としてはあっているのか。いいか、わかりやすく簡単に説明しよう。
───
「というと?」
「たとえば、私が女の世界。バンがもっと年上だった世界。ヒッシュが存在しない世界。───リリーゼが死ななかった世界。そういった、可能性の世界が、この世界の外側にはたくさんある。だが、その世界へ行くことは、基本不可能だ。それこそ、『神』とやらの力でも働かん限りはな。その原因となる、つまり世界と世界を隔てる壁が、界狭というわけだ」
「ふむふむ」
「だが、リリーゼは、存在の全てを焼却することによって、界狭に一瞬だけ穴を開けることに成功した。そこに、ヒッシュを叩き込んだのだ」
「でも、ヒッシュは・・・」
「そう、この世界に再び現れた」
「どうして・・・」
「不完全だったんだよ」
「?」
「界狭に封じ続けるには、エネルギーが必要だ。魔法で火を起こす時に、少し疲れるだろう? それは、魔法を使うのに体内のエネルギーが必要だからだ」
「・・・つまり、ヒッシュを封じ続けるだけのエネルギーが途絶えた、だからヒッシュが現れた・・・ってことですか?」
シオンは、「その通り」というように人差し指を立てた。
「そう。不完全だったのは、そこ、エネルギーなんだ」
「どういうことです?」
「君は、補給もなしに魔法を使い続けていられるかい?」
「いえ、無理です」
「つまりはそういうことだ。外部からエネルギーを得る手段を、あいつは確保していなかったんだ」
「だから、封印が解けた・・・!」
しかし、バルジャマンは、ある疑問を抱いた。
「でも、そういうのって、もっと早くに気づけるんじゃ・・・」
すると、シオンは、気まずそうに目を逸らした。
「それは言わないでくれ・・・。あの時は、本当に大変だったんだよ・・・。もうみんな『ヒッシュを封印できればそれでヨシ!』だったんだよ・・・」
「お、おう・・・」
シオンの愚痴は続く。
「そもそもあの時は本当に人類存続の危機だったんだよ。ヒッシュは世界中を殺し回っていたからね。足取りを掴むにも一苦労。しかも、たどり着いたと思ったらすでにもぬけの殻だったこともザラにあったし、目の前で大量虐殺なんてのももはや日常茶飯事。むしろどうして人類が生き延びたのかが不思議だよ。厄災の化身とかなんとか大層な肩書きしやがって、こちとらの身にもなってくれっってんだよ。ああもうほんとにブツクサブツクサ・・・・・・」
「あ、あのー? 大丈夫ですか?」
放っておくと、シオンの愚痴は永遠に続いてしまいそうな勢いだった。
バルジャマンは、
「すみません。ちょっと痛いですよ!」
と、シオンの腹をブン殴った。
「グブォファッ!? ・・・すまない、取り乱していた」
「いえいえ、構いませんよ」
「それで、どこまで話したっけか」
シオンは、バルジャマンに訊く。
「エネルギーを得る手段を確保していなかったってところですね」
「ありがとう。確保していないと言ったが、それは少し、いやかなり正確とは言い難い。言葉は正確に使わないとな。正確には、不可能なんだ、そんなことは」
「どういうことです?」
「簡単にいうと、無限にあると思われるエネルギーも、いつかは尽きるということだ」
「いや、解んないですって」
「そうか?」
「そうですよ」
シオンは、頭をポリポリと掻く。伝えたいことをうまく伝えられず、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
だが、数秒の思考を経て、思考を言語化することができたようである。
「えーとつまりだな、補給なしにエネルギーを使い続けると、いずれ尽きてしまうだろう?」
「ええ」
「だが、補給するにも、補給物資だって有限だ」
「・・・そうか!」
「解ってくれたみたいだな」
読者諸君は、永久機関というものをご存知だろうか。
永久機関とは、一度エネルギーを与えて仕舞えば、永遠に動き続けるとされる機構のことである。
だが、現実において、永久機関は実現不可能とされている。それはなぜか?
それは、軸を使用するものであるなら、軸との摩擦が発生するし、電気を利用するものであれば、電線内で電気抵抗が発生し、循環するであろうエネルギーの一部が熱となって外部に放出されてしまうからである。
今回のケース、つまり永遠にヒッシュを界狭に封じ込めることが不可能であったというのも、この永久機関に通じる。
つまり、封印に必要なエネルギーは、界狭に向けて流される。そのエネルギーは、界狭で堰き止められるわけではなく、界狭の向こう側で霧散する。そして、封印に必要なエネルギーは、バルジャマンの世界からしか補充できない。だが、そのエネルギーは、当然、世界の中でも消費され、循環する。いわば、封印のために、世界のエネルギーの一部を着服もしくはピンハネしているというわけだ。
初めのうちは、まだ賄えていた。だが、年月が経つにつれて、ごまかしが効かなくなった。仲間会合の腕利でなければ解決できない依頼──近年稀に見る以上成長を起こした雑草駆除や、異常に不作な不毛の大地の開墾などだ──が増加していたのも、エネルギーのピンハネの誤魔化しが効かなくなったせいである。不謹慎な例えではあるが、言って仕舞えば、会社の資金を少しづつ横領して行った結果、いつの間にか倒産しかねない額になっていた、というようなものである。
「それで、シオンさん」
「なんだね、少年よ」
バルジャマンは訊く。今後、シオンはどうするのか。そして、何か手伝えることはないかと。
シオンは、こう答えた。
「そうだな。当面は、ヒッシュを
「ええ、言いました」
「なんでも聞いてくれるのか?」
「ええ、そりゃまあ。命の恩人ですし」
すると、シオンは、鋭く目を細めた。
「言質はとったぞ」
その言葉に、バルジャマンは、ゾワリ、と鳥肌を立てた。
「もしかして、いやらしいことするつもりですか? いや、そうに違いない。ネットで見たんだ、こうやって言質をとってくるやつはそういうアレなやつだって! 乱暴する気でしょう! エロ同人みたいに!」
「君は一体何を言っているんだ。私に、男色の気はないぞ。頼みたいことというのはだな」
「な、なんでしょう・・・」
ゴクリ、と、緊張からか、バルジャマンは唾を飲む。
「住まいが欲しい」
「はい?」
「実は今までずっと野宿をしていたんだ。年数に直すと、七五〇年くらいか。慣れれば楽しいものではあるが、やはりまともな、雨風を凌げる場所で寝たい。だから、住まいが欲しい」
***
現在・バルジャマン宅
「別にいいじゃないか。人生の半分にも満たないんだ」
シオンは、あっけらかんとそう言った。
「確かに、自称大英雄リリーゼ・ルグンシの仲間で八百年近く生きてきたあなたにとってはそうでしょうねぇ。ですがねぇ! こちとらはまだ結婚もしてないんですよ! 家族でもない人間を、そうそう長く居候させていられますか!」
「なんとも心の狭い男だな」
確かに、心が狭い。某青い猫型ロボットだって、家族同然とはいえど元は他人・・・他ロボット? である。
「・・・まあそれはいいでしょう。で、ヒッシュを殺す方法、何か分かったんですか?」
シオンの目が細くなる。当然、笑みを浮かべたわけではない。
「それについてだがな。まだ、確証を得られたわけではないが、これだろうというものはある」
「それは?」
「いわく、『厄災には命がない』、『死に引き摺り込む』ということだ」
「なるほど、解らんですな」
「だが、これが手掛かりになることは間違いない」
こうして、バルジャマンは、全く予期していなかった、「霧裂きヒッシュの討伐」に巻き込まれることになったのである。
いかがでしたか?
長く時間をとった癖に、内容が薄いと思われるかもしれません。
今回を以て、今作は折り返しを迎えたと言って過言ではないでしょう。
aventure、つまり冒険も、次回から始まる予定です。
感想を、よろしくお願いします。