艦これ(妖精さん入り) 人類は衰退しました 作:筆折ルマンド
…時系列がバラバラすぎて短編集ですねコレ
カリカリとペンが走る音だけが響く静かな執務室。
窓の向こう、華やかに飾り付けられた大通りを歩く多くの人が見えました。
子供連れの方も多く、軍人であるためなかなか普通の生活を直に見る機会の少ない私たちとしては、楽しげにアトラクションに乗り込んでいく光景は微笑ましく、その光景を守っていると思うと誇らしい気持ちになります。
……ですが、それはそれとして。
「提督、鎮守府をこんなに改造して良かったんでしょうか」
「軍属としては論外、学術的には有意義、個人的にはみんなが楽しそうだから良し。どっちにしたってもう誰も中止になんて出来ないんだ。構いやしないさ」
ソレが原因で大幅に増量された始末書を始めとする書類の山に埋もれながら、それでも提督は朗らかに答えました。
◇◇◇
戦時25年
人類は衰退しました。
海全域を活動範囲とする謎の敵性艦艇群『深海棲艦』の出現により海外との流通が遮断された日本は致命的な資源不足に陥りました。
大切なものは失って初めてその重要性に気づくと言いますが、日本も例に漏れず、高層ビルが林立したあの頃は遥か遠く、四半世紀の間に文明は昭和時代まで退化してしまいました。
建物は木造や煉瓦造りが主流となり、おかっぱヘアーや坊主頭が一般的な髪型になるぐらい流行も退化しております。
何でも無いある日の事、人々にとある噂が舞い込みました。
『近代的な遊園地が新設された』という情報でした。
噂の発信源は多く、遊園地に行った人自身やその話を聞いた人、何ならいつの間にか出版社がこぞってその遊園地の情報を発信していました。
曰く、資料でしか見たことがないようなアトラクションが目白押しであると。
長大でウォータースライダーに近い一方通行式ローラーコースターを初め、
様々なデザインの車が用意されたゴーカート。
人の身長ぐらいのビル街。(等身大のジオラマですね)
ロケットの形をした灯台。
パステルカラーでメルヘンチックな露店の数々。
メリーゴーランドにコーヒーカップ。
安全性を意識しつつ遊園地として一通りのツボを抑え、何より新築であるため圧倒的にピカピカなこの遊園地は瞬く間に人気となり、人々の噂の種となりました。
真相を言ってしまうと、それは妖精さんの手によって魔改造された鎮守府の事でした。
そう、私たちの鎮守府です。
元々は開戦初期に破壊された漁港を改修した小規模基地の予定だったのですが、私たちの提督は妖精さんたちをやる気にさせるのがとても上手で、妖精さんたちはあれよあれよと言う間に山ほど無駄な構造物を作りながらも立派な鎮守府を作り上げてしまいました。
竣工祝賀会に民間の方を招いた際にその
幸か不幸かこれが空前絶後の超大受け。
……娯楽、無いですもんね。
妖精さんたちも人々の称賛の声でモチベーションが青天井。
鎮守府そっちのけでレクリエーションゾーンを増築していった結果、もはや鎮守府である事が二の次となり、鎮守府付き遊園地の名声を確立してしまいました。
元々遊園地として建設された訳ではないのですが、図らずもそうなってしまったという事です。恐ろしい事ですね。
ノリと勢いさえ有ればおよそ不可能など存在しない妖精さんの面目躍如とでも言っておきましょう。
何はともあれ、今や軍主導(?)半民営遊園地は連日大盛況。
朝の開園時間から夕方の閉園時間まで沢山の人がひしめいています。
ピンポンパンポーン
夕方の遊園地にアナウンスが流れました。
『まもなく艦娘の皆さんが海上護衛任務より帰投します。ご来場のお客様はぜひ1番ドッグ横の観覧席よりお迎えしてあげてください』
パンポンピンポーン
いわゆるパレード的な出し物の連絡でした。
パレードと違う点を言うなら、帰投する艦娘たちは本当に護衛任務後である事ぐらいでしょうか。
ゾロゾロと人波が動きます。
彼らの手に握られているのは実生活ではとんとお世話にならないであろう望遠鏡。売店でそこそこいい値段のする品ですが、非日常の高揚感は恐ろしく皆々様の財布の紐はゆるゆるでした。
◇◇◇
一方、遠く海上、お迎えされる側。
「むかえなくていいってのー!!」
無線から拾ったアナウンスにその今から帰る水雷戦隊旗艦の曙ちゃんが不満の声をあげました。
生真面目な彼女としては、某マスコットのパレードと同じ扱いで人の注目を浴びるのが嫌なのでしょう。
「曙ちゃん、そんな事言っちゃダメだよ。みんな私たちを応援してくれてるんだから」
「応援じゃなくて、完全に見せ物でしょ! 人の仕事を見て何が楽しいっての!?」
「なんかスゲー! って思えれば十分なんじゃないかー」
「江風の言う通り、ボクたちは毎日人が来るから見慣れているけど、見る側からすれば海沿いの街に住んでる人でもないと艦娘の姿は見れないからね。珍しいのさ」
「だからって、こっちの都合も考えてほしいわ。少なくともわざわざアナウンスするような事でもないでしょ」
「てんぷれですな」「てーけーぶんてきな」「あるしゅのでんとうげいのう」「ほうれんそうはしごとのきほん」
妖精さんたち的には遊園地のお約束との事。
「軍人の仕事がパレードのキャストでたまるかっ!」
「たまにやりますが?」「しいこうい」「りろせいぜん」「ぐんのれんどをみせつけるです?」
やりますね。行軍パレード。
市街地行軍訓練と言って夜中から朝方まで艤装を付けたまま6時間歩かされた事もあります。
「末端鎮守府でやる必要は無いでしょうが!」
それもそうですが。
「お喋りはやめた方がいいんじゃない? 灯台も見えたしそろそろ望遠鏡で見られるよ」
川内さんがたしなめてお喋りは打ち切りになりました。
「陣形変更、梯形陣」
斜めに並ぶ
もっとも、戦艦は戦闘機ほど小回りが効かず回避運動の際に斜め前後の味方艦が猛烈に邪魔になるので、もっぱら観艦式など非戦闘用の陣形ですが。
港に入った水雷戦隊のみんなが笑顔で手を振ると観客席からが歓声上がります。
艦娘は総じて眉目秀麗であるため、ちょっと気取った動作も様になるからズルいですね。
ちょっとサービスの悪い曙ちゃんですが、日本人の感性は大変大らかであるため『逆にそれが良い!』と言う層が一定数存在する事を彼女は知りません。
◇◇◇
立派な扉
お菓子の甘い香り
ここは鎮守府本館の執務室。
肩を怒らせた曙ちゃんが乱暴に扉を開けました。
「クソ提督!」
ズンズンズンと
拳を振りかぶり
「ああ、曙おかえ……」
優雅に立ちながらコーヒーブレイクに興じていた提督に
ドン
と曙ちゃんの拳が刺さりました。
衝撃が見えるような腰の入った鮮やかなボディブローでした。
「り゛ぃ」
完璧に入ったボディブローは直接の痛みもさることながら、食らった後に焦げた煮物のような不味い物を食べた後特有の本能的にえずく感覚までも味わえてしまいます。
一撃で2度辛い。恐ろしい技です。
「ん゛、ずいぶんな……挨拶だな。曙」
一瞬くの字に折れ曲がった提督ですがすぐさま体勢を立て直しました。
悶絶級のパンチを受けながらも生きた受け答えが出来るのは、海軍士官学校の教育の賜物。一海軍基地の長として配属されるだけあって、提督さんは相応に耐久性が高いのです。
そもそも一連のやり取りも曙さんが出撃した際の恒例行事みたいなものですから、提督さんも慣れているのでしょう。
「いつまであの遊園地続けるつもりなの!? 止めるって言ってたわよね!」
「止めるとは言ってない。絶対に。だが、入場料金を取るようにしたから来客数は減ると予想していたんだ」
「あ・き・ら・か・に! 増えてるんだけど!?」
「……お金を払ってでも来たいほどウチの遊園地は素晴らしかった。と言う事だ」
希少価値、または更に値上げする前に行っておこうという心理が働いていると推測されます。
「しょーにんよっきゅーみたされるー」「われわれてんさいでは?」「もちべあがってとまらん」「そうさくいよくががんがんがーん」
提督の言葉を聞いて執務室に潜んでいた妖精が躍り出て踊っています。
この調子だと明日にもアトラクションが2つぐらい増えててもおかしくありませんね。
「加減しなさいって」
「そうさくにかげんなどありませぬな」「やりたいことやったもんがちですから」「それがせいしゅん」
「あー、もういいわ。軍の資材に手をつけなければあたしも何も言わない」
反省も自重も知らない妖精さんに理解ある曙ちゃんは匙を投げ捨てました。
「すまない、お詫びと言っては何だがお菓子食べるか?」
「……食べる」
「潮も、一緒にどうだろうか?」
「じゃあ、ご相伴に預かりますね」
◇◇◇
今の娯楽は電気を使わないものが主流です。
コマとかヨーヨーとかケン玉とか。流行の循環はこの世の常です。
大きな催しは年に数度開催される地方自治体による文化保全的義務感に満ちたお祭りが結構な割合を占めています。
昭和時代並みに文明が退化した現日本において、生存に不要で電気を大量に必要とするような高度な娯楽施設など真っ先に切られてしまうのは言うまでもありません。
そんな中で万博顔負けのロケットやら等身大ジオラマやらくねくねくるくると手間のかかったローラーコースターなど、正に人類全盛期の科学的娯楽施設は今の人々にはそれはそれは斬新に映った事でしょう。
全盛期の遊園地のパレードには及ばないものの、艦娘の出入港も立派な見世物になるポテンシャルがあり、事実、望遠鏡も飛ぶように売れています。
「てーとくさん、ぽんぽんぺいんなかんじ?」「ぽんとういりますか」「はらきり」「はなばなしくちるがよい?」
「散らない散らない」
「それはよきかな」「ぽんぽんしてたらぽんがしたべたくなりました」「ないすあいであ」「のーべるしょうもんやで」
「提督はぽんぽん痛いからまた今度ね」
「またこんどっていつですか?」
「あー、機材が揃えばそのうちイベントにでもするかな」
「「「おー!」」」
「ではごじゅんびいりますな」「どーぐつくらねば」「せんにんまえもどんとこい」「はなびみたいなでっかいの」
「危ないから普通サイズで」
「あらー」「ばくはつはげいじゅつなのでは?」「だいはしょうをかねるといいますし」
「リスクリターンを考えるのが提督のお仕事です」
「「「あららー」」」
こうして提督と妖精さんは暇さえあれば次の催しのネタを練っています。
もっとも、提督には無限の始末書が待っているので、暇というより現実逃避と言った方が正しいかもしれませんが。
「そういえば曙、みんなに報告しないと行けない事があるんだが、伝えてくれないか」
「……何よ。良い報告しか聞きたくないんだけど」
「ははは、がっかりしろ悪い報告だ」
「帰る」
「待て待て待て、逃げた所で既に決定事項。これから起きる事だ。受け入れてくれ」
「嫌」
「嫌って言われてもなぁ」
「えっと、どう言った話なんですか?」
「ああ、潮、すまない。艦隊のみんなには潮から言ってもらえるか」
「はい、構いません」
「ありがとう。まずはこのチラシを見てくれ」
提督から渡されたチラシはこの鎮守府で大規模な演習が行われる事をお知らせする広告でした。
「これって?」
「見ての通り、海軍本部発行の広告だ」
提督がテーブルに両膝をついて手を組み、悪そうな顔をします。
「海軍もいよいよウチを利用する気になったらしい。来月の下旬、横須賀鎮守府と演習をする事になった。いわゆる着任記念演習という奴だな」
「鎮守府設立時の初期艦娘に話の種と艦娘の上澄みを体感させるための恒例行事……らしいですね」
「ああ、通例では横須賀に行ってやるんだが……今回はウチの正面海域で執り行うらしい。曙には悪いが、今までの比じゃないぐらい人が来ることになる」
イベント増量。
お客さん増えそうですね。
「はぁぁぁぁぁ!?」
「曙ちゃん、声大きいよ」