艦これ(妖精さん入り) 人類は衰退しました 作:筆折ルマンド
たぶん妖精さんがお菓子欲しさに並行世界から艦これしてる並行同位体の記憶を少年期の提督に突っ込んだのでしょう。
前略
生まれ変わったら人類が衰退していた。
◇◇◇
家の軒先、空は晴れ。
青色の割合が2割以上ならだいたい晴れ。
今の空は6割青なので、実に理想的な晴れ模様。
日陰からぼーっと空を眺める。
形を見出すにいい感じのサイズの雲が浮かんでいる。
ふわふわと流れとめどなく形を変える雲。
ほんの少し涼やかな春の風。
流れる雲を見て、次から次へと連想する。
アレは馬に似てるな。
コレは犬っぽい。
剣みたいな雲の先が膨らんでキリン。
心地よい風と共にゆったりとした時間を過ごす。
悪くない時間、むしろ好きな方だ。
「おぅい、拓馬ー、暇なら草むしり手伝ってけれぇ」
畑の方が爺ちゃんの声が聞こえた。
「はいよー」
起き上がり日陰から出る。
風は涼しいが、太陽はすこぶる眩しい。
牧歌的な風景。
一面に広がる青々とした畑。
畑に影を指すほど近くに朽ちたビル。
もはや舗装の術がなく、割れたままよりはまだマシという理由で粉砕されたアスファルトで出来た黒い砂利道。
それは他国との国交を断たれ食糧自給率を上げるため余儀なくされた開墾の結果。
俺の知る西暦2010年頃に遠く及ばないどころか退化した痕跡が如実に残るこの村に、俺は否応なしに文明の衰退を感じている。
◇◇◇
艦これ
海底より生まれ人類に牙をむく敵性艦艇群『深海棲艦』と呼ばれる異形の敵に唯一対抗できる存在は、在りし日の艦艇の魂をその身に宿す少女『艦娘』のみ。
彼女たちは海を取り戻すべく戦いを挑む。
学校の授業で何度も聞かされた話だ。
……あれぇ? 俺の知ってる艦これアニメは割とポップでイケイケだったような……。いや戦況そのものは割とシビアだったか?
ゲームの方はあんまり触ってなかったから深海棲艦の戦力が体感どれぐらいなのか分からない。
ただイベント海域の甲(最高難易度)は並大抵の戦力では太刀打ち出来ないと言う話はよく聞いていたから、ソレがデフォルトになってしまった世界なのかもしれない。
上澄みがなんとかギリギリで勝てる相手が跋扈する世界じゃ、大多数は敗北を喫して仕方がないのだろう。
そんな世界に生きてしまっている側とすればたまったもんじゃないが、生きているのだから仕方がない。
「拓馬ー休憩だー。お茶あんべー」
艦娘の皆さん頑張れ。俺は飯を作って応援してるから。
◇◇◇
砂利道を古ぼけた自転車が走る。
自転車をゆっくり漕いでいく。
爺ちゃんから草むしりの報酬で貰った配給券をポーチに入れて、いつもの場所を目指す。
半袖なので肌寒い。
『人類劣勢』とは言うものの、
身体の一部を失うほどの重症を負った艦娘に「死ぬまで戦え」などと言わず負傷兵として戦地から引き上げさせるだけのモラルは残っている。
まぁ、本当に軍の人員に余裕が無いので、人的資源の無駄遣いを極力避けるようになった結果とも言われているが。
そんな訳で、昔こそ立派なビルも建っていた町だったものの、現在なんの変哲もない農村であるウチの村にも退役艦娘が住んでいる。
いつもの場所。コンビニ跡地を改装した国営コンビニ「ヒノマルストア」
スーパーも宅配便も既に機能していないので、基本的に日用品以外の必要物資はヒノマルストア経由の注文が中心になっている。
そして退役艦娘の多くがこのコンビニで働いている。退役してなお成人男性をふた回りは上回る強靭な肉体を活かし人々を支える物資の門番を勤めているのだ。
ガラガラガラとガラス戸を開ける。
自動ドアなどもうこの世には無い。
「あら、いらっしゃい」
やや赤みがかった茶髪、ストレートのロングヘア
高校生から大学生ぐらいに見える顔立ち。
球磨型軽巡洋艦四番艦「大井」
棚に品物を並べながら挨拶。
「こんにちは」
黄色いコンテナボックスから石鹸やら洗剤やらを棚にあげる。
蛍光灯の光を反射して彼女の右手は銀色に鈍く光る。義手だ。
「今日はどんなお菓子を買いにきたの?」
俺は必需品以外は基本的にお菓子を買う。
自分の好みという訳ではない。嫌いではないけど。
理由は結構打算的だったりする。
「ちょっと待って、今聞いてみる」
腰のポーチの蓋を開ける。
ひとりでにシュッと配給券が飛び出して、次いで小さい手がポーチのヘリを掴む。三角帽子、小さい身体、パジャマのような服。
両手に配給券を掲げ待ち、雄々しく仁王立ちするメルヘンチックな小人。
・ワ・
俺は彼らのことを「妖精さん」と呼んでいる。
「サカモト、何か食べたいお菓子あるか?」
「ありますねー」
『妖精さん』
大きな帽子、エルフ耳、やや舌足らずの発音が特徴。
パジャマのような服を着た10cmほどのメルヘンチックな小人さん。
好きなものは「甘いお菓子」と「楽しい事」
苦手なものは「電磁波」
超常的な知能と技術力を持つが、気が向いた時しかその能力を発揮せず、基本的に文明の息吹の残る場所で極力目立たないように暮らしている。
大井さんの義手を作ったのも妖精さんだ。この義手はサイバーパンク的な神経接続の必要もなくただ装着するだけ小指の先まで自在に操れるのだが、意のままに動く原理は不明。動力も不明。とても軽くて頑丈だが材質も不明。俺の知ってる最先端技術の遥か先を行く謎技術の結晶である。
こんなオーバーテクノロジーの産物を日頃の感謝を込めて花束代わりにポンと渡された日は、余りの驚きに大井さんも目を白黒させていた。
妖精さん(固有名詞「サカモト」服が白と赤のツートンカラー。好奇心旺盛なファーストペンギン気質)は大井さんに配給券を差し出した。
「くっきーありますかー?」
「ごめんなさい、クッキーは仕入れられていないわ」
「ないですかー、そうですかー」
シュンと俯き配給券が垂れる。
そしてサカモトは俺の方を向いた。
「にんげんさん、コレおかえししますので、くっきーつくってくれませんか?」
まぁ、そうくるよな
「ごめん、前お菓子作った時に俺が使える分の砂糖も小麦粉も無くなっちまったんだ、本当にごめんな」
本当である
ガーン
・ワ・
一瞬の硬直ののちサカモトはうずくまってしまった。
本当に申し訳ない。
「たらいまわし、やっかいばらい」
妖精さんは悲しいと鬱のような状態になる。最悪の場合、消えてしまうので要注意。
「えっと、飴玉の詰め合わせならあるわよ?」
「せめてぱんけーきがよろしです……」
素朴な甘さが希望らしい。
「ごめんな、材料があれば作ってやれるんだけどさ」
「おかし、ざいりょうあればつくってくれますか?」
「そりゃもちろん、ただ今はほんとに無いから作れないんだ。ごめんな」
ひょこんとサカモトは顔を上げ
「わかりましたー」
たったったっと走り出し、そのままコンビニの外へ飛び出していってしまった。
サカモトの切り替えの速さに俺と大井さんは唖然。
「……はぁ、嫌われてなけりゃいいんですが」
「大丈夫じゃない? お菓子がもらえなさそうだから撤退しただけって感じよ。アレ」
「それはそれで傷つくんですが」
大井さんが俺を見つめる
「それにしても……」
「……なんすか」
「拓馬くんは妖精のみんなに随分と優しく接するのね。提督にでもなるつもり?」
『提督』艦娘を運用する海軍拠点「鎮守府」の指揮官のこと。もっとも、正式に提督と呼ばれるのは四大鎮守府の長、将校クラスだけで正式名称は「司令官」らしいが。
それはともかく、妖精を見れる事は鎮守府の提督になるにおいて有意な資質だ。
艦娘の船を模した装備「艤装」には砲塔や艦載機を操縦する「装備妖精」と呼称される小人が随伴している。彼女たちを認識できる事は艦娘のコンディションの正確な判断や、装備の疲弊具合を確認するのに極めて有効なのだ。
さらに新国家総動員法により指揮官としての資質に優れた人材は特異的に徴発しても良いという決まりがある。当然、俺も妖精さんが見える事が知られれば即刻ドナドナされて来週の今頃は海軍士官学校で缶詰になっている事だろう。
「提督なんてとんでもないっすよ。人の命なんて背負いたくない。俺はただ妖精さんに優しくしておけば、何かあった時に助けてもらえるかなー、って浅い考えしてるだけですって」
妖精さんがいる場所は物理法則が歪む。
分かりやすく言えば、「妖精さんのいる空間はギャグ時空になって人が死ななくなる」
ただしコレは妖精さんがいる(と認識できる状態である)事が条件であるため、妖精さんと仲良くないとこの補正は発動してくれないのだ。
それ故の餌付け、実に打算的である。
「……そう、了解したわ。そう言う事なら貴方が妖精たちを見れる事は黙っておいてあげる「ありが「ただし、私は黙っておくだけ。他の所からバレた時に擁護はしないわよ」
「わ、分かりました」
まぁ大井さんの所では前々から妖精さんとおしゃべりに興じている姿を何度も見られている。その上で大井さんが今まで海軍に俺のことを報告しないでくれていたのは、俺自身が立身出世にあまり興味がない人間である事を理解してくれていたからだろう。ありがたい。
結局、配給券では瓶詰めの飴玉を買った。
妖精さんたちはやっぱり甘いものが好きなので有ればあるだけ良い。あとビンは返却すると小銭がもらえて少しお得なのだ。
◇◇◇
次の日
早朝
不気味なほど快晴
「拓馬、拓馬、起きれ、おい拓馬、起きんか」
「ん、おぉ、爺ちゃん、なんだよ急に」
身体を強く揺さぶられ、意識が急速に浮上する。
「大井さんがウチの前に来とる。おっかねぇ顔してよぉ。お前何したんがぁ」
「いや、俺何もしてねぇって」
「いいから、ほら起きれ、大井さん待っとぅから」
「お、おおぅ爺ちゃん、そんなせかさなくても俺は逃げねぇって」
爺ちゃんに手を引かれるまま、寝起きのまま、訳もわからず玄関へ。
戸がガラリと開いて、鬼。
メラメラと立ち上る気炎が見えそうなほどお怒りの様子の大井さん
「貴方! いったい何をしたの!?」
「え? え? 何をしたっていや、何もしてないんですけど……?」
「じゃあこれは何!?」
大井さんが抱えているのは袋だ。巻かれた紅白の帯には「開業記念品」袋そのものには大きく小麦粉と書いてある。
「あ、小麦粉届いたんすね。そのうち買いに行きます」
「違うわよ! この小麦粉の上のところ、会社名!」
小麦粉、の上、の、会社名……「タクマ製菓」?
「……へんな名前っすね」
「貴方の名前でしょ!?」
「いや、ウチただの農家なんで」
「じゃあアレは何!?」
そうして大井さんはウチの畑の方を指差した。
ビルがある。
新品ピカピカ、ガラスの反射が眩しい白く輝くビルだ。
……あれ?
ウチの近くにあるビルは入り口がトラ柄テープでぐるぐる巻きでガラスも全部割れ切ったゾンビに襲われて10年経ちました! って感じの廃ビルのはずじゃ。
そしてその新築みたいなビルにはデカデカと「タクマ製菓」の看板が。
フラッシュバック
『わかりましたー』
アイデアロール
成功
あーなるほどー
「にんげんさんにんげんさん」
足元から声、下を向けばサカモトを筆頭に10人ほどの妖精さんの団体様
実に予想通りである。
「ざいりょうよういしました、おかしつくってくれますか?」
「おねがいー」「おかしー」「つくってー」
ワチャワチャ
・ワ・ ・ワ・ ・ワ・
真相を察した大井さんはさっきの形相から一変して俺を気の毒そうな目で見ている。
妖精さんはとてつもない科学力を持つが、料理を作るのは苦手だ。
あまりにも万能すぎて食べ物を元素比率から造らなければならないため、魔法じみた超科学力による誤魔化し抜きに普通の食べ物を作るのは難しいのだろう。
元素の粉だけ渡されて「牛肉のすきやき」を注文されても錬金術も無いのにできる訳ないだろ! って話だ。
……まぁ、逆に言えば
元の粉までなら作れる訳で。
『パンが無いなら小麦粉を作ればいいじゃない』
正解
ただここで正攻法に小麦やらサトウキビやら育てずに、直接製菓材料を錬成するのが妖精さんクオリティ
この小麦粉、材料何?
……本人たちも理解してないんだろうなぁ。
デンプンとタンパク質の混合物である事は確かなんだろうけど。
お菓子をおねだりする妖精さんたちは非常に愛らしい。
がしかし時と場合がある。
頭痛で頭を抑える俺の横で、大井さんも腕を組み片手でこめかみを抑えている。
「大井さん、俺、どうしたらいいですか?」
我ながら物凄い悲痛な声が喉から搾り出された。
大井さん、大きくため息をつく。
「私が貴方にしてあげられる事はたった一つ。妖精が見える事を隠していたことの釈明文の書き方を教える事だけ。でもその前にこの子たちにお菓子を作ってあげなさい」
「……うっす」
「「「わーい」」」
・ワ・ ・ワ・ ・ワ・
こうして妖精さんはおいしいお菓子をお腹いっぱい食べられたのでした。
めでたしめでたし。
『童話災害』
妖精さんや、それに類する存在、もしくは妖精の道具によって引き起こされるトラブルで、人間にまで影響が及ぶもの。ほとんどは一過性だが、安定して戻らないこともある。人的な被害には及ばないことが基本。
余談
後日、タクマ製菓開業記念品として村中にばら撒かれた「小麦粉」「砂糖」「マーガリン」の対処をめぐり警察が出動。元凶である俺はお縄を頂戴しそのまま海軍士官学校にドナドナされた。
残された製菓材料は危険性の有無の確認ののち、村民の強い要望によりそれぞれの家庭で消費されたらしい。
0-〇は前日譚シリーズになります。
海軍士官学校で敵地発破行軍訓練の爆弾が花火にすり替えられたり、雪山訓練で小隊ごと遭難して北海道で鮭取ったり
須賀提督と艦娘のみんなとの出会いとか