艦これ(妖精さん入り) 人類は衰退しました   作:筆折ルマンド

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時系列 いつ海3話Aパート


1944-終-2 海峡夜戦

 

 夜闇に紛れて第一遊撃部隊第三部隊(1YB3H)は進む。

 一路、敵深海棲艦本隊を目指して突き進む。

 

 山城の脳裏に演習の思い出が過ぎった。

 100機にも登る艦爆連合。

 装備も練度も不十分な防空は安易と抜かれてペンキまみれになるまで爆撃を浴びた。

 

 長距離から的確に砲撃を当ててくる航空巡洋艦。

 通信機越しに響く努力に裏打ちされた自慢げな高笑いが癇に障った。

 

 演習によってもたらされた教訓

『射程で上からぶん殴る』

 遮蔽物の無い海戦において最も効率的な戦術であった。

 

 射程圏外からの砲撃や艦爆の脅威は骨身に染みた。

 負けた後の山城は深海棲艦よりも煩いと皆んなから言われた。

 

 演習のたび、全員まとめて入渠させられ風呂場で反省会を開いた。

 

 殺し合いは「気合い」勝負だとよく言われるが、その上に技術を積んでこそ運に左右されない確実な勝利がある。

 1YB3Hは今まで気合いと慣れでこなしていた戦闘に、全力の研鑽によって短期間に技術を加えた。

 

 認めるのも癪だが、演習での敗北が1YB3Hの結束を強くしたのは山城も認めていた。

 

 たとえ深海棲艦相手でも戦艦同士なら扶桑、山城で五分以上に戦える。何隻居ようと負けない自信があった。

 

 だが、深海棲艦には戦艦以上の存在がいる。鬼はたまた姫級と呼ばれる深海棲艦だ。

 

 超大型深海棲艦である姫級の射程は通常の戦艦の射程を更に超える超長距離を誇る。すなわち山城たち戦艦ですら「射程で上から殴られる」側に回ると言う事。

 

 そのために視界の悪い『有効射程が縮まる』夜戦を挑む必要があった。

 

 見えなければ超長距離の砲撃に当たる事はまず無い。

 有効射程が縮まれば艦娘側の弾が届く範囲で戦闘が起きる。

 更に距離が縮まれば砲弾の距離減衰が減り実質的な威力が上昇する。

 ジャイアントキリングを狙うならば夜が良い。

 

 しかし、火力の増大効果は双方向。近距離だから火力が上がるのだから、敵の火力も上がって当然。

 

 故に夜戦はハイリスクハイリターン。

 だとしても挑むことに変わりはない。

 否応なしに敵は来る、護るためには勝たねばならぬ。

 ならば最も勝率の高い方法を選ぶしかなかった。

 

 ◇◇◇

 

「左舷前方から大型駆逐艦隊接近!」

 

「右舷前方からも別駆逐艦隊!」

 

「どちらが近いの!」

 

「左舷!」

 

「全艦増速! 左舷敵艦隊狙え! 狙う敵間違えるんじゃないわよ! 撃て!」

 

 轟!! 

 

 6隻の一角クジラのような深海棲艦に8隻の斉射が刺さる。

 誰がどこを狙うのかは事前に決めてある。分散された砲撃は均一に敵艦を叩き、一度の斉射で敵艦隊が一つ消えた。

 

「右舷敵艦隊より雷跡確認!」

 

「左舷に回り魚雷に対して直角に抜ける! 同時に右舷敵艦隊狙え! 狙いが合い次第撃って良し!」

 十字砲火は射撃戦術の基本。

 戦艦駆逐艦関係なく大火力を発揮する魚雷ならば尚のこと。

 しかし艦隊の処理が早すぎた。1YB3Hは包囲される前に囲いを破った。

 

 深海棲艦がどれだけ夜目が効くかは分からないが、結果としてはいまだ艦娘側が先手を取れていた。

 

 視覚的に敵が見えない事と、レーダー的に敵が居ると分かる事は別である。艦娘は小さすぎて搭載するレーダーの性能、精度が落ちている事は事実だが、そこに何かがある程度は分かる。

 何かがあるという事は敵深海棲艦が居るという事。敵が来ると分かっているなら見えた敵を即座に撃つ覚悟が出来るという事。

 不意を突かれないとはそれだけで十分なアドバンテージだった。

 

「左舷前方! 敵艦隊検知! どんどん近づいてくるわ!」

 

「時雨、山雲は周辺警戒を継続! 他の艦は再度砲撃戦に備えなさい!」

 

「敵艦隊視認! え、これ、せ、戦艦3重巡2!」

 

「右舷前方から再度敵大型駆逐艦多数!」

 

「出し惜しみしないわね」

 

「砲撃用意! 戦艦は後! 包囲網に穴を開ける! 右舷狙え! 撃て!」

 人の集中力には限界がある。

 死角からの攻撃は防ぎようがない。

『横っ面をぶん殴れ』

 演習から得た教訓は今も生きている。

 もっとも、この場合、横っ面をはり倒されそうになっているのは1YB3Hの方だが。

 

「山城、あの戦艦挙動がおかしい、どんどんこっちに近づいてくる」

 

「なんだか魚雷艇みたいな感じがします!」

 

「魚雷艇って、いったい」

 

 カッ! 

 っと強い光に山城たちが包まれた。

 戦艦3隻から光が照射されている。

 

「探照灯!? コイツら戦艦なのに使い捨ての探知機って訳!?」

 

「それだけ危険視されて良いんだが悪いんだか!」

 

「悪いに決まってる、で、しょうが!」

 

 戦艦ル級 

 小型であるほど魚に似た造形になる深海棲艦の中でほぼ人型。両手に砲台と一体化した身長と同サイズの盾を装備した堅牢な耐久性と直撃すれば一撃で大破まで持っていかれる火力を両立した危険な深海棲艦。

 

 それが3隻、揃いも揃って探照灯をギラつかせている。

 

 ココハ……トオレナイ……シ……。

 トオサナイ……ヨォォォォ!! 

 

「い、一時方向! 発砲炎!」

 

「この距離、鬼!」

 

 強力な深海棲艦の存在する海域は赤く染まる。

 闇に代わる紅色は全てを均一な赤に塗り潰し、光源として機能しないが、それでも巨大な何かが蠢いているのが分かった。

 

「全艦増速! 砲撃が来る! 最上! 姉様! 戦艦を黙らせる! 満潮! 駆逐隊は水を差させないで! 相互に見張り、雑魚を片付けて!」

 

「「了解!!」」

 

 1YB3Hが増速した分の後方に次々と数メートルの水柱が立つ。直撃すればひとたまりも無いのは明白だった。

 

 そこから先はもうメチャクチャだ。乱戦だ。

 馬鹿の一つ覚えのように距離を詰めてくる戦艦相手に砲撃されないようにわざと盾に砲撃を当てて砲塔を焼いた。

 探照灯の灯りを頼りに寄ってくる駆逐艦隊を5隻の駆逐艦が迎え撃つ。

 深海棲艦にもはや敵味方の区別はなく、遠距離から見境なしに砲雷撃を撃ち込んできて、艦娘側は敵を盾にするように立ち回った。

 ル級には背面の砲塔があるため盾の砲塔を潰した後は距離を開ける方が危険で、山城と扶桑は本格的に戦艦とのステゴロ格闘戦に突入した。

 近い方が敵本隊の砲撃の盾に出来る上、野放しにすれば背面砲で駆逐艦が狙われかねないからだ。

 

 もはやただ光る盾と化した戦艦ル級の両手盾をこじ開け山城がヤクザキックを叩き込む。

 舵の歯がザックリと食い込み痛々しく腹に切り込みが入るがル級はまだ倒れない。

 扶桑の砲撃が直後に飛来し、ル級の左の盾を吹き飛ばした。

 

「山城っ」

 

「姉様!」

 続いて山城の砲塔がル級を捕捉した。

 ル級も両手で残った右の盾を構えた。

 

「沈め!」

 爆音。

 

 ル級がのけぞる。盾ごと両腕が吹き飛んでいた。

 ル級が背中に背負う最後の砲塔が火を吹いた。

 

 弾ははるか頭上に飛んだ。

 

 ル級は沈む。しかし打ち上げられた砲弾がおどろおどろしい紅色の赤い光を放つ。

 照明弾だった。今もなお1YB3Hは遠くからよく見える事だろう。

 

「時雨! 撃ち落としなさい!」

 

「了解!」

 時雨が12.7cm連装砲を構える。

 直後に巨大な水柱に包まれ時雨の姿が消える。

 強い衝撃が山城の艤装を揺らす。

 

「時雨ッ!」

 

 パッと深海棲艦本隊の頭上が照らされた。

 

 海峡夜棲姫

 巨大な口のような造形の砲塔に腰掛けた白い着物と黒い着物の2人の女性。耽美な顔だが額の角が人外の存在である事を表している。

 背後には同じく歯茎丸出しの入れ歯に角を付けたような砲塔が山と積まれ艦橋のような形となっていた。

 

 ココハ……ジゴクナノヨ……! 

 

 海峡夜棲姫の周囲が爆発、炎上。

 まるで特撮のテロップのようにドンピシャのタイミングだった。

 

 ギィィヤァァァ──

 

 随伴の重巡洋艦が沈んだ。

 彼女を照らした照明弾は艦載機「瑞雲」が打ち上げたものだった。爆発も瑞雲の武装によるものだった。

 

 そうして援軍が到着した。

 

「待たせたな! 第二遊撃部隊(2YB)推参! 全軍突撃せよ!」

 重巡洋艦『那智』が号令を出し、那智の横を抜けて重巡洋艦が飛び出す。

 

 最上が手間取っていた戦艦ル級が背後からの砲撃を受け大破した。

 すぐさま扶桑の砲撃が重なり速やかに轟沈。

 

 アァァァァ──

 

「あ、ありがとう!」

 

「だいぶ大変な状況ね。でも平気よ。勝利が私たちを呼んでいるもの!」

 重巡洋艦『足柄』の砲撃だった。

 

「一水戦戦場海域に到達。さあみんなお仕事の時間です!」

 軽巡洋艦 阿武隈

 駆逐艦 潮・曙・不知火・霞

 

 1YB3Hの先行により余力を残した2YBの水雷戦隊の雷撃が敵艦隊を襲う。意識外の雷撃は精度良好。半数近くが命中し更に重巡洋艦と駆逐艦の数を減らす。

 

 残る駆逐艦も次々と撃ち倒され、乱戦状況から脱した1YB3Hに2YBが合流した。

 

「来てくれたのね」

 

「当然じゃない。そう言う、作戦でしょ?」

 レイテ湾内の深海棲艦の戦力は既に3分の1を切っていた。

 戦況が艦娘側の優勢に傾いたように思え扶桑、山城に笑みが見えた。

 

 ◇◇◇

 

 耳をつんざく怒号が響いた。身体の芯を震わすような爆音とともに砲塔が吼えた。

 戦艦3隻を引き連れて海峡夜棲姫が艦娘たちの前に姿を現した。

 

 サキニナンテ……ススマセナイ……

 

 海峡夜棲姫から無数に黒い触手が飛び出した。それはもはやただの動く的にしかならない深海棲艦の駆逐艦や補給艦を次々と突き刺すと、次々と釣り上げ自身の艤装に取り込んでいく。

 艤装に組み込まれた駆逐艦はボコボコと膨張し肥大化していく。補給艦はまたたくまに萎び爆発した。

 それが僅か1分たらずで十数隻分繰り返された。

 海峡夜棲姫の艤装は強化膨張し、土台は青い彼岸花が咲き乱れ本物の戦艦に迫る大きさになった。角付きの入れ歯のような砲塔も船の戦艦のソレと同等にまで肥大化した上、首長竜のように長い首を得ていた。それが10基。

 その見た目はヤマタノオロチもかくやと言うべき化物と化していた。

 

「何……あれ」

 呆然と時雨が呟く。

 それだけの威相だった。

 

 コノジゴクガ……

 コノカイキョウガ……

 アナタタチノイキドマリナノ……ヨオオォォォォッ!! 

 

 海峡夜棲姫の砲塔が首をもたげる。

 ギロリと首が回り山城と目が、砲塔がピタリと合った。

 

 まずい

 そう思う頃には撃たれていた。

 2発の砲弾。1発は逸れたが、1発は山城の装備する4基の砲台のうち1つを破砕した。

「ぐぅぅぅ」

 

「山城!」

 

「姉様、離れて! 1YB3H機関全速! 止まるんじゃないわよ!」

 

「分かったわ」

 

「了解」

 

「第二遊撃部隊もだ! 砲撃精度よりも回避を優先しろ! この巨体だ、どう撃っても外しようがないからな!」

 

「合点よ!」

 

「分かりました!」

 

 夜明けはまだ遠い。




妖精さんがいないです。入る隙が無いとも言う。
「われわれでんじはにがてですから」「どちみちやくたたずでは?」「しょじばふ」「おきもの」「あーけーどのくちくかんてきな」「ほけんですな」「やくにたたないほうがよいやつ」
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