夏の眩い日差しが差す中、私たちは英霊の碑の前に立っていた。
ここは屋根があるし海風も吹いてるから暑さはさほど感じない。
風と波、献花の包装紙がなびく音以外何も聞こえない。
「黙祷」
黒花さんに合わせ軽く首を傾け目を瞑る。
7月30日。
天の神がバーテックスを使い世界のテクスチャを書き換えた日。
数え切れないほどの人類が死滅し鳥籠に追いやられた。
私と銀はその日のことは知らないけど当事者が口を開けないだけでその実態は容易に想像出来る。
「止め」
目を開け前を向く。
先頭に黒花さんが立ちその後ろに千景、珠子、杏がいて更に後ろに私と銀がいる。
「付き合わせて悪いな。本来なら夜中だがそこまで正確にしなくても気にしないしな」
「そもそも記録にすら残ってませんから」
「だよな」
ふっと鼻で笑いながら賛同した。
「勇者の存在を秘匿した結果ですもんね」
「何か寂しいな」
「黒花さんが管理してなかったらここも酷いことになってそうね」
「大赦も潰そうとしたが何とか残せてよかったと思うわ」
ここを管理しようとした理由は分からない。
これは私の考えだけど使徒として1度人類を裏切り、仲間を見殺しにした罪滅ぼしなんじゃないかな。
この空間にだけ異様に固執するのを見るとそう感じ取ってしまう。
「今日は墓回りの予定だ。遠い所まで行くかもしれんがそのつもりでな」
「車の送迎ありなら大丈夫です」
「そりゃもちろんさ。そろそろ行くぞ」
最初に訪れたのは銀の墓。
先程の英霊の碑とは違い普通の墓地に立っており三ノ輪家の1人として眠っている。
最近来たのか花が綺麗にお供えされていた。
「ここにアタシがいるんですね…」
「あぁ、銀の遺骨はここにある」
墓碑には銀の名前が彫られてあった。
十一という若すぎる歳が私の目に強く刺さる。
銀は1人しゃがみこみ納骨室の蓋を優しく触る。
「…鉄男…金太郎…ごめん…」
投げかける言葉も無かった。
死ぬ時は突然だ。
いってきますと言って二度と帰ってこない事はある。
これが怖いから今を悔いなく生きる。
「ううぅ…グスッ…」
肩に優しく触れ現実に引き返す。
もう前を向いていいのだから。
「…大丈夫。ありがとう」
こちらを見た時、目元が赤く腫れてたけど笑ってくれた。
無理はしてるだろうけど整理はついたと思う。
次に訪れたのは大赦が管理している墓地。
敷地はそこそこあるにも関わらずお墓の清掃や花の入れ替えもしてくれる手厚さ。
ここにいるのが神樹に近い勇者候補や巫女なのもあるだろうけど。
「こっちだ」
迷うことも無く通路を歩いていく。
偶に見覚えのある名前が彫られてるけど誰が眠っているのか分からない。
黒花さんはある墓石の前にゆっくりと足を止めた。
そこは他の墓よりも大きく墓石も少し欠けていたけどちゃんと清掃されていた。
「…」「…」
彫られた名前は2つ。
本来なら家単位で作られるから2つあるべきなのに1つしかない。
「これは…」
「安芸真鈴の案だ。最後まで一緒にいさせてやろうって魂胆らしい」
線香に火をつけ2人に渡した。
「これが作られた頃オレは表舞台から消えてた。だから詳細な経緯は分からん。だがアイツがやったと考えたらしそうな事だけどな」
「…多分合ってる。タマもそう思う」
「はい、真鈴さんは私たちを見るのが好きだったので」
「似てるんですね…アタシの知る人に」
しゃがみこみ台に線香を置き静かに手を合わせる。
未だに慣れない光景だけど、当事者がそれを1番実感してる。
何を思って手を合わせ声をかけるのか。
私はそれを知ることは無い。
2人は墓石の名前をジッと見ていたら銀と同じく不意に石蓋に手を触れた。
「あっ…」
「うっ…」
触れるだけにしては変な声をあげ固まる。
「珠子?杏?」
声かけしても反応が無く千景も心配そうに後ろ姿を見ている。
そんな中銀と黒花さんだけはジッと見ていた。
「うわあああああぁぁぁぁ!!」
突然珠子が泣き出し杏に飛びついた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!!」
杏も泣いており状況が読み取れない。
「なるほど。トリガーは自分の亡骸か…」
「トリガー…?何言ってるの…?」
「死に際っていう最後の記憶のピースがハマったんだよ」
「このために墓参りを…ッ!」
欠落したままでも生活に支障は無かった。
ただの興味だとしても開ける覚悟が無いのに開けては最悪心がもたない。
「言ったろ、直に分かるってな」
「説明せずやる人がどこにいますか」
私は睨みつけるように黒花さんを見る。
この人の勝手にやる行動は目を瞑って来たけどこれだけは譲れない。
「言えば来たか?当然来ないだろ。自分の死が気になっても見たくないもんな」
「それが分かってたならなんで!!」
胸ぐらを掴み怒りの感情をぶつける。
「これは過去とのケジメだ。この世界に生きるのなら過去の苦難を乗り越えなきゃ幽霊と変わらない」
「乗り越える覚悟が無いのに無理強いさせるのは最低だ!」
「お前は父親を殺した事実を知ってどう思った!」
「!!」
今度は黒花さんが声を荒らげた。
胸ぐらを掴まれていても鋭い目を私に向ける。
「突然言われたろうがスッキリしたよな!それと同じだ!真実ってのはいきなり現れて壊していくんだよ…!」
「ッ!それを招いたら元の子も無いでしょうか!!」
「2人ともやめろ!!」
銀が私たちの喧嘩に大声で割り込み私の手を強く握る。
珠子と杏は泣き止んでいてこちらに目を向けていた。
「ごめん…」
状況を理解した途端熱が一気に冷め手を離す。
気まずさが増し目線が定まらない。
黒花さんの顔が一瞬見えたけど不貞腐れたような感じだった。
「思い出せたか」
「はい…」
「そうか…痛かっろう」
「痛いけど辛かった…杏を守れなくて…」
「…正しい記憶だな。まぁこの世で一矢報えたんだがな」
「そっか、あの村…」
「あの村って珠子が消えた?」
「あぁ、アイツがタマたちを殺したんだ」
「えっ…珠子さんもですか…?」
1番食いついたのは銀だった。
「どういう事なの?」
「直接的では無いですけどサソリに園子と須美が瀕死まで追い込まれてアタシも殺られました。ただ、追い出したので戦いとしては引き分けでしたけど…」
「そんなことが…」
「ちゃんと思い出したのはさっきだけど」
だから泣いてたんだ。
守れてないって何度も言ってたのはそれが理由か。
黒花さんの車に揺られかなり時間が経った。
途中パーキングに寄り昼を食べただけで後は車の中。
外は銀色から緑色に変わっていた。
「こんなところに千景のがあるのか?」
珠子が不安になるのも無理ない。
山道を走って墓参りとか田舎すぎる。
「オレを信じろって」
「よくそんな言葉出ますね」
「まだ怒ってんのか。小さい器だな」
「頭跳ね飛ばしますよ?」
「はいはい、そこまでにしろって」
助手席に座っているから後ろの反応は声しか分からないけど千景がしゃべってない。
珠子と銀はワイワイ話してるし杏も合いの手を入れている。
空気読んでるんだと思うから私も変に刺激はしない。
たどり着いたのは人里離れた小さな村。
バスもほぼ機能してないレベルの停留回数だから車が無いと生活出来ない。
その村にひっそりと佇む1つの寺に車を停めた。
くたびれた感じもなくどこにでもある風貌。
黒花さんに連れられ本堂の横を通り裏手に回る。
陽の光が遮られ少し寒いくらいに感じた。
そんな暗いところなのに彼岸花が円形に咲き、中央には白い彼岸花がポツリとあった。
「ここに郡は眠っている」
「墓石は無いのか?」
「無い。彼女は土葬されたからな」
「土葬って雑すぎませんか」
「…」
千景は白い彼岸花に手を伸ばし触れる。
「ひっ…いっ…あぐっ…!」
突如頭を抱え震え始めた。
これまでとは違い何か嫌な予感を感じた。
「オエッ…ゲポッ!?」
「千景!? 」
口を抑え指の隙間から黄色い液体が垂れていた。
ボタボタと音を立て彼岸花を汚していく。
「ううぅあぁ…!」
「黒花さんこれ以上は…!」
壊れると言おうとした時、既に千景を後ろから抱き寄せていた。
「せん、せい…?」
「郡を救えたのに自らの保身のために闇に突き落とした。オレは取り返しのつかない最低なことをしちまった」
胃液で汚れた手をギュッと握る。
ぐちゃっと音が響いたけど嫌悪感は無かった。
「300年越しになっちまったが言わせてくれ。救えなくてごめん」
「あぁ…ずるい…私が言いたいことなのに…」
「郡は悪くないからな。精霊の闇に心が飲まれたとしても危惧自体は間違ってない」
「乃木さんを殺そうとしても…?」
「それでもだ。アイツのこと好きなんだろ?」
「…憎らしいのにね」
「伝えられたか」
「えぇ、私にしては馬鹿らしい行為だけど」
「それが普通さ」
その体勢のままずっと彼岸花を眺めている。
さっき千景は乃木を殺そうとしたと言っていた。
それが歴史から消した理由なんだろう。
英雄の影に消えるのは悲しいけど何かを排斥しないと団結するのは難しい。
何とかケジメをつけ、2人はお寺のトイレを借りていた。
「あの〜…大丈夫ですか?」
外で待っていた私たちに昔ながらの巫女姿の少女が恐る恐る話しかけてきた。
眼鏡をつけてなんか知的な雰囲気。
「大丈夫ですよ。なんか車酔いが遅れてきたらしいので」
変に心配させないよう誤魔化して伝える。
真実を伝えても信じてくれなさそうだし。
「遠くからわざわざ来てもらったのに申し訳ないです。あの道カーブ多いですから初めての人は酔いやすいんです」
「あなたはここに住んでるんですか?」
「はい、ここは一族で守っていかなくてはならないので」
「一族…。家系はかなり長いの?」
「旧世紀からと伝わってます。この建物もほとんど変わってないんですよ」
「へぇー…」
山奥にあるのにかなり歴史のある建物だったなんて。
けどここと千景に何の関係が?
「おまたせ」
スッキリした顔で千景と黒花さんがトイレから出てきた。
「体は平気?」
「えぇ、少しお腹減っているだけよ」
「なら帰りにどっか寄るか!タマ腹減ってたんだよ〜」
「消化早いよ…」
「なぁ、お前さんがここの主か?」
「いえ、今は私の父が住職です」
黒花さんは巫女の顔を表情1つ変えず見つめている。
何も反応が無いからか女の子もどう返せばいいのか迷っている。
「なぁお前さんの姓は何だ?」
「え…
「…」
「そうか…悪いな変な質問して。それじゃ帰るぞ」
「は、はい…失礼しました」
軽くお辞儀をし寺を後にした。
「最後の質問、何の意味があったんですか?」
山を超えなだらかな道になったタイミングで話しかける。
しばらく黙って考えていたけどどうしても気になってしまった。
「さぁな」
「さぁなってどう考えてもなにか思う節があるように見えるんですけど」
「あったとしても言えないな。これは分かるやつには分かる質問だからな」
分かるやつ…あぁ…
「なら分からなくていいですね。深読みしても無駄そうですし」
「悪いな」
「構いませんよ」
「千景さん飴舐めます?」
「いただくわ。これは…リンゴ?」
「ぽいですね。いい匂いします」
「ありがとう。でも嗅がれると少し恥ずかしいわ」
「どうせ腹の虫が鳴ったんだろ〜?」
「鼻から飴食べさせてあげましょうか?」
「えげつないことするな!?」
「自分で巻いといて何言ってるの…」
やっぱこういう雰囲気じゃないとね。
思わず口角が上がってしまう。
黒花さんに見られた気がするけど、どうせ同じ感情なんだし気にしない。
最後に寄るべき場所として言ったのは普通の墓地。
最初に寄った銀の場所と似た感じ。
「確かこの辺に…お、あったあった」
横長の墓石があり、墓碑には『殉職者』の文字が彫られていた。
「最近立て替えたらしいんだよな。まぁ綺麗になるのは嬉しいけどさ」
「ここは誰が眠ってるんですか?」
「そりゃオレだよ」
自信満々に指さした先には黒花さんの名前があった。
何となく察してたけど中々の悪趣味。
「昔は集団埋葬だったが入ってくるやつが多くなってな。名前漏れもあるらしいがオレの名が残ったのは奇跡の域だな」
「自分の墓の前でよく話せますね」
「本来の肉体はもう無いからな。オレの死因覚えてるか?」
「さすがに覚えてないわ」
「頭に銃突きつけてバンッてな」
うわぁ…
普通話しにくいのに思い出話みたいに語ってる。
「これはオレなりのケジメだ。過去の罪は消えないが残しちまったものには敬意を払わんとな」
1人線香をつけ静かに置いた。
一瞬だけどお婆さんのような雰囲気を感じ取った。
「よぉ、
今度は幼女のような笑みを浮かべ話しかけている。
「知ってるだろうがここにいるオレはお前の影だ。だからと言って破滅を望んでいる訳じゃない。単に真っ当な生き方が嫌になった化け物さ」
淡々と話す姿は親友に愚痴を漏らすような感じ。
ころころ感情が変わる黒花さんは初めて。
「迎えに行くのはしばらく先になりそうだ。なんせ弟子に延命措置されちまったしな」
殺さなくてすみませんね!
というか私を理由にしなくてもよくない!?
肩を揺らしながら笑い立ち上がる。
「またね、
にこりと墓に微笑み目を静かに瞑った。
その言葉を飲み込むように。
「…よし、帰るぞ。夕飯は中華だ」
私たちの方を振り向き横を通り抜ける。
その後ろ姿につっこむことはしない。
いつもの黒花さんに見えるけどあか抜けたような爽やかさを漂わせている。
今日が全ての運命を狂わせたのなら、その運命を受け止めた日とも言える。
昨日までと少し違う皆がいる。
小さな変化があろうと私は皆といたい。
その果てにあるものを見届けたいから。
やっぱこの日は曇らせないとなぁ!!
ゆゆゆ内でも何度も言われている当たり擦らなきゃ勿体ないって!
これで皆の記憶は完全に取り戻せました。
やったねちーちゃん!(鬼か貴様は)
次回は夏といえばやらなきゃ行けない話と過去一のキャラ崩壊をします!
吐き気を催す邪悪と言われてもおかしくないけどやってやらぁ!!
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