生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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夏の夜の夢

予約を取った宿も去年勇者部が利用した場所。

しかも銀も来た覚えがあるらしい上に3人も似たような宿に来たことがあるとの事。

大赦が管理してるとはいえこんな偶然そうそうあるものなの?

 

「はぁ〜…」

 

私は1人露天風呂でくつろいでいた。

部屋は6人2部屋に分けられたけど勇者部と家族で解決した。

まぁそんなんだろうとは思ってたけどさ。

にしても今日は疲れた。

遊び疲れもあるだろうけどやはり1番は…

 

『郡千景を愛してください』

 

「…いやマジかぁ」

 

温泉をすくい顔につける。

今だに信じられない。

あの千景から告白…そしてキス。

頭から離れないどころかループしてる。

重症かこれ?

 

「高木さん」

 

「は、はい!!」

 

思考の底に沈んでいたから思わず立ち上がって返事してしまった。

しかも声かけてくれたのがよりによって千景。

 

「そんな畏まらなくていいのに」

 

「ごめん、考え事してて」

 

「私のこと?」

 

降り口から遠い場所に座っていたのにわざわざ来てくれた。

混むと思って遠くにいたのが裏目に出た…

 

「まぁね」

 

「もしかして嫌だった…?」

 

「まさか!後悔なんてしてないよ」

 

「なら何を考えていたの?」

 

「えーっと…」

 

これ言うの恥ずかしい。

相談って形で誰かに話すならいいけど横にいるのは言った本人。

嘘つかなきゃ詰みじゃん。

でもこのタイミングで嘘はつきたくないしなぁ…

 

「あー!!もう入ってる!!」

 

騒がしい救世主の声が響いた。

 

「また探索してたからだよ」

 

「色々変わっててつい夢中になったんだよ。とぅ!!」

 

勢いよく温泉にダイブしてきた。

その結果、千景と共に顔面に防御姿勢を取る暇もなくかかった。

 

「極楽極楽〜」

 

「「……」」

 

「どうした2人とも?」

 

「あっ…」

 

珠子の背中に周り羽交い締めにする。

 

「な!?」

 

「お先どうぞ」

 

「なら遠慮なく」

 

千景が肩を軽く回し珠子に迫っていく。

さながら処刑人だ。

 

「あっ…あ、あんずたすけ…」

 

「タマっち先輩…私中風呂にいるね…」

 

「行かないでくれぇーーー!!」

 

今生の別れみたいな顔で中へ逃げていく。

その判断は正しいと思う。

 

「土井さん。高木さんの前だから半殺しで済ましてあげる。感謝しなさい」

 

「温泉を赤く染める気か!?」

 

「こっちの頭は真っ赤だよ」

 

「嫌だァーーーー!!」

 

「「成敗!!」」

 

 

 

 

 

「何か小さく見えるよ〜」

 

「それだけ私たちが成長した証拠よ」

 

「もう解放してくれてくれよ…頭も1人で洗ったのにさ」

 

「ダメよ銀。ずっと頑張ってきたんだからご褒美貰わないと」

 

「そうだよ〜。体の隅々までお手入れしないと〜」

 

「アタシじゃなくて2人のご褒美なのかよ!!」

 

「あら、千景さんに高木さん」

 

「お先入ってるよ」

 

手を軽くあげ入ってきた3人に挨拶する。

 

「いい湯加減〜」

 

「ホントな…ん?」

 

「どうしたの銀?」

 

「何か浮いてないか?」

 

「タマ坊だね。楽しんでそうで良かった〜」

 

ぷかぷかと力無く浮いている珠子。

傍から見れば水死体みたいに思うレベル。

 

「いやいや!?どう見ても違うでしょ!珠子さん大丈夫ですか!!」

 

「銀、か…?」

 

「一体何があったんですか!?」

 

「あれは…恐ろしすぎる…!!」

 

突然体勢を戻し露天から逃げるように出ていった。

 

「みーほー?」

 

「何事にも報いを与えただけだよ」

 

「そこで使っちゃうんだね〜」

 

主にやったのは千景だった。

私だと手加減増し増しになっちゃうからね。

それにしても攻めてる時の表情が完全に魔王のそれ。

ガチすぎて少しビビったのは秘密。

何をしたか?

そりゃお胸を摘んで…

 

「そろそろ上がろっかな。千景は?」

 

「私も上がるわ」

 

「てことで3人とも楽しんでってねー」

 

ホカホカになった体に夜風が心地よく当たる。

さすがに手は繋ながず更衣室まで離れて歩く。

皆温泉を楽しんでおり先に上がったのは私たちだけで更衣室は静かだった。

体を丁寧に拭いていく。

しっかり水分を取ったのに湯気が体から少し立っている。

着替えながら少し離れた所にいる千景を横目で見る。

黙々と体を拭く姿が綺麗に思えた。

あの黒髪似合いすぎでしょ…

 

「終わったら髪拭いてあげるよ」

 

「お願いするわ」

 

浴衣に着替え椅子に座らせる。

かなり長いから大変そう。

 

「何で伸ばしたの?」

 

「単純に床屋に行けなかったから」

 

「その名残なんだね」

 

「そうね。あとは…よく髪を切られていてその反逆かしら。自分で切ったら負けを認めた気がして」

 

懐かしい思い出のように語っていた。

私の前だからなのか嫌がる様子は無い。

それだけ気を許してるのかな。

 

「まぁ長い方が似合ってるしね」

 

「見慣れてるだけじゃない?」

 

「それでもだよ」

 

経緯の割にツヤツヤで整えられている。

真っ当な親だったらもっと可愛くなれてたのかも。

 

「こんなんでいい?」

 

「えぇ、ありがとう」

 

振り向き微笑んでくれた。

前言撤回、今も可愛いわ。

 

「それじゃ先部屋戻るね」

 

「待っててくれないの?」

 

「へ?」

 

物寂しそうな顔に変わり私を見ていた。

それは反則だって…

 

「分かったよ」

 

近くの椅子に座りドライヤーをかける。

本当は部屋のを使おうとしてたんだけど。

最近オシャレに気を使うようになった。

勇者だった頃は綺麗にしても戦闘でボロボロになると思いあまり力をいれてなかった。

とは言ってもファッションに成通してる人は少ないからネットで得た知識だけど充分。

 

「これで終わりっと…そっちはどう?」

 

「もう終わるわ」

 

「はいよー」

 

千景の終わりを見て温泉を後にした。

 

ご飯は人数が多いからか部屋色となった。

そもそも今回は貸切じゃないから騒いじゃダメなんだけどね。

 

「これは…!!」

 

目の前に置かれたのは大量の寿司が乗った桶。

 

「今回も奮発したぜ」

 

「よく部費でカバーしましたね!」

 

「オレの自腹だ。約束したろ?」

 

「約束?」

 

「おいおい。お前が言い始めだろうが」

 

私を指差してきた。

寿司を頼んだ覚えは無いし食べたいとも思ってない。

 

「ヒント、訣別の儀。あと友奈は知らないな」

 

「ええぇ…」

 

皆もひねり出そうとしてるけど濃厚過ぎて思い出せない。

 

「そっちはどうだー?」

 

ビデオ通話で隣の部屋と繋げてるけど反応は同じ。

 

「お前らほんっと鈍感だな。戦う前寿司パする約束したろ」

 

あー…確か橋の上で話してたっけ。

緊張してたから話題作りで適当に言ったのに覚えているとは…

 

「タイミング見て開催したのに覚えてないとは悲しなぁ〜…涙が出るぜ…」

 

「忘れていたのは申し訳ないとは思いますが三文芝居はやめてください」

 

「チッ」

 

この人は本当に…

けど美味しそうなのは事実。

 

「とりあえず頂こうよ」

 

『それでは皆さん…』

 

『いただきまーーーす!!!!』

 

まずは目に入ったハマチから…

 

「はむっ…美味しい…!」

 

コリコリとした食感もあるけど魚臭さも少なく美味しい。

 

「どれ食べても美味いんだが!!」

 

『箸が止まらないわね!!』

 

「一人一貫だからな〜」

 

『言ってるそばから私のを取るなー!』

 

「何食べたか分からなくなってきたな…まっ適当でいっか!」

 

「珠子さんそれアタシのマグロ!!」

 

どっちも混乱してきた。

それだけ美味しいって証拠だけど。

 

「個別に分けた方が良かったんじゃないんですか?」

 

「皆でつつくからいいんだろうが。同じもん食べてる感出るだろ」

 

「確かに」

 

去年は3人だけだったしここまで騒がしくなかった。

怪我なく来れてホント良かった。

 

「そういえば黒花さん、いつものインナーは着ないんですか?」

 

「あれは呪いを隠すためのもんだ。この体になった以上要らないさ」

 

浴衣の胸元を少しはだけさせる。

前も見たけど深淵は無かった。

てか肌綺麗過ぎない?

 

「美穂、後で時間作ってくれ」

 

目つきが一瞬変わった。

私は目で頷き寿司を口に入れた。

またあそこに呼ばれるんだろな。

 

食べ終わり私たちの狭い部屋に集まりカードゲームやら女子会で楽しんでいる隙に抜け出し外で待っていた黒花さんの元へ行く。

 

「お取り込み中悪ぃな」

 

「さっさと終わらせて欲しいですね」

 

「へいへい、じゃ入れよ」

 

招かれたのは同じ階にある黒花さんが自分で取った部屋。

私たち程の広さじゃないけど1人にしては広すぎる。

 

「ここ座っていいですか?」

 

「構わん、好きにしろ」

 

肘掛椅子に深く座る。

ふかふかで体がどんどん沈んでく。

机を挟むように黒花さんが座った。

 

「で、何の用ですか?」

 

「本当なら面談みたいにやろうかと思ったが要件だけ伝える。お前、郡のこと好きだろ」

 

「!!??」

 

まさかの質問に思考が停止した。

 

「な、なななな!!??」

 

「バグり方が過去一だな。まぁそれが答えとして受け取ろう」

 

「何で分かったんですか!?」

 

バンと机を叩き立ち上がり問い詰める。

こんな早くバレるなんておかしすぎる。

 

「浴場で毛ずくろいしてたろ。あれ見たら誰だってそういう考えになるわ」

 

「見てたんですか…」

 

「こっそりな。我ながら最低な行動とは思うがあの空気をぶち壊すよりかはマシだ」

 

確かに割り込まれて中途半端に終わるのはモヤモヤする。

 

「だとしてもその位は誰だってしますよ?」

 

「その通り、仲良くやってるなら文句は無い。けどお前さんらの顔見て察したのさ。『こいつらできてんな』って」

 

「ええええ…」

 

この人の千里眼からは逃れられない。

園子も大概だとは思うけど黒花さんはその上を行くと思う。

 

「それを知った上で私を笑いに来たんですか…?」

 

「まさか、ただの事実確認さ。たとえ同性だとしても好きなら押し通せ。それを邪魔するバカがいたらオレが消してやるよ」

 

百合の間に入るやつを屠る感じだ。

それはそれで助かるけど血を流さないで欲しいけど。

 

「そろそろ帰さないと彼女を不安にさせちまうな」

 

「言い方…」

 

バレた以上黒花さんの前でコソコソするのは諦めよう。

深堀もしないし静観だろうからね。

 

「来ないんですか?」

 

「ん?もう少ししたら行くわ」

 

「とか言って来ないつもりですよね」

 

「今回は行くって。御記関係の仕事がちょっと残ってるだけだから」

 

「あぁ…なら先戻りますね」

 

「ほーい」

 

扉を開け廊下に出ると園子が立っていた。

 

「黒花さんに用あったの?」

 

「たかみーが見えないから抜け出してきたんよ」

 

「それは失礼しました。じゃ帰りましょっか」

 

「は〜い」

 

スルリと腕に手を通してきた。

やっぱ妹となると安心感がある。

 

「ちーちゃんとできたの?」

 

「ん?」

 

「好きなんでしょ?」

 

「は…!?」

 

1番理解出来ない。

園子の前では普段通り振舞ったのに。

バレたとするなら今の会話を聞かれたことぐらい。

 

「なんで…」

 

「王様ゲームでちーちゃんを攻めたら教えてくれたの」

 

王様ゲームってクジで王様になった人が言った番号の人が指示に従うってやつだよね。

よりによって園子にバレ…

 

「待って、皆の前で言ったの?」

 

「私だけだよ〜。そしたら顔真っ赤にして引きこもっちゃったんよ〜」

 

「何やってんのよ…」

 

それで私に助けを呼びに来たってことね。

というか反応でバレたのも同然じゃん。

 

「皆は?」

 

「ミノさんとタマ坊とあんずんだけだよ」

 

そこは気をきかせてくれたのか。

部屋に戻ると皆が心配そうに押し入れを見ていた。

暗いとこが好きとかダンゴムシじゃないんだから…

 

「千景〜?」

 

反応が無い、死んではいないとは思うけど。

取っ手に手をかけ引こうとすると引っかかって動かない。

足で止めてるのかな?

 

「大丈夫〜怖くないよ〜」

 

「猫じゃないんだからさ…」

 

と言っても何て声かければいいんだか…

 

「私も入っちゃダメなの?壁を作っちゃうほどの関係だったの?」

 

これやるの心痛いけど仕方ない。

 

「そんなの辛いよ。千景、私に言ってくれたことはこの程度なの?」

 

中からすすり泣く声が聞こえる。

少し引くとさっきよりも動いた。

後ろの4人に目配せし人一人分入れるくらい開け体を滑り込ませ閉める。

中は真っ暗で何があるのか分からない。

ふかふかしてるから予備の布団があるんだろう。

 

「千景」

 

声と体から発せられる熱を頼りに近づく。

大切な彼女は震えながら声を押し殺し泣いていた。

私は顔に当てないよう手を回し抱く。

 

「ごめん、なさい…」

 

「大丈夫…」

 

我慢するのが辛いのか口で息してる。

 

「私、乃木さんに言った時…恥ずかしいって思ったの…好きなのは恥ずかしくないのに…誇っていいのに…なのに…」

 

千景は心の自傷を始めた。

 

「好きってちゃんと言えない…本当に好きなの…?分からない…好きって…こんな辛いの…助けて…助けてよ…」

 

私を押し倒し見下ろしてきた。

髪と暗さで表情が読み取れないけど顔に冷たいものがポタポタと当たる。

 

「恋の病って聞いたことあるよね。好きで堪らないからこそなる悲しい病気。今の千景はそれにかかってるんだよ」

 

「…治るの?」

 

「私と別れれば、ね」

 

「え…いや…それだけは嫌!」

 

目が慣れてきたのか首を激しく横に振っている姿が見えた。

 

「私も嫌だよ。だから痛みを和らげようよ」

 

「どうやって…?」

 

「恋の刃を私にも刺して。私が傷つかないから千景が辛くなるんだ」

 

私も恋について知ってるわけじゃない。

けど苦しいなら一緒に苦しみたい。

千景の痛みを私にも与えて欲しい。

もちろん苦しみだけじゃなくて嬉しいことも。

 

「でもどうやって…」

 

「今だけ千景の好きにしていいよ。抵抗もしない、何されても不快に思わない」

 

「…いいの?このままだと本当に傷つけてしまうかも…」

 

「それでもだよ。私は千景を愛してるんだから」

 

「ッ!」

 

目を大きく見開き私を見ている。

まるで獲物を喰らおうとする獣のように。

 

「…高木さん」

 

「千景…」

 

私は深淵に身を投げた。

暗いのに怖くないや…

──────

アタシたちは中を開ける気にもならなかった。

声が漏れてくるけど完全に聞いちゃいけない声。

珠子さんと杏さんは顔を真っ赤にして固まってる。

園子はいつもの創作をする気にもならないのか黙って見てる。

 

『高木さん!高木さん!!』

 

耳を塞ぎたいのに出来ない。

その声に耳が釘付けとなっている。

 

『千景!あっ…ぎいいい!!??』

 

扉が少し開き中から甘ったるい臭いがした。

クラクラするけどそろそろ解放しないとヤバい気がする。

 

「2人とも生きてるか…?」

 

ゆっくり開けると光が押し入れに差し込む。

2人とも浴衣がはだけていて美穂は虚ろな目をしていた。

 

「三ノ輪さん…」

 

「いくらなんでもやりすぎだろ…」

 

「2人とも過激です…」

 

「ちーちゃんが獣になってるよ〜…」

 

何事もないように千景さんは降りてきて『シャワー借りるわ』と一言告げその場を後にした。

 

「美穂ー?」

 

「…生きてるよ」

 

「見りゃ分かるけどさ…」

 

体のあちこちに傷が出来てたのに平気そうに起き上がる。

 

「痛くないんですか?」

 

「痛いけど辛くないよ。最低なもの見せちゃってごめん」

 

「私がちーちゃんを攻めたのが悪いんだ。あそこまで変わるとは思わなかったから…」

 

あの園子が反省してる…

 

「こんな痴態晒しておいてだけど千景を嫌いにならないで欲しい。愛し方が分からないだけなんだ」

 

「当たり前だろ。てか付き合ってんのか?」

 

「まぁね」

 

「そんな気はしてましたけど…」

 

「え、マジ?」

 

「あの千景が甘々なのは友奈の前だけだったしな」

 

待って、気づいてなかったのアタシだけ?

恋に疎いのかな…

 

「まぁこんなのはしばらくやらないから安心して」

 

「2人っきりの時にやってくれよな」

 

別に止める気は無いどころか応援する。

だから場所は選んでくれよ…




前話のオチから察した人もいるかとと思いますが前後編の話でした。
こんな恋するんじゃないかなという妄想全開ィでしたけど満足してます。
性癖?語ったら3日かかるぞ。(大嘘)

そしてアンケートもどしどし募集してます。
まだ期限あるので投稿の有無関係なく1票入れちゃってください!!
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