生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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なんて事ないある日

「大会お疲れ様でしたー!」

 

『お疲れ様ーーー!!!』

 

今日は燐のソフトボール大会最終日、つまり引退試合だ。

大会はベスト4まで行ったけどあと一歩届かなかった。

応援に来ていた蛍と私たちでお疲れ様会としてカラオケに来ていた。

 

「あともうちょっとで準決勝いけたんだけどなー!タマちゃんマイク!」

 

「おう!悔しさを歌に乗せてけー!」

 

「任せて!降谷燐、行きまーす!!」

 

「歌うノリなのかな?」

 

「まぁ人それぞれあるから問題無しってことで。モグモグ…」

 

「いつの間にポテト頼んだのよ…」

 

燐が歌い始めたのはハイテンポな曲。

色んなところに遊びに行ったけど燐の歌声初めて聞く。

邪魔にならないよう軽く手拍子をして応援する。

つい数時間前まで試合があったのにこの歌声出せるなんて体力どんだけあるんだろう。

 

「…ふぅ〜。久しぶりに歌えてスッキリだよ!」

 

「得点は…94!?」

 

「高得点じゃないですか!凄いです!」

 

「イエーイ!」

 

ピースをしながら満面の笑みで応える。

ダークホース現るか…?

 

「この流れで歌える人いる?」

 

皆遠慮がちになってて動かない。

 

「仕方ないなぁ〜…ここはタマがビシッと決めてやるとするか…!」

 

「頑張ってタマっち先輩!」

 

「私も初めて聞くわ」

 

「あっちでカラオケとかしなかったの?」

 

「基本勉強と鍛錬だけでした。しかも顔知られてるので歩くだけで注目の的になってました」

 

「人気者は辛いですね…そうなるとアタシたちはマシなのか?」

 

曲を入れ終わったのかマイクを持ち立ち上がる。

流れてきたのは今人気のロックバンド。

サビしか知らないけどノリやすいと思う。

音程もほとんど揃えられていていい感じ。

 

「…どうだ!?」

 

「85点、全国平均は超えてるからまずまずじゃない」

 

「だあーーー!!負けたーー!!」

 

「でもとっても上手かったよ!」

 

「嬉しいけどなんか悔しい!」

 

「まぁまぁ」

 

杏が駄々をこねる珠子を静止させた。

 

「蛍はやらないの?」

 

「実は歌える曲無くて…」

 

「単にカラオケ苦手とかじゃないの?」

 

「それもあるけど歌う経験が少なくて」

 

そもそも鼻歌以外で歌うことは無いとは思う。

私も基本よく聞く歌を覚えてぶっつけ本番でやる感じ。

それでも十八番はあるけど。

 

「蛍さん、この曲知ってます?」

 

「うん、知ってるよ」

 

「なら一緒に歌いましょ!これ2人で歌うのでどちらかお願い出来ますか?」

 

「分かった。ならこっちパート歌うね」

 

デュエットかぁ。

2人とはうってかわって恋愛ソング。

歌詞を噛み締めながら歌うから意外と難しいと思う。

初めてとか言ってたから緊張してたけど解けてきたのか肩が降りてきてる。

点数は平均以下だったけど満足そうな顔してた。

 

「初カラオケどうだった?」

 

「凄いスッキリした…。次入れていいッ!?」

 

目を輝かせながら予約機を手にしてた。

新たな快楽を埋め込ませたのは変な気持ち。

 

「千景は歌わないの?もしかして自信ない?」

 

「そうじゃなくて。何歌おうか迷ってるの」

 

「分かる〜。だから喉慣らしの歌はいつも固定してるんだけどね」

 

蛍からタブレットを受け取り歌の予約を入れ準備する。

その間千景はスマホとにらめっこしてた。

 

「よく聞く曲ってあるの?」

 

「ゲームのオープニングかしら。映像と相まっていい曲が多いのよ」

 

「なるほど。でもそういうのに限って無いんだよね」

 

「そうのよ。チッ、これもないの…」

 

機種によって曲があったりなかったりするよねぇ〜。

てか千景カラオケ初なのに歌う気満々じゃん。

 

「そうだね…これはどう?」

 

「……これならいけるわ。ありがとう」

 

選曲したのは私もプレイしたことあるゲームの挿入歌。

難易度も高く熱い展開だから自然と歌詞と音程が耳に残る。

 

「千景の歌声楽しみだよ〜」

 

「そう言われると少し恥ずかしい…」

 

顔が少し赤く染まりお茶をコクコク飲んでる。

子猫みたいで可愛い。

 

「慣れたらデュエットしたいしね」

 

「デュエット…したいわね」

 

手を皆にバレないよう軽く握る。

うん、すごい落ち着く。

 

「美穂〜次だぞー」

 

「あいよー。燐、私の歌に聞き惚れてね〜!」

 

千景の手を離しマイクを受け取る。

 

「見せてもらうよ、美穂ちゃんの歌声の実力とやらを!」

 

前奏が流れ出し私は深く息を吸い込んだ。

かっこいいとこ見せてやらないとね!!

 

 

「ゲホッ…ゲホッ…」

 

「飛ばしすぎだって。ほらお茶」

 

冷たい麦茶を飲んでも喉がめっちゃ痛い…

交代しながら歌ってたから大丈夫と思っていたけど、朝起きると喉を痛めていた。

声もガラガラしてるし何より咳が止まらない。

 

「ゲホッ…ごめんよ…」

 

「でも燐超えたのは凄いよな」

 

「魂が揺さぶられるってあの感覚なんですね」

 

あえて画面を見ず全力でやったからね。

まぁ代償として喉燃え尽きたんだけど。

 

「かっこよかったわ」

 

背中を擦りながら千景が褒めてくれた。

 

「えへへ…」

 

「でも痛めるのは許さないわ」

 

目つきが鋭くなりトーンが少し下がった。

1つ歳上もあってか姉に叱られているような気分。

 

「はい…ごめんなさい」

 

「あの美穂が萎れてる…!」

 

「千景には逆らえないのか〜。まさに嫁と姑だな!」

 

「絶対違うしドロドロな関係になりそうだよ…」

 

今回はガチで反省してる。

好きな人の前でいいとこ見せようとして痛めるとか恥ずかしい。

でもそういう所も見てて欲しい。

私の全てを知って胸に留めていて欲しい。

 

 

別の日。

 

「どういう呂虔なの?」

「…」

 

椅子に座る私の前に千景が正座していた。

床にはエナドリの空き缶が2本証拠のように置いてある。

 

「約束したよね?合格するまではオールでゲームをしないって」

「…はい」

 

「なら何で魔剤が家にあるの?」

 

「貰い、ました…」

 

目線を合わそうとしてくれない千景を上から睨み続ける。

しかもリビングでやってるから皆チラチラと見てる。

 

「へぇ…誰に?」

 

「そ、それは…えっと……」

 

「嘘つき」

 

「ッ!違っ!」

 

「ならちゃんと言って」

 

「し…新作のゲームをやりたくて…勉強用で買ってたエナドリを飲み、ました…」

 

ギュッとスカートの裾を掴み、口元も一の字のように閉ざした。

まるでやらかした子供みたい。

 

「飲んだ時やっちゃいけないって思わなかったの?」

 

「全く思いませんでした…ごめんなさい…」

 

目が潤んできてる。

これ以上責めると泣きそう。

 

「言葉ではなんとでも言える。だから行動で示して欲しい。その姿を傍で見てあげるから」

 

優しい口調で諭す。

首を縦に振り納得してくれた。

千景は真面目だからちゃんと反省するって信じてる。

それが私に出来る精一杯の応援だからね。




久しぶりの日常パート。
美穂と千景を焦点に当てて書きました。
少しこのふたりの話が続くのでお付き合いください。

なお原稿自体は数年前に書かれていたのでそれをちょこちょこ添削しました。
いやぁ…溜めてたなぁ笑
しかもまだまだ残ってますし笑
ゆゆゆいもちょくちょく進めないと…!
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