部室は人がいるにも限らず静かだった。
退院した私に与えられた仕事は巫女の防衛。
神樹の力が無い今ただの一般人となっているけど重要な存在には変わりない。
勇者を小隊のように編成し各個撃破する形を取っていた。
編成は連携を取れるように各時代ごとに分けられた。
そして暁が出現した時には戦線に合流しする。
そんな特例がない限りはこのように巫女、私、赤嶺しかいない。
戻ってくると言っても少し休憩して再度出撃といった流れ。
消耗を狙っているかのような定期的な襲撃だ。
「…はぁ」
トイレに行くふりして廊下に出て空気を吸う。
部室の空気が日に日に重くなっていく。
士気をあげるどころのレベルじゃない。
「正真正銘の戦争じゃんか…」
私は手のひらを見つめる。
反転した姿の私。
抑制までがやっとで1度解放してしまったら目的達成まで止まらない破滅の力。
こんな切り札にすらならない力を扱えるのだろうか。
「こんな所で何してるの」
「気分転換だよ。今日もトレーニング?」
「そうだよ。身体動かさないとウズウズしてね」
タオルで顔を拭きながら答える。
私1人じゃ太刀打ち出来ないし、反転した場合どうなるか分からない。
赤嶺はそのストッパーとして残って貰った。
「1つ聞いてもいいかな」
「答えられる範囲なら」
「人を殺したことはある?」
いつもの冗談混じりではなく純粋な質問。
ここで誤魔化してもいいけど何のメリットもない。
そもそも私の過去を知る者は誰も居ないのだから。
「…ある。何人もね」
「そう…貴方もなんだ」
「貴方も?」
「なんか私もそう遠くない未来で人を殺るんだって」
私の隣に寄りかかりそう言い放つ。
「まるで未来を知ってるかの言い方だね」
「少し先の未来までは神樹様が見せてくれたから。きっと手伝ってくれる御礼の前払いなんだろうね」
「どんな景色だった?」
「真っ赤だよ。手だけじゃない、私の見るもの全てが赤く染まってたよ」
手のひらをゆっくりと開き見つめる。
赤嶺の戦闘スタイルは格闘。
直接殺ったとなれば返り血も相当だろう。
「私も似たような景色だったよ。その時は人の心なんて無かったけど」
「だよね…殺したこと後悔してる?」
「してるよ。ただ、その業を枷にはしてないだけ 」
人を殺した事実は永遠に消えない。
その重みは実感してるし、受け止めているつもり。
だからこそ罪に押し負け死ぬ事は絶対にしない。
今の日常はその人たちの死によって築かれたのだから。
「強いんだね」
「私自身は弱いよ。周りがその背中を支えてくれたからこうして立ててるんだ」
「…私のことも誰か支えてくれるかな」
「いるなら大切にしなよ。1度結んだ縁、逃したらもったいないから」
「もし記憶を持って帰れたらそうするよ」
「高木さん!赤嶺さん!!」
部室のドアを勢いよく開け、藤森さんが私を大声で呼ぶ。
「暁が出ました!場所は旧大橋!!」
「了解。出撃します」
変身し部室の窓枠をつたい屋上へ向かう。
ビットを大橋の方向へ小さな円をかくように設置させる。
そしてジャンプし8機のビットの中心に両足を合わせ蹴り上げる。
かつて私が2度やった人間大砲、そのセルフバージョン。
ビットと勇者の脚力を使い最短で目的地へ向かう方法。
代償としてビットを置いていくから一時使用不可になるけど暁相手なら逆に無い方が頭を使わなくていいから行ける。
グングンとへし曲った大橋が近づいて来た。
何とか体勢を変え足からド派手に着地する。
弾丸のように飛んでいたから止まりきれずコンクリートを捲りながら進む。
ただでさえ壊れていたの大橋を余計傷つけるのは申し訳ない。
「お待たせ!!」
「ナイスタイミング…だけど大胆なのよ!!」
戦っていたのは300年組。
たまたまだとは思うけど見慣れたメンバーだから少しホッとした。
周りには小型がフワフワと浮いていた。
「そこはごめんって!」
「君か…相変わらず僕の事が好きなんだね」
暁が表情を変えずに私を見てきた。
「好きとか目腐ってるんじゃない?というかいい加減くたばってくれないかな」
「僕には成すべき事があるからね」
「あっそ。ならその幻想を抱いたまま溺死しろっ!!」
ライフルモードで太腿辺りに向かって連射する。
当然暁は瞬間移動のような動きで避けられる。
「やはり避けられますか…!」
私はそれでも軌道やタイミングをズラし翻弄し続けた。
ダンッと地面を少し捲り上げ残像が影のようになった暁が一瞬で私の前に近づいてきた。
「美穂ちゃん!!」
友奈の悲痛な叫び声が大橋に響く。
大丈夫、私はこれを待っていたんだから。
後は察してくれるかだけど。
暁の腕が私の喉元へ伸びようとした時、雷が落ちたかのような音と共に体が強く後ろへ吹き飛んだ。
受け身は取れたけど痛いことには変わらない。
「っつ…」
「大丈夫!?」
「大丈夫だよ。それにしても何も話してないのに思った通りやるなんてね…」
土煙が晴れた後に広がっていたのは暁が立っていた所に赤嶺がいる光景だった。
───
話は数分前へ戻る。
要請を受け美穂が片道弾丸ツアーに飛び乗ろうとした時、
『足止めはしておくから早めに来てね!』
と言い飛んで行った。
彼女の事を完全には把握しきれていないけど、戦闘スタイルからその言葉の意味を理解した。
緩急をつけた変則的な攻撃。
相手の行動を把握した上で、敵味方諸共騙し勝利を掴む。
それを踏まえて私のとるべき行動はただ1つだった。
時間差をつけビットを蹴り大橋へ急行する。
目標は使徒の顔面。
右手に力を込め使徒と戦う美穂を何とか視界に入れ突っ込んだ。
振り抜くことが出来たが手に物が当たる感触を一瞬感じ、勢いのまま着地した。
「これで良かったの?」
「完璧だよ。ありがとう」
親指を立てながら美穂は笑ってきた。
間違ってたらどうしてたんだろ…
使徒にあげたパンチは並の人間なら首がねじ飛ぶ程の威力、しかも視覚外からの不意打ち。
普通なら即死してなきゃ行けないんだろうけど。
そんな事を考えていたら空気を破裂させたような音が海からあがる。
巨大な水柱が捻れた大橋の頂点にまで届く程の高さまで伸び、周りに雨のように海水を降らす。
同時に降りてきたのはメガネが無くなっただけで痛がる素振りも見えない使徒だった。
「君の策略は何度受けても予想ができないよ」
「そりゃどうも。私も何でこんな作戦しか出てこないのか不思議だよ」
「僕が育てたんだ。無理もないだろ?」
「だったらアンタから授かったならその力で打ち負かしてやる。礼は要らないから消えな」
お互い敵意剥き出しで言い合っている。
高木があそこまで毛嫌いするんだからこうなるのも無理ない。
「見せてみなよ。君の持つ可能性」
「初めからそのつもりだッ!!」
剣に切り替え、使徒の背後からの攻撃を面で受け止める。
再び高速で背後を取ろうとしても剣を背面に突き出し拳を伏ぎきる。
「追いつかれている?この僕が…」
「2度も同じ手は食わないっつーの!」
右手を剣で払い回し蹴りを顔面に決めた。
「凄い…使徒の攻撃を読み切ってる…」
「これが別世界の勇者の力…」
「このままけちょんけちょんにやっちゃいなさい!!」
確かに美穂の力は使徒を越えている。
でもそんなので終わる訳が無い。
「ふっ、ハハハ…!よもやここまでとはね…!!」
肩を揺らしながら使徒は蹴られた頬を撫でながら笑う。
「たった一つの完勝に酔い浸っている僕もまだまだだね。なら、ウォーミングアップは終わりだ。これより宴を始めようか」
パチンと指を鳴らすと後方にいた小型が集まり急速に形を作り始めた。
空を覆い尽くさんと言わぬばかりに3つの塊は大きくなっていく。
「趣味が悪いんだよ。お前…」
煽りをものともしてなかった美穂がドスをきかせた声で使徒を睨む。
私は神樹様からこの300年何が起こったのかを見せられた。
だからこそ美穂の怒りはよく分かる。
そこに現れたのは蟹、蠍、射手の3体だったのだから。
プライベートとモチベがグラグラでネタが思いつかなかった…
ここまで登場人物多いと収集がつきにくい…
どうこの話を閉じるか腕の見せ所ですかねー