生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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人殺し

ホールでの出会いから数ヶ月。

前のように休む暇ない襲撃は無く、不定期に攻めに来るのが中心。

暁の戦法よりもぬるくはなったものの神代の妖怪がいるのを思えば難易度は変わらない。

一人屋上に佇み火の街を見る。

勢いはそのままに街を燃やしている。

その景色にすら慣れたからこそ違和感を感じ始めてきた。

 

「…少しだけなら」

 

変身し学校の柵の近くへ降り立つ。

ここは燃え尽くしたのか灰になった建物が残り道を塞いでいた。

瓦礫に手を触れても冷たく燃えカスになったのはかなり前だろう。

 

「結界が貼られているのは確実。でも敵が襲いに来ないのはなんで…」

 

壁外のようにバーテックスが彷徨いてる訳では無いから境界が分からない。

けど火の手が止まっているここが境なんだろう。

灰をすくい上げ指の上ですり下ろすも何の変哲もない。

 

「火そのものに神性は無い。自然発火を延長させている?」

 

全ては憶測に過ぎない。

あまり滞在すると叱られそうだから学校へ戻ることにした。

 

何気ないある日、全員の端末がけたたましく鳴り響く。

 

「何ッ!?」

 

「『非常事態宣言』!!」

 

どうやら黒木からお呼び出しがかかったらしい。

人型と理解してくれたおかげで人を倒す抵抗はほぼ無いと言える。

ただ黒木自身を殺すところまでは行っていない。

赤嶺も同じスタンスだった以上譲れない一線ってのがあるのだろう。

それでも交われないものも存在する。

理解出来ても行動に移せないのならばその罪を私が被ろう。

 

待ち合わせ場所は千景殿前。

近い未来、神へ叛逆の一撃を放つ砲身となる。

この世界ではどうなっているか知りたいけど二の次。

 

「来たね」

 

黒い勇者服に身を包み建物を守る門番のように立っていた。

 

「久しぶり。黒木」

 

「黒木?まさか、黒い高木美穂だから?」

 

「そ。いい名前でしょ」

 

「もうちょっとカッコイイ名前無いの?」

 

「倒す相手のコードネームに時間費やす程暇じゃないの。分かって」

 

「はぁ…分かったよ…」

 

友達とするような何気ない会話を紡ぐ。

過去の私とかだったら冗談交えて話せたのに残念。

 

「それで今回は何の用。また巨大なの出して蹂躙するの?」

 

「目的は変わらないよ。でもその過程を楽しまなきゃって思ってね。という訳で今回のイベントは防衛戦!」

 

一人楽しそうに拍手をする。

それが如何に浮いた行為であるかは見てわかる。

 

「今からここに向けて全方向から一斉攻撃を仕掛ける。皆はただ来る敵を倒すだけでいい。残機は…100ちょいかな」

 

「待ちなさい。勝手に話を進めないでもらえるかしら」

 

殺気立った声で楠さんが前に出る。

ここは砲身としての役割よりも前に防人組にとって学校のような所。

そんな帰るべき場所がゲームのネタになっているのなら怒りを感じるのは必然。

 

「ここで勝負するには構わない。けど、私たちの居場所を遊びの場と考えているならもう容赦しない」

 

ライフルを召喚し反論の余地を与えず発砲する。

黒木は体を捻り弾を避け姿勢を戻す。

 

「今のがスタートの合図でいいね。それじゃ、始め」

 

手を叩くのと同時に空から小型がミサイルのように落ちてきた。

火の粉が落ちてくるような光景だけど触れればひとたまりも無い。

 

「特攻か!!」

 

「各員迎撃に務めろ!」

 

緊張感が増しそれぞれ武器を構え防衛にあたる。

その時黒木と楠さんの姿が見えなかったのが気がかり。

嫌な予感しかしない…

──────

黒木さんに先制攻撃を仕掛けた後、私は足元に出来穴に落ちた。

浮遊感を感じたのもつかの間千景殿から少し離れた港に立っていた。

体を確認しても怪我ひとつ無かった。

 

「驚かせてごめんね。あなたとはサシで殺りたかったから移動させて貰ったよ」

 

余裕の笑みは無く鋭い目付きで黒木は告げる。

 

「タイマン、ですか」

 

「そんな所。貴方が私に致命傷を与えられれば皆の元へ帰れる。逆だったらその命をいただく。簡単な話でしょ」

 

「元からそれが目的だったの」

 

「まさか。強く反応するのは分かってたけど感情に任せて攻撃するとは思わなかっただけ。だから試したくなったんだよ。背負い続ける者の真価を」

 

剣を重ね合わせながら腰から引き抜く。

重たい金属音が耳に残る。

 

「さっきみたいに撃ちなよ。それとも卑怯な手を使わないと攻撃出来ないのかな?」

 

笑うことなく挑発された。

ただでさえ理不尽な光景を見せられ尚表情を変えることなく言われたことで私の理性は消えた。

 

「ッ!貴方にッ言われたくない!!」

 

連射しながら黒木に接近する。

剣を盾にし弾を弾く。

 

「はぁっ!!」

 

銃口に付けられた刃を突き出す。

撃ちながらの攻撃だから同時に対応しなければならない。

彼女がタイマンを希望するなら邪魔はいないはず。

突撃をしていたその時、目の前を一瞬何かが通る。

無意識的にそれに目線を奪われてしまった。

 

「よそ見しないの」

 

距離はあったはずなのに黒木の顔がすぐ近くに迫っていた。

いつの間に…!

 

「くッ!!」

 

射撃を止め刃で斬撃を受け止める。

 

「良い判断だね。うん。相当のやり手だ」

 

ギリギリと金切り音が鳴る。

足に力を入れ何とか耐えるけど攻められている。

 

「ほら。もっと腰に力入れないと負けちゃうよ」

 

「負けるつもりは…無いっ!!」

 

気合いを入れ黒木の剣を押し返す。

体勢を崩し、倒れそうになっている。

 

「これでッ!!!」

 

その隙を逃さず刃を肩目掛けて突き出す。

殺しはしなくても致命傷を与えられれば!

 

「アハッ」

 

この戦いの中で始めて黒木が笑った。

口角を吊り上げた満面の笑み。

私の頭が冷え警戒を促したその時、果実を潰すような音と共に腹が重くなる。

 

「あ…?」

 

グラリと視界が崩れ刃は黒木の前で地面へ落ちる。

同時に見えたのは私の腹から黒色の剣が血を滴らせながら突き刺さっていた。

 

「あ…ああああああ!?ごっ…!?」

 

理解と同時に溢れ出す激痛。

痛いでは無く苦しいという感情が脳を破壊する。

 

「そんな大声出すから吐くんだよ」

 

クスクスと可愛らしく笑う声が聞こえたけどそれ以前に立つことすらままならない。

 

「あー面白い。ちょっと煽ったらすぐ食いつくとか魚かな?」

 

「ぐっ…がぁ…!!」

 

倒れた私の頭を足で押しつぶされる。

 

「干上がった魚はどうなるか分かるよね」

 

「っ…!ぁぐ!!」

 

剣を引き抜かれ出血が激しくなる。

動いていないのに視界がグラグラと揺れる。

 

「お疲れ。もう休みな」

 

これが私の最後?

いや…まだだ。まだ終わらない…!

高嶋さんと結城さんが出来たんだ。

たとえ勇者の端くれだろうと!!

 

「満開ッッッ!!!」

 

「!!」

 

体の内側から湧き上がる力を変身と共に解放する。

察知したのか黒木が高速で距離を取った。

腹に開いた穴は満開の力で塞ぐ。

 

「へぇ…前例が出たから使うのはいい判断だね」

 

クリアになった視界で黒木を睨む。

失った血液を補填するのには時間がかかる。

ここからは体力勝負になる。

 

「はぁ!!」

 

巨大化した銃を黒木に向け放つ。

満開によって強化され弾では無くビーム砲に変化した。

街の事を気にしていたら埒が明かない。

こうなれば黒木を焼き切るつもりで戦う。

 

「おっと!!」

 

空に跳躍し避けられる。

 

「まだまだぁ!!」

 

二丁の銃による連続照射。

3次元的な攻撃も難なく避けていく。

高木さんのビット機能も空間を認識出来ていなければ扱えない代物。

辿った時が違っても肉体の感性は同じなのかもしれない。

 

「これが貴方の満開かぁ。いいよ!ゾクゾクするねぇ!!」

 

「余裕なのも今のうちだけ!」

 

地面を飛びながら逃げる黒木を空から光のように撃ち続ける。

ここで仕留められなくてもあそこまで連れて行ければ…!

 

「くっ…!」

 

視界がほんの少し揺れる。

貧血状態を治しながら攻撃するという無茶苦茶なやり方。

明らかに運動量が勝る以上どこまで耐えられるか分からない。

 

「それでもっ!!」

 

出力をあげ光線のように焼き払う。

 

「マジかッ!」

 

黒木の表情に初めて焦りが見えた。

常に出し続ける必要があり、反動が大きい。

だから狙うのではなく進路を予想し塞ぐスタイル。

それに満開の光や攻撃音で位置は分かるはず。

 

「ぐっ、おおッ!?」

 

バランスを崩し黒木が地面に手をつく。

私は降下しながら逃がさぬよう光線で檻のように周りを焼く。

 

「貴方らしくない幕引きね」

 

「驚いた…そこまで器用だとは思わなかったよ」

 

踊ろたという割には剣をダラリと下ろした自然体のまま。

さっきと同じくチャンスを狙っているのか。

私は警戒のために足元に放つ。

 

「無駄な抵抗はやめなさい」

 

抵抗の意思の無さを見せるためか剣を地面に落とす。

 

「武装も解きなさい」

 

「はいはい」

 

黒木の勇者服が塵のように体から崩れ落ちていく。

その下に着ていたのは讃州中学の制服。

私たちを動揺させようとしてるのか。

 

「似合わない服装ね」

 

「偽者も着てるのに辛辣だね」

 

「貴方こそ偽者よ。高木さんがそんな卑劣なことする訳が無い」

 

「偏った考えは身を滅ぼすよ。人殺しのそばにいると染まるか染められちゃうね」

 

「何…?」

 

人殺し?

高木さんが?

そんなはず…

血を見ても冷静に対処したし人型も急所を必ず狙っている。

本当に人を…

 

「残念」

 

「!!」

 

目の前には既に変身しきった黒木が立っていた。

銃をマントで巻き取り腕ごと固定された。

 

「離せっ!」

 

力を入れ引き剥がそうとしてもビクともしない。

 

「無理無理。仮に外せても私の剣が早いし。どう転んでも逃れられないの」

 

「メブーーー!!」

 

遠くから聞き覚えのある声がした。

このタイミングはラッキーだ。

黒木は私を固定していて動けない。

離せば私の射程に入るし、離さなければ皆が仕留めに行く。

そんな絶望的な状況なのに黒木は口角をひきつり笑っていた。

悪魔の笑い。

作戦が霧散するくらい強烈な表情だった。

 

「まだ耐えれるよね。さぁ、人殺しの気持ちを実感してみよっか」

 

マントを器用に動かし銃が持ち上がる。

その時点で何をしたいのか分かった。

 

「やめろ…」

 

満開状態なのにビクともしない。

汗が身体中から溢れる。

 

「楠から離れろーーー!!」

 

段々防人の皆の声が近づく。

 

「やめろ…!」

 

引き金に当てた手を無理やり動かされる。

抵抗も意味無く中指にゆっくり力がくわわる。

 

「来るなぁぁぁぁ!!!」

 

喉が潰れるくらい声を上げる。

なのに止めることなく銃を構えている。

 

「バァン」

 

耳元で静かに死刑宣告が下された。

自分の意志とは真逆に中指は引き金を引いていた。

砲身から放たれた光は寸分の狂いなく仲間の元へ向かう。

そして起こる爆発。

現実で言えばほんの一瞬に過ぎないけど私にとっては何分もかかって見えた。

満開状態の一撃を通常の状態で受けた。

勇者のであっても即死級の攻撃はバリアが自動的に発動される。

直撃であっても意識を失うだけで済む…

 

「と思ってるんでしょ?」

 

マントの拘束を解き距離を少し離した黒木が続きを話す。

 

「確かにその考えは正解。だけど今回は私の意志で引き金を引かせたんだ。全部とは言わなくとも半分位は流し込めたんじゃないかな」

 

「は、ぁぁ…!」

 

黒木は天の神の力を人の身でありながら保有している。

その中にはバリアを無条件で貫通する能力もある。

私の意思の有無に関わらず放たれたものには天の神の力が宿る。

つまり…

 

「ぁぁぁあ…!!」

 

「うんうんっ、やーっと現実見えてきたね。おめでとう!今日からは貴方は人殺しだよっ!」

 

「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁぁ!!!」

 

そんな訳ない!!

これは不可抗力だ!私のせいじゃない!!

私は頭を振りながら最悪のイメージを振り払う。

 

「理解してるからその言葉が出るんでしょ。全く、往生際が悪…」

 

頭の上からしていた黒木の言葉が止まる。

 

「やっぱり来たんだ。貴方が異界の巫女で間違いない?」

 

巫女の言葉に反応し恐る恐る目を開ける。

黒くなった世界に立っていたのは真っ白な縦長の光があった。

どこをどう見ても巫女でも無いうえ、人ですらない。

 

「そう。でもご生憎と私は忙しくてね。また今度にしてくれない?───はぁ…疲れることはしたくないんだけど」

 

黒木は光に向かって独り言のように話をしている。

 

「───わかったよ。ここで本気見せてもメリット無いし。そんじゃ」

 

地面から湧き出た影に呑まれ姿が一瞬にして消えた。

白い光もいつの間にか消えており、一人何も知らないまま残された。

私はフラフラと覚束無い足取りで迎撃した地点へ歩く。

不安も恐怖も失せ、目の前が薄暗く感じる。

手には引き金を引いた感覚が残っている。

罪の重さを背負いながらたどり着く。

 

「…?」

 

そこには焦げた跡も何も無い道路だった。

位置的にここで間違いないのに。

 

「幻覚?だとしても…」

 

声も姿も彼女たちだった。

これはどういう…

 

「芽吹!!」

 

「夏凛…?」

 

息を少し切らしながら三好さんがやってきた。

その姿を見て残った力を振り絞り肩を掴む。

「無事なの!?」

 

「そんなことより防人の皆は!!」

 

肩を掴み問いただす。

私の声に驚いたのか目を大きく見開いていた。

 

「今戦闘が終わったところよ…アンタが一人連れてかれて援護行きたくてもバーテックスが邪魔して行けなかったの」

 

つまりあの声は黒木のフェイク…

撃った事実はあれど、擬態させたバーテックスだったのだろう。

 

「そう…良かったわ…」

 

「え、ちょっと!?」

 

安心して全身の力が抜け落ちる。

夏凛が何か言っていたけど答えることなく意識を手放した。




「やっ、久しいね」
ということでガチで帰ってきました。
失踪届出される一歩手前でしたがまぁセーフ!(何を持ってセーフなのだか)
今回ラスボス戦でもないのに何故か長くなり、
「戦闘描写多めだったか?」と思いましたが強行ゥ!
病み回なんだからいいでしょ!

今後も頑張るので応援よろしくお願いします!
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