千景殿防衛戦は辛くも勝利を収めた。
近距離多めのパーティーではあったものの遠距離組が取りこぼしたのを死に物狂いで倒せたのが勝因。
だがいい事ばかりでは無い。
黒木に拉致られた楠さんが一度瀕死に追い込まれ、満開を使用したうえ、迎えに行った夏凛の前で意識を失った。
病院は業火の中にあるため連れていくことも出来ないため保健室に寝かしている。
勇者システムの影響で自己回復が可能だけど、時間がかかる。
実際、高嶋はこの戦いの後戦線へ復帰出来たのだから。
そこで次なる被害を抑えるため私と東郷で端末に残された戦闘データを解析を始めた。
攻撃の出力、回数や外部からの攻撃がどこにどの強さで当たったのかを数値化する。
デジタルな事は東郷に頼るのは相場が決まってる。
ただこの数値も正確ではなくおおよその範囲ではあるけど。
「…どう見る?」
「無駄な動きをせず急所を一刺し。満開後の攻撃を見るに避けに徹していた。合理的な戦法ですね」
確かに複数人との戦闘なら私も似た立ち回りをする。
相手の急所を狙い一人にかける時間を少なくし制圧。
しかし、今回はタイマン。
急所をあえて狙わず四肢の関節を切るなど動きを鈍らせてからとどめを刺しに行く。
手間はかかるけど確実性がある。
「…本当に私なのかな」
「どういう事ですか」
「人の精神って人生の中で経験したイベントを通して変化していくでしょ。アレが高木美穂と言ってもその辿った道筋は別物。それは東郷が一番分かると思うけどね」
「そちらでも同じなのですね…」
視線を下に逸らし辛そうな顔をする。
そりゃ記憶を無くしたうえ、救済の題目で世界を壊そうとしたんだから。
「最年少勇者として戦い、忘れ、再び戦う。これを数年の間に経験したらそりゃメンタル壊れるって」
「……1つ質問です。何故殺さなかったのですか。故意である以上世界を破滅させようとしました。勇者である高木さんには倒す義務があります」
真剣な表情で私を見つめる東郷にいつもの言葉を投げかける。
「単に信じただけ。私じゃなくて東郷を止めれるのはただ一人の勇者にだけど」
あの時、園子と大型バーテックスもいて私一人では確実に対処出来ない状況だった。
それでも園子に力を注いだのは勇者部を信頼していたのが大きい。
「友奈ちゃんはどこに行っても明るいんですね」
「その明るさで救われたものだし」
逆にその明るさがあだになったこともあるけど。
思い出話にふけてていたら私の端末が突如鳴り出した。
開くと『非通知』の文字。
東郷と顔を一瞬合わせるも、出るしかないためスピーカーにした。
『ーーーえーー?』
「ん?」
『もーーしーーー!?』
「電波悪いのでしょうか?」
端末を持ち教室の中をぐるぐる回る。
『ーーーし!?聞こえるー!? 』
試行錯誤した上、教室の角が一番電波が届くことを発見した。
私は近くにあった椅子を持ち出し座りこむ。
はたから見たら壁に向かって話すやばい人でしょ。
「もしもし」
『あ!聞こえた!!同調もバッチリだ!』
「その声…コン?」
『正解〜。元気…なわけないか』
「コン?」
「狐の精霊。ちょっと癖強いけど味方だよ」
『聞こえてるけど?』
「聞かせてるんだよ」
『鬼ー!』
相変わらず子供みたいなテンション。
精霊ってどれもこんな気持ちでいるのかな。
「それで、何の情報を手に入れたの」
『良いニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?相棒』
イケメン風な口調で映画によくある定型文を言ってきた。
東郷も苦笑いを浮かべている。
「…バットニュースを聞こう」
『学校を守っていた結界が数時間で破られる。奴らに対して二重三重と張っていたけど限界が来た。破られれば総攻撃が始まり人類の負けになる』
手のこった結界はコンが展開していたんだ。
しかも破られても守れば勝ち、ではなく破れた時点で負けなんだ。
どう転んでもここを死守しないといけない。
「敵は学校近くにはいなかったけど」
『そりゃいないよ。これは未来の話なのだから』
「何…?」
『3か所から結界に向け同時射撃が行われる。それを阻止すれば最悪の展開は回避可能。当然だけどバリア貫通だから手広げて体で防ぐ!はやめてね』
盾組なら何とかなるかと考えたものの、貫通されるのがオチと考え捨てる。
「位置は」
『大雑把な位置は送るよ。ただ、観測だからズレはあるこら』
遠くなければ迎撃できるし、最悪カウンターショットで何とか倒せる。
『グットニュースは外部の結界に穴が空く』
「それだけなのですか?」
頼りない内容に東郷が思わず会話に割り込んできた。
『うん。それだけ』
「何か無いのですか!!未来を知れるならもっと大事なことが…」
そこで言葉が詰まる。
今の勇者部の中で失ってきてたものが最も多い。
未来を変える、そのことを何度思っていたのか容易に分かる。
『未来はいく千もある。その一つを作るのは今を生きる人。だから、わたしが見た未来を壊して欲しい』
コンは見てしまったんだ。
この戦いの結末を、世界の運命を。
でもそれが確定とは言ってない。
ならば…
「一つお願い聞いてくれるかな」
『いいよ。出来ることなら』
「明日が来るよう祈ってて欲しい」
『……ッ!!』
コンが息を飲む声がした。
この言葉は大切な人が口にしていた。
どんな絶望的な状況でも祈り動けば未来は切り開ける。
『…分かった。祈る事はわたし得意だから任せて』
「それは良かった。行ってくる」
通話を切り、壁掛けの時計を見る。
数時間と中途半端ではあるけど、そんな猶予は無い。
一度バイブが鳴り確認するとデータ付きのメールが届いていた。
『天を越えろ』
タイトルのみであとは何も書いていない。
この世界でもやることは同じか。
「全く…無茶をさせる…」
「私のところにも来たってことは全員に送られてる?」
「なら好都合。このまま作戦会議と行こう」
私はパソコンをプロジェクターに接続し準備をする。
ここまでお膳立てされたら勝つしかない。
いや、勝たなきゃいけないんだ。
──────
「ふぅ…これでいいのかな」
『ーーーーー』
「相変わらず聞こえないよ」
『ー?ーーーーーーーーーー?』
「何となく分かるけど……早く来ないと敗北見ることになるよ?」
『ーーーーー。ーーーーーーーーーー』
「それは同感。わたしもそろそろ表舞台にあがるかな」
『ー?ーーーーーーーー』
「うんっ。時間稼ぐから見とれないでね〜」
『ーーッ!ーーーーーーーッ!!』
「…待ってるよ」
『ーー。しーーよ』
──────
私は一人校舎の屋上に立つ。
この作戦では3チームに別れタイミングを合わせ襲撃する。
バラバラだと敵に察知され到着前に撃たれる可能性もある。
「にしても砲台ってこれか…」
先に到着したチームから送られてきた画像には遠距離型のバーテックスの姿があった。
一つ違うのは大きく開いた口から伸びる黒い砲身。
艦砲のような大きさで撃たれればひとたまりも無いのは見て分かる。
まぁ、その弾を私が対処するんだけどね。
報告は無いものの黒木の姿も無い以上警戒は怠らない。
『配置につきました。カウント5秒前…4、3、2、1…』
ナレーターとして校舎に残る美都さんが全員へ合図を送る。
剣を握る手が強くなる。
『作戦開始!』
声と同時に遠くで爆音が聞こえる。
火蓋はこちらの先制攻撃で切られた。
アドバンテージは取れたから有利なのは嬉しいが、何事もないのがいいけどそうも言ってられない。
目を瞑り展開したビットに意識を飛ばす。
こちらを狙う殺気・視線を捉え、万一攻撃が来たら受け止めるのではなく弾き飛ばす。
完全に貧乏くじだけど、ビットを持つ私にしか出来ない。
外にいるのに燃える音があまり聞こえないからいつもより静か。
ただ、ほんの少し風が強いだけ。
『バーテックス三体撃破!!』
嬉しそうに報告する声が端末から聞こえた。
まだ5分程度しか経っていないのに倒すなんて。
明らかにおかしい。
「各位通達。撃破したのは事実なの?」
オープンチャットにし、チーム全員に声をかける。
『はい。御霊の破壊と消滅確認しました』
『こちらも同じだよ』
『星屑も邪魔にならない程度でしたので集中出来ました』
「…黒木は」
誰も反応しないということは現れていない。
コンの裏切りもあるけど今は考えない方がいい。
「早めに帰投し…………ッ!!」
ほんの少し空気が震えるのを感じ取った。
その方向を向くと同時に赤黒い光が音もなく眼下に迫っていた。
「クソッ!!」
やはり4体目がいたか!
急いで結界の境界ギリギリに立ち武器を構える。
速度を落とさず貫通されたら終わりだけど賭けるしかない。
「耐えろよ…」
残り数メートルの時点で白いオーロラのようなものが目の前に現れた。
細長い弾は高速で回転しながら削るように結界の中へ入ってくる。
完全には無理でも、抑えられるなら…
「って思うよね」
「!?」
私は視線を声の方に逸らしてしまった。
讃州中学の制服を着た少女。
「やぁ、偽物。久しいねぇ」
数秒の余所見、それが私の運命を決定づけた。
ガラスが割れる音と共に私の視界は黒くなった。
やっと本編更新できる…
待たせてしまってすみません!
というか更新する度に謝ってるような…
遂に直接侵攻が始まる讃州中学。
本編だと絶対領域レベルで被害が無かったのでここらでいじるのもありかなと。
どこまで壊すかは展開をお待ちください。
そして!祝!!結城友奈は勇者である10周年!!!
最近ハマった身としてはそんなに続く物語なのかと思っていました。
原作の世界観も徐々に広がる中、今も二次創作でイフが語られていることを見るにファンから愛される作品であるのは納得しかありません。
その愛される作品をこれまでも、これからも愛せるよう誠心誠意書き綴ります!
だからよぉ…止まるんじゃねぇぞ…!(言いたかっただけ)