生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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一歩を踏み出す重さ

「「ああああーーー…」」

 

銀と2人で情けない声を出す。

いやだってね…

 

「貸切露天風呂、しかも源泉掛け流しって言ったらねぇ…」

 

 

切り札使用後のリハビリに務めている時に私抜きで勇者部お役目慰安旅行に行っていた。

グループチャットでみんなで楽しそうに蟹を食べる写真を送ってきた時はキレかけた。

だから、死人の目をした顔と一緒に病院食を撮って送り付けた。

その後チャットがお通夜状態になったのは言わずもがな。

1ヶ月が立ち、身体が動くようになった。

たまに痛みが来るけど生活に支障はない。

退院の日黒花さんの車に家まで送って貰った時

 

「明日から1泊で旅行行くぞ」

 

「は???」

 

「だーかーら、明日旅館予約したから準備しとけ」

 

「い…いやいやいや?今聞かされても…」

 

「あっ。アタシは事前に聞いてたんで準備完了です!」

 

「銀ンンンンン???!!!」

 

 

 

「まさかホンキで行くとは…」

 

温泉をすくって顔につけた。

朝から車で移動して、ご当地うどん食べて、観光地巡るという過密スケジュール。

これまでゆっくりする時間が無かったから貸切はありがたい。

貸切風呂は小さい所もあるけど、2人入るにはちょうどいい大きさ。

 

「何か新鮮だなぁ…」

 

「ん?」

 

「風呂いつも1人ずつだったから一緒に入るのが何か…恥ずかしい」

 

同性とは言え、知り合いと裸なのは気まずいというか意識しちゃう。

 

「ほほぉ…そういう割に立派なもの持ってるのに?」

 

銀の目付きが変わった。

まさに獲物に狙いを定める獣のような。

 

「とりゃァァァァ!」

 

温泉を揺らし私に襲いかかってきた。

 

「うえええええ?!」

 

飛びついた先は胸。

 

「どうしたらそんな大きくなるのか教えて欲しいですなぁ」

 

「このっ…セクハラァ!!」

 

何とか剥がそうと必死に抵抗する。

ちょっと待て、力強くないか?!

歳下なのに互角はヤバいって!

 

「いい加減に、しろぉ!!」

 

手加減をした肘鉄で制裁。

 

「いったーーー!」

 

「全く、急にどうしたのよ」

 

「ついやりたくなって」

 

ついって何だよついって。

痴漢する人の言い訳じゃないんだから。

 

「ほら、そろそろ上がらないと逆上せるよ」

 

「はーい」

 

不貞腐れ気味に銀は湯船から上がった。

その時、目に映ったのは程よく焼けた背中。

発達途中の小さな背中なのに何処か大きく感じる。

古傷なのか跡が残っている。

まぁあの経歴見たら納得するけどちょっと辛い。

 

「…背中流してあげるから」

 

「優しくしてよね?」

 

「私を鬼か悪魔とでも思ってる?」

 

 

部屋に戻ると黒花さんは浴衣でくつろいでいた。

下にインナーをつけてるけど浴衣姿を初めて見た気がする。

暑くないのかな…

 

「温泉入らないんですか?」

 

「んー…明日の朝一に行くわ。朝風呂でスッキリってね」

 

「黒花さん、今日は満漢全席って聞いたけど期待していい!?」

 

「そらもちろん!オレの奢りだから有難く食べろよ〜」

 

待っていたら部屋に料理が運び込まれた。

脂ののった肉、炊きたての白米、そして…

 

「蟹って対抗心燃やしてません?」

 

「お前なぁ…あんなの見せられて黙ってるわけないだろ?」

 

そこは激しく同意。マジで羨ましかったから。

部員に見せるために黒花さんが撮ってくれた。

一緒に入ればと提案したけど、『オレ入っても映ないだろ』と言われたから銀とのツーショットにした。

 

「これで良しと…」

 

「そんなのでいいのか?若い者が何考えてるか分からんな」

 

「そんな歳行ってないでしょうが」

 

「なんか姉妹みたい」

 

銀の一言を聞き、2人で顔を見合わせてしまった。

 

「「どこが?」」

 

「ツッコミとボケ具合とか考えが似てるとこ。あと今のシンクロも」

 

確かに仲の良さって言うならそうかもしれないけど。

 

「それでも姉妹はねぇ…?」

 

「うむ。せめて親子だな」

 

「ちょっとまてぇい。そこは否定してくださいよ」

 

「アハハ!2人ともほんと仲良いですね。アタシも弟がいて…」

 

和んでいた空間がピシリと凍りついた。

今なんて?

 

「アレ…何で知ってるんだろ…」

 

無意識に言った事らしく戸惑っている。

今まで色んな経験させたけどまさかこれで開くとは…

 

「ふむ…姉弟ってことか?」

 

真面目モードに入った黒花さんが問い詰める。

 

「多分?歳離れてた気がする」

 

「なるほど、例え記憶を失っていてもその感覚が出るって事は大切な人だろうな」

 

「うん…顔までは思い出せないけど、心が温かくなる」

 

優しい表情を浮かべている。

こんな顔初めて見た…

 

「そっか、銀…ごめん」

 

「え?何で謝るの?」

 

「いや…私が不甲斐なくて…」

 

銀は何も知らない中、ゆっくりと思い出そうとしている。

なのに私は全てを知っている。

黒花さんも同じだけど顔にすら出さない。

胸がズキズキ痛んで苦しい。

 

「まぁいい、答えはいつか出る。焦ることは無からな」

 

「そうですね…よーし!今日は夜更かしするぞ!」

 

「おいおい。ガキは早く寝ないと身体に響くぞ」

 

「えええー。ケチ〜」

 

「美穂。切り札で話がある、ちょっと来い」

 

「分かりました。寝てなくてもいいけど遅くならないでね」

 

銀に伝え部屋を出た。

 

エレベーターで下に降りてバーに連れてこられた。

 

「私未成年ですけど?」

 

「飲酒させるかよ、2人っきりになりたいだけだ」

 

カウンターに黒花さんが先に陣取りその横に座った。

 

「何に致しましょう?」

 

バーテンダーの男性が話しかけてきた。

 

「ソフトドリンクはあるか?」

 

「ご用意しております」

 

「ならコーラと」

 

「オレンジジュースで」

 

「かしこまりました」

 

バーで浴衣なの異質。

すぐに冷えたコップに入ったコーラとオレンジジュースが置かれた。

 

「まずは、お役目お疲れ様。乾杯」

 

「乾杯…」

 

カンと軽く合わせ飲んだ。

 

「はぁーーー…背徳感半端ないな」

 

「後で歯磨いてくださいよ。虫歯とか恥ずかしいので」

 

「お前はオレの母親かってんだよ」

 

「…切り札の話ってウソですよね」

 

私から本題を切り出してみた。

黒花さんは目を少し逸らしながら1口飲み話し始めた。

 

「美穂。話したきゃ話せよ」

 

「やはりですか…」

 

この人に隠し事はほぼ通用しない。

隠したつもりもあえて気づいてないフリをされ逆に騙される。

 

「まだ残ってるんだろ」

 

「鍵閉めて置いてあります」

 

「厳重だな。まさか冥土まで持ってくつもりか?」

 

「その位の気持ちです」

 

大きなため息をつかれた。

判断は任せると言っただけでそこまでやれとは思ってないだろなぁ。

 

「あのなぁ…そんなのことするなら捨てちまえ」

 

「その勇気があればもうしてます」

 

「だと思った。弱気になるとトコトン弱くなるもんな」

 

私の欠点なのは知っているけど直すのが難しい。

直したのは本当の私なのかなって毎回思っちゃう。

多分直したくない言い訳だろうけど。

 

「無理して溜め込んで後々気まづくなるよりかはサクッと言うのもアリだ。一区切りついたしな」

 

カランと氷が溶ける。

ずっとコップを握っているから手が冷たい。

 

「私に言う資格があると?」

 

「資格はなくとも言わないといけない理由がある」

 

「ですよね…」

 

腹くくるしかないのかな…

「言ってみます…」

 

「おう、お前の判断を信じる」

 

再び乾杯をし一気に飲み干した。

身体全体に冷たさが広がった。

 

 

「とまぁ…エンジョイしてきたのがオチなんだけどね」

 

温かいお茶を飲みながら旅行の話を燐と蛍に話した。

勇者でない2人には『トラックに吹っ飛ばされて死にかけた』と言っておいた。

根掘り葉掘り聞かれたけど。

今は蛍の家にお邪魔して女子会を開いている。

 

「楽しそうだね。いいなぁー私も温泉行きたいなー」

 

「来年は受験で忙しくなりそうだね。私も頑張らないと」

 

「蛍は真面目だね。勉強なんて宿題だけやればいいんだよ」

 

「それ美穂ちゃんだけだよ…」

 

蛍の家は元名家らしくかなり大きい。

しかも、山1つ持っているとか。

親は既に他界し、お手伝いさんが来てくれる。

蛍自身もするけど何分家が広すぎる。

何か親いない家庭多いな!?私もだけどさ!

 

「そういえばお祭りそろそろだね」

 

地域で行われる小さなお祭り。

蛍所有の山にぽつんと立つ神社を祭るとか。

 

「美穂も勇者部で参加するんだよね」

 

「そうだね。自由時間あるし終わったら合流しよっか」

 

一瞬紹介しようかと思ったけど後遺症もあるし変な印象与えたくなかった。

 

「ねね、美穂ちゃんって浴衣着るの?」

 

「着ると思うよ。多分…?」

 

スマホで連絡内容を確認する。

風先輩からは『夏らしい格好で!』との一言。

要は浴衣着てこいって意味だろうけどさ。

 

「でもないんだよね…」

 

「普通の家にはないから仕方ないよ」

 

「ふっふっふっ…」

 

燐が演技っぽく不敵に笑う。

 

「ここにあるじゃん!」

 

「えーっと…?」

 

「何が?」

 

「もう2人ともどんくさいって!」

 

机をバンと叩く。

お茶が零れかけ急いで押さえる。

 

「蛍ちゃん家に今いるならここで借りちゃいなよ!」

 

確かに浴衣くらいなら持ってそうだ。

しかも蛍は浴衣着こなしてるのを度々見る。

 

「でも1つ問題あるよ」

 

「え?」

 

「蛍。置いてある場所分かる?」

 

「えーと…ごめんね、分からないの…」

 

「ほらね?」

 

バカでかい家でお手伝い付き、把握できるはずが無い。

 

「ならみんなで探そうよ!探検みたいで面白そう!」

 

行動思考が友奈と似てるんだよね。

陽キャ特有の考えなのかな。

 

「まぁ楽しそうだしいっか」

 

「美穂もやるの?」

 

「お宝ほんとにありそうじゃん。ワクワクするねぇ〜」

 

「えええ…もう仕方ないなぁ…」

 

「「やったーーー!!」」

 

こうして女子会は探検会に変更になりました。




本来なら水着イベントですがまぁ急に治って入るのも不自然なのでカットしました。
その分スケベイベントを追加したのでお許しを。
少しオリ展開続きます。

そしてUAが1000超えました。
今までクロスオーバーばっか書いていたので行くのスグだった感覚でしたが改めて地道な努力の大切さを実感しました。
頑張りますのでどうか応援よろしくお願いします!
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