生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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友のため

突然、東郷さんから家に来て欲しいと言われた。

初めて行くから住所を教えて貰って行ってみる。

着いたらそこそこ大きく、蛍の家と同等位だ。

家に入ると友奈と風先輩が既にいた。

 

「どうしたの?急に私を呼んで」

 

「今から、私は首を斬ります」

 

え、今なんて?

東郷さんは迷うことなく短刀を抜き、首に押し付けたが途中で止まった。

 

「何やってんのよ!精霊が止めなかったら…」

 

精霊が出てきてたのか。

ってそんな所関心してるんじゃなくて!

 

「この数日で、私は10回以上自害を試みました。あらゆる手段で行いましたが全て精霊が止めました」

 

ノートを渡してきたので見てみる。

 

「切腹、首吊り、飛び降り、服毒…正気の沙汰じゃないよ…」

 

行動に起こすだけでも勇気いるのにそれを10回もやるなんて…

 

「何が言いたいの…」

 

「勇者システムを起動していないのに精霊は私を守った。独断で、勝手に。つまり、精霊に勇者の意志は関係ない。これは私たちを死なせずに戦い続けさせるための装置だと思う」

 

「で、でも…精霊が私たちの命を守ってくれるなら、悪い事じゃ…」

 

「勇者は決して死ねない。乃木園子の言葉が真実なら私たちの後遺症が治らないというのも、事実」

 

正直ドン引きしている。

情報が開示されていないのに仮説を実行する。

狂っている。

一体何が東郷さんを動かしているの…

 

「そんな…う、嘘よ…」

 

「風先輩!」

 

音を立てて風先輩が崩れ落ちた。

その姿を見ても東郷さんはやめない。

 

「大赦は勇者システムの後遺症があるのを知っているはずです。私たちは、騙されていたんです」

 

真意はともかく事実を述べている以上、私は止めることは出来ない。

 

「じゃ、じゃあ…樹の声は…もう、二度と…」

かける言葉すらない。

 

「知らなかった…知らなかったの…人を守るため…身体を捧げて戦う…アタシが樹を…樹を勇者部に入れたせいで…!」

 

私は静かにその場を後にした。

2人は止めなかったから問題は無いのかな。

私は何かを失う経験はあるけど物理的に失った事はない。

あくまで治りにくい怪我程度。

夢のある中学生には荷が重すぎる。

同じ戦場に立っても見る目線は異なる。

彼女たちの気持ちは汲み取れても慰めることは出来ない。

 

「いやになるよ…」

 

私はそう呟き、東郷さんの家を出た。

 

部活動は散々だった。

風先輩と東郷さんは無断で、夏凛は連絡があって大赦の仕事で休み。

私が何とかやりくりしてるけど活気がない。

メンバー的にやれるものが限られている。

 

『お姉ちゃんが迷惑かけてすみません』

 

2人には未だ言っていない。

友奈と相談して決めたから。

 

「元気なんだからまた落ち着いたら戻ってくるよ!」

 

「前向きに、ね」

 

風先輩の乱れ具合を見ちゃうと話す度に罪悪感が生まれる。

 

「とりあえず今日はここまで。油断してるとあっという間に夜だからね」

 

帰ろうと支度をしている時に3人の端末が鳴る。

 

「メール?大赦から…って、風先輩が!」

 

「なるほど…ね」

 

中身は風先輩が暴走したとの一報。

夏凛の仕事って監視なのかな。

 

「とにかく止めなきゃ!」

 

即座に変身し窓から出ようとする友奈と樹ちゃん。

 

「樹ちゃん待って!」

 

2人とも私を見てくる。

あの精神状態じゃ説得力だけだと足りない。

 

「ごめん、友奈先行っててくれる?」

 

「…わかった。行ってくる!」

 

友奈の切り替えの早さは人一倍。

何かを察して先に外に飛び出た。

 

「こんな時に呼び止めてごめんね。すぐに終わるから」

 

焦りと疑問が混じった顔で私を見てくる。

大丈夫、察してくれればすぐ終わるよ。

 

「今の風先輩は恐らく樹ちゃんの為に動いていると思うの。私にはそこまでする理由は分からないけど…」

 

家族愛ってのは私には縁のない話だけど。

それでも私は樹ちゃんの肩を掴んだ。

 

「今の気持ちを伝えてあげて。言葉じゃなくても伝わるものはあるから」

 

これで分かるかなぁ…

少し目線をそらしていたけど、目を見開いて再び私を見た。

どうやら気付いたっぽい。

 

「お礼はいいよ。先行ってるね」

 

変身し、逃げる様に窓から飛び出た。

これで風先輩は止めれそう。

マップを頼りに真っ直ぐ壁に向かって飛ぶ。

私にきたメールは大赦からじゃない。

たまたまタイミングが同じで風先輩が暴走しているのは友奈の表情と声質で判断した。

本当は…

 

―――――

 

私は1人壁の上にいた。

乃木園子と接触し、世界の真実をこの目で見て知った。

外の世界は燃やし尽くされ、星屑が集まりバーテックスを作っている。

ウイルスで人類を滅ぼしたのも嘘。

そこで星屑に襲われた時気付いた、この世界は狂っている。

だから私が、終わらせる。

銃を出し地面に向ける。

苦しむならその役割そのものを無くしてしまえばいい。

その為に…

 

「壁を壊すの?」

 

「邪魔しないでください」

 

美穂さんが勇者服に身を包んで立っていた。

顔だけ向け、銃身は下に降ろしたままにする。

風先輩が暴走している一報だけなのに、一体いつ気付いたの…?

 

「東郷さんは世界の破壊者にでもなりたいの?」

 

「壁の外を見てください。そうすれば、私の気持ちも――」

 

「知ってるよ」

 

「えっ…?」

 

「外の世界、あれ地獄みたいだよね。私も初めて見た時驚きよりも恐怖を感じたから」

 

壁の先を見ながら思い出を語るように話す。

 

「なんで…知っているの…」

 

「2年前、先代勇者の活動可能範囲を調査するために行ったからね」

 

2年前は私と乃木園子、そして三ノ輪銀がお役目を果たしていた時期。

その前から美穂さんは知っていた。

しかもその事を最後の最後まで言わなかった。

 

「…あなたも、裏切ったんですね」

 

「違うよ。言う必要が無かっただけ」

 

あたりが暗くなる中、美穂さんの青い目が心に刺さる。

 

「そうですか…」

 

裏切られたのに涙が出ない、あるのは怒りだけ。

複数の銃を宙に展開する。

 

「ここで仕留めます」

 

「だよね。私も初めから対話で解決なんて思ってないよ」

 

美穂さんは右手を前に伸ばし剣を出した。

にこやかな笑顔が消え、鋭い眼差しが私に向けられた。

いつも優しく接してくれた美穂さんがそこにはいなかった。

 

「東郷未森、お前を殺す」

 

私の前に死神が現れた。

 

―――――

相手は遠距離型、つまり近づければこちらに勝算はある。

ただ、3回の満開を経験している上バリアがあるのが問題。

更に武器を把握しているだろうから、1つのミスが命取りになる。

 

「フッ!」

 

姿勢を下げ一気に攻める。

遠隔型が私の進行方向に弾を放つ。

私は右足でブレーキをかけ、左にサイドステップをして軌道をズラす。

東郷は既に構えていたライフルを撃ってきた。

さすがに避けれないので膝をつき剣の面でガードする。

衝撃で全身が痺れる感覚が走る。

 

「本気か…!なら!」

 

私は懐から銃を取り出し撃つ。

勇者用のではなく対人向けの。

バリアが自動的に展開され弾かれる。

その間に後ろに遠隔型が来た。

 

「そこだ!」

 

振り向きながら剣を振るった。

遠隔型を横に切り伏せる。

爆発するかと思ってたらバーテックスと同じように光となって消えた。

 

「そんな!精霊を傷つけるなんて!」

 

どうやらダメージは与えたらしい。

 

「機能してるっぽいね。見えないのが残念だけど」

「何をしたの!!」

 

「勇者に対抗するため私に与えられた力、と言えばいいかな」

 

「!!」

 

この力そのものを大赦は知らない。

黒花さんや一部の職員のみに開示されているカウンター。

本来対人用の力なんてあっちゃいけないんだけどね。

 

「はぁッ!」

 

想定外の事で止まった東郷にタックルする。

 

「キャッ!」

 

2人で倒れ込むけど、上に乗っている私が有利。

遠隔は東郷ごと撃ち抜かないといけなくなるし、手元から銃を出しても身体を近づけているから対応しにくい。

そのまま剣を喉元に突き立てる。

 

「もう終わりだよ」

 

「いいえ。私の勝ちです」

 

「何を言って…」

 

その時、爆音が鳴り響き、壁が揺れた。

 

「そんな!」

 

見なくても最悪の事態となったのは分かる。

でも一体どうやって…

 

「来るのは想定外でしたけどいい時間稼ぎになりました。ただ、威力が弱くなってしまいました」

 

「まさか…さっきの!」

 

遠隔型を事前に飛ばしていたなんて。

こんな時思うのは変だけど羨ましいな!

 

「目的は達成しました。あなたは私を殺す理由が無いのでは?」

 

「クッ…!けど、これ以上破壊させない!」

 

ここで解放してもまた穴を大きくさせるかもしれない。

ならここで仕留めないと!

剣に力を込め押し込む。

バリアが展開されているけどゆっくり首元に近づいている。

 

「あの地獄を見てもなんで今を守ろうとするんですか!」

 

東郷は私の顔を見て投げかける。

その顔は泣きそうなくらい歪んでいた。

 

「確かにこの世界は終わっている、どうしようもないくらいに…それでも!」

 

その先を言おうとした時、空から一筋の光が横に落ちてきた。

爆風で吹き飛ばされ東郷とバラバラになった。

東郷がまた遠隔を?それにしても威力が違う。

 

「よかった〜。間に合ったね」

 

この危機的状況に似合わないようなふわふわした言葉遣い。

なのに身体が強ばる。

 

「乃木園子」

 

東郷は隣にふわりと降り立った少女を睨みつける。

 

「そんな怖い顔しないでよ。ずっとわっしーの味方だよ」

 

あれが乃木園子。

乃木家の名を冠するってことは相当の権力者、そして先代勇者。

身体のあちこちをシステムで補ってて、もう義手義足のレベル。

 

「初めまして、出来ればこんな所で会いたく無かったけど」

 

「高木美穂ちゃんだね。噂は聞いているよ〜」

 

「へぇ、そこまで届いてるなんて光栄だね」

 

まさか筒抜けとはね…

もしかして黒花さんが漏らした…わけないか。

 

「私は穴を大きくします」

 

「いってらっしゃい~」

 

「簡単に行かすとでも!」

 

再び近づこうとしたけど地面から槍が大量に生え、止まらずるを得なかった。

 

「相手は私だよ」

 

感情の無い眼差しを私に突き付けた。

 

「なんで味方をするの!」

 

「友達だから。例え記憶になくても私にとっては大切な存在だもん」

 

「その我が儘で世界が消えるんだよ!!」

 

「死ねない辛さを知らないくせに良く言うね」

 

私のシステムを知っている?

どこまで見透かしてるんだ…

 

「それじゃ始めよっか。私を楽しませてね」

 

光の無い笑みを浮かべながら襲い掛かって来た。




1期の山場です。
今回は園子を敵側にするという激ヤバルートを採用。
こうでもしないと東郷さん一人に対する負担が増えてしまうので。
ラスボス級対急造品とか無理ゲーじゃね?って思いながら書いてます。
でもヒーローは遅れてやってくるもんよ!
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