生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

25 / 126
帰ってくる日常

人類滅亡の危機を回避し数日が経ち、銀も目覚め回復したと判断され退院をした。

精密検査の結果、私の臓器に損傷は見当たらないとの事。

家に帰り現在の状況を黒花さんから聞いた。

戦闘終了後、勇者部全員を病院に搬送し検査をした。

結果、全員の命に別条は無かった。

同時に全ての端末を回収され私のは中身がぶっ壊れ使い物にならないらしい。

現実への干渉は大規模山火事だったけど奇跡的に人的被害は抑えられた。

そして一番大きな出来事と言えば、皆の供物が返ってきた事。

神様も返せるなら取るなって話だけど。

不自由はあるとはいえ日常が戻りつつあるのは喜ばしい。

ただ1つを除いて。

 

 

「ここだね」

 

私はある病室の前にいた。

ノックをし扉を開ける。

 

「お邪魔したかな」

 

「今は大丈夫」

 

2人に気を使いゆっくり閉める。

東郷さんが座りながら私を見た。

 

「車椅子が寂しく感じるね」

 

脇には松葉杖が置いてあった。

そこまで回復してるなんて少し驚き。

 

「そうね、もう失うのは嫌だから…」

 

ベットの上に目線を移す。

そこには友奈がいた。

唯一供物が返って来ないし、身体ではなく魂そのものを持ってかれた。

今は電池の入っていない人形のようにただそこにあるだけ。

 

「はい、差し入れ。ロクに食べてないでしょ」

 

下で買ったスナックを差し出す。

 

「ありがとう。いただくわ」

 

受け取ってくれたけど食べなさそう。

 

「似ているなぁ…」

 

「何と似ているの?」

 

「かつての私」

 

私の記憶にある僅かな空白の時間。

そこだけデータが削除されているように思い出す事が出来ない。

黒花さんから聞いたけど私も今の友奈みたいだったらしい。

 

「その時も助けてくれたのは思い出だった。もう薄れちゃったけど家族とのね」

 

首にかかるネックレスを握る。

イメージとしてあるのは暗い世界に指す一筋の光。

そこに向かって手を伸ばしたら返って来れた感じ。

 

「傍にいるのも大切だけど起きた時にやつれてたら驚いちゃうよ」

 

「フフッ」

 

「あっ、やっと笑ってくれた。ここ最近怒るとこしか見てなかったからね」

 

園子との接触後笑った所を見ていない。

切羽詰まってたのもあるけど表情が硬いのはこっちとしても嫌な気分だった。

 

「顔が見れて良かった。先帰るね」

 

2人に別れを告げ部屋を出た。

生きているんだから焦る事はない。

けど…

「帰ってきてね」

 

この想いは皆が感じているだろうな。

ただ祈るしかできない。

 

トークで東郷さんが皆で押し花を作ろうと提案してきた。

私の経験と友奈が好きな物を合わせた案だけどいいと思った。

そこで1つ問題が発生した。

 

「私のモチーフって何だろ…」

 

正規の勇者は服にモチーフの花があるけど私のは無い。

これは開発者に聞くしかない。

早速黒花さんに電話した。

どうせ無いとか言うんだろな。

 

『あるぞ』

 

「あるんですか!」

 

まさかのある発言。

 

『てかモチーフ無いならそんなカラフルにしないわ』

 

「確かに、てっきり趣味かと…」

 

『失礼な!』

 

正論で返された。

そもそも黒花さんがツッコミなのは珍しい。

 

「で、私のモチーフは何ですか?」

 

『あぁ、それは―――』

 

 

当日、それぞれ作った押し花のしおりを持参しお見舞いに来た。

反応は無くても声をかけていく。

黒花さんもしてたっけ。

 

「高木モチーフ分かったの?」

 

無かった保険として風先輩には言っておいた。

 

「分かりましたよ。正直このモチーフは友奈につけるべきだと思いましたけどね」

 

私は友奈の手に置く。

黄色とオレンジの花があしらわれたしおり。

 

「マリーゴールド。別名『太陽の花』。込められた言葉は―――」

 

 

 

 

 

『勇者』

 

 

 

 

 

 

皆動けるようになり始め部活も再開した。

今は文化祭で発表する劇の準備中。

私は実行委員会との打ち合わせと機材チェックを任されている。

本当は風先輩の仕事だけど役に集中して欲しかったので引き受けた。

おかけで書類とにらめっこする日々。

 

「なんでこう複雑なのかなぁ…」

 

「一応役はあるけどやらないでしょ」

 

「友奈の事だからね。根性で帰ってきて『やりまーす!』って言いそうだし」

 

今居ないだけで友奈もれっきとした部員。

だからみんなで最後の最後まで残しておく方針にした。

 

「それに私には裏方がお似合いだしね」

 

コーヒーを飲みながら書き上げる。

 

「それ零さないでよね」

 

「フラグ立てるのやめてもらっていいですか?」

 

「余裕ぶってて零すなんて定番中の定番でしょ〜」

 

「暗記終わったなら手伝って欲しいんですけどねぇ…」

 

「忙しいのでパス」

 

「そうですか…ひじょーーに残念ですが樹ちゃんへの投資はここまでと…」

 

「ごめんなさい。なんでもやります」

 

「手のひら返しが早い!」

 

「情けないよお姉ちゃん…」

 

樹ちゃんの夢が歌手と知り、オーディションに出した音源を聴かせてもらった。

上手いって言葉じゃ現せない、心を響かす歌ってこれの事なんだって感じ。

さらに黒花さんに聴かすとまさかのどハマり。

機材の貸し出しを受け持ってもらうという事態になった。

まぁ機材の有無より樹ちゃんの素質が凄いんだけどね。

 

「東郷さんは友奈の所に?」

 

「毎日行ってるらしいわね」

 

補助無しで動けるようになるまで回復したからフットワーク軽くなったろうな。

 

「ん、その東郷から連絡…スピーカーに?いいけど」

 

何かあったのかな。

 

『友奈ちゃんが…戻ってきました!』

 

一瞬の沈黙の後、歓喜が部室を包んだ。

代償として書類がコーヒーでお釈迦になったけど気にしなかった。

 

退院し帰ってきた友奈は東郷さんに押されながら車椅子に乗っていた。

いつも通りの元気っぷりにひどく驚いた。

予想通り役を全うする気満々だったが意識が戻ってすぐ台本の暗記をしていたガチっぷり。

味覚も戻り勇者部全員でうどんを食べに行った。

特に味が変わってないはずなのにいつもより美味しく感じた。

問題は足の方だったけどまさかの本番前に完全復活。

不屈の精神とは言うけどここまでとは思わず困惑してしまった。

そして本番当日。

 

「最終確認終了、いつでも行けます」

 

作動確認を終え場所を夏凛に託す。

これで私の仕事は終わり、後はみんなに任せる。

銀に私出ないけど見に来るって聞いたら全力で行くって言ってたから燐と蛍も一緒だろな。

どうせ黒花さんもいるに決まってる。

 

「よしっ!東郷始めちゃって!」

 

「分かりました。友奈ちゃん頑張って!」

 

「行ってきます!」

 

ブザーを鳴らし始める。

劇は順調に進みラストシーン。

何処か重なる気がするけどそれがまたいい。

少し感動していた時、友奈のバランスが崩れる。

まさか、本調子じゃなかったの!

裏にいた4人が舞台に出る。

 

「えへへ…ちょっと目眩が…」

 

「全く…」

 

この後どうオチをつけるか考える。

このままやる訳にはいかないし…

 

「かっこよかったぞーーー!」

 

突然、客席から大切な人の熱い声援が聞こえた。

それに続いて会場から割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

こりゃ締めるしかないか。

私はみんなの耳元に話しかけ軽く打ち合わせをする。

センターに友奈を立たせ横一列に並び手を繋ぎ上にあげる。

そしてタイミングを合わし声援に応える。

 

『ありがとうございました!!!』

 

お辞儀をした瞬間更に拍手が強くなった。

トラブルを乗り越え無事終える事が出来た。




1期はここで終わりですがストーリーはまだ続きます!
つまり、オリ展開です。
自分なりのベストを尽くして行きます!

1章の感想について

  • パーフェクトだ!
  • 止まるんじゃねぇぞ…
  • 貴様、やる気あるのか?
  • (無言の腹パン)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。