生者に夢を、死者に花束を   作:薫製

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新生勇者部

文化祭を終え落ち着いて学生生活を謳歌できるようになった。

テストも近々あるし頑張らないと…

 

「美穂ちゃんって双子?」

 

「ブッ!!」

 

燐から根も葉もない発言を聞いてお茶を吹き出してしまった。

さらば私の日常…

 

「ゲホッ、ゲホッ…ええ!?」

 

「あのね、隣のクラスに転校生来たって話聞いてる?」

 

「風の噂でね」

 

「今日来てて顔みたら似てるんだよ…美穂ちゃんに」

 

私と似ている子?

クローンな訳無いしなんだろ…

今は見に行った方が早い。

私は燐の言葉が真実かどうか見定める為に隣のクラスへ向かう。

廊下の窓から多くの生徒が見ていて混みあっている。

しかも隣って友奈のクラスじゃん。

人混みをかき分け中を見てみる。

そこにいたのは

 

「スピ~…」

 

呑気に寝ている乃木園子だった。

 

 

「勇者部、入部希望の乃木園子です~」

 

マジで来たよ…

みんな驚いているけど私の心情はかなり複雑だった。

 

「どうしたのよ美穂。そんな眉間にしわ寄せて」

 

「あ、あぁ…そんな顔してた?ごめんごめん」

 

夏凛に指摘され笑顔で誤魔化す。

喉元に槍を突き付けられた時の目が頭を過ぎる。

蛇に睨まれた蛙ってのを実感した気分。

 

「たかみー元気にしてた~?」

 

「…ん、それ私の事?」

 

「そうだよ~。高木美穂だからたかみー」

 

なんでそうなる??

 

「そのっちは変なあだ名をつけるのよ」

 

よし考えるのはやめよう、あの時とキャラが違いすぎてパンクしそう。

ちなみに友奈はゆーゆ、風先輩はふーみん先輩、樹ちゃんはイッつん、夏凛はにぼっしー。

夏凛の絶対東郷さんが漏らしたに違いない。

 

「おかげさまでね。誰かさんのお陰で風呂が地獄だったけど」

 

治ったとはいえ傷が沁みて痛かった。

あれは辛いってレベルじゃない…

 

「ごめんね~。だからお詫びの品持ってきたよ」

 

園子は鞄から猫の枕を取り出し渡してきた。

リアルなやつではなくゆるキャラっぽいの。

 

「…なにこれ?」

 

「サンチョって言うんだよ~。寝心地も抱き心地も最高だよー」

 

「は、はぁ…ありがとう?」

 

「高木の返答が全部疑問形になってるわね…」

 

私はサンチョを抱える事にした。

おう?意外とモコモコして良さげ。

 

「乃木が来てくれたのは嬉しいけど残念なお知らせがあるのよ」

 

急に真面目モードに入る風先輩。

 

「この部活に顧問がつく事が決まったの」

 

その判断は無理もない。

大赦を壊そうとするわ、壁壊すわ、神様くるわ、神の逆手いるわと危険人物が集まっている。

また野放しにすると今度は本気で世界滅びそう。

 

「妥当な判断ですね。問題はいつ、だれが来るかです」

 

「誰かは分からないけど今日来るって大赦から連絡が来たわ」

 

「危機感持ってるんですかね」

 

それでも急過ぎる。

端末が無いのに何を警戒するんだろ。

私も修理出してるし常に黒花さんの管轄だ。

 

「どんな人でもアタシが皆を守るから。気になったら何でも言って」

 

東郷さんの公開自殺未遂の時も勧誘したのを後悔してたっけ。

 

「『悩んだら相談』。それは風先輩もですからね」

 

「え?」

 

「そうね。また溜められて大赦壊されたら擁護できないし」

 

「困ったらみんなで考えればいいんですよ!」

 

「そのっちもいるし安心ね」

 

「頑張ちゃうぞ~!」

 

「お姉ちゃんだけの問題じゃないよ」

 

皆変わったと他人事のように思う。

大人へ向かっているのかな。

 

「ありがとう」

 

風先輩の目が潤んでいる。

ほっこりした雰囲気の中コンコンと扉をたたく音がした。

部室に緊張がはしり皆の顔が引き締まる。

 

「どうぞ、お入りください」

 

風先輩が声をかけ、静かに扉が開く。

黒のスーツに身を包み、白い髪に赤い目。

そして特徴的な火傷跡。

 

「お久しぶり勇者の皆さん。大赦の命に従いここの顧問を務める事になった黒花千早です。以後宜しくお願いします」

 

2人を除き驚愕していた。

目元を緩め物腰よさそうにその人は話す。

 

「活動内容は把握してます。私はただ危険行動を起こさないか見るだけなので普段通り活動してください。さっそくですけど質問ありますか?」

 

「「はーい」」

 

私と園子が同時に手を挙げる。

 

「…なんでしょう?」

 

「気持ち悪いです」「似合ってないよ~」

 

「ちょっと2人共!」

 

風先輩が怒り気味に言ってきた。

まぁ歳上の人に向かって開始早々罵倒するなんてありえない。

仲良いいなら別だけど。

 

「フッ…ハハハ…アハハハ!!」

 

髪を手で掻き上げながら急に笑い始めた。

あーあ、ドン引きしてるし樹ちゃん風先輩にしがみついてるよ。

 

「そりゃそうだ!いやぁ、柄じゃない事はやめた方がいいな!」

 

いつも通りの口調に戻って少し安心した。

人相悪くなったけどこれがデフォルトだから皆怖くてごめんよ…

 

「まずは謝罪してください、黒花さん」

 

腕を組みながら黒花さんを睨む。

 

「怖がらせて申し訳ない。キャラ作りが甘かったのを反省しなくては」

 

「多分謝る理由が違うと思うよ~」

 

「えーっと…どういう関係?」

 

完全に周りを置いていったのに気づき補足を入れる。

 

「私は黒花さんが身元引受人でちょくちょく会ってて」

 

「よく話相手になって貰ってたね~」

 

「あと言いたくないけどこの人が機材提供者ね…」

 

「てことはそこで怖がっているのが樹ちゃん?」

 

「はい…」

 

風先輩に背中を押され黒花さんの前に立つ。

まるで今にも食われそうな表情だけど。

 

「君の歌声を聞くと心を強く震わせられる。1ファンとしてその道を支えさせて欲しい」

 

黒花さんは優しく話しかけ頭を撫でた。

 

「部長さんも頑張ったな。オレにその荷物分けてくれ」

 

「黒花さん…」

 

「無理に言わなくていいぞ。先生とでも呼んでくれ」

 

夏凛の前に立つけど話しかけずジッと見ている。

 

「なるほどな、アイツが堕ちる理由も分かる」

 

「アイツって誰?」

 

「きっとお兄さんの事だよ」

 

「ご名答。アイツ…春信の先輩といった所か」

 

「ええ!兄がお世話に、なりました?」

 

黒花さんの人脈は異常とは聞いてたけどここまでなんて…

 

「そんなかしこまる事はないさ。バカ真面目な所は似ているけどな」

 

今度は東郷さんに話しかける。

 

「お前が今回の首謀者か」

 

声が更に低くなり威圧的になった。

 

「そうです。私がやりました」

 

負けじと正面から受け答えをする。

その目は揺らぐことはなくジッと見ていた。

 

「その危惧は正しかった。だがやり方が間違っている」

 

汚い大人が隠してきたものを知り絶望しない訳ない。

あまりにも直線的過ぎただけ。

 

「1つ忠告しておく、責任に押しつぶされるなよ。この問題は全人類が背負う業だからな」

 

だんだん口調が優しくなっていた。

きっと黒花さんなりのアドバイスだろうな。

 

「…ありがとうございます」

 

横にいた友奈に目線を合わせる。

 

「お前さん不死鳥の化身だったりする?」

 

「えええ!そんな事無いと思いますよ!」

 

「だよねぇ、あの状態からの短期復活は衝撃でね」

 

「みんなのお陰です。だって勇者は挫けないから!」

 

真っ直ぐな目で黒花さんを見つめる。

 

「…かっこいいな、その生き方」

 

黒花さんは眩しそうに目を少し細めていた。

最後に園子の前に来た。

 

「くろっち~」

 

甘える様に名前を言っている。

てかくろっちって…

 

「お帰りお嬢…いや、園子」

 

「やーっと呼んでくれた。何年かかったの?」

 

「1年と数か月だ。約束は守ったろ」

 

「それでも遅いんよ~」

 

何を約束したのやら。

でも黒花さんは約束を破る事は無い。

ルールはガン無視するだけ。

 

「なーに1人廃れてすんだ?」

 

なぜか話しかけきた。

 

「別に話す事なんてないですよ」

 

「ふーん…ここで皆さまに美穂の秘密を言いまーす!」

 

「なっ!!」

 

「実はこう見えてモコモコした物が―――」

 

「言うなぁぁぁぁ!!」

 

咄嗟に黒花さんに飛び掛かる。

口を塞ごうと手を伸ばすも顔を逸らし避けられる。

 

「おうおうおう。そんな顔赤くしてどうした?」

 

「うるさいバカ!それ以上言うな!」

 

「なんだよ。1人秘密隠すのはズルいだろ」

 

「言って良いことと悪いことがあるでしょうが!」

 

組付きながら言い合う。

顔から火が出るくらい熱いし思考もぐちゃぐちゃ。

園子がメモっていたり、風先輩が大笑いしているのが見えた気がするけど今は―――。

突然、勢いよく扉が開いた。

 

「いつになったら呼んでくれるんですか!!」

 

「え―――?」

 

扉を開けた人物を見て私の怒りが一瞬で冷めた。

部屋の空気も下がりメモ帳が落ちる音が響く。

そこには銀が讃州中学の制服を着て立っていた。

 

「この状況だぞ?呼べないだろうが」

 

「話聞く限り自業自得ですって」

 

「はいはい。美穂一旦離れろ」

 

あまりの衝撃で力が抜けすんなりとどかされてしまう。

 

「んじゃ自己紹介を」

 

「この流れで!?無茶苦茶ですねホント!」

 

一呼吸置き

 

「三ノ輪銀です!明日から1年として転入します!あと入部希望2号です!」

 

「は…はぁぁぁぁ!?」

 

情報量がまた多い!

黒花さんの顧問は予想してたけどこれは無理よ!

 

「いやいやいや、ええ…?2人は聞いて――」

 

話を聞こうとしていた2人は既に銀に抱き着いていた。

 

「おわっ!ちょっと待てって!色々当たってるから!」

 

センシティブ発言だけど逆に強くなっている気が。

 

「本当に銀なのね!」

 

「…そうだよ。ただいま須美、園子」

 

「いっつも遅いんだよミノさんは…」

 

「感動の再開はそこまで。情報過多で壊れそうなのが1人いるから」

 

友奈の目が病室にいた時のような目になっていた。

難しい話苦手だもんね…

というかこれだけだと私も混乱しそう。

 

全員を席につかせ黒花さんと銀だけが黒板の前に立つ。

 

「まず銀が樹海に入れるのは知っているな?」

 

それぞれ無言で頷いた。

 

「それじゃ生前の話をするとしようか。これはお2人さんに任していいか?」

 

目線を園子と東郷さんに振る。

当事者から聞いた方が分かりやすいし嘘がない。

 

「分かりました。これは神樹館学校に通っていた3人の小学生が紡ぐ物語です」

 

東郷さんが語り始める。

所々園子が補足したけど記憶を無くしたのが信じられないくらい丁寧だった。

そして銀の最後と満開した後の末路を話し終わる。

 

「大橋が壊れたのって…」

 

「うん、樹海の侵食が現実に反映された結果」

 

大橋の事故に私は関わっていないけど先代勇者の影響と聞いていた。

 

「そうなのね…」

 

風先輩の顔が悲しそうに見えた。

気になったけど掘り下げる事はしない。

触れてはいけない気がしたからね。

 

「次は美穂、出会いの部分だけ話せ」

 

「分かりました、と言っても話すことは少ないけどね」

 

一応私目線での話をした。

まぁ部屋に湧いてきましたってのがオチだからね。

 

「不思議…」

 

友奈がボソリと呟く。

ホント不思議な出来事なんだよね。

発生理由も根拠も無い。

 

「状況を把握してもらった状態でオレの話を聞いて欲しい」

 

ゴクリと唾を飲み込む。

 

「結論から言おう。()()()()()()()()()()

 

え、今なんて?

銀が精霊?

 

「ちょちょちょ!?アタシが精霊ィ!?」

 

本人ですらこの驚きっぷり。

質問攻めになりそうな空気を黒花さんは両手を掲げ落ち着かせる。

 

「根拠1、美穂に精霊バリアが付与された。システムに関わる身として言うがバリア搭載は想定していない。それなのに先の大戦で発現した。しかも赤色の」

 

「私も見たよ。あるとは思わなかったけどね」

 

てっきり裏機能でもあるかと思ってたから否定された事にびっくり。

 

「根拠2、銀をこっそり精密検査にかけさせてもらった。その結果、99%本人と判断された」

 

数値上本人なのは確定。

でも、肉体が消滅してるのにそのまんまって変だ。

 

「この2つを合わせ思ったのが銀の葬儀だ。あの時、魂を英霊として昇華させこの四国を守ってもらう儀式も兼ねていた」

 

「まさか…!」

 

「そう、神樹に認められ勇者を護る精霊として再度生を得た。コンセプトが同じである美穂にはピッタリだろ」

 

精霊とはその人物に合うものを神樹が勝手に選んで与えられる。

しかも出てきたのは初戦の夜。

筋は通っている。

 

「なら記憶が無くなったのに園子と接触して回復したのはどう説明するんですか?」

 

「おいおい、オレは神様じゃないんだぞ。細かい所までは考えが回って無いわ」

 

「すみません。つい勢いで…」

 

「今の話は確信とまではいかないが大筋合っていると思う。けど精霊だから敬うとかはするなよ。一応今を生きる人なんだから」

 

要は特別視はするなって話。

まぁする人はいないと思う。

 

「もうこんな時間か、遅くまで付き合ってごめんな」

 

気づいたら夕日が部室に差し込んで来ている。

色んなことが起こりすぎて時間があっという間に感じる。

 

「今日の活動は終わり。早く帰ってゆっくりしろよ〜」

 

「風よりしっかりしてそうね」

 

「顧問だから仕方ないけどアタシの立ち位置が危うい…」

 

「変な対抗心燃やさないでよ…」

 

「頭の中まだこんがらがってるよ〜」

 

「大丈夫。すぐわかるよ」

 

「おっと、美穂ー?」

 

突然黒花さんに呼び止められた。

 

「なんですか?」

 

「銀今日東郷の家に泊まるってさ」

 

「アタシ聞いてないけど!」

 

「今聞いた」

 

「ズルい!」

 

咄嗟に考えついたイベントなんだろな。

名指しされた東郷さんは満更でもない顔。

奇跡の再会を邪魔するなんて私には出来ない。

なら答えは1つ。

 

「いいよ。行ってきなよ」

 

「へ?」

 

「空白を埋めるくらいの思い出作ってきてね」

 

「美穂…」

 

「銀の事よろしくね」

 

「えぇ、任せて」

 

「私も泊まるから後で写真送るよ〜」

 

「それはいいねー」

 

私は銀を2人に預け帰ってきた。

久しぶりに部屋が広く感じる。

それだけ銀の存在が大きいんだろな。

 

「お疲れさん」

 

「なんで黒花さんがいるんですか?」

 

自然に着いてきてソファにどっかり座っている。

 

「ひとりじゃ寂しいだろ?だからオレが泊まる」

 

「もう勝手にしてください…」

 

呆れてものも言えない。

私はフラフラとキッチンへ向かう。

 

「待てって。今日はオレに作らせろ」

 

「え、どういう風の吹き回しですか?」

 

「なんかニートみたいに言わないで欲しんだけど」

 

私の生活術は黒花さんから習った。

当然料理もできるけど、最近テイクアウトを持ってくるくるから食べてない。

 

「折角2人っきりになれたんだ。こっちも思い出語り合おうや」

 

「…それもそうですね」

 

私は微笑み黒花さんにキッチンを譲った。

今夜は長くなりそうだ。




これが!薫製式!救済ルートだァ!!
というか今後の展開考えるとこの方法しか思いつかなかったです!

これにて1章は完結する事ができました。
見切り発進で書き始め25話。
ここまで走れたのも読んでくれている皆さんのお陰です。
本当に!ありがとう!!ございます!!!
なんやかんや3日投稿がデフォになってましたが意外とどうにかなるもんですね。
アンケートも答えて頂けると助かります。
後、感想も良ければ欲しいです…(モチベグラグラ)

次回は短編を1つ挟みます。
すぐに投稿出来るはず…
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